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ランカーズエイジ  作者: 朝倉牧師
戦士の休息編
37/98

サマーキャンプ 海へ~ 二話

夏休み本番。

海を向かう道中その二です。

楽しんで頂けたら幸いです。


 七月二十四日、午前六時十二分。



 永遠見台高校(とわみだいこうこう)を出発した凰樹(おうき)の運転するマイクロバスと、神坂(かみざか)の運転するバンの二台が居住区域のバイパスを通り、コテージを予約してある海水浴場方面の自動車道を走っていた。


 まだ早朝という事もあったが、居住区域の道路を走る車の数が少なかったのはこの日が日曜だったからに他ならない。


 平和だった時代から比べると車を所有する人の数は確かに減ってはいるが、それでも居住区域に住む多くの人が車を所持し、それを使って通勤や買い物などに出かけたりしている。


 一時期はまともに営業する店舗が珍しい程だったガソリンスタンドなども、今ではかなりの数が見られるようになり、特売日などでは給油する為に多くの車が並んでいたりもする。


 地方では居住区域が無駄に広い場合があるが、居住区域の一部はGEが出現する危険区域であったり、奪還されていない地区だったり、危険区域と安全区域が入り混じっていたりと状況は様々だった。


 当然その無駄に広い区域の端から端まで歩く訳にもいかず、車を持っていないと生活できない環境の者も少なくは無い。


 凰樹の住む居住区域は奪還地区……、元々防衛軍がレベル一の環状石(ゲート)を破壊して出来た比較的狭い安全区域を中心に、周りに存在する低レベルの環状石(ゲート)の支配区域を調査して、比較的GEの脅威の少ない土地を再開発して作られた物だ。


 現在は、凰樹達ランカーズの手によって、二ヶ所の環状石(ゲート)の破壊と、無数の拠点晶(ベース)に成功した為に、危険区域と居住区域を分ける奪還地区が完成しており、通常であれば周りの環状石(ゲート)からGEが攻めてこない完全安全区域へと変化している。


 なお、現在この完全安全区域として存在する場所は、首都東京にある幾つかの居住区域と凰樹の住む居住区域だけだ。


 後の地域は、居住区域の一部はGEの脅威から完全に解放されてはおらず、環状石(ゲート)から出現したGEの動向次第では、いつでも危険区域へと移行する恐れがあった。



◇◇◇



「何とか市内を良いペースで抜ける事が出来たな」


「いつもの危険区域と違って道路は綺麗だし、周りに他の車が走ってるってのも新鮮ですね」


「いつもは作戦の確認とか装備の最終チェックとかで、窓の外を見てる余裕なんて無いから……」


 今までも、破壊する拠点晶(ベース)などに向かう際には、居住区域にある学校から危険区域に入るまでは結構車とすれ違ったりしているし、信号待ちしている間などには周りにも多くの車が止まっていたりもする。


 しかし、今回の様にお遊びでは無く、目的地で待っているのはGEとの戦闘を伴う危険な作戦だった為に、呑気に窓の外を見ている余裕などありはしなかった。


 今日はキャンプに向かう道中という事もあり、お菓子やジュースを手にして話をしながらも普段はあまり目にしない周りの風景を楽しんでいた。


「ショッピングモールの反対側って来た事無かったけど、こんな感じだったんですね」


「大型のホームセンター、あの食堂っぽいのはラーメン屋さん?」


「あのラーメン屋は元々存在した店に居抜きで出店したみたいでんな。チャーシューが美味いって話ですわ」


 奪還後すぐに再開発が進む場合もあるが、奪還のタイミングにより再開発計画から漏れる土地もあり、そういった場所では、意外に寂しい風景が見られたりもする。


 こんな状況なのは人口に対して奪還した土地が広大な居住区域を持つここくらいなモノで、予算がある程度あり、人口が多い居住区域の場合は環状石(ゲート)どころか隣接した拠点晶(ベース)が破壊されただけで、その奪還地区を即座に再開発したりもしていた。


「ようやく高速か、AGE用端末は無線承認システムに接続してあるからこのままいくぞ」


「ここでもポイントで支払えるってのは大きいですよね」


「居住区域外へ出る許可証も同時に確認するらしいからな。何処まで情報が洩れてる事やら」


 凰樹の運転するマイクロバスにも、神坂の運転するバンにも、AGE用端末を接続する無線承認システムが搭載されている。


 電子マネー機能も備えた住民カードを無線承認システムのスロットに挿入してもいいのだが、通行許可の照会に時間が掛かる事もあり、最終的には無線承認システムにAGE用端末を接続した方が早かったりする。


 元々高速道路を通行するシステムだった物を改良したらしいが、現在では高速道路や自動車道などは物資を運搬するトラックや、他の居住区域に応援に行くAGEや守備隊位にしか使用許可が滅多に下りない為、このシステムを搭載している車はかなり少ない。


 旅行の場合、電車などを使用する場合には割と簡単に許可が出るが、車を使う場合にはAGEとして活動した経験の有無や、その戦果などで通行の許可そのものが下りない事も多い。


 これは別にAGE活動の経験の無い一般人が意地悪されている訳では無く、自動車道の一部や高速道路の一部にGEが極稀に出現する箇所があるので、その場所を通過する実力があるかどうかが問われている為だ。


 これは十年以上前の【自動車道封鎖事件】の所為であり、その事件はGEが既に各地に出現してはいたが、まだ高速道路の通行が自由だった頃に起こっていた。


 たかが数匹の小型(ライトタイプ)GEの出現に驚いたドライバーが高速道路で急ブレーキを踏んだために、そこから玉突き衝突が発生して多くの怪我人をだし、そして救助の最中に今度は中型(ミドルタイプ)のGEまで出現し、出動していた警察や消防の人間が救助活動の中止をせざるを得ない状況に陥った。


 放置された怪我人の多くはGEに襲われて石へと変わったが、中には出血などが理由で命を落とした者も存在する。


 その後、再整備及び主要道路奪還作戦が実施されるまで、各地の高速道路や自動車道などは一般人の通行が禁止されていたが、最近になってようやく少しだけ緩和されつつある。



◇◇◇



「もう少しで最初のサービスエリアだが、どうする?」


「先も長いですし、一旦トイレ休憩とかしませんか?」


「次のサービスエリアまでは長いからな……」


 当然、道路の周辺が危険な場所であればある程サービスエリアは無人と化し、稼働していても設備の一部が壊れていたりもする。


 そういった危険な場所が続くエリアでは次のサービスエリアまでの間隔は開き、最悪トイレなどの設備すら満足に使用できない状況な事もある。


 また、ここにも危険度の高い居住区域から逃げてきた者が住み着き、問題になる事も多い。


 定期的に高速道路守備隊が巡回を行っている為、リングの反応でそういった者は発見される事が多いが、中には大量の物資を持ち込んで何ヶ月も巡回をやり過ごす猛者(もさ)もいたりする。


 ただし、高速道路内では特定の場所以外では追加の食糧や水の調達が困難な為、其処を見張られるとそういった猛者(もさ)でも物資が其処を尽いた数日後に自ら投降してくるという話だ。


 この場所のサービスエリアも多くの人が同時に利用できるようにたくさんのトイレと、飲料系の自動販売機だけが設置されている。


 平和だった時代には売店のほかに小さな食堂もあり、行楽に向かうたくさんの家族でにぎわっていた。


「えっと、何かジュースでも……。ってたかっ!!」


「当然特別価格だ。それでも()()()()()()()()で一本五百円はぼり過ぎだよな……」


 バンタイプの乗っていた霧養と神坂が、目の前の自動販売機で売られているジュースの種類と価格に呆れていた。


 以前霧養が飲んで地獄を見た【夢のコラボレーション小豆(あずき)と抹茶練乳】や、【超健康青汁(強炭酸飲料)】、【タンポポ珈琲(苦みプラス)】、【爽快!! 炭酸フルーツ乳酸菌(乳酸系ドリアンラムネ)】などを筆頭に、コンビニなどで撤去された地雷商品がずらりと並んでいた。


 一旦高速道路に入れば他に購入手段が無いとはいえ、百円でも買いたくない商品を五百円で売るという暴挙。しかも、ミネラルウオーター系やお茶系のまともな商品には売り切れのランプが点灯していた。 


 この光景は人通りの少ないサービスエリアなどではどこでも見受けられ、立ち寄ったドライバーたちは諦めてこの危険物に手を出すか、次のサービスエリアまで我慢するかの選択を迫られる。


「ここは諦めて次で買うっス」


「まあ、それがいいだろうな。利用客が多い所は比較的マトモって聞くし」


 値段的には今の神坂達なら一本千円と吹っ掛けられても迷わず買っただろうが、流石にラインナップが酷過ぎた……。


 なお、自動販売機の周りには蓋があいたジュースの缶が無造作に捨てられており、其処から色とりどりの液体を垂れ流していた。


 売られているジュースの正体を知らないという事は幸せかもしれないが、それは不幸の始まりにしか過ぎなかったようだ。


「次のサービスエリアは中間地点にある安全な場所でんな」


「そうだな、結構楽しみだったりする」


「え、なになに? 何かあるの?」


 サービスエリアの中でも周りが安全で、物資の運搬を引き受ける長距離トラックや遠征に向かうAGE部隊が仮眠などの休憩所として使うところは様々な物が充実している。


 平和だった頃を思い出させるような数のお土産物まで扱う売店にヤキトリやソフトクリームなど軽食を売る出店、整備されたトイレなどの施設にゴミも落ちていない広い駐車場、燃料補給の為のガソリンスタンドなどが揃っていた。


 それだけでは無く、利用者が多いという事は其処で情報のやり取りも行われている為に地雷商品の情報はすぐに知れ渡り、自動販売機ではいつまでも売れない様な地雷商品は撤去されている。


 人が集中する絶好の場所に売れない商品をいつもでも置いておくくらいなら、確実に売れる商品を回した方がいいからだ。



◇◇◇



 最初のサービスエリアから車を走らせてちょうど一時間後、午前八時三十七分。


 まだ朝早かった為に売店などはあいていなかったが、まともなラインナップの自動販売機やホットスナック系などの食べ物を扱う自動販売機は稼働していた。


 もしも売店がやっていれば、その光景でさらに狂喜していた事は間違いない。


「これっ!! これっスよ!! たこ焼きやたい焼き、それに唐揚げとかまで!!」


「すげえな、さっきの場所とは天と地の差だ。値段は相変わらずだが」


「千円超えるホットスナック系はともかく、まともなジュースが買えるってだけでもありがたいっスね」


 霧養と神坂は大喜びでまともな炭酸系飲料をいくつか買い、それを抱えてバンタイプに乗り込んだ。


 すると、助手席でナビをする伊藤だけでなく、後部座席には竹中まで既に乗り込んでいた。


「あの、(ゆかり)さんも今回はこっちに乗るそうで~す♪」


「よろしくね♪」


「良いんっスか?」


「輝の方でなくてもいいのか?」


 竹中が激しい凰樹争奪戦に参加している事は誰の目から見ても明らかで、その為、こんな絶好の機会に自ら別の車に乗り込むとは霧養と神坂には信じられなかった。


「こっちでいいよ。どうせ車の運転中のあきらに何言っても無駄だし」


「まあ、確かに運転中のアイツはな……」


 特にこの先、ある情報を入手している為に臨戦態勢に入った凰樹に話しかける事は逆効果だろう。


「それより、蒼雲(そううん)にちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」


「え? 俺?」


 今回は神坂に代わって霧養が運転していた為、後部座席で竹中は神坂に話しかけていた。


 神坂はさっきサービスエリアで買ったジュースを一本竹中に差出し、そして伊藤は作ってきていたカップケーキを二人にひとつずつ手渡していた。


「うん、あきらとの付き合いが長いから、好きな食べ物とか知ってるかな~と思って」


「なるほど、そういう事っスか」


 運転しながらも霧養は話に参加し、助手席の伊藤はジュースを飲みながらも端末に映し出される情報を解析し続けていた。


 周りにもAGE登録者が多いらしく、安全な場所だけに近くには紅点は存在しないが緑点は数多く表示されている。


「輝の奴は意外に肉好きでな、食わせるならステーキとか良いぞ。高級って奴より、こう分厚い感じの方が好みっぽい。ただ、あまり人にゴチになるのは好きじゃないらしいから程々にしておいた方がいい」


「うんうん、他には?」


「後は……、意外かもしれんがアイツ果物が結構好きなんだ。スイカ、枇杷、葡萄辺りが特にいい」


 竹中は真面目にメモを取りながら、話を聞いていた。


 ステーキ好きという情報は持っていたがそこはあえて口にしない。


「あきらって何でも食べるけど、苦手の物とかは無い感じ?」


「目の前にあれば食わない事は無いんだが、ごはんのおかず限定だと異様に甘い系のおかず、特にカボチャの従妹煮だとか甘い卵焼きだとかはあまりいい顔しないな。サツマイモの天ぷらとかも避けた方がいい、酢豚に果物は論外だ」


 神坂は、作戦行動中の食事などでは惣菜系のそういったメニューを食べる機会は少なかった為に、そこまでお目にかかる事は無かったがと続けた。


「輝さんってそれ以外は割と何でも食べてるっスね。そういえば、食べ物を残すって見た事が無いっス」


「GEに故郷を追われて十歳の頃から彼方此方転々としてたら、贅沢なんて言わずに食えるもんは何でも食うさ。枇杷が好きってのも、夏になると廃棄地区で野生化した枇杷の木が実を付けててそれを食ってたからだろうし」


「そういえばそうっスね。でも、()()()は苦手って言ってたっス」


 GEに故郷を壊滅させられて強制的に移住させられれば、大体生活は厳しくなる。


 家族を石像に変えられて失った精神的ダメージからの回復も時間が必要だし、新しい土地での収入が安定するまでに結構時間が掛かる。


 神坂がAGEとして活動し始めたのも、GEが憎くて自分の手で妹の仇を取るといった面と、生活の安定の為にAGE活動で稼いだポイントの一部を家に入れる必要があったからだ。


 おからは豆腐を作る時に出る副産物だが、歯ごたえにも乏しくそこまで美味しいとは言えないが、大豆の生産が比較的多く他の農作物の生産に乏しい地域では、豆腐生産時の食材としてかなり格安で売られている場合も多い。


「俺達の住んでる居住区域だと、他の農作物の生産が安定して来たから最近はおからなんて見ないな。大豆は結構生産されて豆腐とかが出回っているから、もっとあってもいいはずだけど」


「あ、なんか肥料にしてるらしいっスよ。そっちの材料も不足してるのが理由って感じで」


大豆(おから)を肥料に大豆(だいず)を育てるのか、豆がらで豆を煮るみたいな話だな」


「ちゃんと堆肥に加工された物って話ですよ~。それに、おからで作ったクッキーとかもありますし、ドリンクの材料にもできるんですよ~。おからの事を悪く言いすぎです」


 索敵を続けていた伊藤が、我慢できずに話に口を挟み始めた。


 伊藤特製のドリンクの材料という時点で、劇物扱いされても仕方ないだろう。


 と、その時、端末の表示から少し先にあるサービスエリアに緑点が点滅し、その場所にAGEがいる事がわかった。


蒼雲(そううん)さん、この先のサービスエリアに単独で行動してるAGEがいるみたいなんですが……」


「バイクで一人旅って話じゃなけりゃ、逃亡AGEか?」


「怪我って可能性もある。あきらに判断して貰う?」


「まだ十分距離があるから、寄るなら間に合うっス」


 今回は神坂達が先行していた為に、後ろにいる凰樹に情報を伝え判断を任せた。


「えっと、輝さんは寄ってみないかって。霧養さん、お願いできますか?」


「了解っス」



◇◇◇



 二台は緑点が表示されているサービスエリアへと向かった。


 この辺りは特に危険度が高く、施設は殆ど整備されていない。


 その為に掃除や整備の行き届いていない駐車場には空き缶や紙袋だけでなく、木の枝や木の葉などの自然ごみまで散乱している。


「とりあえず、ゴミの少ない場所に車を停めよう」


「了解っス。俺が行くから神坂さん達は此処で待っててください」


「……向こうからは輝と荒城が行くそうだ。こっちも何かあった時にすぐに車を出せるようにしておく」


「了解っス」


 ランカーズ内で対人戦闘に秀でている三人が緑点の正体を確認する為に、サービスエリアの建物へと近づいた。


 銃を所持していても、爆発物を所持しても凰樹が無効化出来る為に、三人は特に武装はしていない。


 緑点の反応は建物の裏、景観などを考慮されて植物等もかなり植えてある為、無断で住み着いた者が身を隠すには絶好のポイントだ。


「そこにいるのは誰だ?」


「……だ、誰かいるのか? すまないが……、何か……飲み物を……」


 建物の裏、そこから聞こえてきたのは弱弱しい女性の声だった、声が擦れているのは、身体に何か異常をきたしているのかも知れなかった。


「霧養、車に戻ってスポーツドリンクか何か持って来てくれ」


「ちょっと待っててください」


 霧養は全力で車に戻り、バンの荷物の中からスポーツドリンクのペットボトルと紙コップを持ってきた。


 コップに一杯、スポーツドリンクを注ぎ、目の前で蹲っている女性へと手渡した。


「…………ふぅ、助かった。もうダメかと思ったよ」


 余程に喉が渇いていたのだろう、手渡されたスポーツドリンクを一気に飲み干した。


 見た感じ、そこまで衰弱してはいないが、健康とは言い難い状況の様だ。


「それで、こんな所で何をしていたか聞いてもいいか?」


「ああ、ここにいるって事はアンタらもAGEか? それなら話は早いが、ヴァンデルング()トーア()ファイント()って聞いた事はあるか?」


「最初にドイツで目撃された、環状石(ゲート)に所属しない特殊GEの事か? アメリカや各国で目撃例は報告されているが」


 ヴァンデルング()トーア()ファイント()


 通常、GEは環状石(ゲート)から姿を現し、そしてそのGEは出現した環状石(ゲート)に所属し、環状石(ゲート)が破壊されれば自壊して消滅する。


 環状石(ゲート)から一定以上離れた場合、その所属が拠点晶(ベース)に移り、小型(ライトタイプ)GEや中型(ミドルタイプ)GEであれば、拠点晶(ベース)が破壊された時に急速に力を失い、一定時間内に他の拠点晶(ベース)の支配区域内に移動しなければ自壊して消滅する。


 大型(ヘビータイプ)GEの場合、拠点晶(ベース)を破壊してもかなりの時間移動などを行う事が可能で、多くの場合は別の拠点晶(ベース)へと辿り着く事が多く、環状石(ゲート)の破壊時を除いて自壊する事は稀と言われている。


 この辺りは、防衛軍や各国の軍隊が環状石(ゲート)拠点晶(ベース)を破壊する過程で情報が集まり、最初は仮説だったが現在はこういった形で間違いないだろうとまでいわれている。


 W・T・Fは環状石(ゲート)拠点晶(ベース)に依存せず、単独で行動可能な特殊タイプGEであり、本来GEの脅威とは無縁になった完全安全区域が極稀にGEの襲撃を受けるのは何処からか移動してきたW・T・Fによるものだ。


 日本では存在そのものが確認されていないといわれているが、九州地区に出現しいまだに討伐報告の無い石化光線を放つメデューサタイプの中型(ミドルタイプ)GEなど、あまりにも強力なFタイプのGEの何割かは、このW・T・Fではないか? という疑いがかけられてはいる。


 もっとも、確かめる方法はそのFがいる場所の環状石(ゲート)を破壊するか、W・T・Fの疑いがあるGEを倒して、犠牲になった人の石化が解けるかどうかを確認するしかないのだが……。


「そう、そのW・T・Fが最近この辺りで見つかったのさ。それもよりにもよって、高速道路の周辺に潜んでやがるんだ」


「AGEの情報にはまだ流れていないぞ。その話、確かなのか?」


「けっ!! うちの県の対GE民間防衛組織のお偉いさんが情報を隠してるんだろう。何でも、隣の県に凄腕のAGEがいるとかで、首都にいるお偉いさんたちにうちの県のAGEの実績をみせつけようと対抗意識を燃やしてるらしいし」


 隣の県にいる凄腕のAGE。


 それが()()()()()()、考えるまでも無かった。


「ここにいるのは、そのW・T・F関係なのか?」


「ああ、この先に()()()サービスエリアと、反対側にある上りのサービスエリアの二ヶ所が襲われてな。そこで物資搬送のトラックの護衛をしていたAGE部隊に結構な被害が出たんだ」


「……それはいつの話だ?」


「ひと月程前。確か……六月二十九日だった筈だ」


 六月二十九日、それは凰樹がAGEとして初めて環状石(ゲート)の破壊に成功した日だ。


 凰樹の住んでいる居住区域では隣の県の高速道路で起きている些細な事件などにかまっている暇は無く、対GE民間防衛組織や役場の職員などは突然発生した膨大な仕事に忙殺されている最中だった。


「タイミングが悪かったというか……、ん?」


「遅いからみんな心配して来てみたんだけど、その人は大丈夫っぽい?」


 三人とジュースを必要としていたもう一人のAGEを心配し、車に残っていたメンバーで運転手の窪内と神坂を残して全員すぐ傍に集まっており、竹中の手には伊藤特製のカップケーキが幾つか詰め込まれた紙袋が握られていた。


「すまないな、心配してくれたのか。まさか任務中に空腹と喉の渇きで倒れるとは思わなくてな」


 女性は差し出された紙袋を受けとり、中のカップケーキを一つ取り出して食べ始めた。


「そこの建物に自販機があるのに?」


「まともな奴は飲みつくして、後は酷い味のジュースしか残って無くてな。しかも結構高価だろ?」


「試したのか、()()を」


 女性の足元には超健康青汁(強炭酸飲料)の缶が転がっていた。


 超健康青汁(強炭酸飲料)、炭酸系の青汁というだけならそこまで酷くは無いのだが、この超健康青汁(強炭酸飲料)は炭酸飲料でありながら健康を考えて栄養価の高いアルファルファやゴーヤ、未熟パパイヤ、大根の葉っぱなどをメインにし、更に幾つも漢方系の植物が混ぜて有り、しかも甘みは砂糖では無く甘草とサツマイモを使っているという念の入ようだ。


 食べ盛りの男子高校生が十人がかりで僅か百九十グラム入り缶一本を飲み干せなかったという伝説もある。


 ()()を一本五百円で売るなど、人として許される行為では無い。


「護衛の仕事を受けてた俺の仲間が、最初の襲撃の時に襲われて石に変えられちまってな。他の仲間と一緒にこの辺りのサービスエリアでW・T・F(ヤツ)を探してたんだ」


 輸送車両の護衛任務。


 以前起こった自動車道封鎖事件の教訓として、AGE加入及びGEとの戦闘経験が無いドライバーには高速道路使用時に武装したAGEの護衛を付けなければいけないという決まりが出来た。


 殆どの場所はGEの出現しない安全地帯である高速道路使用時の護衛であるにも拘らず、守備隊に依頼すると結構な額が請求される為に、運営資金に乏しいAGE部隊に依頼して安く済ませる運輸系の会社も少なくは無い。


 今回はその滅多に無い不幸な事故だが、仲間の為にW・T・F(そいつ)の正体だけでも確かめようとする事が理解できない訳では無かった。


「ひと月前、俺はある程度の物資と一緒に此処で降ろして貰い、それを使ってW・T・F(ヤツ)が現れないか見張ってたんだ。途中で食料や飲料水が尽きて、ポイントがあるうちは其処の自動販売機で茶なんかを買ってたんだが……」


「先にまともな飲み物と資金が尽きたって訳か。状況は理解したが、これからどうするつもりだ? まさかこんな状況でW・T・F(そいつ)が現れるまで延々此処でキャンプを続ける訳にもいかないだろう?」


「それなんだが、実は一週間ほど前から、この先のサービスエリアで同じ様にキャンプをしている仲間と連絡がつかないんだ。もうあきらめて帰ったのか……それとも」


 それとも、連絡を入れる暇も無く全滅したのか。


 ここからその先のサービスエリアまでは結構距離がある為に、緑点を確認するには少しばかり無理があった。


「それと、ここから出るにも移動手段が無くてね」


 如何に車通りが少なくなったとはいえ、物資輸送のトラックが走る高速道路を徒歩で移動するなど、自殺行為以外の何物でも無い。


 事故に遭う前に通報されて回収されればいい方で、悪ければ多くの車を撒き込んで大事故に発展しかねない。


 見張りや探索任務という建前があるとはいえ、ここから動かなかったのは正解と言える。


「ヒッチハイクしようにも、此処を利用する奴なんて殆どいないし」


「まともな感覚の持ち主なら、ふたつ前のサービスエリアを利用する筈っスね」


「その通りだ。だからここで守備隊か何かが見つけてくれるのを待ってたんだ」


「違法移住者でなくても、理由を話せば保護位はしてくれるだろうからな」


 いくら任務とはいえ、こんな状況になれば流石に対GE民間防衛組織から注意されるに違いない。


 キャンプを張ってもう一度W・T・Fの探索を続けるにしても、こうなる前に仲間に連絡を入れて物資を補給して出直す方がいい。


「輝さん、その人を仲間がいるサービスエリアまで送って行ってはいかがですか?」


「輝? サングラスで気が付かなかったが、あんたまさかこの間()()()()に上がった凰樹輝か? 俺はセミランカー二百五十一位の箕那(みくに)沙奈恵(さなえ)だ」


 話し方から、ここにいるメンバーで、宮桜姫(みやざき)鈴音(すずね)を除く全員がレジェンド枠のランカーである情報を仕入れてはいないようだった。


 知っていれば、一見普通の少女が多いランカーズのメンバーを見て、さぞかし驚いた事だろう。


「セミランカー?」


「ああ、とはいってもひと月ほどここにいるから、今は何位か分からないが」


「情報を入手する為の端末は……って、ひと月も此処にいたら電池切れ?」


「端末の充電は此処の電気を拝借してる。悪いから最低限の使用に留めて、緊急時の連絡と自動販売機の支払い時にしか使ってなかっんだ」


 盗電は犯罪行為だが、AGE活動中であればこのレベルで流石に罪に問われる事はまず無い。


 GEによる被害はそんな生易しいレベルでは無く、そのGEに立ち向かう人の数から考えて、真面目にAGEとして活動する者であれば多少の事は容認される事が多いからだ。


「俺は確かにその凰樹輝だ。そのサービスステーションまで送るつもりだが、万が一の場合、そのまま通過する可能性がある事は理解してくれ」


「サービスステーションにW・T・Fがいた場合だな。了解した」


 箕那はマイクロバスに乗り、十一人に増えたメンバーで問題のサービスエリアへと向かった。





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