サマーキャンプ 海へ~ 一話
この話から夏休み突入です。
楽しんで頂ければ幸いです。
夏休み。
この国では元々は夏季に暑過ぎて勉強にならないという理由で設けられた長期的な休みらしい。
そんな理由ではじめられたものであれば、エアコンなど空調機器が普及した現在においてはあまり意味が無い制度かも知れないが、逆に現代の日本においてこれほど長期に亘る休みは他に存在しない。
現在でも冬の厳しい東北地方や北海道では夏休みが短く冬休みが逆に長いなどという話もあるが、現状では冬の厳しい寒さに加えて積雪などで通行不能な場所が出来たからといって、他の道を使えばいいと簡単にはいかないという問題もあるとは聞いている。
GEの出現頻度の高い道、高レベルの環状石が存在する完全廃棄地区に隣接した居住区域などは、安全な道が使えないから代わりに向こうを通ってなどとはいかない。
GEの出現率が一%前後の道と、ほぼ百%の道。
どちらが安全かなど考えるまでも無い。
同様に、台風が頻繁に通過するような地域では、道路整備休暇などというものが存在したりもする。
台風などで飛ばされて来た木や石などを取り除き、大雨で地滑りなどが起きている場所などを修復する為に、あまりにも道路や周辺施設の損壊状況が激しい時には、周りに存在する拠点晶の破壊を守備隊やAGE部隊に依頼した後、安全を確保してから修復工事を行う事もある。
拠点晶を破壊するだけの実力があるAGE部隊や守備隊が存在しない居住区域などでは、高額な依頼料を支払って隣接した居住区域に存在する守備隊などに依頼をすることも珍しくない。
凰樹の住む居住区域は、かなり広大な土地が丸々完全安全区域という、GEが絶対に出現しない奪還地区になっている為に逆に道路整備休暇などは無くなったが、危険区域に隣接した居住区域ではまだまだ現実問題としてGEの脅威にさらされたままだった。
◇◇◇
永遠見台高校の夏休みは七月二十一日から八月三十一日までで、この日程は永遠見台高校の開校以来変わっていない。
今年は八月二十五日までに提出を命じられた石化から復帰した生徒の課題提出という仕事が増えた為、現役学生である凰樹達に対する課題は何一つ存在していなかった。
何せ、二ヶ所の環状石の破壊で復帰した小学校、中学校、高校、大学まで合わせた学生の数は数万人と言われており、この居住区域にある全ての学校の教職員が総出で与えていた課題をチェックして学生たちを学力別に振り分け、転校や復学手続きを進めるだけで手いっぱいの状況なのは間違いなかった。
課題を早々に終わらせた生徒には早期提出が推奨され、提出された課題内容に応じて面談が行われ、夏休み明けから通う学校が通達される。
成績が復学する学校の基準点に達していても転校を希望する生徒もおり、残っている各学校の席数を考えて、「ひと月以上時間もあるし、奪還地区にある使えそうな学校を整備して臨時でもう幾つか学校を増やした方がいいのではないか?」などという意見も出されていた。
夏休みの課題ゼロ、この方針を発表した時、当然永遠見台高校生徒会の副会長である喜多川麗子は猛反発し、「四十日間の休暇は素晴らしいと思います、しかし、課題が無ければ勉強する機会を奪う事になりかねません!!」などと、教師陣相手に抗議を繰り返していた。
しかし、現国教師の「なに、課題があろうが無かろうが休み明けにテストを行う事実は変わらんよ」という言葉に、「自主的に勉強しているかどうかは、其処で分かるという訳ですね」と答えて、ようやくその方針を了承していた。
休み明けのテストの情報は既にAGE系の情報技術部などに知られており、休め明けから生徒会と反生徒会連合との水面下での激しい戦いが繰り広げられると予想されてる。
◇◇◇
七月二十二日、午前十時二分
「それじゃあ、当日の集合場所は部室前で、当日持参する荷物以外は明日までに倉庫に用意しておく事」
「特殊トイガン系の装備は纏めてマイクロバスに収納済みだ。万が一緊急招集が来た場合もこのまま現場に急行できるのでちょうどいいだろう」
不吉な事を口にした凰樹に一瞬冷ややかな視線が注がれた。
不幸を口にする予言者は歓迎されないというが、言わなくてもいいことを言えば如何に凰樹といえども扱いは悪くなる。
「要請があったら出動しますの?」
そう質問した荒城はいつも通りのお嬢様モードのままで顔は穏やかだったが、その声はまるで研ぎ澄まされた日本刀かと思える程に危険な気配に満ち溢れていた。
『任務だからな』などといえば、そのまま斬り殺されかねない勢いだ。
「余程の場合はな。大発生でもない限り引き受けるつもりはないが、例のデータから考えて、この居住区域周辺で暫く大発生が起こる可能性は無い」
「ふたつ環状石を潰したのも大きい。暫く安泰さ」
丁度ひと月前、ゲート研究部に調べて貰った周りにある環状石から出現する小型GEの発生周期のデータでは、数ヶ月先まで急激に小型GEが増える事は無い。
その為、緊急の非常招集が発生する確率は殆どゼロだった。
「でしたら、そういった不安を煽るような無用な発言は控えるべきですわ」
「すまなかった」
完全にお嬢状態の荒城は、家の外では滅多に見せないご機嫌斜めモードで凰樹にそんな事を言っていた。
これに関しては凰樹に非がある為に、素直に謝る事にする。
「集合時間は朝の五時半だが、遅れてこないように。運転手はマイクロバスが俺と龍。バンタイプが蒼雲と霧養だ」
霧養は最初の環状石破壊後、神坂は先日の三日の休校中に免許センターに行き、それぞれ普通運転免許を取得していた。
「免許の申請は書く事が多くて苦労したっス。でもランカーだとあんなに簡単に免許をくれるんっスね」
「技能試験はコースを一周回るだけ。筆記問題も最低限。作戦に必要だといえば無免許でも捕まる事は無いって凄いよな」
「俺のバイクもほぼ黙認されてたしな。坂城の爺さんが手を回してたらしいが」
防衛軍特殊兵装開発部の坂城は、二週間ほど前に環状石を孤立させる目的で凰樹が単独で行っていたバイクを移動手段にした高機動拠点晶破壊作戦のデータにも興味を示しており、凰樹専用のバイクを開発しているという噂すらあった。
子供の時に使っていたバイクもほかの部隊で使う予定だった試作バイクを、わざわざ凰樹用にカスタマイズして送り届けた物だ。
「長距離の移動になるから、途中で何度か休憩を挟む。しかし、各地にある売店はあまり期待が出来ないので菓子などを食べるなら各自で事前に用意するように」
「大丈夫!! そこはまっかせて~♪」
市販のスナック菓子だけでなく、菓子作り名人の伊藤がカップケーキやクッキーなどを用意する事になっていた。
「ドリンク類は傷むといけないので市販の物を用意する事。クーラーボックスにも限界があるから果汁百パー系も避けた方がいいとおもうぞ」
「そうでんな。炭酸系やスポーツドリンクなんかを中心に用意しまひょ」
まるで打ち合わせていたかのように、神坂と窪内が伊藤に釘を刺していた。
「装備が無けりゃマイクロバス一台で行けるんだがな」
「余裕があるのは良い事だ」
全員分の装備に、キャンプ道具、海でのレジャー用品に、大量の肉を初めとする食糧。
しかし、その多くはなぜかバンタイプに積まれており、マイクロバスの方は広々としていた。
「えっと、バンタイプが神坂君と霧養君で、他は全員マイクロバスでもいい?」
「いじめっスか?」
「誰がどっちに乗るかで喧嘩をするよりは良いかなって思ったんだけど……」
凰樹と窪内が運転する確率が半々だとしても、車内で楽しく過ごすなら凰樹と楽しくおしゃべりしながら~と考える者は多く、誰が助手席に座るかでもモメそうな雰囲気だった。
「伊藤は助手席で索敵して貰わなきゃいけないから確定としても、何人かはこっちのバンタイプでもいいんだぞ?」
「索敵?」
「ああ、目的地に着く直前に一ヶ所だけヤバい場所があってな。用心に越した事は無いし」
コレは当初から決めていた事で、バンタイプの助手席には伊藤を乗せ、ノートパソコンでの索敵をして貰う事になっていた。
マイクロバスの方には何かがあった時の為に、昨日坂城から調整されて返ってきたばかりの凰樹の次世代型M4A1改と、窪内の次世代型M60E3改に高純度特殊弾を積めたマガジンを装填し、いつでも使える様に準備されていた。
「他に道はありませんの?」
「地方の自動車道を何本も奪還する程、防衛軍は暇じゃないしな。とりあえずこの措置は本当に保険みたいな感じだ」
「輝がいれば楽勝さ、それで、誰かこっちに乗らないか?」
ちょっと涙目の霧養を見兼ねた神坂が、気を利かせてそう言ったが、「聖華……ごめんね」、女性陣の答えはこうだった。
「ここから行っても予約したコテージのある海水浴場までは三時間から四時間。サービスエリアで休憩時に移動すればいいだろう」
「そういう手もあるっスね」
流石に三時間以上ノンストップなどとは考えられず、その休憩後に途中で車を変える可能性は十分にあった。
しかし、誰も移動しない可能性の方が高いとは、この時、誰も口にはしなかった。
◇◇◇
七月二十四日、午前五時。
一足先に来て、車のエンジンをかけて冷房で車内を快適な温度にしていた凰樹、冷蔵庫から運び出した食材や菓子類などの積み込みを確認する窪内、積み込んだ装備の最終確認をする神坂などに混ざって、瞳を輝かせて既にマイクロバスに乗り込んでいる荒城とバンタイプに積み込んだノートパソコンの索敵機能をチェックしている伊藤が、他のメンバーが来るのを待っている。
凰樹や窪内は、時間に余裕を持って行動している為に、普段なら既に来ていてもおかしくない宮桜姫がいまだに姿を見せないのを不思議に思っていた。
「親父さんに何か言われたんかもしれまへんな」
「それならメールなりなんなりで連絡を入れるだろう」
「宮桜姫の父親辺りが、輝との旅行とかに反対する理由とかは無い筈だが……」
宮桜姫の父親にしてみれば、手塩にかけて育ててきた愛娘が揃ってAGEなどに登録し、危険地域に赴いてGEと戦うとかどんな罰ゲームだろう。
今の裕福な生活を支える資産のほとんどは環状石や拠点晶から奪還した土地を売却して得た利益であり、その破壊された拠点晶の殆どは凰樹の功績ではあるが。
宮桜姫の父親も、娘の頑固な性格は十分に承知している為、反対すれば逆効果だと分かっている為に娘達が身に着ける装備だけは最高級の物を用意していた。
姉の香凛がGEに敗れて石像に変えられた時は食事ものどを通らない程に落ち込み、石の彫刻に姿を変えた娘を目の前にして涙を流していたが、まさかその二日後に石化から回復するとは夢にも思っておらず、その奇跡を自らの手で引き寄せた凰樹の事は誰よりも評価している。
石像から回復後もAGEを続ける香凛には呆れていたが、凰樹の部隊に入ると聞いた為、AGEを止めろなどという事は無かった。
この居住区域を本拠地とする同じ土地成金の荒城の祖父も凰樹の事はよく知っており、二人は顔を会わせる度に、「凰樹はうちの佳津美の婿に来て貰いたいと思っている」、「うちの娘も負けてはいませんよ。どちらを選ぶかは凰樹次第でしょう」などと、醜く言い争っている。
二人だけでなく、この居住区域に住む、一定以上の資産を持つ家で同じくらいの年頃の娘や孫が存在する者は、同じ様に凰樹を狙っていたりもするし、隙あらば自分の勢力に組み込もうとする者などは枚挙にいとまがない。
凰樹や窪内達の心配をよそに、大きな荷物を抱えた宮桜姫がゆっくりとガレージに入って来た。
「ごめんなさい……遅れました。それと……」
「凰樹さん、おひさしぶりですっ!! 今日はお姉ちゃんに無理を言って付いてきちゃいました♪」
宮桜姫香凛の妹で、隣にある永遠見台付属中学三年生の宮桜姫鈴音が大きな荷物を持って、姿を現した。
姉の香凛をそのまま小さくしたような可愛らしい少女だが、ひとつだけ圧倒的に不足している部分があった。
「これ、うちの部隊のキャンプやし、いくら妹ちゃんでも部外者は……」
「別にコテージは人数では無く二軒で頼んでるからひとり増えても構わないが……」
荒城は鈴音の事など眼中になく、いてもいなくても関係ないと思っており、窪内、霧養、神坂は、そこまで積極的に歓迎はしていなかったが、少し遅れて来ていた楠木が強引に参加を認めさせようとしていたが、楠木に続いて伊藤も賛同した為、急きょ総勢十人でのキャンプという事になった。
「いいじゃない。知らない子って訳じゃないし一人くらいいいでしょ?」
「夕菜さんがそういうなら~、私もOKですよ~♪」
「ありがとう楠木お姉ちゃん」
「一緒に楽しみましょうね~♪」と言い、自分よりも胸の小さ目な宮桜姫姉妹に、『私も人のことは言えないけど、海でのアピールは厳しいんじゃないかな?』と心の中で舌を出していた。
圧倒的戦力ばかりの隊員の中で、わりとなだらかな胸を晒して水着になるのは少し恥ずかしかったのだが、突然現れた同志がいれば、少しはマシになると考えての行動だった。
なお竹中も、荒城と同じ様に鈴音の事など眼中になかった。
「全員乗ったな、それじゃあ出発するぞ」
「「「「「しゅっぱ~つ!!」」」」」
結局バンタイプには、運転手の神坂と助手席に索敵要員兼通信士の伊藤、そして後部座席に一人で寂しそうにスナック菓子『辛子レンコンチップス(激辛)』を摘まんでいる霧養の三名が乗り、マイクロバスには運転手の凰樹、助手席にナビゲーター兼通信使の窪内、そして広い車内でトランプを持ち出して遊んでいる、宮桜姫香凛、鈴音姉妹、楠木、荒城、竹中の七名となった。
キャンプ場に行く為、凰樹達はまずこの居住区域から出る為の自動車道へと向かった。
読んで頂きましてありがとうございます。
感想等もいただければ励みになります。




