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ランカーズエイジ  作者: 朝倉牧師
戦士の休息編
35/98

夏休み直前 四話

戦闘の無い日常の一ページです。

楽しんで頂ければ幸いです。


 七月十九日、午前九時十七分。



 この日、永遠見台高校(とわみだいこうこう)は一時限目の授業は無く、その代りに朝のHRで全教科のテストが生徒に返却され、廊下に各学年ごとの総合点などが張り出されていた。


 永遠見台高校(とわみだいこうこう)一年のテストは国語総合、現国、古文、数学Ⅰ、新世界史A、地理A、日本史A、現代社会、生物、物理、情報の科学、美術、家庭基礎、環状石(ゲート)学基礎の十四教科合計千四百満点。


 各学年毎に全教科及び総合の上位十名には特別食券が進呈される為、自信がある生徒は期待に胸を膨らませながら上から自分の名前を探したりもする。


「う…嘘でしょ」


 生徒会副会長の喜多川(きたがわ)麗子れいこは張り出されている一年の総合順位を見た瞬間、思わずそう呟いていた。


 一年総合一位、凰樹(おうき)(あきら)千四百点、二位、荒城(あらき)佳津美(かつみ)千三百五十五点、三位、宮桜姫(みやざき)香凛(かりん)千三百三十点、七位窪内(くぼうち)龍耶(たつや)千二百七十五点と、GE対策部のメンバーが上位三位までを独占し、上位十位までに四人も入っていた為ではあるが……。


 元々成績優秀な荒城や宮桜姫はともかく、前回のテストはそこまで上位にいなかった凰樹が全問正解の満点を叩き出したのは、完全に予想外の出来事だった。


 凰樹は前回のテストの時は入学直後で部隊の編成や運営準備の為に寝る間を惜しんで装備の入手や改良計画を練り、窪内が銃をカスタマイズする為の材料などの発注先を調べて手配する為に方々に連絡を入れ、隊員のレベルに合わせた廃棄地区を探して、そこに展開しているほかの部隊がいないかなどを細かく調べたりと、勉強どころの話では無かったのも大きかった。


 そんな状態だった為に碌に授業内容すら覚える暇が無かった前回とは違い、今回は教科書と参考書などを全教科分完璧に丸暗記してテストに臨んでいた為、カンニングや予測問題(テスト用紙)の利用などの不正行為は一切していなかった。


 ランカーズの四人が実力でトップテンに入り、逆に生徒会の役員に名を連ねる者が上位十名に一人もおらず、代わりにGE対策部、ゲート研究部、情報技術部、武器技術研究部などのAGE系の部に所属する人間が上位十名を独占していた。


「アレ? 生徒会のやつら、上位にいないじゃん」


「一番上で十三位だってよ。気楽でいいよな」


 散々目の仇にされていたAGE系の部のメンツはワザと聞える様に話しながら、喜多川の前を通り過ぎたりもしていた。


 これには訳があり、一部の生徒は予測問題(テスト用紙)をフル活用し、その上で他の生徒には配られていない残りの問題も全て入手していた為ではある。


 満点といかなかったのは、ギリギリのところで何問か問題を差し替えられており、全問正解できなかったせいではある。


 また、入手時期がテストの直前で、更にテストの数が多かった為に、予測問題(テスト用紙)を入手したAGE系の部の生徒が全てを完ぺきに憶えられなかったというのも大きかった。


「せ…セーフ」


「赤点ギリギリ回避成功」


「良かった、あと一点でも低かったら赤点だった」


 霧養(むかい)敦志(あつし)竹中(たけなか)(ゆかり)神坂(かみざか)蒼雲(そううん)の三人は、全教科共に成績優秀とは言い難いテスト内容だったが、ギリギリのところで赤点だけは回避できていた。


 特に前回の平均点から予測して、今回は赤点確実だと思っていた霧養は発表された平均点を見て胸をなでおろした。


 実は今回、テスト前に偽物の予測問題(テスト用紙)が大量に出回っており、それを鵜呑みにした一部の生徒が間違った答えを覚えて来ていた為に、平均点がいつもよりも低かったことが原因だった。


「だ……騙された」


「くそっ、誰の仕業だ!!」


 偽物の予測問題(テスト用紙)をばら撒いたのは生徒会と風紀委員のメンバーであり、偽物の予測問題(テスト用紙)を拡散する事で予測問題(テスト用紙)の信頼度を低下させ、利用者の数を減らそうという作戦だった。


 作戦は割と功を奏しており、偽の予測問題(テスト用紙)に騙されて成績を落とした不心得者の多くは、次回の予測問題(テスト用紙)の利用を見合わせるだろうと考えられており、今後は予測問題(テスト用紙)の利用者が大幅に減るのではないかと噂されていた。


 もっとも、ゲート研究部、情報技術部、武器技術研究部などに所属する実行部隊が、次回も同じ手を見過ごすとは思えないが……。



◇◇◇



 七月十九日、午後四時十七分。




 本来五時限目と六時限目が行われている時間、神坂達は回避できた各教科の追試験に偽物の予測問題(テスト用紙)に騙された一部の生徒が挑んでいた。


 追試験自体は本試験と同じ問題である為に間違える方が難しく、半分程度の時間でテストを終わらせた生徒は結果が出るまで食堂などで時間を潰していた。


 赤点を回避できた生徒は全員午前中で授業が終わり、部活動に精を出したり近場の商店街などでショッピングを楽しんでいた。


 永遠見台高校(とわみだいこうこう)の近場に存在する商店街は第一次地方自治体統廃合計画より前からこの場所に存在し、この居住区域が他の居住区に比べて比較的安全な場所になった後で再開発された時にもそのまま残されていた。


 当然商店街には店頭にボロボロのゲーム機が並ぶ昔ながらの駄菓子屋や個人商店、規模が小さく薄暗い雑居ビルが多く華やかな場所とは言い難いが、学生にターゲットを絞った雑貨屋やクレープなどの軽食系の屋台が軒を連ねていた為、生徒達は小遣いの許す限りにそれぞれがソフトクリームなどに手を伸ばし、青春を謳歌していた。



◇◇◇


 

 放課後、凰樹はAGEショップ幽玄(ゆうげん)から届いた商品を窪内(くぼうち)神坂(かみざか)と分け、キャンプに必要な物はあらかじめ倉庫にまとめていた。


 完全防水に改造したVz61(スコーピオン)や予備マガジン、小型ガスチャージタンク式用の予備タンクも用意し、忘れないように同じ場所に保管している。


 Vz61(スコーピオン)に内蔵されているブラックボックスはひと世代前の物だが、高純度弾を使えば小型(ライトタイプ)GE辺りを退治するには十分な威力がある。


「肉とか野菜も手配したが、この量で足りるか?」


 端末に表示された発注リストに目を通した神坂は、思わず目を疑った。


「BBQ用高級牛肉五キロ? 豚肉二キロ、鶏肉三キロ、ベーコン、ウインナーに……、この貝類はなんだ?」


「ああ、それはコテージの管理会社が地元の海産物の取り扱いもしてるみたいなんで、BBQの道具一式と一緒に一通り頼んでみた」


 肉類や野菜は車に積んで現地まで持って行く事になっているが、海産物は現地で新鮮な物を取り扱っていた為に、凰樹の独断でコテージやBBQの道具などと一緒に結構な量を注文してあった。


「サザエとかハマグリとかあさりとか……、食いきれるのか?」


「晩飯はBBQだけやのうて、カレーも作るって話でっせ」


「九人の三食分の材料だぞ。朝飯を軽く済ませるとしても、これでも不安な位だ」


 食べ盛りの高校生九人分の食材。


 晩飯の後に夜食もそこから作るとなると、結構な量が消費されると思われた。


「多いのは多いが、当日の昼飯と晩飯、それと翌日の朝食分の材料か……」


「所属している居住区域外の俺達だ。頼んでいた物以外は現地での調達は難しいと予測されるしな」


 他県の居住区域から移動してきて、余裕があるとはいえ他の居住区域の物資に手を付ける事はあまり歓迎されてはいない。


 先日起こったような、環状石(ゲート)の破壊に伴う公的手続の為の応援要請などで呼ばれた場合では無く、海水浴や遊びで訪れて地元の商店などで買い物をする事を歓迎する居住区域は全体の三割程度だ。


 海産物など一部の商品や、観光客向けに適正(ぼったくり)価格で販売されているお土産品、そして観光客向けのレストランなどで食事をする事は喜ばれるが、地元の商店などで野菜や肉類などの食材を買い漁る事は歓迎される事は無かった。


「土地は貴重だ。当然、広大な農地を必要とする農産物が他の居住区域で売られる時は、かなり上乗せされた値段での販売になる」


「その為に地産地消、つまり地元で生産された農産物は極力地元で販売される事になっとりまっからな」


 元々広大な土地があり広大な農地を死守する事に成功した北海道や、奪還計画のついでの様な形で農地や工場地区などを奪還した首都圏周辺、九州や沖縄の一部、それにランカーズがGEから取り返した広島県の一部の地域は農産物の生産に余裕があるが、それ以外の居住区域はいまだに窮屈な居住区域内や隣接する比較的GEの少ない危険区域に僅かな農場を作り、そこで様々な食料品を生産している。


 防衛軍もレベルの割に影響力が大きい環状石(ゲート)を優先的に破壊している為に、所属する居住区域で現状ではかなりの格差が生じていた。


 今回キャンプで向かう先は、他に比べれば多少は生産に余裕があるが、特に米などの主食を他の居住区域の者(よそ者)に販売する事などは無いだろう。


「その位で足りると思うぞ。米はどうする?」


「一応十キロ入りを二袋用意した。足りなくなる事は無いだろう」


「何日泊まる気だ……」


 神坂が端末に載っている発注済の食材を細かく調べてみたが、食べ盛りの高校生九人といえども、とてもではないが食べきれない量の食材が発注済みの状態になっていた。


 これに加えて、各種菓子類やジュースも大量に運び込まれる予定である。


「不足するのは(しょう)に合わん。物資は余る位でちょうどいいさ」


「分からなくもないが……」


 神坂と凰樹は一度、資金不足で運営状態の悪い部隊にいた経験がある。


 その部隊は低純度の特殊弾すら満足に用意できず、神坂や凰樹が個人で用意した低純度弾や凰樹が持つ特殊マチェットが頼みの綱という最悪の状況だった。


 隊員の装備が酷過ぎて殲滅力が無い為に凰樹ですら拠点晶(ベース)に近づく事すら出来ず、凰樹が出現した中型(ミドルタイプ)GEを倒す事で精いっぱいという状態で、更に凰樹が手にする筈の中型(ミドルタイプ)GE産の魔滅晶(カオスクリスタル)すら部隊に徴収される有様だった。


 ひと月ほどで部隊が壊滅した為に、神坂と凰樹はその部隊から解放されたが、最後の戦いでも隊長の(はた)弘則(ひろのり)は神坂達に無茶な突撃命令を繰り返し、特殊ゴーグルのレーダーに表示された、無数のGEで真っ赤に染まった地点の何処かにある拠点晶(ベース)の破壊まで命じていた。


 その命令を聞いた時、周囲の状況から部隊の壊滅を予測した凰樹と神坂は共に脱出ルートを確認し、崩壊する部隊を見捨てて命からがら二人でその戦場から撤退した。


 もし仮に伊藤(いとう)がその部隊で索敵を行っており、特定した拠点晶(ベース)の場所へ正確なナビゲートをしていれば万にひとつ位は成功確率があったが、何も情報が無い場所の何処かにある拠点晶(ベース)を破壊しろというのは無謀以外の何物でも無かった。


 マトモに活躍していれば数ヶ月でセミランカーに上り詰める実力がある凰樹が、実際にセミランカーになるには四年近くの時間を必要とした理由。


 それはこういった部隊に所属していた事も大きく、まともな部隊だけに所属していたらどんなに遅くても最初の一年ほどでセミランカーになっていた事は疑いようも無かった。


「余れば持って帰ればいい。肉類を先に消費すれば、野菜は何日かは持つだろう?」


「まあ、一食換算したらそうでもないから、そこまで余らないだろう。俺や霧養(むかい)もいるしな」


 高校生男子の食欲だ、各自肉一キロ位なら軽く平らげる。


「魚介類は近くの漁港で売ってるそうだ。漁獲量は多いので魚とかはそこまで規制が無いし、万が一足りなければそれを買えばいいさ」


 消費量が減った事も大きいが、GEの襲撃で一部の漁村などが壊滅した為に漁に出る船の数も減っており、結果的に世界規模で海産資源の量は年々増加している。


 数が増え過ぎてカニの値段などは最盛期の十分の一程に落ち込んだ為に、価格調整目的で計画的に漁に出る様になり、カニが増え過ぎた為にオホーツク海の海底の一部はカニに埋め尽くされているという噂すらある。


「調味料関係はわてが用意しましょ。飯は飯盒やと炊くのに時間が掛かりまんな」


「バッテリーの充電用に用意した小型発電機と炊飯器を使えばいいだろう」


「現実的にはそれが一番かな。飲み水は大丈夫なのか?」


「水道が生きてて、井戸水も飲めるそうだ」


 生水……、加熱しないで飲む井戸水なんかはそのまま飲むのをやめた方が良いと言われてはいるが、ご飯を炊く分には問題なさそうだった。


「赤点も回避したし、後はキャンプを待つばかりか」


「一応、明日も終業式があるから登校しないといけないけどな」


「AGEとしての活動はキャンプ後まで一時的に休止だ。生命力(ゲージ)を減らす真似はしない方がいいだろう」


生命力(ゲージ)不足でキャンプが中止なんて事になったら、荒城はんに何言われるかわかりまへんからな」


 あれだけキャンプを楽しみにして、女性陣は全員が水着まで新調していたのだ。


 キャンプは中止などといえば、どんなことになるか考えただけで恐ろしかった。


「そう言えば今日は楠木(くすのき)達は来ていないのか?」


「昨日カラオケ屋で偶然会った時、今日は来ないって言っとってたやないですか」


「ああ、そう言えばそうか。あんな偶然もあるモノだな」


 昨日、不良に襲われていた少女を助けた後に雑居ビルに入っているカラオケ屋に行った時、偶然聞き覚えがある声が耳に入ったが、そのまま気が付かないふりをして三人で歌っていると、今度は凰樹達の声に気が付いた宮桜姫がいつの間にか部屋の外で待ち構えていた。


 最終的に追加料金を払って全員一緒に大部屋に移動させて貰い、ランカーズのほぼ全員で臨時のカラオケ大会が開かれる事になった。


霧養(むかい)だけ参加できなかったのは可哀想だったな。次の機会は誘ってやるか」


「女性陣は昨日のリベンジの為に、商店街のカラオケボックスで歌ってるんだろうな……」


 臨時のカラオケ大会。


 いつの間にか勝手に決められていた賞品は【凰樹(おうき)(あきら)との一日デート券】で、宮桜姫達が冗談半分で言ったその提案をまさか凰樹が了承すると思っていなかったらしく、「夏休みの一日位ならいいだろう」という凰樹の一言で、仲良くカラオケなどという雰囲気は一瞬のうちに吹き飛んだ。


 それまで、和気あいあいとカラオケを楽しんでいた宮桜姫(みやざき)荒城(あらき)楠木(くすのき)竹中(たけなか)の四人は目の色が変わり、凰樹(おうき)(あきら)との一日デート券を懸けた本気のカラオケ勝負が開始された。


 ルールは簡単で、八人全員が順番に好きな曲を一曲ずつ歌い、一周回って一番高かった点数の人が一ポイントを獲得する。


 制限時間まで周回を重ね、もし八人全員が歌い終わらないまま途中で終わればその周の勝負は無効、最終的に一番多くポイントを稼いでいた人が優勝という事だった。


 平日昼間のフリータイムを利用して時間ぎりぎりまで勝負は続き、最終的に宮桜姫達女性五人が各一ポイント、凰樹達男性三人が各二ポイントという団子状態で優勝者無しという結果に終わった。


「明日は部活を休みます!!」


「輝さん、手心って必要だと思いますの」


「もっと練習しなきゃだめだね……」


「次は必ず勝つ……」


 カラオケ屋から出た後、四人は口々にそんな事を言っていた。


 優勝できなかった事もそうだが、勝負を始めるまでは比較的遊びで歌っていた神坂、凰樹、窪内の三人が容赦なく楠木達四人の持ち歌に被せてポイントを奪っていったのが余程に我慢ならなかったらしい。


 神坂達は幾つかの持ち歌の場合は確実に九十点後半を叩き出す為、自信のあった歌でポイントを逃した楠木達は次のカラオケ大会に向けて持ち歌の特訓を開始していた。


「手加減したらそれこそ失礼だろうに」


「賞品が別のもんやったら、笑い話ですんだんちゃいます?」


 勝負の途中、女性陣が一ポイントずつ獲得した時までは実際笑い話ですんでいただろう。


 そしてその後、神坂達が持ち歌でポイントを奪い続けなければ。


「勝つための歌と、楽しむ為の歌は別だからな。実際、あそこの機械は癖があるからどんなに上手く歌おうが、採点基準外だと容赦なく減点される」


「同じ機械でよくテレビ番組でネタにされてるみたいやけど、本人の持ち歌でも容赦なく八十点台が出るって話でっせ」


「歌手を呼んでは凹ませるって意地の悪い番組の事か?」


 凰樹は殆どTVを見ないが、先日出会った三女神(ヴィーナス)の一件があってから、歌番組位はチェックする様になった。


 幾つかはバラエティ風の歌番組も存在するが、端末で情報を見る時のBGM代わりにそういった番組を流していたりもする。


「歌手のチェックなら、ラジオもええ感じでっせ。殆ど深夜帯でっけど」


「そこまでする気はないさ。夜は早めに寝ないと朝に響くからな」


 凰樹はバイクを使って拠点晶(ベース)の破壊をしている時を除き、かなり健康的な生活を送っている。


 多忙でも夜十時には就寝し、戦闘の翌日でも無ければ朝五時には目を覚ます。 


 特殊小太刀の素振りやジョギング、軽い柔軟体操などをしてシャワーを浴び、制服に着替えて登校していた。


 早朝であるにも拘らず、最近はジョギング中に声をかけられることも増えた為、ジョギング中も専用のサングラスをかける様にしていた。


「そう言えば霧養もいないな」


「霧養はんは、ひとりで寂しくショッピングモールでお買い物らしいですわ」


「……大丈夫なのか?」


「別に買い物位……、ああ、そういやアイツ、自分がレジェンドランカーだって事、忘れてそうだな」


 凰樹の人気も凄まじいが他のメンバー、特に最初(レベル2)環状石(ゲート)破壊時にトップランカーに昇格した凰樹、荒城、窪内、霧養、伊藤、竹中の六人の顔は現時点でも十分に知れ渡っており、サングラスなどもかけずにショッピングモールに出かけようものなら、バス停から降りて百メートルも歩かない内にフアンに囲まれて身動きが取れなくなることは確実だった。


 永遠見台高校(とわみだいこうこう)の近場に存在する商店街であれば、空気を読んでサインや記念撮影を求める者は少ないが、ひとりでショッピングモールに行く場合には余程入念に変装でもしない限り、警察にお世話になる事態に発展する。


「学校の制服でいったのか?」


「まさか、一回寮に戻ってそれから向かうとか言ってたが……」


 セミランカー時代から割と苦労していた凰樹は、サングラスや帽子を使い自然な格好で変装する技術も身に付けている。


 ランカーに上がった時に一応全員にそういったレクチャーもしたのだが、霧養などは「まっさか、そんなわけ無いっスよ」とか言って、凰樹の忠告を冗談として受け止めていた。


霧養(アイツ)、あんな性格の割には女遊びをしてないからな」


「今日出会った女と一夜の恋、別に悪い事じゃないだろ?」


「莫大なポイント目当ての悪女(ワル)もいる。多少の買い物なら大した事にはならないが」


 レジェンドランカーという事だけでは無く、二度の環状石(ゲート)破壊作戦に参加した霧養は二十億ポイント以上を所持している。


 しかも女慣れしていない霧養だけに、経験豊富な女性から見ればカモがネギどころか土鍋とコンロまで携えて歩いている様な物だ。


「そんな事態になる前に、まず警察に取り押さえられるだろうな。俺も最初にショッピングモールに行った時には、百メートルも歩けなかった」


「ひとりで幽玄(あの店)に行く場合、あまり人が居ない場所にバイクかタクシーで向かい、ショッピングモールに一番近い階段ですぐ地下道に降り、人気の少ない地下道をひたすら進むってアレだな」


「一番確実な方法だな。ん? メール?」


 三人の端末が一斉に受信音を響かせ、メールが届いた事を知らせていた。


「差出人:霧養、件名:助けて……。本文は無しでんな」


「どうやら、人に囲まれて動けなくなったらしい。SNSに【有名人発見!!】【あの霧養さんがひとりで買い物中】って投稿が山ほどアップされてるぞ」


 神坂が良く見ているSNSのサイトに、大勢の女性に言い寄られて身動きが取れなくなった霧養の画像がでかでかと載っていた。


 バス停を降りた直後に気が付いた女性が最初に画像を上げており、その後、女性に囲まれて身動きが取れなくなるまでの数十秒の動画を別の女性にあげられていた。


「あ、警察が来て霧養はんの身柄を押さえたみたいでんな」


「変装も無しに堂々とショッピングモール(あんな場所)を歩いた事を二~三注意された後、パトカーで寮まで送ってくれるさ。これで懲りただろう」


「ちなみに(おう)さんは、何度お世話になりはったんですか?」


「サングラス、帽子、ウィッグなんかで変装したが最初はすぐに見破られてな。五~六回位の筈だ」


 素顔に帽子アウト(×)、色の薄いサングラスアウト(×)、素顔に金髪のウィッグアウト(×)、と、その後いろいろ組み合わせて自然な格好で変装が出来るようになるまで結構かかった。


 その経験があったからこそ事前に変装術のレクチャーをしたはずだったのだが……。


幽玄(あの店)の水着は諦めて商店街で買う方がいい」


「キャンプまでまだ数日ある。終業式の後で買いに行けばいいだろう」


 翌日、凰樹に一から変装術を叩き込まれた霧養は、自然な変装の為に誰にも気付かれる事無くAGEショップ幽玄に辿り着き、無事に水着の購入に成功した。


 ちなみに、店長の蒲裏(かまうら)寛治(かんじ)からは「ああ、昨日の騒ぎはお前だったのか」などと言われたりもしていた。






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