夏休み直前 二話
新章第二話。
ランカーズの日常の話になります。
七月十八日、午前十時三十分。
居住区域再開発地区のショッピングモール。
元々は新規に奪還された土地に存在した荒れ果てた雑木林と民家などが点在した過疎地だったが、この居住区域の市長が率先し、区画整理と称して住人が全員石の彫刻に変わっていた民家などを強制的に移動させ、映画館やボーリング場などの遊戯施設が揃ったショッピングモールに生まれ変わらせた。
建設が開始された直後には一部の地域がまだ廃棄地区のままだったが、凰樹がその場所を支配下に置く拠点晶を破壊した為に、晴れて再開発地区全体が安全区域へと移行していた。
その拠点晶破壊作戦の情報を事前につかみ、方々に情報を流していたのは当時対GE民間防衛組織事務所の副所長だった影於幾之滋で、その見返りとして多額の献金や対GE民間防衛組織に対する寄付を受けとり、その地位を盤石なものとしていた。
再開発計画が持ち上がった当初に『安全で貴重な土地だ、地下を遊ばせているのは勿体ない』、という意見が多数を占め、地下にまで開発の手が伸びた為に、結構な規模の地下街が建設されていたりもする。
現在は凰樹が環状石を破壊して奪還したKKSとKKIの二ヶ所の地区で同様の再開発計画が持ち上がっており、『中間を占めるKNH地区も奪還されれば、広大なエリアが纏めて再開発できるのだが……』、などと一部では言われている。
居住区域内の移動手段は主にバスだが、地下街は網目の様な地下道が張り巡らされており、基本は徒歩での移動という事になっていた。
ただ地下街は無駄に広い為に、端から端へ移動する時などは一旦地上に出てから、バスで近くまで移動するのが一般的になっている。
また、外周部を内回りや外回りで周回する無料のバスも存在する。
実家住まいや、元々この居住地区で生まれ資金に余裕がある一部の学生などはこの場所をよく訪れたりもするが、何度も移住を繰り返し、アルバイト代わりにAGE活動をしているような比較的生活に余裕の無い学生たちには、あまり縁の無い場所でもあった。
しかし、先月から二度ほど発生した一部のAGEに魔滅晶祭りと呼ばれている、高純度魔滅晶拾い。
ランカーズが放置した拠点晶産の高純度魔滅晶を幾つも見つけた部隊は、売り払ったポイントを隊員に配り、今まで手に入れた事の無いような大量のポイントを手にしてこのショッピングモールに訪れ、今まで欲しくても手が出なかった様々な物を買い求めていた。
モール内で女性物のブティックや小物を扱った店などが立ち並び、女性達にファッション地区と呼ばれる一角。
そこで、異様に人目を引く五人の少女が買い物を楽しんでいた。
この場所に来るような女性であれば一目でその価値を見抜けるような服を身に纏う宮桜姫、荒城のお嬢様コンビはともかく、少し厚着をしてもその大きな胸が隠せる筈も無い竹中、お淑やかな伊藤、動きやすい恰好をした楠木も、そこにいるだけで周りの人の目を引き付けた。
更に言えば、五人全員がトップランカーという事もあり、周りにいる通行人だけでなく、五人が訪れた店の店員までもがどういった態度で接客をすればいいのか対応に困惑していた。
AGE隊員は最低限の装備の携行を義務付けられているが、殆どの女性隊員はその規則を守っておらず、真面目な宮桜姫でさえバッグの中に高純度弾が装填された超小型のハンドガンを、申し訳程度に忍ばせている位だった。
男性のAGE隊員の中には、腰や胸元辺りにホルスターに収められたハンドガンを装備していたりもするが、「俺達AGEなんだぜ、一緒に遊ばない?」などと女性を誘う為の小道具としている場合も多い。
楠木お勧めのファンシーショップ、荒城と宮桜姫お勧めのブティック、伊藤お勧めの喫茶店、竹中お勧めの靴屋など、それぞれが良く行く店を紹介していた。
少し前までおしゃれにはあまり興味が無かった竹中などは紹介して貰った店に喜んでいたが、逆に竹中が勧めた靴屋も実用的な物からカラフルでおしゃれな物まで色々揃っており、丁度購入しようと話していたビーチサンダルのフェアをしていた事もあり、全員が其処でビーチサンダルを購入している。
この日は暑かった事もあり、宮桜姫たち五人はソフトクリームやドリンク休憩を挟みながら店を回り、この日の目的である水着を購入する前でありながら、ぬいぐるみゲッターやフォトシールクラブなどをメインにした女性向けのゲームセンターで時間を忘れて遊んでいた。
「あ…あのフアンです。一緒にそこのフォトシールクラブをお願いできませんか?」
「ごめんなさい、でもスマホで記念撮影位ならいいですよ?」
ゲーセンで遊んでいる時は時折勇気のある少女達が声をかけてきたが、全員に付き合っていては時間が幾らあっても足りない為に記念撮影などでそれにこたえていた。
街中であればこんな対応をすれば、大混乱の元になりかねないが、声をかけられたのが比較的人の少なく少女が多いゲームセンターだったからこそ、無事にその場を切り抜ける事が出来ていた。
◇◇◇
午後一時二十分。
モール内にあるおしゃれなカフェで昼食を終えた宮桜姫達は、再びモール内でウィンドショッピングを続けていた。
全ての店がポイントでの支払いに対応している為、その気になれば何でも買う事が出来たが、それがAGEとしての活動費も兼ねている事は忘れていなかった。
ただ、流石に先日ランカー入りしたばかりの楠木や宮桜姫の事は知られていなかったが、ポイントでの支払い時にAGE用の端末を使用すると、支払い時で初めてランカーだと気が付いた店員が驚いたりもしていた。
「別に普通でいいのにね?」
「ランカーですから~、仕方ないんじゃないですか~?」
「今日はなんだかAGEの人も多かった。昔別の部隊で見かけた人もいたし」
身を守る為に不良を装い、荒々しい粗野な言動で問題を起こしまくった為にソロ活動を強いられていた荒城はともかく、優秀なスナイパーの竹中は他のAGE部隊に所属していた事も多く、そこで声をかけられた男性隊員の顔はしっかりと覚えていた。
伊藤や楠木もいくつかの部隊に所属はしていたが、運よく特に無理な活動をするような武闘派な部隊では無かった為に、可も無く不可も無い割と一般的なAGE部隊の活動内容で、主に小型GEを数人で確実に処理していただけだった。
「えっと……忘れ物は無いよね? 日焼け止めオイルは買ったし、ビーチサンダルも水着も可愛くていいのが揃ってて良かったよね~」
日焼け止めオイルなどの小物系であれば現地で買うという選択肢もあるが、GEが出現する為に予約客が少ない海水浴場の海の家やキャンプ場の売店に期待するのは少しばかり無理があった。
行く途中で買うという選択肢に至っては、現地に着くまでに何ヶ所か営業を再開したサービスエリアは存在するが、その多くはトイレと自動販売機が並ぶ簡易的な物ばかりで、買い物をするなど期待する方が無理という話だ。
「紫の紐水着を阻止できただけでも一緒に来たかいがあったわ」
「あきらの目の前で~、水着の紐がほどけるハップニング~♪」
「お・と・め・き・ょ・う・て・い!!」
「アピールも程々にしませんと、輝さんが呆れますわよ?」
五人が他愛の無い話をしていると、小太りのだらしない体つきにヨレヨレのシャツを着てセンスの悪いズボンに手を突っ込み全身に金色のネックレスや両耳に見栄えの悪いイヤリングを無数に付けた如何にも不良ですといった姿の男二人が、突然、荒城たちに話しかけてきた。
「ちょっといいか? 俺達と遊びに行かねえか?」
「俺達だけじゃ物足りなけりゃ、退屈しないように仲間を呼んでもいいんだぜ」
濁りきった目を大きく見開き、目の前にいる荒城の身体を嘗め回す様に見ている男に、ゆっくりと竹中が近付く。
「少し見ない間に、随分と落ちぶれましたよね。茸滋くん」
「ああん? どうしておれのぉぅ…う……。お……お前、竹中か?」
「竹中? ああ、おめえが以前言ってた、糞みたいな条件を無茶振りする根暗女ってコイツか? 聞いてた姿とは全然違うじゃねえか」
茸滋勇実、以前竹中に言い寄り、「必ず親父さんを助けるから付き合わねえか?」と、無責任な言葉を口にした男たちのうちの一人。
目的は当然、当時からすくすくと成長していた竹中の大きな胸と、小柄で程よく引き締まっていたその身体を弄ぶ為だ。
何度も「約束するからよぉ、なっ、先に少しだけ前払いとかしねえか?」と、執拗に言い寄り、最終的には脈無しと諦めて何も言わずに竹中の前から姿を消していた。
「無茶だったかもしれない。でも、その無茶を請け負って無責任な言葉で私に言い寄ったのはアナタ達」
身体目当て、もしくは、竹中が寂しさに負けて温もりを求める事に期待した男たちは、決まってその無責任な「必ず助けるから」という言葉を口にした。
当時は誰ひとり、環状石を破壊したAGEはおらず、そしてその男の仲間たちだけではレベル二の環状石周辺の拠点晶すら破壊できるかどうかも怪しいのに、だ……。
「でも、本当に私の事を分かってくれた人は、決してそんな言葉は口に出さなかった」
第十二完全廃棄地区で遺棄物回収を行っていた時、竹中の話を聞いた凰樹は破壊出来るんじゃないか? という、喉から出かかった台詞を飲み込み、決して口には出さなかった。
その言葉は、気休めで口にして良いモノではないと知っていたから……。
「その人は、『必ずお父さんを助ける』、そんな根拠の無い無責任な言葉では無く、考えに考え抜いて作戦を計画し、それを実行する直前に初めて『助け出そう』、そう言ってくれた。そして、本当にあのレベル二の環状石を破壊して、お父さんを助け出してくれた」
あの瞬間は、今も竹中の心の中で燦然と輝いている。
もう絶対間に合わない……、目の前で刻まれる筈だった、十年という制限時間。
時間切れ寸前、絶望の淵にいた自分に差し出され、そしてそのまま希望の園まで引き上げてくれた、強くて優しい手を持つあの人……。
「お父さんを……、そして私の心を救ってくれたのはあきら。アナタは単に、私の身体目当てで言い寄ってきた最低の男のひとり。あの時の私も最低だったかもしれないけど……」
当時、竹中が身体を餌に、レベル二の環状石に挑んでくれる人を探していたのも事実だった。
その事を思い出した竹中は、当時の自分もその最低な人間の仲間だったと自覚はしていた。
「紫……」
茸滋は竹中の言葉に違和感を感じ、回転の鈍い頭脳をフル回転させて、ようやく記憶の片隅からその名前を思い出した。
「ん? あきら? もしかしてあの凰樹の事か?」
「そういやお前、確か今ランカー……」
流石に元戦友のランキング程度は把握していたが、茸滋はその程度しか知らなかった。
「私達全員そうだけど」
楠木や宮桜姫は顔を見合わせて、呟いていた。
「全員? あ…あぁ……こいつら、ランカーズの!!」
「こいつ、あの荒城だ!!」
「いままで気が付かなかったんですの?」
散々テレビや新聞などで報道されていたにも拘らず、そんな物には目も通さない茸滋たちでもAGEの間でそう呼ばれている部隊がある事位は流石に知っていた。
「あんな男勝りの女ゴリラな荒城がそんな姿してりゃ気が付くかよ!!」
「まったくだ。大体、俺たちゃAGEでも今は殆どな……」
そして目の前の荒城に無礼な台詞を吐いた所で、二人そろって荒城の放った鮮やかな回し蹴りを綺麗に食らい地面に横たわる羽目になった。
「失礼ですわね。あの姿はあなた方みたいな粗野な人から身を守る為の処世術ですわ」
地面に転がる二人をやや不機嫌な顔で見下ろし、髪をかきあげながらそう言い放った荒城だったが、当時は茶髪のウィッグを被った上でノリノリでその粗野な言葉を吐いていた荒城の姿を、当時この居住区域の周辺でAGE活動をしていた者なら知らない人を探す方が難しかった。
別段荒城は筋肉質でも何でもないが、割と厚手のボディアーマーなどを身に付けていた為に女ゴリラだと勘違いしているAGEがいたのも確かだった。
「気分直しに、カラオケでも行かない?」
「いいですね~。私、三女神の新曲を歌いたいで~す♪」
「一番近いのは……、ひとつ角向こうの雑居ビルですわね」
やや遠巻きになった周りの人を横目に、荒城たちはカラオケ屋の入っている雑居ビルへと向かった……。
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