取り戻した物は……
この話で偶像奪還編は終わります。
楽しんで頂ければ幸いです。
七月十日、午前八時五十七分。
ランカーズによるKKI地区を支配していた環状石が破壊され、GEに襲われて石と化していた十万人近い人が再び息を吹き返した。
前回レベル二の環状石の破壊実績がある為に不可能だとは思っていなかった対GE民間防衛組織だったが、あまりにも早すぎる環状石の消滅に自らの読みが甘かった事を痛感させられる。
「KKI全域に探索命令だ。現地に大型バスを走らせて石化から戻った人を救出しろ。作戦行動中の高純度魔滅晶拾いどもに、住人の探索命令を出せ!!」
「守備隊、作戦行動外のAGEに出来るだけ協力させろ。後、防衛軍と役場、病院、警察などに緊急連絡。石化から復帰した人の一時避難所は前回使用した施設を再利用しろ」
「緊急放送、居住区域全体にKKI地区解放の放送を流せ!! しかし、これで二つ目か……、ランカーズ一体何個破壊する気だ?」
「さあな? でも……俺は嬉しくて…な……」
「お前KKI地区出身だったっけ? 俺の女房もあそこの生まれでな。今頃家で喜んでるだろうな……」
この日は日曜日であったが、対GE民間防衛組織、警察、役場の職員などには緊急招集がかかり、前回同様突現湧いて出た膨大な量の仕事に忙殺されていた。
◇◇◇
七月十日、午前九時十二分……。
居住区域の公民館。
その控室で、織姫アカリは突然石化が解けた織姫ヒカリに驚き、涙を流して二年前に石像に変わった双子の妹との奇跡の再会を喜んでいた。
「おねえちゃん……? アレ? わたし…………」
「ヒカリ……、良かった…………」
放送で石化させられていた人が元に戻った事を知った美華月カグヤと豊穣ミノリは織姫ヒカリの控室に飛び込んできた。
「「ヒカリ!!」」
「カグヤ、それにミノリ……」
「ホント姉妹よね、反応がアカリにそっくりだわ」
「アカリちゃん……良かったよね」
まだ状況を理解しきっていないヒカリの姿を見た二人は二年ぶりの再会を喜んでいた。
そして今まで何があったかを全て話し、これからどうするかを考えていた……。
◇◇◇
「全員無事なようだな。蒼雲、これでよかったか?」
「ああ、織姫アカリも今頃喜んでくれてるだろう」
最初に車を停めていた場所まで戻ったメンバーを確認した凰樹は、作戦中にGEに襲われて石化しても環状石を破壊した為に元に戻れるとは知っていたが、全員の無事を確認して胸を撫で下ろしていた。
GEに襲われる事も脅威だが、作戦行動中では転倒などGEの攻撃以外の怪我も十分に有りうるからだ。
放置すると言っていた環状石産の高純度魔滅晶だったが、この場所に撤退する途中や近場にあった物は流石にひとつ残らず回収していた。
当然、攻撃を加えていた保育園にあった高純度魔滅晶も回収している。
「とりあえず集めただけで結構な数になりましたよね」
「あとは取り合いでしょう」
おそらく、この情報に気が付いた部隊間で、今日から始まるAGE同士の高純度魔滅晶拾いは、熾烈を極めるだろう。
無数に転がるおはじき大の低純度魔滅晶の回収は後回しにすると思われるので、結構な期間、残されたままな可能性すらあった。
「今回の門番GEはどんな奴だったんスか?」
「今回も録画データがあるから後で確認すればいい。ただ言えるのは、AGE部隊が環状石の攻略に向かうのはやめた方がいいって事だ」
凰樹は、あの門番GEがどの位強いのか、それは十分に理解していた為に、一般的な装備のAGE部隊で簡単に環状石の攻略が出来るようになるには、まだ長い時間が必要だという事位は理解していた。
「あきら、無事でよかった……」
いつものアピールでも誘惑でもなく、本心から凰樹の無事を喜んでいた竹中は、凰樹の身体に正面から抱きついていた。
「ちょっ!! 紫!! 協定違反よ!!」
「今回は良いじゃありませんか、単に輝さんの無事を喜んでいるだけですわ」
続いて、荒城もそう言いながら凰樹に近付き、あいていた凰樹の背中に抱き着いた。
◇◇◇
七月十日、午後六時十一分。
ランカーズによる環状石の破壊などと言う大事件が発生した為、中止になるかと心配された三女神のコンサートは予定通り行われる事となった。
しかし、ステージの上には月の女神美華月カグヤ、大地の女神豊穣ミノリ、そして星の女神織姫アカリと織姫ヒカリの四人が立っていた。
「フアンの皆様にはお詫びしなければなりません。私、織姫ヒカリの本当の名は織姫アカリ。ヒカリの双子の姉になります」
「私、織姫ヒカリがある人にさらわれて、GEに襲われて石に変えられていた為、私の代わりにお姉ちゃんが織姫ヒカリとして三女神を続けていました」
「私達はそれを知りながら、三女神を辞めたくない一心で、二年もの間、皆様を騙し続けてきました」
「プロデューサーと相談した結果、私達は」
「星の女神織姫アカリと織姫ヒカリを加えて」
「四女神として、アイドルを続けたいと思いま~す♪」
はじめは何が起きたか分からなかったフアン達は、本物の織姫ヒカリの復帰と、織姫アカリの加入を喜び、喝采と拍手でこれに応えていた。
「本当は本物の織姫ヒカリが三女神としてデビューする為に作られていた歌、【君に三女神の祝福を】。この曲で四女神としての活動をはじめます!!」
ステージの周りある巨大なスピーカーから曲が流れて、四女神達は美しい歌声を奏で始めた。
◇◇◇
環状石が大地にそびえ、地に灰色の絶望が広がり、無限の闇が未来を閉ざす。
小さな勇気を育み、勇敢な戦士として、闇に立ち向かうキミ。
今、大地の女神が勇気慈しみ、大地駆ける力成す祝福を君に、共に進む仲間と、絶望生み出す悪しき存在に立ち向かう。
闇が空を蔽い、悲しみが大地に満ち、無情な壁が未来を閉ざす。
心に光を燈し、闇払う勇者として、壁を打ち壊すキミ。
今、月の女神が背中を押して、壁打ち壊す力成す祝福を君に、共に戦う仲間と、悲しみ生み出す悪しき存在に立ち向かう。
故郷を失い、荒野を彷徨い、未来への道標すら見失う。
人々を導き、道を示す開拓者として、未来を切り開くキミ。
今、星の女神が道を照らし、希望の未来創る祝福を君に、共に築く仲間と、未来奪う悪しき存在に立ち向かう。
今、三女神の、祝福を、キミに~♪
大地と、月と、星の、女神が、いつも、ともに、そばに、いるから~。
◇◇◇
ステージが七色に輝き、歌い終わった四人は中央に集まる
「ありがとうございました」
「「「私達のコンサート、最後まで楽しんでください」」」
と、コンサートに来てくれたフアン達に向かって声をかけ、会場にいたフアン達は空震でも起こしそうなほど大きな拍手でそれに答えていた。
続いて、それぞれ月、大地、星の女神のメイン曲が歌われたが、星の女神の時は織姫ヒカリと織姫アカリがデュエットしていた。
公民館では、この後、アンコールも含めて三時間ほどコンサートが続き、熱狂冷めやらぬ内にコンサートは終りを告げた。
なお、コンサートに来ていたAGEの多くは開幕直前まで探索作業などに参加し、徹夜明けの様にクタクタになっていた筈なのに、最後までそんなそぶりは欠片も見せなかった……。
◇◇◇
七月十日、午後九時四十一分。
ランカーズのメンバーは今回も公民館の隣のホテルで半軟禁状態となっていた。
理由はいくつかあり、翌日実施予定の健康診断やマスコミからの遮断などが主目的だったが、今回はGE共存派から凰樹を守るという目的もあった。
その為、前回より一段階上の警戒態勢が引かれており、ホテルの周りにはまるで他国の大統領でも宿泊しているかの様に、もの凄い数の警備員がホテルの内外で警備をしていた。
今回案内された部屋は最上階で、その三階下の階まで警備員の待機室にされており、GE共存派の襲撃に備えられていた。
凰樹は持ち込んだ端末で送られてきた大量のメールに目を通し、明日からの予定などをを確認していた。
「居住区域の学校は十三日まで休校、テストが予定されていた学校は後日に変更か……。そういえば永遠見台高校もテスト期間だったな」
通常、永遠見台高校の夏休みは七月二十一日からで、その前には学力テストが行われ、赤点を叩き出した生徒は七月中いっぱい使った補習授業が行われる事になっている。
ランカーズのメンバーは赤点を取ったとしても補習授業は無いが、今後の事を考えて「赤点を取るなとは言わないが、取らない努力だけはしておくように」と隊員全員に通達を出してあった。
「まあ、問題無いだろう。ん? 蒼雲からメール?」
何か用事があるなら、直接言いに来ればいいのにと思いながらメールを開いた凰樹は、送付されていた画像を見て軽く頬を引き攣らせた。
そこには、織姫ヒカリ達四女神の打ち上げ会場に参戦して、顔を真っ赤にした神坂が豊穣ミノリと肩を抱き合っている姿と、カラフルなペンで【凰樹♡LOVE】などと書かれたボードを掲げた織姫ヒカリ達三人の姿が映し出されていた。
神坂の顔が赤いのは、豊穣ミノリと過剰に接近しているせいに見えなくもないが、アルコール類を飲んで酔っぱらっている事も、テーブルの上に並んでいたドリンク類で看破出来た。
「まったく、違法じゃないが、程々にしろよ……」
飲酒や車の運転などは制限年齢が大幅に引き下げられた為に、神坂や豊穣ミノリ達がアルコール類を飲んでいても問題は無い。
「織姫ヒカリとアカリの二人からメールが届いてるな。助けてくれてありがとうございます、か……」
この二人の場合、メールが対GE民間防衛組織のフィルターで弾かれる事は無いが、他の多くのお礼のメールは対GE民間防衛組織の方で弾かれ、凰樹の元に届く事は稀になっている。
なにせ、日に数万件もお礼のメールが届く事があるのだ、放置されれば凰樹やランカーズのメールサーバーの方が許容量オーバーでパンクする事は確実だ。
また、古風に紙の手紙でお礼をしたためる者もいるが、こちらも凰樹の手元に届く確率は低い。
「あとは、坂城の爺さんから、新兵器の使い心地と性能についての質問か……」
新型試作型次世代特殊小太刀と試作型次世代トイガン。
この装備無くしては、今回のアイドル差奪還作戦…、環状石の破壊は此処まで簡単にいかなかっただろう。
「調整して貰ったばかりで悪いが、新型試作型次世代特殊小太刀と試作型次世代トイガンは一旦坂城の爺さんに送るとするか。アレと一緒に……」
GE共存派残影所属の浅犬藤太から奪った超小型の対GE用結界発生器を、防衛軍特殊兵装開発部の坂城宛てに送る事にした。
凰樹がこの超小型の対GE用結界発生器を送った事で防衛軍内部に潜伏していたGE共存派のメンバーが発覚し、その連中が保有していた資料から、各地に潜入していたGE共存派が次々に捕らえられ、この国におけるGE共存派は壊滅していく。
今回の凰樹とランカーズの活躍により、人々の心の支えであるアイドルを脅かすGE共存派が事実上壊滅し、本当の意味での偶像奪還となった……。
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