コーヒーブレイク
石像奪還作戦の四話と言えなくもありませんが、偶像奪還編のクライマックスへの布石になります。
楽しんで頂ければ幸いです。
七月九日、土曜日、午後三時四十八分。
対GE民間防衛組織の事務所への重犯罪者であるGE共存派残影所属の浅犬藤太の身柄と、石の彫刻へと変わっていた織姫ヒカリの引き渡しを終え、この日の活動を終えたランカーズは車を移動させて、公民館の近所にあるレストランで遅い昼食を取る事にした。
この日は午前中で作戦が終了すると誰も疑っていなかった為に弁当などは用意せず、非常時の対策として予備の食料である缶詰などがある程度車に積んできてはいたが、それを口にするタイミングを逸していた為にこんな時間になっていた。
この近郊の居住区域には比較的多いフランチャイズのファミリーレストラン、ドコーズ。
ドコーズはAGE協力店舗でもあり、当然ポイントでの支払いが可能だ。
丁度時間が昼飯時でも夕飯時でも無かった為に店内には他に客はおらず、ドコーズはランカーズの貸切状態で、メンバー全員で九名となった為に近くのテーブル二つを合わせて、ひとつの大きなテーブル席が作られた。
注文を取りに来たウエイトレスはランカーズの事を当然知っており、店長に叱られる事を覚悟の上でスマホでの記念撮影を申し込んだりもしてくる。
また、ウエイトレスのその行動を叱ると思われていた店長も、他の店員に混ざって記念撮影に参加しただけでは無く店に飾る用のサイン色紙まで差出し、凰樹は苦笑いしながら寄せ書きの様にメンバー全員に色紙を回してサインをそこに書き上げていた。
「昼食がこんな時間になってしまってすまなかった。今回の食事は活動費から出すので好きな物を頼んでくれ」
全員にメニューが行き渡った事を確認し凰樹がそう宣言すると、今はそこまで資金的に困っている者もいないが、今までの生活が染みついていた為に割と安めのランチメニューで済まそうとしていた者も多く、その宣言を聞いた瞬間、メニューの比較的後ろの方にあるセットメニューやデザートを物色し始めていた。
「やった!! スペシャルハンバーグステーキセット、単品唐揚げとドリンクバー追加で」
「チキンステーキセット、デザートにレアチーズケーキ♪ それとドリンクバー」
「カツ&海老フライ定食をライス特盛で、単品軟骨の唐揚げとドリンクバーもよろしゅう」
それぞれが思い思いのメニューを注文し、ウエイトレスが一生懸命端末に大量のメニューを入力していた。
誰も遠慮などしないのは、最近では戦闘時に高純度弾を使う機会が増えていた為に、その事を考えればこのレストランで幾ら注文されても大した額にはならないからだが。
当時からセミランカーだった凰樹はともかく、ホンのひと月前まで完全廃棄地区で賞味期限切れの缶詰を漁っていたメンバーとは思えない程の変わり様だった。
なお、あの時回収した膨大な数の缶詰の殆どは女子寮や男子寮で暮らす他の生徒に行き渡って既に消費され、残っている物といえばお菓子などの制作に必要な砂糖や蜂蜜類だけだ。
「どうした蒼雲。後はお前だけだぞ」
全員メニューを頼み終えたにも拘らず、神坂だけがメニューを開いたまま、何も注文してはいなかった。
「あ…ああ、シーフードパスタセットと、ドリンクバーを」
たまたま目に入ったのか、神坂は開いていたページの一番上にあるシーフードパスタセットとドリンクバーを頼み、再び焦点の定まり切らない瞳で何かを考え続けていた。
「そんだけで足りるっスか? 結構量少ないっスよ?」
このレストランのメニューのボリュームが極端に少ない訳では無いが、食べ盛りの凰樹達であればセットで頼んでも少しばかり物足りないのは確かだ。
その為、殆どのメンバーはセットメニューの他に単品メニューやデザート系を追加していた。
「俺はそれだけでいい」
「そうか、ま、足りなけりゃ追加すればいいだろう」
一旦注文を終え、各自ドリンクバーコーナーに赴いて、それぞれが好きなジュース類をコップに継いでいた。
テーブルに所狭しと並べられた様々なメニュー。
アイスティ―や色とりどりのジュース類が各々の前に置かれ、量が少ない事もあり瞬く間に頼まれたメニューの殆どは胃袋の中に消えて行った。
窪内や霧養などは女性陣が食べ終わる前に単品メニューすら食べ尽くし、追加でピザなどを頼んでそれを少しずつシェアしながら楽しい食事は続けられる。
いつの間にかテーブルには店側からサービスとして提供されたポテトフライやチョコレートバーなどが乗った大型のパーティプレートが追加され、それぞれが其処から好きな物を手に取って口に運んでいた。
全員が殆ど食事を終え、デザートを食べている時、ずっと思いつめた顔をしていた神坂がようやく重い口を開く。
「輝、頼みがあるんだが……」
「その顔は追加の注文って訳じゃなさそうだな。大体想像はつくが、部室に戻ってから詳しく聞くって事でいいか?」
神坂の顔から大凡の事情を察した凰樹は、この場所ではあえてその話を聞かず、その話し合いに必要な端末のある部室で詳しい話を聞く事にした。
「すまない。それで頼む」
とはいえ、ランカーズのメンバーはほぼ全員、神坂の話の内容を大体を察してはいた。
その顔は僅か二週間ほど前に、レベル二の環状石攻略作戦を口にした凰樹の表情とほとんど同じだったからだが。
◇◇◇
三十分後、帰宅する生徒と入れ違いになる様に学校に戻ったランカーズは、端末のある大きなテーブルに座っていた。
つい先ほどドコーズで食事を終えたばかりだった為、テーブルにはコップに注がれたお茶や水などが存在するだけだ。
「それじゃあ、話を聞こうか?」
「あ…ああ。…………済まねえ。ついこの間あんな事を言った俺が、こんな事を頼める筋合いはないんだが」
神坂はそこまで言った後、凰樹に向かって深々と頭を下げて言葉を続けた。
「あの子を……、織姫ヒカリを助ける為に、KKIを支配下に置く環状石の破壊作戦を考えてくれないか?」
僅か二週間程前、凰樹が提案したレベル二の環状石攻略作戦に真っ向から反対した神坂だからこそ、この作戦を今度は自分が提案する事に負い目を感じていたからだ。
「やっぱりそういう事でっか」
「あの表情を見れば、みんな気が付いてると思うよ」
竹中などは、神坂と同じ表情をした顔に鏡で散々見覚えがあった為、少し苦笑いをしていた。
「蒼雲、頭を上げてくれ。何の為にあの環状石の周りにある拠点晶を破壊したと思ってるんだ? KKI地区にある環状石を攻略する為に決まってるだろう」
元々凰樹はその目的の為に殆ど単独で環状石の周りにある拠点晶を悉く破壊し、孤立するように仕組んでいたのだ。
現在の環状石が完全に孤立しているという状況は他のAGE達にも直ぐに知れ渡り、もし仮に凰樹達ランカーズが動かなくても、二ヶ月も経てば環状石破壊の報酬に目が眩んだ多くの部隊が環状石の破壊へと赴くだろう。
実際に環状石を破壊できるかどうかは別として。
「えっと、首都圏奪還作戦の事例から言えば、あの環状石の攻略作戦は二ヶ月後って事ですか?」
流石に荒城も首都圏奪還作戦の事は知っていたらしく、そこから正確に環状石が弱体化して楽に攻略可能になる時期を導き出していた。
「二ヶ月経ったらどうにかなるの?」
「あっ……、宮桜姫さんは最近AGEを始めたばかりですからあまり知らないかもしれませんが、端末にその作戦資料を送りましたので目を通してくださいな」
荒城が首都圏奪還作戦の詳細が分かる資料を宮桜姫の端末に送信し、宮桜姫はその内容を確認していた。
それに目を通した宮桜姫は環状石と拠点晶の関係、環状石の周りにある拠点晶を破壊すればどうなるか、どの位で弱体化が始まるかを理解し始めていた。
「すまない……。みんなの言う通り、作戦決行は夏休み明けの九月頃か?」
二ヶ月後であれば織姫アカリは別の居住区域に移動しているだろうが、環状石の弱体化する時期を考え、神坂も他のメンバーと同じ結論に達した。
緊張してのどが渇いていたのか、神坂は目の前のコップに注がれていた水を口に含んだ。
凰樹は腕を組んで何か考えた後。
「そうだな……、明日なんてどうだ?」
「ケホォ…あ…ゲホ……明日?!」
その言葉を聞いた神坂は思わず口に含んでいた水を噴き出し、咳き込みながらそう口にした。
「凰さん、流石にそりゃ無茶やありまへんか?」
「そうっスよ。孤立直後はそこまで弱体化は期待出来ないっス」
孤立させた環状石が本格的に弱体化するのはひと月後から。
確実、そして安全に攻略するなら荒城や神坂の言う通り、孤立させた二ヶ月後に攻略作戦を行うのが普通だった。
ただし、その時は他の有象無象部隊との競争になるだろうが。
「普通なら無謀な作戦だ。現時点だと弱体化も期待出来なけりゃ、環状石周辺にいる小型GEや中型GEも相当な数になるだろうからな」
「今日のハンバーガーヒル戦どころやないGEがいる事は、間違いないんとちゃいます?」
「だろうな。だから、普通は無謀なのさ」
凰樹はそう言いながら懐からカード状の機械を取り出し、テーブルの上に置いた。
「それは何?」
「KKIにあるあの公民館に浅犬が長時間潜伏していても無事だったカラクリ。超小型の対GE用結界発生器だ」
全員の視線がその小さな機械に注がれた。
「それ使えるんでっか?」
「一通り触ってみたが、あと数日位なら充電しなくても問題なさそうだ。充電には専用の装置が必要なんだろうが、明日一日なら問題無い」
凰樹はバッテリー残量の消費速度などを確認し、この装置が後どの位使用可能かという事を突き止めていた。
「ただ、これは一つしかない。そこでだ、拠点晶を攻撃を加えた時のGEの習性を逆手に取った攻略作戦を考えた。こっちの大画面を見てくれ」
普段採決などを表示させる大型ディスプレイの方に、凰樹は考えていた作戦を表示させた。
ほぼ中央ににある環状石と、そこに突入可能なルートが示され、攻撃対象の拠点晶候補が幾つか表示される。
「つまり、私達が反対側にある拠点晶にわざと傷を付けて退却し、その反対側から輝さんが環状石に攻め込むという事ですか?」
「ああ、今回は環状石のすぐ傍までバイクで突撃し、単独で内部にある要石とそれを守る門番GEを片付ける」
凰樹の説明では、安全区域から無理なく環状石に突入できるルートは僅かに三ヶ所しかなく、しかもバイクで最短距離を突破する為にはその反対側にある拠点晶をわざと破壊しない様に傷つける必要があった。
超小型の対GE用結界発生器があったとしても、途中で故障などでその効果が無くなり、GEが襲いかかって来るという可能性も捨ててはいない。
「拠点晶に攻撃を加えられると、その周りにいるGEは迎撃の為に一斉にその地点に集まる。他のメンバーは安全区域直前まで撤退し、そこで出来る限りGEを抑えて欲しい」
「一点突破の無茶な作戦だな。拠点晶の攻撃はどうするんだ?」
拠点晶破壊用の特殊ランチャーを今から申請していては明日の作戦には間に合わない。
もし仮に間に合っていたとしても、特殊ランチャーで拠点晶を破壊してしまえば作戦上意味は無かった。
「以前、遺棄物回収の時に、拠点晶破壊用の試作兵器があっただろう。龍に調整を頼んでおいたので、今回はそれを使う」
「ああ、あれでんな。確かにあれやと傷付けるには丁度ええ威力でっしゃろ」
元々素人が作った試作品と言う事もあり、一流のカスタマーである窪内が調整してすら、その威力では拠点晶を完全に破壊するには至らない事がわかっていた。
「予備カートリッジが幾つもあるから、全弾撃ち込めば拠点晶を破壊出来るんだろうが、今回はあえてその半端な打撃力を逆に利用させて貰う」
「あきらは、……あきらの方には危険は無いの?」
「むしろ今回の作戦は、拠点晶に攻撃を仕掛けてGEを引き付ける別働隊の方がはるかに危険だ。別働隊の隊長は神坂、副隊長に龍、索敵とその護衛にはいつも通り伊藤と楠木で頼む」
作戦が上手くいけば、凰樹は比較的GEの少ない市道辺りをバイクで走り抜けるだけだ。
周りのGEを誘き寄せられるかどうかが今回の作戦の肝と言っても過言では無かった。
「今回、索敵は二方面、環状石を攻略する俺と別働隊の周辺全域だ。もし索敵する為の端末と人員が足りなければ竹中か宮桜姫も索敵任務に回ってくれ」
「これ位の範囲ですと、私一人でもだいじょうぶですよ~♪」
通常、こんな範囲の索敵任務など、四~五人がかりでやらせても見落とす箇所が出る可能性すらある。
バイクを使って高速で環状石まで駆け抜ける凰樹の周りの状況もそうだが、拠点晶に攻撃を仕掛けた後の別働隊の周りにある他の拠点晶周辺のGEの動きなど、一瞬たりとも目が離せない箇所が多すぎる為だ。
「頼りにしてるぞ」
◇◇◇
「それで、作戦は何時から始めるんだ?」
神坂はこの期に及んで夕方五時からの三女神のコンサートを見に行こうと考えていた。
豊穣ミノリにコンサートに行くと伝えてあるうえに、持っているチケットが最前列のアリーナ席な為、滅多に聞く事が出来ない生歌を最高の位置で聞くという夢を諦めきれなかったからだ。
「この場所に集合するのが、午前七時、現地についてから別働隊が拠点晶に攻撃を仕掛けるのが、おそらく八時半前後。GEの動き次第だが、環状石の破壊は九時前後になるだろう」
「どんなに悪くても午前中には片付きそうだな」
今日の様な異常事態でもないし、凰樹の読みが外れる事など滅多にないので神坂は胸をなでおろした。
「そこまで計算済みでっか。チャージ問題はどないします?」
窪内が心配したのは環状石内ではチャージ機能が上手く働かず、前回の門番GE討伐時には、特殊マチェットに必要な生命力をチャージするのに十分ほど掛かっていたからだ。
「それは十分に対策を考えてある。あの時は竹中達に迷惑をかけたからな……」
門番GEを倒せるだけの生命力がなかなかチャージ出来ず、竹中達三人を石に変えてしまったのは不覚の極みだった。
「あ・き・ら。私の胸とか、……いろいろ見た?」
「それどころじゃなかったのは事実だ。環状石破壊後も含めてな」
実際には、環状石が消滅した後、割と肌色の多い身体を直視しているが、それを知られると後で何を言われるか分からないのでだんまりを決め込んでいる。
「今日生命力を消費した者は、必ず生命力回復させておく事。見た所大丈夫だと思うが」
全員、リングの表示はグリーン。
シールドや魔弾を使った凰樹も、生命力はまだ八十五ほど残っていた。
「明日の戦いで一番生命力を消費しそうなのは、あきらだもん。無茶したらダメだよ」
「状況次第だ。前回より強い門番GEがいるとは考えにくいが……」
慢心や油断と言う事では無いが、前回の戦闘時よりも遥かにパワーアップした装備を身に付けている現状と、レベル二からレベル一と言う格下の環状石の攻略と言う条件から、要石に辿り着きさえすればそこまで苦戦するとは考えていなかった。
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