石像奪還作戦 二話
かなり時間が開きましたが、ランカーズエイジ再開させていただきました。
楽しんで頂ければ幸いです。
七月九日、土曜日、午前十一時二十七分。
凰樹の率いるランカーズのメンバーはKKI〇〇五に存在する拠点晶の破壊及び依頼された石像の回収任務を行っていたが、当初の予想以上に拠点晶の攻略で苦戦を強いられており、この場所での戦闘開始から既に二時間ほどが経過しているにも拘らず、拠点晶の数十メートル手前でいまだに終りの見えないGEとの戦闘を繰り広げていた。
この状況に、「今の俺達の戦力ならたかが拠点晶の破壊位訳ないぜ」、と高を括っていた神坂などは予想外の苦戦に戸惑っていた。
「GEの数が多い、あの上にどれだけ集まってやがるんだ?」
「ここは環状石とその周りを繋ぐ唯一の拠点晶が存在する場所だからな。元々GEの数は多かったんだが流石に此処までとは予想外だった」
目の前の高台からは次から次へと小型GEが飛出し、それを凰樹達は手にした銃で一体残らず討ち取っていた。
時折飛行能力を持つ小型GEが奇襲を仕掛けてきたが、バックアップに竹中が控えていた為に飛行能力を持つ小型GEは姿を現した瞬間に撃破されていた。
後方にも別の環状石があるが、大きな池とそこから流れ出る川がある為、この場所の環状石に傷でも付けない限り、この場所に押し寄せてくる心配は無かった。
その為に凰樹達ランカーズは目の前にある環状石の攻略に専念できていたのだが、こうした戦闘が既に二時間近く繰り広げられていた為、既に高台の下では低純度の魔滅晶が地面を広範囲に埋め尽くしていた。
「次から次へと現れるGEの数もそうですけど、拠点晶があんな場所にあるなんて……」
ランカーズのメンバーとして初めて本格的な作戦行動に参加した宮桜姫は、手にした日本エアガン製のメーカーカスタム六十四式小銃で小型GEを殲滅し続けていた。
思いもよらない長期戦となった為に弾の補充や休憩の為に窪内は一旦後方で待機し、次に誰かが弾切れを起こした時に交代する事になっている。
拠点晶の存在する場所は、コンクリートで固められた高台の上にあり、しかも横から回り込もうにも片側は結構な幅と深さのある川で、もう片方は元々車を解体する工場の跡地が存在し、その工場跡には解体中の車など様々な障害物がある為に正面以外の場所からの攻略はまず不可能な状況だった。
ぐるりと後ろを回り込むという選択肢もあるが、そうすると今度は無数の小型GEの中を突っ切る事になり、流石にそれは凰樹達の部隊であっても無謀以外の何物でも無かった。
そんな事情がある為、凰樹達は高台の前の空き地に陣取り、終わりの見えない銃撃戦を繰り広げていた。
時折、工場跡側からは小型GEが姿を見せる事もあったが、障害物が多い為にGEも行動が難しいのか、それが脅威になる事などは無かった。
「まるでハンバーガーヒルだな。GE相手だとミンチになる事は無いが」
「ミンチにゃなりまへんが、普通の部隊ならあそこに転がってる魔滅晶の代わりに、石に変わった隊員が転がってまっせ。この状況見て引き返さん部隊限定でっけど」
弾薬の補給と休憩の為に下がった宮桜姫と神坂に代わった窪内が、手にしたM60E3で飛び出してくるGEを撃ちながら、そんな事を口にしていた。
確かに低純度弾しか持たずにこんな場所に来れば、やがて押し寄せるGEを処理しきれなくなって、石に変えられる事だろう。
「意外とそんな部隊も多いからな。途中までこんな戦いを続けたとしてだ、あの高台の下に転がる大量の低純度魔滅晶を放棄して撤退できると思うか?」
高純度弾を惜しげも無く使う凰樹達ランカーズとは殲滅力が違うとはいえ、ここで戦い続ければやがて同じような状況になっているだろう。
高台の下には既に数千個近い低純度魔滅晶が小山を形成しており、それを全部掻き集めたとしてもたかが数万ポイント分の低純度魔滅晶だが、普通の部隊が見過ごせる量では無かった。
「普通の部隊やったら使こうた低純度弾分の低純度魔滅晶だけでも回収せんと、AGE活動自体続けられまへんからな。命と天秤に掛けられる訳おまへんのに」
「目の前に大量の金が転がってるよなもんだからな。それより、霧養はまだあれをなんとかできないのか?」
この状況はまともに正面から攻略が不可能だと判断した凰樹に霧養がある作戦を提案し、凰樹がそれを許可した為に作戦に必要な物を回収に向かっていた。
「少し前に、やっと動いたからこっちに向かうって連絡が入ったよ」
「上手くいったのか? 護衛に佳津美を付けたし、現場までの誘導は伊藤に任せてある。GEによる妨害なんかはそこまで無さそうだったが、万が一って事もあるからな」
そのまま十分程戦闘を続けていると、霧養が大きな赤い車に乗って姿を現した。
真っ赤なボディと銀色の大きな梯子部分、霧養が提案したのは少し離れた場所にある消防署から梯子車を拝借し、後ろの梯子部分で強引にこの高台を攻略すると言った物だった。
「輝さん、お待たせっス。事務所の鍵は開いてたんすけど、車両の鍵がなかなか見つからなくて苦労したっス」
「持ってこれたって事は、その辺りも上手くいったようでんな。拝借した消防署の件は後で連絡入れときましょ」
現在は危険区域であるこの地区にある消防署に署員がいる筈も無く、当然事務所に忍び込んでの無断拝借である。
こういった行動はあまり褒められたものではないが、防衛軍や一部の守備隊の様に特殊な車両を持たないAGEでは、こうする以外に方法が無かった事も事実だった。
「緊急時の非常手段ではあるが、後で対GE民間防衛組織の方に報告をしておく。此処の拠点晶を破壊すれば文句は言われないだろう」
「支配区域の奪還は最優先事項ですから。この辺りの土地を所有する地主も、確実に擁護してくれますわ」
運転する霧養の護衛につけていた荒城が梯子車の助手席から降りて、そんな事を言いながら凰樹に近づいてきた。
拠点晶の破壊に伴う違法行為は、殺人などでなければまず罪を問われる事は無い。
完全廃棄地区以外で盗みを行えば当然罪に問われるが、「その行為は拠点晶の破壊に必要だったのか? 拠点晶の破壊との関連性は?」という質疑がまずあり、それに対して根拠が示されれば罪に問われない事の方が多い。
ただし、資金不足を理由に金品などを強奪すれば当然罪に問われ、違反者にはAGE資格の剥奪や強制転居などの厳しい処罰が待っている。
「ちなみにこの辺りで一番の大地主は?」
「御爺様ですわ♪」
そんなやり取りをしている間に霧養は梯子車を高台の方に向けて停車させて、装備されている梯子を動かし始めた。
「さてと、こいつで何とかなれば楽なんだがな。伊藤からの情報だと、奥に五メートル程の位置に拠点晶が有る筈だが」
今回は特に文句を言われたが、いつも通り伊藤が車に残って端末で索敵を担当し、楠木が車外でその護衛にあたっていた。
凰樹は試作型次世代トイガンを片手に籠に乗り込み、霧養に梯子を上にあげるように指示を出した。
籠は高台に降りれる様に動かされず、高台の数メートル手前で止まってそこから少し上で止められた。
スコープを使う程の距離では無かった為に肉眼で目の前の高台にある拠点晶を確認したが手前に大きな樹があり、不可能という訳ではないが今の位置から狙撃するには少しばかり無理があった。
別にこの位置から狙わなければいけないという制約がある訳でも無い為、凰樹は「この位置からだと狙いにくいな。霧養、もう二メートル右だ」と梯子を操作する霧養に指示を出した。
「了解っス」
凰樹は梯子の角度を微調整させて、籠の中から拠点晶を狙撃できる位置で籠を止めさせた。
「ここからなら十分狙える。高純度弾に二秒チャージして……、そこだ!!」
凰樹がトリガーを引くと、銃口から眩いほどに光を放つ対GE用の特殊弾が撃ち出された。
その弾は風や重力などの影響を全く受けず、一直線に拠点晶へと向かって突き進み、そして着弾すると同時に拠点晶を粉々に破壊した。
拠点晶が破壊された証拠として、周りにいた小型GEが一斉に苦しみだし、内部から爆ぜる様に自壊した。
高台の上も低純度の魔滅晶が埋め尽くし、日の光を反射させてキラキラと輝いていた。
「輝の奴、試作型次世代トイガンのチャージ機能だけで拠点晶破壊用の特殊ランチャーの代わりが出来るのか……」
「にしても異常な威力でんな。まるでアニメか何かのビーム兵器を見てるみたいでっせ」
発光した特殊弾の残光状況を見れば、そういわれても仕方の内容な状況だ。
撃ち出した特殊弾が纏っていた光でもGEにダメージが入っているらしく、拠点晶の前に立ちはだかっていた小型GEはその光に巻き込まれる様に消滅していた。
凰樹の引き起こす様々な常識外の事象に慣れている窪内達でさえ、今回は驚きを隠せなかった。
試作型次世代トイガンのチャージ機能を凰樹が使えばそれなりに威力が上がると考えていたが、まさか拠点晶破壊用の特殊ランチャーと同じくらいまで威力が上がるとは考えてもいなかったからだ。
また、この瞬間が、GEに対抗する為の手段でしかなかったトイガンが、対GE用の兵器へと進化した歴史的な瞬間でもあった。
「作戦成功だな。とりあえず拠点晶から出る魔滅晶は持ってきた。周りの低純度魔滅晶は置いて来たがいいだろう?」
「高台下の奴だけでも袋に詰めて持って帰ろうぜ。あんまりほかの部隊に放置魔滅晶拾いをさせるのも、褒められた事じゃないからな」
「そうでんな。あまり放置魔滅晶拾いばかりさせてると、GEと戦いもせずにおこぼれ狙いやっとる部隊の方が実際に戦ってる部隊より実入りが良いとかって事になりかねまへんし」
無数に転がる低純度魔滅晶を掻き集めても大した収入にはならないが、いつも運営費に苦労している他のAGE部隊からすれば宝の山が放置されているようなものだ。
ランカーズの攻略した場所には必ずと言っていいほど他の部隊が巡回と称して足を踏み入れ、残っている低純度魔滅晶を拾い歩いているという話だった。
「うちも低純度魔滅晶回収用の野外用の屋外用掃除機を購入した方がいいかもしれんな」
「あんまり残って無ければいいんじゃない? 時間の無駄だし」
竹中は凰樹の傍にしゃがみ込み、高台の上を埋め尽くす低純度魔滅晶を大きな袋に詰め込んでいた。
胸元のボタンを外して近くで低純度魔滅晶を回収している凰樹が振り向けば、大きな胸が上から見えるようにする事は忘れていない。
最初は高台の下だけという話しだったが、上のも少しは回収しようという話になった為に、凰樹、神坂、竹中、荒城の四人が梯子車で高台の上に移動して低純度魔滅晶を拾い集めていた。
「ひとつ残らず拾い集めるのは無理っぽいし、この位にしない?」
父親を助け出した為にGE討伐にも、AGEとしてランキングの維持などにもあまり意味を見出していない竹中が早々に地味な回収作業に根を上げた。
「そうですわね。今はそこまでポイントに困ってる訳ではありませんし、この位の量でしたら割と見かけますから」
状況などにもよるが拠点晶の破壊などをして周りにいる小型GEを完全に殲滅した時でも無ければ、押し寄せてくる小型GEが邪魔で低純度魔滅晶を回収する余裕が無い事も多く、AGEの部隊が敗走や全滅した戦地には結構な数の低純度魔滅晶が放置されている事は珍しくも無い。
一時期は凰樹に追い付く為にそれを見越して様々な場所に出向いて、ポイント稼ぎの為に落ちている低純度魔滅晶を掻き集めていた荒城がそんなセリフを口にしていた。
「石像の回収もあるしな。下に降りたら霧養と神坂は梯子車の返却、その後二人が戻り次第依頼のあった石像の回収に向かう」
「了解、確か公民館でしたよね?」
「ああ、ここが平和な時は其処でカラオケ大会や各種イベントをしてたらしい」
地方の公民館、規模も様々で市が運営している場合は大きなものはコンサートホール並みの大きさがあり、団地にあるようなものだと小屋に毛が生えた程度の作りの場合もある。
この地区の公民館は割と大きめで高校の体育館ほどの広さがあり、この公民館と割と広い敷地内で、花見、BBQ(鶏肉&豚肉多目)、カラオケ大会、餅つきなどその地区に住む人が集まって様々なイベントを行っていた。
また、比較的大きな公民館は災害時などでは避難所に指定されている事も多い。
凰樹が今回の依頼でただ一つ不可解な点があるとすれば、KKI〇〇五と呼ばれるこの地区が壊滅したのは四年ほど前の話で、如何に凰樹に伝手が出来たとはいえ織姫ヒカリが今になって家族の石像の回収を依頼したかという事だった。
一般人であれば壊滅した地区への立ち入りなどする筈も無く、壊滅した日以降であるならば、何かしら理由が有る筈なのだが……。
◇◇◇
三十分後、低純度魔滅晶の回収を終えたランカーズのメンバーはバンとマイクロバスタイプの二台の車で指定されていた公民館前に辿り着いた。
必ずしも拠点晶を破壊してこの場所から石像を運び出す必要は無かったのだが、石像を運んでいる最中に小型GEに取り囲まれでもすれば、如何に凰樹達とはいえ切り抜ける事が難しくなる。
安全確実に石像を運び出すには先にこの場所を支配下に置く拠点晶を破壊するのが一番だという事を、全員が理解していた。
「この中だな、とりあえずボンベキャリーで簡単に運び出せそうな造りでよかった」
「そうだな、入り口が狭けりゃ壊さなきゃいけない所だ」
公民館の出入り口は意外に広く、最悪ドアを外すだけでどんな姿で石像に変えられていたとしても、少女の石像をひとつ運び出すには十分過ぎる程だった。
道路から公民館に続く道が狭いためマイクロバスタイプは少し離れた大通りに止めてあり、少し小さめのバンタイプだけが公民館前の道路に停車していた。
「結構低純度魔滅晶が転がってるな。先に拠点晶を壊して大正解って所か?」
公民館の敷地内にもその周りの道路にも無数の低純度魔滅晶が転がっていたが、低純度魔滅晶自体が劣化する事は殆ど無い為に何時から此処にあるのかは分からなかった。
しかしその中の何割かは先程拠点晶を破壊した時に生み出されたことは疑いようが無い。
「手間を惜しんだ奴は必ず他の場所で苦労するもんさ」
「…………全員止まれ、俺が合図するまで今の場所から動くな」
凰樹は公民館の中から人の気配を察知し、全員に制止命令をだした。
自らは足音を立てない様に入り口に近づき、そして入口の扉を思いっきり足で蹴破って中に突入する。
公民館の中ではいくつかの石像に紛れて、生身の男が銃を手に凰樹達がノコノコと入って来るのを待ち構えている。
それを事前に察した凰樹はドアを蹴破って公民館に突入し、一発目の銃弾を躱してその人影を確認した。
「ここに潜んでいたのか。周りには低純度魔滅晶が転がってるが、どうやって無事だったか聞いてもいいか?」
「へへへっ……。拳銃で一回撃たれてるのにやけに落ち着いてるじゃねえか。そんな事、俺が話すと思うか?」
凰樹はその男とは面識が無かったし、目の前の男も今まで一度として凰樹と接触した事は無かった。
にも拘らずお互いがお互いの顔を知っているという奇妙な状況でもあった。
「思わないな。此処に居るのはお前一人か? GE共存派残影所属の浅犬藤太」
「クックック……、お互い有名人はつれぇよな、面が割れてるから動きにくくてしょうがねェ。俺一人さ、こんな危険区域のど真ん中に何人も潜める訳ねえだろ?」
浅犬は足元に転がってる低純度魔滅晶をいくつか拾い上げ、それを凰樹の足元に投げ捨てた。
浅犬がここに潜んでいた時、足元に無数に転がる低純度魔滅晶はまだ小型GEとして活動していたのだろう。
「お前一人だとしても、拳銃を握ったままでこんな所にいて無事な訳ないよな? どんなカラクリだ?」
浅犬が手にしていたのはトカレフかマカロフ辺りの拳銃で、この手の武器がGEに対して何の攻撃能力も持たない事は広く知れ渡っている。
各国の拳銃の多くはGEでの戦闘に役立たない為に軍などから大量に破棄されており、その多くは解体されて溶かされ別の物へと生まれ変わっているのだが、一時期は破棄された筈の銃が大量に出回り犯罪に利用されたりもしていた。
今では実銃所持者の摘発と回収が徹底されて行われた事もあり、一部の犯罪組織の人間以外は隠し持っていないと言われている。
「冥土の土産だとしても答えると思うか? リングの機能を使ってシールドを張っても、実弾は防げねえぜ」
浅犬はそう言いながら手にした銃のトリガーを引き、凰樹に向かって鉛の玉を撃ち込んだ。
弾丸は真っ直ぐ凰樹の心臓目掛けて突き進み、そして身体に届く寸前、薄らと輝く光の壁に弾かれ小さな穴を残して床下へ姿を消した。
「バ…馬鹿な!! なんで実弾が利かねえんだよ!!」
「俺が教えると思うか? 腐れ外道が!!」
凰樹は浅犬が構える銃口に向かって魔弾を放ち、自らの身体にも全面を覆う様にシールドを展開した。
何をされたか気が付かない浅犬はそのまま銃の引き金を引き、そして派手に暴発させて手にした銃を粉々に破壊され、銃を握っていた右手は見るも無残な大怪我を負っていた。
「ゥうぅっ……。ガぁぁぁぁッ!!」
凰樹は右手を抑えて蹲る浅犬に当身を食らわせて気絶させた。
「気を失ったみたいだな。一応手首を縛って止血だけはしておいてやる。尤もこれだけじゃないがな」
凰樹は持っていた布で浅犬の手首を思いっきり縛り、そしてそのまま両手を後ろ手に縛りつける。
逃げられない様にそのまま両足も縛っていた所、浅犬の懐から縦十センチ横四センチ厚さ二センチ程のカード状の機械の様な物が出てきた。
今まで見た事が無い機械であったが、ボタンや表面の液晶に表示された文字で、それが一体何なのか凰樹は即座に理解した。
「なるほど。これがこんな所に潜んでいても無事だった秘密って訳か」
その機械を懐に仕舞った凰樹は両足を縛っただけでなく、口にも自殺防止の為に布を噛ませて、念の為に近くに転がっていたビニール紐を使って上腕の部分を更に縛り上げた。
そして、公民館の中にある石像の中から目的の石像を見つけ、念のためにリングの表示などを確認する。
「これは……。まあいい、みんな来てくれ」
凰樹が全員に通信を送ると、全員急ぎ足で公民館の中へ飛び込んできた。
「ちょっ……輝!! 三度も銃声が聞こえたけど大丈夫なの?」
「しかも今のは実弾っぽかったぞ……。そいつは……まさか浅犬か?」
AGE歴の長い神坂や窪内は当然指名手配されている浅犬の顔を知っていた。
「ああ、こいつは此処で俺達を殺す為に隠れてやがったのさ」
「もしかして織姫ヒカリもこいつらの仲間だったのか?」
「分からん。しかし、それはこの石像を彼女に届けりゃ分かるだろう」
凰樹の目の前にある石像。
髪は織姫ヒカリに比べれば少しだけ短かったが、顔立ち、背格好などから、それは誰が見ても一目で織姫ヒカリの双子の姉の石像と分かった。
服が少しだけしか残っていないのは、石に変えられた時に多くのGEに襲われたからなのだろう。
「流石に双子だけあってよく似てるよね」
「この子も無事なら、双子のユニットで別のアイドルグループが出来てたかもしれないっスね。双子星とかどうっスか?」
霧養のその何気ない一言が、凰樹の中で何か引っかかった。
「もしかして……。まあいい、気になる事は本人に聞くのが一番だろう。龍、蒼雲、この石像とそこの浅犬を車まで運ぶぞ」
「了解。コイツはどうするんだ?」
神坂達が当然いい感情を抱いていない浅犬を見る目は、まるで生ごみでも見る様な物だった。
「対GE民間防衛組織に身柄を届けるさ。ま、運命は決まってるだろうが」
「洗い浚い喋りゃあ良いがな」
情報を引き出すだけ引き出した後、こいつは即座に処刑されるだろう。
GE共存派や環状石崇拝教の存在を許す程、この世界は余裕がある訳ではないのだから。
まだ十年経過してい無い為に壊れる心配は無いのだが、織姫ヒカリの双子の姉妹の石像は運搬用に持って来ていた毛布で包み、ボンベキャリーにロープで固定してマイクロバスの荷物用のトランクへと収納する。
気を失っている浅犬もマイクロバスの後方の座席に横たわらせ、万が一の時の為に窪内と霧養が対GE民間防衛組織の事務所に着くまで見張る事にした。
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