石像奪還作戦 一話
少し投稿期間が開きましたが、続きになります。
楽しんで頂ければ幸いです。
七月八日、金曜日、午前七時四十七分。
いつも通り早めに登校した凰樹は、教室の自分の席に座り対GE民間防衛組織のホームページに目を通していた。
朝食は学食で済ませてきたが、この日もスペシャルモーニングセットだった為、やや重いお腹を軽く擦っていた。
「残影と浅犬藤太の部隊がこの辺りで暗躍している事がきちんと知らせてあるな。GE共存派や環状石崇拝教も近くにいるのかもしれないが……」
「おはよう、凰樹君がひとりごとなんて珍しいね」
「おはよう輝、はいこれお弁当」
「おはよう、楠木、宮桜姫さん。弁当もすまないな」
「いいんだって。好きでやってる事だから……」
楠木が言う、好きで~の部分には色々な意味が籠っていたのだが、凰樹はそれに気付きながらも、いつも通りに気が付かないふりをしていた。
とはいえ、当の楠木も宮桜姫と同様に最近では、それに気が付いており、微かに見せる凰樹の反応を楽しんでいた。
「で、何見てたの?」
「ああ、これだ。例の残影の注意喚起。もしかしたらGE共存派や環状石崇拝教の奴らも近くに潜んでるんじゃないかと思ってな」
「GE共存派に環状石崇拝教か~。一時期はかなりいたって話だけど、禁止されてから見た事は無いよね」
GE共存派……。
GEには明確な知能があり共存が可能だなどという寝言を掲げて活動している、反社会組織。
現在は全ての国で活動を禁止されており、GE共存派と疑われれば即座に逮捕され、事実関係が確認されればほぼ確実に死刑になる。
声のデカい共存派のメンバーは、一時期はテレビなどでもよく顔を出していたが、取り締まりが厳しくなるとすぐに姿をくらまし、今はどのくらいの数が存在するのかは分かっていない。
環状石崇拝教……。
環状石崇拝教は環状石は生き物の立ち入る事の出来ない聖域であるなどとほざき、環状石を偶像として崇めている宗教だ。
こちらも世界中で信者が発生し、今ではGE共存派と同じ様に世界中で布教を含めるすべての活動が禁止されている。
当然、環状石崇拝教の信者である事が発覚すれば、即座に逮捕、証拠が揃えば確実に死刑だ。
「残影の支援者に、GE共存派か環状石崇拝教がいるって噂もあるんだ。マイクロバスまで所持してたって話だし……」
「かなりオンボロだったって話だから、完全廃棄地区から持ってきたんじゃない?」
「完全廃棄地区の車の多くは十年以上放置された車だから、使うにしてもかなり手直しが必要だ。マイクロバスの修理代、燃料代、維持費も含めてかなりの金額が必要になる。浅犬の部隊は三人だったそうだが、特殊ランチャーまで装備してたって話だ。それに奴らの潜伏先や活動資金も必要だろう」
AGEの資格を剥奪されている為、どうやって特殊ランチャーを入手したのかは分からない。
それっぽく作り込んだ偽物と言う可能性もあるが、一度でも見た事がある者なら即座に偽物とばれる為に、万が一の事を考えてそんな危険な真似はしないだろう。
「そういえば、残影の被害って鈴音達だけなのかな?」
「……他にも騙された者が居る、確かにその可能性は高い。部隊が全滅していれば発覚しないだろうしな」
凰樹がこの居住区の隣接区域では唯一のレベル二の環状石を破壊した為に、周辺にはレベル一の環状石しか存在しない。
少し離れた場所に行けば、県内最強のレベル七や、凰樹の故郷にあるレベル四もあるが、わざわざそんな危険地帯まで足を運ぶ部隊など殆ど居ない。
にも拘らず、全滅する部隊は結構な数存在していた。
「特殊マチェットによる拠点晶への攻撃を、一時的に制限して貰った方が良いかも知れないな。次の世代の特殊マチェットなら、おそらく普通のAGE隊員にも扱えるはずだから、あれが調整されて一般に売りだされるまで……」
「凰樹君が今使ってるアレ? そんなにすごいの?」
「俺が使えば、拠点晶の破壊にすら生命力を殆ど消費しない。その上、チャージ無しでも中型GEを斬り殺せる」
「……他の人が聞いたら、耳を疑いそうだね。中型まで倒せるって……」
中型GEを倒せるだけの威力があるのと、使って実際にGEを倒せるかどうかは熟練度や対GE用の戦闘経験がどれだけあるかにもよる。
三歳の頃からGEと戦い、GEの動きや癖の様な物を見抜く眼力と、確実に葬る腕がある凰樹だからこそ簡単に倒す事が出来るのだが、その事を知らないAGEの多くは特殊マチェットさえあれば同じ活躍が出来ると勘違いしている。
身体能力にも格段に差があり、リングを介さなくても生命力を使って様々な能力を使える凰樹は、本気を出せば百メートルを六秒程で走る事も出来る。
当然戦闘時の反応速度や斬撃などの速度も桁違いで、剣術の達人であっても凰樹と戦って勝つことなど不可能だった。
「接近戦は場数だからな。慣れればいいけど、それまでに酷いダメージを負って心が折れるケースが多い。そんな事よりもだ、残影に騙された部隊をもう少し調べて貰った方がよさそうだ」
「もう他の居住区域に逃げたんじゃないかな?」
対GE民間防衛組織に話が言っているという事は、当然この居住区域の警察などが居住区域全体の捜査を始めている筈だ。
見つかればほぼ確実に死刑、そんな危険を冒してまでこの居住区域に留まる必要など無い。
「それはそれで問題だ、何が目的かは知らないがまた他の部隊が狙われる事になる」
「他の居住区域にも結構活躍してる部隊はあるけど、県内だとセミランカーの部隊しかないよね?」
「守備隊もある。ただ、あまり戦力を削られると、GEの動きが活発化してまた多くの人が犠牲になる」
各居住区域で最も必要とされるのは、時折特殊ランチャーで拠点晶を破壊するセミランカーたちの部隊では無く、無数に湧いて人を襲う小型GEを確実に倒し続ける、学生AGEの部隊などだ。
凰樹の様に環状石の破壊が出来ない以上、殲滅力のあるセミランカーの部隊が準備を整えて月に幾つかの拠点晶を破壊するよりは、その分の予算で高純度の特殊弾を購入して小型GEを倒してくれた方が安心して暮らせる。
ただ、そんな事を続けていれば赤字が続き、いずれ部隊の運営が出来なくなるのが今の制度最大の問題点ではあるが、ランカーズの様に湯水の如く予算がある部隊もいくつか存在する事も事実だった。
「………そういえばあの依頼、詳しい話を聞いていなかったな」
「あの依頼?」
「ああ、まだ話してないかったが、放課後に詳しい話をしようと思っている」
三女神の織姫ヒカリからの石像回収依頼。
面識があった為に本物だと思っていたが、残影の一件があった以上、GE共存派や環状石崇拝教が偽装した偽物の可能性もある。
メールでの依頼が届いてから三日、そろそろ準備も整ってきたが、拠点晶破壊の準備を数日で済ませる凰樹がおかしいだけで、ほかの部隊なら数か月掛ける内容であった事は間違いなかった……。
◇◇◇
放課後、GE対策部の部室で凰樹は織姫ヒカリにメールを送った。
相手が偽物である可能性もあったが、事情を説明した文と様々な質問を送った所、本人であると確認出来た為に詳しい依頼状況を聞く事にした。
「依頼されていた石像の回収の目処がついたので、詳しい内容を聞きたい」
「もうですか? 以前ほかの部隊に依頼しようとした時は、一年以上かかるとか、不可能だとか言われたんですが……」
「普通の部隊ならあそこに近づくのは不可能だろう……。今は周りの拠点晶を破壊してあるから何とかなりそうだが」
凰樹が環状石を囲うように拠点晶を破壊するついでに、目的のKKI〇〇五拠点晶も孤立させかけていた。
KKI〇〇五を破壊すれば環状石の孤立化も完成し、KKIの環状石を破壊する時、他の環状石から援軍としてGEが押し寄せて来る事は無くなり、更にKKI環状石の支配地区にいるGEの弱体化が始まり、元々中型GEまでしか存在しないレベル1の環状石を、より簡単破壊できるようになる。
「KKI〇〇五の公民館にある石像……、それの回収をお願いします」
「公民館にある石像……。あそこに続く道は狭いから大型の車での回収は難しいな」
「申し訳ありませんが、お願いします。後、石像は回収後に引き取りたいんですが……」
「身内か、余程に親しい知り合いの石像でなければ、専門の保管場所に届ける義務がある。石化後十年経ってなければ石像の扱いは人に準ずる、誘拐等の罪に問われる事もあるしな」
GEが世界中で人類を含む様々な生物を襲い、その身体を石に変える様になってから新たに発生した犯罪がある。
石化した人間、特にアイドルや見目麗しい少女などを、まるで美術品の様に扱い、コレクションする者が数多く現れた。
コレクションするだけでは無く、身内の石像を預かったなどと脅し、身代金を要求する者まで現れた為に法律が改正され、【石化した人は、十年経つまでは人として扱い、無許可での所持を禁ずる。また、点在する石像も極力回収し、専門の施設にて保管する】と言う事に決まった。
それでも、莫大な資産を持つ者の中には石像を蒐集する者も多いが、支配していた環状石が破壊され、ある日それが突然元に戻り、混乱する事も割と多い。
「メールでは詳しくは話せませんが……、身内なんです。よろしくお願いします」
「了解した。石像の引き渡し場所は?」
「……その居住区域にある公民館です。日曜日にコンサートがあるんですが、その日に間に合いますか?」
「日曜か……、隊員に聞いた後でメールする」
「わかりました、よろしくお願いします」
メールでのやり取りを終えた時、丁度部室に神坂を初めとする部員が姿を現し始めた。
昼休みに全員、「急ですまないが今日は週末の作戦の話がある」と伝えていた為、テーブルの上にお茶など飲み物と、クッキーなどのお菓子が並べられた。
◇◇◇
「急で悪いんだが、今週末にKKI〇〇五にある石像の回収依頼を引き受けようと思う」
「こ…今週末か?」
「何か用事でもあるのか蒼雲? そういえば日曜に公民館で三女神のコンサートがあるとか言ってたが、まさか……」
「知ってやがったか……。そうだよ、日曜の夕方からそのコンサートに行くからな、俺は」
基本最優先とされているAGE活動である週末の作戦行動も、この部隊においては強制では無い。
予定があれば休めるし、放課後の部活も用事がある場合は事前に連絡を入れていれば休んでも構わない。
あまりに人数が少なければ作戦自体を先送りにする事もあるが、その時は無理の無い場所に目標を変えたりもしていた。
「明日、学校を休んで行くか、日曜の午前中で片付けるかだな……」
「回収依頼の作戦自体は決定でっか?」
「ああ、出来ればこの週末で片付けたい。彼女もこの辺りにそこまでいないだろうしな」
「彼女?」
依頼内容も、依頼主の名も詳しく教えてい無かった為、楠木、竹中、宮桜姫、荒城の四人がその部分に反応した。
ただでさえ、最近、凰樹に助けられたと言ってお礼の手紙を持って来る女生徒の数が増えている為、楠木達はミーハーな連中だとしてもこれ以上ライバルが増える事を快く思っていなかった。
「依頼主は三女神の織姫ヒカリだ。例の残影が偽装している可能性もあった為に色々調べたが、どうやら本人で間違いないようだ」
「お…織姫ヒカリ?」
「マジか!? そういや以前そんな事言ってたな……」
以前メールチェックの時に少しだけ洩らした話だったが、アイドル好きの神坂はその事を忘れてなどいなかった。
「回収した石像の移送先がコンサートのある公民館だからな。確か後一週間程で別の居住区域に移動する筈。そうすると石像の引き渡しが難しくなるからな」
「その石像って、家族の誰かなのかな?」
「確か、織姫ヒカリには行方不明になっている双子の姉がいた筈だ。もしかすると……」
アイドル情報に詳しい、神坂がそんな事を言っていたが、それを聞いた凰樹は「姉か……」とだけ呟いた。
「もう一つ調べていた事もあってな、宮桜姫、妹の鈴音ちゃんなんだが、以前アイドルのオーディションに参加したって話、間違いないのか?」
「え? なんで凰樹君がその事を……。うん、本当だけど……」
「俺の方でいろいろ調べさせてもらったが、最近救援要請を出した部隊に女性がやけに多かった。その上、この居住区域のAGE部隊で全滅した所も女性が多かった為に詳しく調べた結果、同じ様にアイドル募集のオーディションに参加した少女が何人かいる事も分かった」
そこで一旦言葉を切り、端末にその女性隊員の顔写真などが表示させた。
「此処数ヶ月になるが、アイドルオーディションに参加したAGEで狙われたのは、救出できた少女も含めて全員で五十四名。幾らなんでも偶然と言うには多すぎる。つまりだ、例の残影、そしてその後ろにいると思われるGE共存派や環状石崇拝教の目的は、アイドルの卵、もしくはアイドル本人を何らかの方法で危険区域に誘い出してGEに襲わせて石に変える事と予測できる」
「アイドルを?」
「偶然じゃないのか?」
「GEに周りを囲まれる恐怖を和らげ、人々に生きる希望を届けるアイドルの存在を邪魔だと思ってる奴らがいるって事は間違いない。浅犬藤太はその先兵なんだろう」
AGEが頑張ってGEを倒し、安全区域を増やしても人の心までは救えない。
守備隊を含める多くの部隊は、凰樹の様に環状石を破壊出来る訳も無く、拠点晶ですらそこまで破壊して安全区域を増やる訳では無い。
少しでも置かれている状況を考えれば息が詰まりそうな安全区域での生活に、笑顔で生きる為の潤いと楽しみを提供しているのは、笑顔で美しい歌声を響かせるアイドルたちであり、命を懸けてGEと戦っているAGE達では無かった。
「アイドルやその卵を標的にするなんて、俺は絶対許さねえ!!」
「そうっスね。同感っス」
「「「「……」」」」
楠木達四人の妙に冷たい視線を浴びながら、神坂や霧養達が今まで見た事も無いほどやる気をだし、拳を握って気合を入れていた。
「蒼雲の予定もある、明日作戦行動での公休を申請し、午前中からKKI〇〇五にある拠点晶の破壊及び目標の回収任務を行う」
「いつものように採決はしないの?」
「この依頼は絶対に受ける。蒼雲、窪内、霧養は絶対に参加するだろうし、最悪四人だけでも何とかする。ちょっと無理をするが」
凰樹の事を想っている四人には、それは疑いの言葉に聞こえた。
凰樹の事は信用しているが、仮にでも五人全員が反対するとでも思っているかのように。
「でも、うちの隊員なら大切な人を取り戻したい、せめて石の身体だけでも環状石の支配下から助け出したい、そんな人の想いが分かるメンツだとは信じている」
「そりゃ……そうだけど……」
「うん……、分かるよ」
竹中などは、石化した父親を助ける為のリミットの重圧で一時期心を完全に潰されていたのだ。
あの時、竹中の父親の石像は近くの保管所に安置されていたが、もし石像に変わり果てた父親が川の上流に放置されたままであれば、もっと早く心が音を上げていただろう。
「俺も本当は姉さん達をあの家から助け出したい。でも、あの場所はGEが強すぎて、俺がひとりで強行突破する事は出来ても、石像に変わった姉さんたち二人を連れて戻る事なんれできやしない。だから……」
「俺の妹もそうだ。レベル四……。環状石の中では高レベルとはいえないが、防衛軍以外の部隊が何とかできる訳もないからな」
単騎で幾ら強くても、下手をすれば大型GEが数体纏めて襲いかかって来るレベル四の環状石の支配エリアから、二人の石像を運び出す事など不可能だった。
今の装備であれば何とかできなくもないが、以前の装備では助け出す前に下手をすれば生命力が三十近くまで減る事態まで考えられた。
「故郷の姉さんたちは無理でも、俺達ならKKI〇〇五に存在する織姫ヒカリの姉は助け出せるだろう。今の装備なら、仮に一体位大型GEが居ても問題無い」
「あの場所はレベル一環状石の支配下、精々中型だ。今なら十体位いても何とかなりそうだな」
「余裕でっしゃろ。昼に届いたばかりの高純度弾も十分ありまっせ」
一発五千円する高純度弾。
現金としても使えるポイントの代理報酬として対GE民間防衛組織から強制的に、ランカー全員に二万発、一億円分を送り付けてきた。
ランカー六人に十億ポイント分も色々な物資を注文されるよりは、必要な高純度弾を送った方がマシと判断した訳だが、ランカー以外はまず注文してこない高純度弾を選んだあたり向こうの事情が垣間見えた。
「昼間強制的に送られてきた高純度弾代は、部隊で処理するから弾薬庫に収めておいた。引かれたポイント分は振り替えたから、今迄通り自由に使ってくれ」
「六億ポイントも……。そういえば、輝さんは届いた高純度弾を見て、喜んでましたね」
「まともに申請しても、これだけ纏めては送って来ないからな。これでしばらくは高純度弾を使い続けられる」
レベル一環状石の支配下で活動するのであれば此処までの高純度弾は必要ないが、コレがあるのと無いのではGEを殲滅する速度にかなりの差が出る。
殲滅にかかる時間がかなり短縮できるために、高純度弾だけ使用すれば今迄半日かかっていた作戦も一時間ほどで終わる。
作戦時間の短縮の他にも、迫り来るGEをダメージを受ける前に倒せるために、結果的に生命力の消費も少なくて済む。
「明日の朝、何時に集合なんだ?」
「明日の七時半に集合、マイクロバスとバンタイプの二台で現地に向かう。回収した石像の輸送にはマイクロバスの倉庫を使う」
「運び出す場所にもよるが、一応、移動用の道具とかも用意しておくか」
「ああ、車を横付けできるとは限らないしな」
石像などの回収依頼を受けた時、注意すべきは石像の回収手段だ。
石像の状態もそうだが、とてもではないが抱えて移動する事など出来ず、最終的に十年経っていない石像が壊れない事を良い事に引きずりながら移動させる場合すらある。
こういった任務を良く受ける所では、ボンベキャリーを改造した石像運搬用の台車を所有している部隊もあるが、石像が他の石像に邪魔をされて輸送できない場合もある為に、石像の回収には苦労する事も十分に予測された。
凰樹が姉や母親の石像回収用に石像回収用の運搬台車を用意していた為、今回はそれを使う事にしていた。
読んで頂きましてありがとうございます。




