救援要請 三話
最低でも週一で更新していこうと思います。
七月七日、木曜日。
この日は七夕と言う事もあり、朝のホームルームで全員に短冊が渡され、そこに願い事を書かされていた。
生徒達は真剣な顔で、【素敵な彼氏】や【テストで百点】、【C定特券】、【S特券】などと書き、その短冊が飾られた笹が教室の前に飾られていたが、凰樹はいまだに何も書かれていない短冊を目の前に頭を悩ませていた。
「あれ? 凰さん、まだ書いてないんでっか?」
「ああ、龍か。願い事ってのが難しくてな」
今まで凰樹は何かを願うなんて真似を殆どした事は無い。
子供の頃からGEと戦い、姉や母親の救出なども全ては自らがいずれ挑戦する目標であり、誰かが助けてくれたら~などと願った事など殆ど無い。
「欲しい物はほとんど手にしてるからじゃないからっスか? 恋人とか、書いてみたらどうっス?」
「それはあんさんの願い事でっしゃろ? 凰さんがそんな事書いたら……」
鮫のいる海に血が滴る肉の塊を落とす様な物だ。
既に数匹、周りを泳ぎ回っている状態で更に鮫の数が増えるだけ、状況は悪化するだろう。
「その事も、今はな……。故郷の環状石を破壊するまでは、少し無茶するだろうし……」
「少し?」
「最近、辞書の更新が行われたッスか?」
凰樹の無茶と、一般的な感覚を持つ窪内たちの無茶にはかなり差がある為、こんな事を言われても仕方なかった。
しかも、それをしている最中である事も知られているとなればなおさらだ。
「悪かったな。しかし願い事か……、GE撃退用の新兵器とでも書いておくかな」
「新兵器でっか? ……坂城の爺さんの試作型次世代トイガン。もしかしたら新兵器かもしれまへんで」
調整の為に試作型次世代トイガンを唯一実際に触っている窪内が、そんな事を言った。
ちょっと悪そうな顔押している為、確信的な何かを隠している事位は直ぐにわかる。
「龍がそこまで言うとは珍しいな。新型のブラックボックス、そこまでの性能なのか?」
「それは見てからのお楽しみでんな。わてであれなら、凰さんがつこうた時にどうなるかたのしみでっせ」
新型試作型次世代特殊小太刀の威力を知っている凰樹は、それと同様の進化があると信じて試作型次世代トイガンへ期待を膨らませた。
◇◇◇
七月七日、木曜日。
午後四時九分。
放課後、GE対策部のメンバーは車に乗り、比較的小型GEの多く、それでいて移動や戦いやすいKNH地区へと向かった。
人数が九人になり装備なども大幅に増えた為に凰樹がマイクロバス、神坂がバンタイプを運転して目的地へと向かった。
学校がある日に戦闘をする事は珍しいが、今回は試作型次世代トイガンの試射と性能の確認の為、様々な特殊弾と調整が終わった特殊トイガンを手にレーダーに表示された紅点に近づいていた。
「とりあえず、竹中、蒼雲、霧養の三人から始める。次が宮桜姫、佳津美、楠木の三人、最後に索敵任務中の伊藤、それに俺と龍が行う。この戦闘データは後で坂城の爺さんに送るのでそのつもりで頼むぞ」
「「「了解」」」
選んだ場所はKNH五五七地点にある元役場前。
目の前におおきなスーパーがあるが、完全廃棄地区では無い為にそこの商品に手を出そうという者はいない。
小道を少し進んだ所に川があり、GEが其処を進んでこない為、索敵する範囲が減るのが選ばれたポイントのひとつだった。
環状石が海中に生える事が無いせいなのか、GEは一定以上水深がある場所や海上では滅多に姿を見せない。
また、魚などを模したGEの存在も殆ど確認されておらず、GEの身体の一部にパーツが見られる事はあるが、水中で何かを襲う魚などのGEは確認されていない。
このため、海に面している国の幾つかは、海中に都市を築く計画まで一部では持ち上がっていた。
しかし、飛行タイプのGEが襲来して建設自体が上手くいかず、またそれを行うだけの余裕も無い為、いまだに海底都市計画は頓挫したままだった。
船などを使ってGEの魔の手を逃れる者もいるが、水などの調達の為にどうしても陸地に近づかざるを得ず、多くの船がその時にGEの襲撃を受け、石像の回収すら困難な状況に陥っていた。
「川沿いの畦道からMIX-A三体出現。迎撃を開始する」
最初に神坂がチャージボタンなどは使わず、マガジンには低純度弾を込めて小型GEに向かって攻撃を開始した。
この日、少し風が強かったのだが放たれた特殊弾は風の影響をほとんど受ける事無く、GEに向かって真っすぐ突き進んだ。
放たれた特殊弾は薄らと輝いており、今までとは何か違う力が働いている事は一目瞭然だった。
「小型とはいえ、低純度弾で一撃か!!」
「しかもかなり派手に吹き飛んでたッスよ。高純度弾でもあんな倒し方にはならないのに……」
「チャージ機能無しでこの威力……。大丈夫、リングの生命力は減ってない……」
事前に凰樹から使用時にリングの生命力をチェックするように言われていた為、全員表示を確認をしていたが百のまま変化していなかった。
以前一部の防衛軍などに試験的に導入されたチャージ機能対応型の最新型特殊改造エアーガンは生命力の消費量が激しい為、それと同じ機構が組み込まれているか確認する為だ。
しかし、数体倒して程度ではそれを確認する事は出来ず、この時点では今回坂城から送られてきた試作型次世代トイガンが同じ物であるかどうかの確認は出来なかった。
「チャージ機能も試してみたいけど、他にGEがいないっスね」
「中型でも良いけどな。一応高純度弾のマガジンも用意してあるし」
「慢心は危険、でも、今の装備なら大丈夫」
竹中は戦闘中には父親を助け出す前の無口な状態に戻る事が多かったが、それが感情を押し殺している為にそうなっているのか、以前の状況がトラウマになってこうなっているのかは定かでは無かった。
但し、部活や戦闘時以外では必要以上に凰樹に抱き付き、その大きな胸を押し付けて魅惑的なアピールを続けていた。
「チャージ機能を搭載しているという事は、輝が使えばどんな威力なるか楽しみだな」
「低純度特殊弾で中型を倒しそうっスね」
「でも、チャージってどこにあんな力貯めてるんだろう?」
「聞いた話だが、例のブラックボックスにも同じような機能が付いてて、そこを通す事で特殊弾がGEを倒せる力を得るらしい」
店売りのトイガンで幾ら高純度の特殊弾を撃ち出しても、GEを倒す事は出来ない。
例のブラックボックスが無ければ、GEと戦えない事はAGEなら殆どの者が知っている。
ただ、どこがどうなってという話は、一度でもそこに手を出したものでなければわからない。
「レーダーに紅点発見、この辺りには大型はいないから中型か?」
「俺と神坂さんは低純度弾、万が一の為にゆかりんは高純度弾を用意した方が良いっスね」
「霧養、そのアイデアには文句はないが、そろそろ俺の事はさん付けはやめろ。お前はランカーで、俺はセミランカーですらないんだ」
「まだランカーの実感なんて無いっスよ。そのうちって事で……」
五十メートル程進んだ先で、自動車のスクラップ工場跡から姿を現したGEを発見した。
体長は一メートル程、普段であればここまで大きい物を見ることなど絶対にない、ナナホシテントウムシの身体を持つミヤマクワガタの中型GEだった。
MIX-I、昆虫や節足動物とだけの混合種で、一般的にはMIX-Aタイプよりは強敵であると言われている。
また、中型以上の場合、元の素体の攻撃能力を持っている事も多く、カメムシ型などでは毒ガス系の能力を持つ事も多い。
「……レアタイプっスね。MIX-I。この辺りだと初じゃないっスか?」
「F程じゃないが、かなりレアだ。外装が硬い分、特殊弾の効きが悪いんだよな……」
「高純度弾にチャージ二秒で狙撃してみる。狙いはクワガタの頭部で……」
グリップのボタンを押してチャージすると、銃口から僅かに光が漏れていた。
「そこ!!」
竹中がPSG-1のトリガーを絞ると、今迄とは違い光に包まれた特殊弾が撃ち出され、それがGEに当たった瞬間、今迄のように表面で炸裂せず、数センチ体内にめり込んだ状態で激しい光とともに爆発した。
サバイバルゲームで発光BB弾を使った夜戦をした時でさえ、此処までBB弾が光る事は無い、放たれた特殊弾は淡い蛍光色程度では無く、マグネシウムを燃やした様な眩い光を放っていた。
「MIX-I……、しかも中型が一撃?」
「生命力は……。大丈夫、この程度だと一で済む」
「今ので一消費……。高純度弾だった事を計算に入れると、特殊弾の威力が二秒チャージで約五~六倍か」
「私はチャージ機能に慣れてないから……」
元々開発者で提唱者の坂城の爺さん以外はこの装置の開発や強化が出来ず、各メーカーも同じ様な機構の開発を進めているが、生命力の消費量が大きい割に威力の少ない粗悪品しか開発できなかった。
抱え込んでいるデータや超高純度魔滅晶の量が段違いな為、そんな条件で坂城と同じ物を作ろうというのがそもそも無理難題だ。
防衛軍特殊兵装開発部部長、坂城厳蔵。
一九九一年に魔滅晶とアルミ等を組み合わせて作る武器がGEに有効な事を発見した、大宮内幸村の親友。
GE出現当初は別部署にいたが、二〇〇一年に対GE民間防衛組織が発足後に防衛軍特殊兵装開発部へ異動、試作型特殊ナイフなどの対GE兵器を数多く開発する。
ランカーやセミランカーが使用している、拠点晶破壊用の特殊ランチャーも坂城が開発していた。
チャージ機能を含める特殊トイガンのブラックボックスの中身の全てを知る数少ない人間のひとりで、ブラックボックスの構造を完全に理解しているのは世界でも大宮内と坂城の二人だけだった。
「輝が使ったらどうなるか、楽しみではあるな。お、五匹の小型を発見、このまま殲滅する」
「了解!!」
霧養と神坂が低純度弾でのチャージ機能を試したところ、僅かに威力が上がったようには見えた。
しかし、どちらも一撃での撃破だった為、詳しい違いなどは分からなかった。
「生命力の消費は同じく一だな」
「俺は減って無いっスね。時間が短かったんっスかね?」
「見た感じチャージされてたっぽいし、そんな感じかも知れないな」
「そろそろ時間だから、私達は戻らないと……」
時計を確認した所、作戦開始から三十分程経過しており、いつもとは違い放課後だった為、作戦時間が短い事を忘れていた。
作戦行動時ではいつもは冷静な神坂でさえも試作型次世代トイガンの威力に軽く興奮し、レーダーに表示される紅点を求めて田んぼ跡地のわき道を突き進んでいた。
「窪内の言う通り、こいつは新兵器っスね」
「ああ、これで次から楽になりそうだな……」
この兵器が試作型でなくなり、正式に次世代トイガンをしてAGE部隊に行き渡ればGEとの戦いが楽になる事は間違いなかった。
しかし、神坂自身、今自分がどんな行動をとっていたか冷静に思い返してはいない……。
新兵器を入手しその威力に酔って暴走する部隊は今までも多く、そしてその部隊の多くはもどって来る事は無かったのだから。
「すまない、作戦時間をオーバーした」
「今回の目的はデータ取りだからな。データは多い方が良いから仕方ないだろう」
戦闘作戦行動時には割と厳しい凰樹だが、今回は指定していた作戦時間を超過しても今回は何も言わない。
データは全て端末に送られ、宮桜姫達三人が試作型次世代トイガンを試している間、凰樹が細かく内容をチェックして消費した生命力などのデータを入力していた。
「龍、チャージ機能も試したのか?」
「当然でんがな。ただ、わいやとあまり意味無い気がしましたわ」
「ああ、M60E3だとチャージされた生命力に対して、撃ち出される弾が多すぎるのか……」
窪内の使うM60E3フルカスタムは強化バッテリーを装備し、モーターなども性能を上げているのでフルオートで撃てば秒間三十発程発射可能だ。
凰樹の使うM4A1カービンが秒間十五発なので、倍近い弾を撃ち出す計算になる。
チャージした生命力が何秒分の弾に影響するのかは分からないが、半分程度では意味が無いのかもしれない。
「その代りチャージ無しやとかなりのもんですわ。生命力の消費殆ど無しで今までの数倍の威力、しかも千発以上撃っても生命力の消費は二でっせ」
「四千発入りの電動マガジンを空にして八か。あの威力でそれだけ撃てば大発生を数人で何とかできる計算だな……」
「馬鹿げてまっしゃろ? これで特殊ランチャーの価格下げてくれたら、拠点晶に手を出す部隊が増える気がしますわ」
「キッチリ攻略できる実力と装備が揃うなら大歓迎だな。拠点晶が減れば安全区域が増える」
凰樹はほかの部隊が活躍する事に関しては、大いに歓迎している。
安全区域が増えるという事は、それだけ人が安心して暮らせる場所が増えるという事だからだ。
そういった事があると分かっていても、以前、ほかの部隊では凰樹の部隊が異様に活躍している事に嫉妬している部隊もあったが、今となっては雲の上の存在と認識され、「ああ、あれはあの人の部隊だから」と、完全に別枠扱いになっている感すらある。
「宮桜姫達も戻ってきたか、次は俺達……、ん?」
端末に、【緊急連絡】のアイコンが点滅し、メールを確認した所、【KNH五五六地区のパチンコ店跡に展開中の部隊より救援要請、隣接区域の部隊は急行されたし】というメッセージが表示された。
救援要請時には、隣接区域や同区域内で活動中の部隊全部隊にこういった援軍要請が送られ、それを引き受けると僅かではあるが対GE民間防衛組織から報酬が貰える。
ただ、本当に微々たる額な為に積極的に援軍に向かおうとする者は少ない。
「輝さん、隣接するKNH五五六に展開中の部隊が救援要請を出しています」
伊藤の端末にも同様のメールが送られてきており、念の為なのか一応そう伝えてきた。
「特殊マチェットで拠点晶でも攻撃したのか…。この辺りの小型がやけに少なかった訳だ」
拠点晶に攻撃を加えて破壊に失敗した場合、周囲にある一~二地区の小型GEが撃退に集まる。
その地区内に存在する小型GEの数が少なければ問題無いが、あまりAGEが活動しておらず、小型GEが周囲の地区に無数に点在している場合は、先日の桃色戦天使達の様に全滅覚悟の撤退戦を強いられることになる。
凰樹の様に一撃で破壊出来る場合でも周囲の地区に存在する小型GEの数を調べ、万が一の事態に陥らないように気を付けていた。
単独行動を行う場合はなおさらだ。
「救援要請を出してるのは……、永遠見台付属中学のGE対策部、小妖精です」
中学生でも十分にAGE参加資格をクリアしている為に、部活でGEと戦う対策部や撃退部などが無数に存在する。
また、学校内でこういった部が複数存在する事も珍しくなく、そういった部同士で対立している場合も多い。
「お隣さんやと助けん訳にはいきまへんやろ。すんまへん、緊急事態ですわ」
窪内が外部スピーカーで車の周りにいた全員に緊急事態の発生を伝えた。
特殊ゴーグルに表示させたり、無線で伝える事も可能だが近くにいる場合はこの方が手っ取り早い。
「緊急事態?」
「お隣さんの部隊が救援要請出してま~す。急いで車に乗り込んでください」
「了解、武器は出したままでいくよ」
普段はガンケースなどに仕舞っているが、こういった緊急時には車から降りてすぐに戦闘開始できるように、ロックだけかけて銃を持ったままで車に乗り込む事もある。
近場の場合はそのまま走って駆け付ける事もあるが、今回は救援要請のあった場所の近くまで市道が残っていた為、車で急行する事にした。
神坂のバンタイプの方が小回りが利く為に先行し、その後ろに凰樹の運転するマイクロバスが続いた。
◇◇◇
「見えた、あそこ!!」
前方百メーター先のパチンコ店跡地、そこで無数に群がる小型GEに対して応戦している小妖精の隊員八名が確認できた。
「囲まれてまんな。どないします?」
「とりあえず此処で、蒼雲、霧養、宮桜姫、佳津美、楠木、龍を下ろす。リーダーは蒼雲だ」
「了解。お前はどうする?」
「全員下ろした後、バンタイプで迂回してこの先にあるKNH五五六の拠点晶を破壊する。伊藤は索敵、竹中は護衛だ」
神坂達を下ろした凰樹はバンタイプに乗り換えて来た道を引き返し、小型GEの紅点が少ない別ルートから拠点晶へと向かった。
「敵は目の前、とりあえず後ろから崩すぞ。霧養、GEの右側であれを頼む」
「了解っス」
霧養は右側に一人で走りGEとの距離十メートル程の位置で七体ほどの分身を生み出し、そこから気付かれない様に十メートルほど後退した。
分身に気が付いた周りのGEは何故か誘蛾灯に引き寄せられる蟲の如く、その分身に向かって突き進み、包囲網の一部が手薄になり始めた。
「出てきた群れはわてにお任せや!!」
「俺もやるっス!!」
窪内のM60E3と、霧養が手にしたM16A2が光に包まれた特殊弾を撃ち出した。
中の特殊弾は高純度のものに取り換えられていた為、GEの身体に深々とめり込んだ後、激しい光と共に爆散した。
「砂糖に寄ってくる蟻みたいなもんっスね」
「あの分身、余程襲いたくなるんやろな」
霧養の分身と生身の人間がいた場合、GEは高確率で分身の方に襲いかかる。
分身が美味しそうに見えるかどうかは知らないが、こういった誰かを助け出す際にはこの特性を利用する事もできた。
「右側にGEが集中している、このまま左側のGEも撃破するぞ」
「了解しました」
以前の様に無口になる竹中とは違い、荒城の方は言葉使いや身の熟しもお嬢様然としたままだった。
しかし、腕前は前と同様か、部隊の仲間を信頼している分以前より余裕を持ってGEを倒し続けている。
中型GEはいなかった為にチャージ機能までは使っていなかったが、高純度の特殊弾は瞬く間に周りの小型GEを消滅させ、包囲網を完全に打ち破った。
そして、半数以上を失ってようやく神坂達を脅威と判断し、一斉に襲いかかってきたが時すでに遅く、機関銃に突撃する兵の様に、次々と低純度のおはじきサイズの魔滅晶を残して消滅した。
数百匹を超える小型GEの群れとはいえ、低純度の特殊弾しか装備していないAGEならまだしも、これだけ装備が整った上で高純度の特殊弾まで用意している神坂達の敵では無かった。
「残りはもう少し……、お、苦しみだしたって事はアイツが拠点晶を破壊したのか」
「これでこの辺りも安全区域ですわね。あそこにいる小妖精の方々に挨拶位していきませんか?」
「そうだね、あれ? あそこにいるの……」
小妖精の隊員のうちの一人。
ひときわ小柄な少女が宮桜姫達の方に向かって手を振っていた。
「おーねぇ――――ちゃ~ん!!」
「す…鈴音!!」
宮桜姫香凛の妹、宮桜姫鈴音がAGE専用装備に身を包み、元気に手を振っていた。
他に七人いる隊員のリングの表示も精々黄緑で、GEに手酷いダメージを受けた者はいなかった。
「助けに来てくれてありがとう。高純度弾もあったんだけど、GEの数が多すぎて……」
他の者はそこまで関心を示さなかったが、荒城と窪内だけは鈴音が手にしている小型のM4A1に刻印されているメーカーロゴに釘付けになっていた。
「フルカスタム専門メーカー、究極システム社のM4A1-U.S.W.-MAX……。初めて見ましたわ」
「実際目にするのはわても初めてでっせ」
フルカスタム専門メーカー、究極システム社、帝都に本店を置くGE用の超高級特殊改造トイガンメーカー。
販売価格が最低百万以上するが、防衛軍特殊兵装開発部とも繋がっており、凰樹の様に坂城の知り合いでも無ければ手に入らない様な装備を入手できる唯一のメーカーでもある。
中のブラックボックスの性能も、おそらく他のAGE隊員の者とは比べ物にならないだろう。
鈴音が身に纏っている他の装備も、AGEに登録したばかりの学生たちが持っているような中古流れの二級品では無く、防衛軍装備AGE仕様の最高級品だった。
他の学生たちの装備も悪くは無く、少なくともひと世代前の装備が揃えられている。
窪内たちにも鈴音たちは本気でAGE活動をしている事はひと目で理解できた。
彼女達の装備も悪くないとはいえ、経験とマガジンに込められている特殊弾の純度には若干の差があったと思われた。おそらく防御力も攻撃力もずばぬけている鈴音が先頭に立ち、GEを撃退していた為に部隊で犠牲者が出ずに済んだのだろう。
「宮桜姫さんがいなかったら私達全滅してたよ」
「此処で石になって、ずっとそのままだったと考えただけで……」
こういった事態の時に、高純度弾を所持していたというのは本当に幸運だ。
手数が必要な場面で、一体の小型GEを倒すのに数発必要かそれとも一撃で倒せるかの違いは大きい。
使っている銃の種類にもよるが、多弾倉マガジンひとつで百五十~三百発の特殊弾がマガジンを変える事無く撃ち続けられる。
GE一体倒すのに仮に三発必要な場合だと一発も外さなくても百五十発で最高五十体のGEしか倒せない。
これが高純度なら、最高で百五十、多少外したとしても百体は倒せるだろう。
仮に外れた場合でも、後ろにいるGEに流れ弾でも当たれば一撃で倒せるのだ、この差は大きい。
「資金力に救われたか。しかし、俺達がいなけりゃヤバかったぞ」
「その子の特殊マチェットで拠点晶を攻撃しはったんか? 無茶しまんな」
一番奥で縮こまっていた少女の手には、特殊マチェットが握られている。
「……どうして? 私の腕ではまだ足りないというの?」
ちょっと古風な感じを漂わせる雰囲気を纏ったその少女は特殊マチェットを手にしたまま、そんな言葉を繰り返していた。
少女には気の毒ではあるが、最新型の試作型次世代特殊小太刀では無く現在一般のAGEが入手可能な特殊マチェットで拠点晶を単独で破壊出来る人間など凰樹位だ。
「他の部隊と一緒だったんです。あの人達、いざとなったら俺達が特殊ランチャーで拠点晶を壊すからって……」
「共闘を申し込んできた、浅犬さん達の部隊はいつの間にかいなくなっちゃうし……」
「浅犬? もしかして浅犬藤太の残影か?」
「はい、そうですけど……」
残影、共闘を申し込んでいつの間にか姿を消す敵中逃亡の常習犯。
一応、対GE民間防衛組織で注意喚起されている上に、とっくの昔にAGE資格を剥奪されているが、時折、通常のメールで共闘申請などを送り付けては共闘相手を戦場に置き去りにする。
魔滅晶の強奪などをしているという話は聞かない為に、浅犬藤太率いる残影の目的は不明。
一部ではGE共存派や環状石崇拝教の先兵だと噂されているが、その真偽の程は分からないままだった。
「アイツこの辺りで活動してやがったのか。そいつは有名な友軍置き去りの常習犯だ。対GE民間防衛組織からも指名手配されてる」
「そうだったんですか……」
「全員無事だったのは不幸中の幸いだったな。此処まではどうやって来たんだ?」
「浅犬さんの運転するマイクロバスです。他にも部隊の人が二人いたんですけど……」
「そうなると此処から戻るのに徒歩か……、完全廃棄地区じゃないからそこいらの車を借りる訳にもいかないしな」
完全廃棄地区の場合、捨ててある車の中からマシな物を選び、それを利用する場合もある。
しかし、この辺りでそれをすれば完全に犯罪行為で、見つかれば当然警察のお世話になる事となる。
「全員で十六人。今回はマイクロバスとバンタイプの二台だから、荷物をトランクに突っ込めば乗れるんじゃないっスか?」
「小柄な子も多いしな。たっちをバンタイプの助手席に乗せりゃ何とかなるか」
「何とかどころか、余裕でっせ!!」
「装備がな……。全員分の銃、その他諸々が……」
冗談では無く、十六人分の装備ともなれば、普通車であれば運転手だけ残しても積みきれない。
バンタイプ二台だった場合、本当にギリギリで、今回はマイクロバスがあった為、若干の余裕があるだけだ。
「鈴音達は装備も纏めてマイクロバスの方で良いかな? 後、どうしてAGEなんてしてるのかって事も聞きたいしね」
「聞きたい? どうせなら凰樹さんがいた方が良いんだけど」
「家でゆっくりと聞くね………」
この時期、凰樹に近づく為だけにAGEに登録し、わざと救援要請する部隊も存在した。
同時期に特殊マチェットを使った無謀な部隊が多く発生していなければ、流石に凰樹達もそれに気が付いただろうが、何となく女性だけの部隊が多いな位には感じていた……。
読んで頂きましてありがとうございます。




