救援要請 二話
続き、および一部は前話凰樹視点での展開になります。
楽しんで頂ければ幸いです。
七月六日、水曜日。
午後七時五十七分。
既に十の拠点晶を破壊していた凰樹は次の目標にしていたKKI一三七地点の拠点晶破壊作戦を申請しようとして、その周囲の状況に違和感を感じていた。
「あまりに紅点が多いからKKI一三五地点の拠点晶破壊は無理だと思ったんだけど。膨大な数の紅点が移動してる? いや何処かの部隊を襲ってのか」
凰樹は直ぐに作成申請している部隊を突き止め、最新式のレーダー内蔵型ゴーグルの表示に、【友軍】を示す緑色の点を表示させた。
これはリングの機能とAGE許可証を使ったシステムを流用しており、石化した住人などは灰色で表示されるようになっている。
「緑点の数は十四、六つ重なってるという事は、誰か二人行動不能になっているのか……」
行動不能になった隊員を見捨てずともに脱出しようとしているこの部隊の隊長に感心し、そして同時に呆れていた。
その二人を戦場に置き去りにし、十二人だけなら走って逃げる事も可能だろう。
部隊が全滅するよりは多少の犠牲を払っても出来るだけ多くの隊員を退却させる、それが普通の優秀な隊長の判断だ。
多くの部隊ではその冷たい方程式の元に涙を流しながら動けない隊員を置き去りにし、退却が可能な隊員だけを助け出す事が多い。
「このままこの部隊が逃げた場合、安全区域に向かうにはKKI一三七地点の拠点晶が邪魔だな、先に破壊しておくか」
凰樹は急いでKKI一三七地点の拠点晶破壊作戦の申請を行い、応徳達の包囲に向かっていた為にがら空きになっていた拠点晶をいとも簡単に破壊した。
そしてそのままKKI一三五地点の拠点晶の近くに潜伏し、状況が変わるのを待つ。
今はまだかなりの数の紅点が拠点晶からほど近い場所に留まっている。
それがすべて迎撃に向かえば、ここ数日紅点の数が多すぎて破壊を諦めていたKKI一三五地点の拠点晶を破壊できると考えての行動だった。
「動いた……」
応徳達が予想以上に反撃を続けていたせいか残された紅点も全て動きだし、安全区域へと向かう応徳の包囲を開始していた。
GEに包囲殲滅作戦を行うだけの知能があるかどうかは謎だが、ただ単にGEが集まった形が包囲しているように見えているだけなのかもしれなかった。
「これで今週末にはKKI〇〇五を攻略できる。こいつ等がどんな部隊かは知らないけど、後はこの邪魔な作戦を撤回してくれたら……」
こんな状況であっても、拠点晶破壊の優先権などを主張する部隊もあるからだ。
部隊行動で拠点晶破壊などの作戦が失敗した時には、速やかに作戦撤回か失敗での破棄のどちらかをする必要がある。
でなければ後でトラブルになり易く、作戦を予定していた日が過ぎれば申請は自動的に破棄される。
雨や強い風が吹いている時は特殊エアガンの力を発揮しにくい為に、作戦の延期申請をする場合もあるがその時にはあとから申請して順番待ちをしている部隊などに優先権が移る事も多い。
運命の午後八時十七分、作戦を申請していた桃色戦天使が作戦の失敗と救助要請を行った。
救助要請をする場合、作戦を破棄では無く失敗として報告する必要がある。
作戦破棄の場合、部隊状況が緊急事態だと判断されにくい為ではあるが、この作戦失敗で報告をすると、後日、武器などの申請がより通りにくくなる。
何度も作戦を失敗し続けると其処の部隊長がブラックリスト入りし、作戦登録時の優先順位がかなり下げられるのと、最悪の場合AGE資格を剥奪される事すらあった。
「素直に失敗で報告を上げて来たか、救助要請受諾っと。後はKKI一三五地点の拠点晶破壊作戦の申請だ」
AGE事務局にKKI一三五地点の拠点晶破壊作戦の申請を行い、すぐにKKI一三五地点の拠点晶破壊に向かった。
畑跡に生えている拠点晶には僅かであるが傷が付いていた為に、特殊ランチャーでは無く特殊マチェット系の武器で攻撃した事に気が付いた。
「うちの居住区域にもあの放送で行けると思った馬鹿がいたのか。そんなに簡単に特殊マチェットが使えるなら、この辺りの拠点晶なんてとっくの昔に全部壊されてるぜ」
特殊小太刀のトリガーを引き、殆どチャージもせずにそのまま横に薙いだ。
このチャージと呼ばれる機能も、本当はどうやって内蔵した装置に生命力を使用した攻撃用のエネルギーを充填しているのかは、ハッキリとは分かっていなかった。
ただ、チャージ機能を使って一部の回路のエネルギーを貯めて解放すると、チャージをした人にもよるが凄まじい攻撃力を発揮する、と言う事だけが分かっていた。
この力を正しく発揮できるのは世界でも凰樹だけであり、他の人間が百人集まっても凰樹と同じ出力でチャージ機能を発揮できる者はいない。
「破壊完了、しかしこの新型小太刀は本当に殆ど生命力を使わないのに拠点晶が破壊できるんだな。今日は十二も拠点晶を破壊したのに生命力が十しか減ってない……」
今までの特殊マチェットであれば、これだけ拠点晶を破壊すれば最低でも五十は生命力を消費していた。
その為、こんなバカげた作戦など出来る筈も無かったのだが、新型小太刀のこの異様な生命力消費量がそのバカげた作戦を可能にしていたのだ。
「後は対GE民間防衛組織の救助部隊に、この部隊の回収要請を出しておくか。こんな夜道を歩いて帰る必要も無いだろう」
対GE民間防衛組織の救助部隊はランカーズの凰樹の名を聞き、緊急事態発生と判断した。
「道中にある拠点晶は全て破壊済みだ。これで市道を使った抜け道がすべて使える」
「流石はランカーズ。これで色々楽になります。回収地点は何処でしょうか?」
「KKI一三五にあるコンビニ跡地だ。人数は十四、二人行動が難しい者が居るので、後部に収容スペースがあるタイプで頼む」
「了解です!!」
連絡先の相手が、どうもランカーズの誰かが行動不能になったと勘違いしている気はしたが、その方が早く駆けつけるだろうと思いその誤解を解かずにいた。
「さて、今回のKKI一三五の拠点晶破壊の功労者の顔でも拝みに行くか……」
KKI一三五のコンビニ跡地で助けを待っているであろう、桃色戦天使の元へと向かった……。
◇◇◇
七月七日、木曜日。
午後一時十五分。
桃ヶ峯女子高等学校に通うAGE部隊、桃色戦天使のメンバーは全員、回復休暇を取っていた。
二年で副隊長の祥和絵梨香と一年の完泳舞由希は運び込まれた病院でランカー用の回復剤を飲んだ事を伝え、朝まで様子見の為にそのまま入院し、朝の巡回時に生命力が五十台近くまで回復していた為にそのまま生命力回復用の点滴を受けてこの日の午後には退院が出来ると知らされていた。
担当した医師の説明では、生命力が二十台にまで低下していたら、最低でもひと月以上の入院が必要だったろうと言われ、貴重なランカー用の回復剤を惜しげも無く渡してくれた凰樹に心から感謝していたが、雑誌などで凰樹の容姿を確認した隊員の気持ちはまた別のモノへと変化していった。
「絵梨香と舞由希が書いてるそれは感謝状って話だけど、そんなハートマークのシールが沢山張られたピンク色の封筒は何なんだ?」
「感謝の気持ちです!!」
「そう、自分の気持ちに嘘なんてつけませんから!!」
色取り取りのカラフルなペンで書かれた丸っこい文字の感謝状、もとい、ラブレターは様々なシールでデコレーションされ、とてもではないが郵便で送れない状態になっていた。
感謝状の中には自分が写った写真や、ちょっとした動画が入ったマイクロカードまで同封する者までいた。
「そんなの郵便で送れるの?」
「こういった手紙は、直接手渡す方が良いにきまってます」
そういいながら、嘉吉梓沙は頭の中で妄想黒歴史の相手を雑誌で確認した凰樹の顔に入れ替え砂糖の蜂蜜漬け黒蜜シロップ掛けの如く甘々な妄想を続けている。
妄想の中では凰樹が嘉吉の事を歯が浮くようなセリフで称え続け、更に「あのピンチは僕達が出会う為の事件に女神が嫉妬して過剰な演出をしただけさ」などとのたまわっていた。
「凰樹さんって、有名人でしょ? いきなり行っても会えないんじゃないの?」
「同じAGE仲間だし、学校側に連絡すれば大丈夫でしょ?」
AGE登録証と部隊章を見せればいい楽観していた。
「既に伝説になってる環状石の破壊とエリア解放で二十万人以上助けた為に、感謝状の類は断ってるって話だよ?」
「郵便局で止められるんだって。直接渡そうとする人も多いらしいし……」
話しのネタにする為に凰樹の情報を集めようとした隊員のひとりが、ランキングの数字の異変に気が付いた。
「隊長の凰樹さんだけ、ここ一週間のうちに四千万ポイント以上稼いでる……、あ、拠点晶破壊数四十? しかも一人で?」
「私達が十四人がかり、しかも準備に一週間近く掛けたのに失敗した拠点晶破壊を、同じ一週間の間にひとりで四十?」
「昨日だけで十二個破壊してるって……、どうやったらこんな事……」
凰樹の事を運だけの男や特殊マチェットが使えるから~などと誹謗する者もいたが、今ではそういった声は殆ど聞かなくなっている。
第二世代の特殊マチェット系の武器が開発されて以来、斬馬刀の如く巨大で中型GEを倒しうる武器も何度か市場には姿を見せ、それを手にして凰樹の真似をしようとする者は何人もいた。
しかし、そういった武器でGEと戦う本当の怖さは、GEの攻撃を受けるだけでなく、自分の攻撃でさえも生命力を消費するという、生命力をチップにしたギャンブルだという事に気が付いた。
更に、運よくチャージ機能を僅かに発動出来た者は、生命力の消費量に戦慄した。
ワンミスで最悪戦闘不能になり撤退すら困難な状況に陥る恐怖、そこに身を晒してGEと戦い続ける事がいかに常識外の行為で実践が困難であるか身をもって体験する事となったからだ。
もし仮に同じ仕様のゲームなどが存在したなら、プレーヤーからクソゲー呼ばわりされている事は疑いようも無い。
「史上最強のトップランカーと私達を比べるのが間違いなんだって。別に草野球の経験者がメジャー級の選手に恋しちゃいけないなんて話は無いでしょ?」
「釣り合わないのは分かってる。でも、恋ってそこであきらめちゃ終わりでしょ?」
彼女達は不屈の精神で想いの丈の全てを手紙に込め、僅かでも届く事を信じていた。
ただ、現実は彼女達の想像の遥かに上を行っていた。
◇◇◇
七月七日、木曜日。
午後五時三十五分。
下校前の永遠見台高校の校門周辺には、中学生位の少女から大人の色気を振りまく大学生らしき女性が大挙して押し寄せていた。
それを察した守備隊か対GE民間防衛組織が雇ったと思われるSPが姿を現し、少女達から話を聞いた上で諦めてこの場を立ち去るように命令していた。
「せめて凰樹さんに、お母さんを助けて貰ったお礼だけでも……」
「気持ちは分かるが、彼に助けられた人は百人や二百人じゃないんだ。その全員がお礼を言いに来たらどうなるか位分かるだろう? 分かったなら諦めて帰るんだ」
「ほらさっさと帰れ。これ以上聞き分けが無いと、この街に居られなくなるぞ」
あまりしつこく食い下がると、さらにガタイの良い強面のSPが近くに止めてあった黒塗りの車から姿を現して少女達を脅していた。
SP達は凰樹が今行っている夜の作戦行動も知ってはいるが、AGE活動にまで口出しする事など出来ず、何かあった時にすぐに助けられるように様々な場所で待機している。
昨日、対GE民間防衛組織の救助部隊が即座に救助部隊を用意できたのは、偶然ではなかった。
「これでも行く?」
「……」
このまま向かえば、あのSPに止められる事は分かり切っていた。
しかし、祥和絵梨香と完泳舞由希は、ピンク色の封筒を手に、校門へと向かった。
当然女性のSPが即座に二人の存在に気が付く。
「そこの二人、この高校に何の用だ?」
「桃ヶ峯女子高等学校のAGE部隊、桃色戦天使として、ランカーズに先日の救助要請のお礼と共闘の申請に来ました」
「AGE部隊か……。部隊章も本物の様だな」
端末で部隊章を確認し、二人が本物のAGE隊員である事を調べた。
こういった場合、AGE登録証も有効ではあるが真面目に活動をしているのであれば部隊章の方が信用があった。
「一応、この辺りでは活躍してる方なんですよ。ランカーズとは比べ物になりませんが」
「桃色戦天使……、学生AGEの割には小型の撃破数は多いな……」
対GE民間防衛組織で検索すれば、ある程度の討伐実績などを調べられる。
こういった事は対GE民間防衛組織に登録したAGEでなければならないが、対GE民間防衛組織や防衛軍から派遣されている彼らにはその許可も出されていた。
「でしょ? ランカーズと共闘して、中型との戦い方を教えて貰おうと思いまして……」
確かに、何処かの部隊に師事して中型GEなどの対処法を学べば、部隊としての戦闘スタイルは格段に変わる。
憶える事は多く、武器の選び方や戦う際の注意点などだが、ランカーだらけの凰樹の部隊にセミランカーも居ない部隊が共闘を申し込むのは無理があり過ぎた。
「とりあえず、今日はこのまま引き返せ。共闘申請は対GE民間防衛組織経由でメールしろ。救助の礼は直接言いたいだろうが、手紙か何かで済ませるんだな」
「ダメ……ですか?」
完泳は上目遣いで目の前の女性SPにお願いしたが、SPを更に警戒させただけだった。
「ダメだな。後、忠告しておいてやるが、奴らを目標にするとかは止めておけ」
「無理だからですか?」
「そうだ。俺も昔AGEとして前線で戦っていたんだが、その時、凰樹と同じ部隊にいた事があってな。当時十歳、AGEに登録したばかりのアイツが、AGE登録して何年も経つ俺達が手を焼いている中型GEを特殊マチェットで斬り殺し、拠点晶を破壊する姿を目の当たりにしたんだ」
サングラスの下の瞳は、どこか遠くを見るようなそんな目だった。
「格の違いとか、AGEとしての差とかそんなんじゃないんだ。眩しかったよ、眩しすぎて、その背中を見続ける事にも疲れちまう。アイツと一緒に戦えば心強いかも知れないが、AGEを続ける自信だとかそんな物を全部粉々に砕かれちまうのさ」
「そこまでなんですか?」
「ここ一週間のアイツの活動を知ってるか? 単独で拠点晶を四十も破壊している。この数字はな、県内にいる他の全部隊が一年掛けて破壊する拠点晶の数とほぼ同じなんだ。県内にはアイツの部隊以外にはセミランカーの数が少ないって事もあるが、それでも異常な数値だと気が付くだろう?」
その事は十分に知っている。
なにせ、昨日桃色戦天使も拠点晶破壊に挑戦し、失敗して全滅しかけているのだから……。
「普通の部隊には普通の部隊にしかできない役割がある。一般人には十分に脅威な小型の数を減らして居住区域を守る。それだけでもいいんだよ。でないと、心の方が先に折れちまう……」
いくら凰樹やランカーズの戦闘力が規格外でも、居住区域周辺の全区域をカバーするなんて真似は出来ない。
無数に湧いてくる小型GEの数を減らして住民をGEから守るには多くのAGEの活躍があればこそで、そういった努力をする者が居るからこそランカーズや他のセミランカーの部隊などが拠点晶の破壊へ向かう事が出来るのだ。
「お前達はお前達の道を行け。あと、恋人にするならアイツはやめておけ。中途半端な覚悟で傍にいると心が潰れるぞ」
「あの……まさか……」
サングラスを外し、美しく凛々しいSPの顔を二人に向けた。
「あの当時、私は十六の少女で、アイツは十歳の少年だ。あの時の感情を恋なんて呼べなかったが、保護欲と言うのかアイツの心を支えたいなんて思った事もあったよ」
SPの元AGE隊員は自分の事を私と言い、六年前にともに戦っていた時の事を思い浮かべていた。
「ひと月ほどでそれが無理だと悟ったよ。象に首輪を付けて紐で繋いでるようなもんさ、そんな物はアイツにとって無いも同然、眼を離すまでも無くそのまんま何処かへ走って行っちまう」
そうして一呼吸おいて、今度は女性の顔になり二人に警告する。
「憧れるのは自由よ、でもね、少なくとも同じ速さで歩ける人じゃないと、彼の隣にはそんなに長くはいられないの。本当に彼の事が好きなら手紙や言葉じゃなくて、実力でその場所を勝ち取りなさい」
それは同じ人を好きになった先輩からのアドバイスであり、そして、警告でもあった。
「分かりました、今日はこのまま帰ります。でも、諦めませんから」
「私だって負けません。それでは!!」
隠し持っていた感謝状は渡さないまま、祥和と完泳は他の隊員の元へと戻った。
「ふふっ、若いわね。でも、アイツを落とすにはあの位がいいのかもしれないわ」
今、GE対策部の部室には誰もいない事を知っていたのだが、女性SPは永遠見台高校の方を向きながら、そんな事を口にしていた……。
読んで頂きましてありがとうございます。




