救援要請 一話
普通の部隊のエピソードです。
楽しんで頂ければ幸いです。
七月六日、水曜日。
午後八時十四分。
この日も凰樹は帰宅後に学生寮を抜け出して、KKI地区の拠点晶の破壊を続けている。
昼休憩時、学食で窪内たちから何か追求されるかと思っていたが、話題はもっぱらアイドルのコンサートチケットの事だったので放課後の部活時に先日届いた関係者専用のプラチナチケットを差し出した所、神坂などは何も文句を言わなくなった。
「こんなにあるんだったら、みんなで夏休み中にコンサートに行かない?」
「いいですね~♪ 今でしたらどんなコンサートでもよりどりみどりです」
「ガンナーガールズのコンサートは譲らないぞ。日程を合わせると難しいコンサートも出て来るんだが」
「ガンナーガールズより東原竜一のコンサートの方が良くない? これ、競争率物凄いんだよ?」
「この居住区域は割とコンサートが来る事も多いけど、こんなチャンス滅多に無いんだから!!」
楠木達はどのアイドルのコンサートに行くかで揉めたために、詳しい話し合いは後日と言う事でとりあえず決着がついた。
◇◇◇
放課後になって凰樹はいつもの様にKKI地区で拠点晶の攻略作戦を一人で行っていたが、この日、KKI地区で拠点晶を破壊しようと活動していたのは凰樹だけでなく、居住区域にある別の高校、桃ヶ峯女子高等学校のAGE部隊の桃色戦天使の隊員十四人がKKI地区のある拠点晶を狙って作戦を行っていた。
しかし、彼女達の拠点晶破壊の手段は五十万ポイントもする特殊ランチャーでは無く、最近入手した三本の新型の特殊マチェットだった。
部隊か知り合いにセミランカーがいなければ入手が不可能なうえ、50万ポイントもする高価な特殊ランチャーなど学生AGEの彼女達に買える筈も無かった。
放課後に学校からKKI地区から拠点晶に向かった彼女達は周囲にいる小型GEを倒し、低純度の魔滅晶を回収しながら二時間近くかけて何とか拠点晶まで辿り着き、チャージの真似事をして特殊マチェットの一撃を叩き込んだ。
しかし、チャージ機能を使いこなしていない彼女達では全然威力が足りず、拠点晶を破壊するには至らなかった。
それどころか不用意に拠点晶に攻撃を加えた為に、周りにいた膨大な数の小型GEを呼びせ、拠点晶を破壊出来ないまま安全区域を目指して決死の撤退作戦を行う事となる。
「絵梨香、舞由希、もうすぐ安全区域だから」
「先輩、レーダーの紅点。周り、囲まれてます………」
「作戦の失敗をAGE事務局に報告、後、救援要請!!」
「こんな場所に助けに来てくれる人なんていませんよ……」
「それでも!! このままここで石像になんてなりたくないでしょ!!」
後方でGEを迎撃していた二年で副隊長の祥和絵梨香と一年の完泳舞由希が何度も攻撃を受け、生命力を残り二十半ば程度まで失っている。
歩く事も困難な二人を左右に一人ずつで支え、残りの八人で迫り来る無数の小型GEを撃退しながら、安全区域まで後数キロの所にあるコンビニ跡地前まで辿り着いていた。
「たいちょ…う、私を此処に置い…て……、逃げっ…て……くださ…い」
「馬鹿な事言ってるんじゃないわ。逃げる時はみんな揃ってよ。私達は絶対に誰も置いてなんていかない」
「このままじゃ……、みんな…石…に……」
この時隊長の応徳涼香は、そういいながら迫り来る紅点の数に戦慄していた。
しかし、彼女には隊員を置いて逃げれない訳がある。
前隊長の大同文乃はかなりのリアリストで、こういった場合では退却が不可能になった隊員は確実に見捨て、無事な隊員だけで部隊を再編制して血路を開いて退却していた。
応徳涼香の妹、応徳香織も過去の作戦時に取り残されて犠牲になった隊員の一人で、大同が卒業して部隊長を引き継いだ時に涼香が最初に隊員に「私は絶対、誰も見捨てない。逃げるのも、全滅する時もみんな一緒だ!!」、と宣言していた。
判断としては大同の方が正しいのだが、口に出して反論はしていなかったが感情的には大同に賛成しなかった者も多かったのも事実だ。
レーダーに映る紅点の数は時間と共に増し、拠点晶方面から押し寄せる無数の小型GEの他、植物に擬態していたMIX-Pまでもゆっくりと桃色戦天使の移動する場所を目指して移動を続けていた。
彼女達は拠点晶が生えていた畑の跡から少し離れた団地にあったコンビニ跡地にまで逃げて来れたが、今や先日の大発生を彷彿させるような数のGEが彼女達の周りに押し寄せて来ている。
これを特殊弾の保有数も乏しい彼女達だけで何とかしようなど無理難題も良い所だ。
低純度弾とはいえ、特殊弾を使っている為に数発当てれば小型GEは倒す事が出来る。
しかし、此処に押し寄せてきているGEを全て倒しきるには、今持っている弾が百倍になっても可能かどうかすら分からなかった。
GEが一気に攻めてこない理由としては、彼女達が手にしている特殊マチェットが一役買っている。
凰樹だけでなくここ最近は何人もこの特殊マチェットでGEと戦い、僅かとはいえ戦果を挙げていた為にGEが特殊マチェットを警戒しているようにも思われた。
あの環状石を破壊した日から特にそれが顕著で、凰樹の真似をして特殊マチェット系の武器で戦うAGEが意外に無事だった要因の一つとしてそれが考えられている。
とはいえ、少しずつとはいえ彼女達に襲いかかるGEの数は増し、コンビニ跡地の道路で迎撃していた隊員達も次第に後退を余儀なくされ、やがてコンビニの陰で残り少ない弾を使って迎撃するのが精いっぱいの状態となっていた。
この場所から脱出し、環状石や拠点晶の支配の及ばない安全区域まで辿りつけばGEはもう手出しをしてこない。
しかし彼女達には二つの障害がある為に、このコンビニ跡からその安全区域まで辿り着く事自体が不可能となっていた。
まずひとつ目は安全区域までの距離。
僅かに数キロ、若い彼女達であれば全力疾走で十分足らずの距離。
しかし、殆ど動けない二人を抱えて、更に迫り来る無数の小型GEを相手にしながら移動するにはあまりにも遠すぎる距離だった。
そして、最短距離となる経路にはもうひとつ拠点晶があり、今の応徳達にはそこを突破する事が既に不可能だからだ。
更に最悪な事態は続き、作戦開始時に持ち込んでいた低純度の特殊弾も殆ど底をついて、現在は最初に祥和や完泳が使っていた銃から弾を抜いてそれぞれがマガジンに移し替えて使っているような状況だった。
「私があんなことを言い出さなければ……」
「アンタの所為じゃないわよ。私だって、100万ポイントも入ったら一人10万ポイント近く貰えますね。何買おっかな~なんて言っちゃってたし」
TV番組で見た、映像記録。
以前提出されていた、凰樹が特殊マチェットを使って拠点晶を破壊している映像だ。
いとも簡単に拠点晶を破壊出来るうえに、高価な特殊ランチャーと違ってランカーやセミランカーでなくても入手できてかなり安価な特殊マチェット。
その情報に、多くのAGEが懐いてはならない幻想を心の奥に思い浮かべ、そしてメーカーや対GE民間防衛組へ次々と特殊マチェットの注文や申請を行った。
様々なTV番組ではまるで洗脳でもするかのように、何度も何度も百足型門番GEを一閃して倒して要石までも破壊する映像が流れ、その合間合間におまけの様に拠点晶を破壊する映像を挟んでいる。
「いや~、凄い威力ですね。これでも旧式なんですよ」
「え? そうなんですか? 新型だともっと簡単に拠点晶を破壊できるんですよね? なのに、ひとつ破壊するごとに百万ポイントは出し過ぎじゃないですか~」
「そうですね、今、対GE民間防衛組織ではその辺りの報酬の見直しを~」
TVでコメンテーターと称したド素人が、何も知らないままにそんな無責任な発言を繰り返していた。
対GE民間防衛組でも報酬の引き下げなど検討もしておらず、逆にもう少し報酬を引き上げてでも拠点晶の破壊を続けて欲しいとさえ思っている。
破壊ごとに百万~とのたまわったコメンテーターは、先日、番組の企画で特殊マチェットを持たされて首都近郊にある拠点晶に突撃させられそのまま石の像に姿を変えた。
周りにいた守備隊のAGEが誰一人助けようとしなかった映像が流れたが、「簡単なんでしょ?」と言われ、批判した人間も同じ目にあわせた為に表だって簡単だの報酬が高いだのと言う愚か者はいなくなった。
場所にもよるが、拠点晶が破壊されて安全区域に指定された為に、急上昇した土地価格でぼろ儲けする者も多く、事前にその情報を入手できる対GE民間防衛組織の一部の職員などは拠点晶がひとつ破壊される毎に手にする金は億を下らないという。
その莫大な資金は裏に流れて闇献金や様々な組織の資金集めに使われている為、迂闊な発言は寿命を縮めるだけと言う事を対GE民間防衛組織と付き合いの長い者は十分に知っていた。
◇◇◇
「こんな所で、冷たい石に変わるなんて絶対イヤッ!!」
「梓沙……」
一年の嘉吉梓沙が泣きながら叫び、迫りくる小型GEに特殊弾を撃ち続けていた。
「絶体絶命の私を助ける為に、白馬に乗った王子様が現れて運命的な出会いして……、そのまま素敵な彼と付き合い始めて、遊園地でデートした後におしゃれなレストランでディナーを食べて、夜景が見える素敵な部屋で薔薇を敷き詰めたベットで愛を語りながら優しく初めてを………」
「……無事に戻れたら今の黒歴史確定の発言、この戦闘記録のデータから消す許可を出してあげるわよ」
「あ~、いいじゃないですか。うん、夢を見るのが必要な時もありますよ」
「遊園地なんていま日本に二か所しかないし、そこでデートなんて……。それに、遊園地の近くに夜景が見えるホテルなんて無いですよ」
「な・ん・で、そんなこと知ってるのよ!!」
「誰でも一度位そんな恥かしい妄想するもんだって。現実はそこまで甘くないけど~♪」
梓沙の発言に乗る形で、周りにいた隊員が好き勝手な事を言っていた。
後日改めて聞けば悶絶級の発言はひとまず置いておいて、特殊マチェットを手にしている三人は銃弾を少しでも節約する為にそれを振るって小型GEを倒していた。
「この特殊マチェット、チャージ機能って言っても、刃が光るだけで拠点晶に殆ど傷なんて付けれないじゃないの!! これ絶対不良品よ!!」
「小型GEは一撃で倒せましたから、不良品って事は無いと思いますけど……」
特殊マチェット系の扱いに慣れるには、最低でも数年かかる。
購入して一週間程で実戦に使おうと思った彼女達が愚かなだけだが、全国には同じ様な行為をしたAGEの部隊がこの一週間程で百以上存在していた。
しかし、そもそも本当の意味では応徳の言った通り、チャージ機能を使っても生命力を増幅させて攻撃力に変換する機能など特殊マチェット系の武器には付いていない。
それどころか何故チャージ機能が働いているのかすら、詳しい仕組みなど解析されていないのだから。
とりあえず過去のデータを元に、この辺りを改良すればチャージ機能が発動するのかな? 程度の感覚で毎回改良を加えられているだけだった。
「隊長!! もう弾が……」
「私達、もう……ダメなの? 最後にコレで………」
十四人の隊員全員が敗北を悟る。
この場所で冷たい石の像へ姿を変え、桃色戦天使が愚かな作戦の実行部隊として笑い者になると覚悟した時、入れっぱなしにしていた端末の通信機能が二件の新規情報を表示した。
「隊長!! 救援要請に応じた人が……」
「そんな部隊、何処にもいないじゃない!! 冷かしよ!!」
周りには部隊の影は無く、特殊トイガンの発射音も聞こえてこない。
しかも、この時間であれば見える筈の車両や携行型のライトの光すら見当たらなかった。
全滅しそうな部隊の救助要請にわざと申請し、救助に向かったが間に合いませんでしたとか言いながら、残された魔滅晶を略奪する悪質な部隊も稀ではあるが存在する。
ただ、彼女達の場合は窮地に陥ってから救助要請を出す時間があまりにも遅かった為、救助要請を見た後で応援に駆け付けた部隊が間に合うとは到底思えなかった。
「もうひとつ……、KKI一三五地点の拠点晶破壊作戦が申請された為、該当エリアに展開中の部隊に通達を……、ってKKI一三五?」
「ぜ~っ…たい冷かしの嫌がらせだって。私達が作戦に失敗したから、あてつけに作戦を申請したんだわ」
「隊長、もう、駐車場内にGEが……」
田舎にあるコンビニらしく駐車場はかなり大きく、大型のトラックなどが止められるスペースなども用意されている。
桃色戦天使は建物の陰に陣取り、駐車場に近づくGEを残り少ない弾で撃退していたのだがサブウエポンとして用意していたハンドガンの弾まで撃ちつくし、ついにGEに駐車場内の侵入を許していた。
「で、何処の誰よ? そんな嫌がらせをするの」
「部隊名ですか? あれ? これって個人名で受理されて……。え? ……嘘っ!!」
端末に表示された所属部隊名と申請を許可した個人名を確認した隊員が、口を押えながら絶句していた。
「どうしたの? 悪名名高い久地縄巴率いる蟒蛇? それとも、略奪常習犯の指貫権座の匪賊?」
久地縄巴は石化から戻った後、他の部下と共に危険地域へ転属させられていたが、一般的にはまだ知られていない。
指貫権座は共闘を送り付けたり、救援要請を引き受けては、魔滅晶を拾い集め、それを分配などせずに持ち去る常習犯で匪賊などと呼ばれている。
しかし、今端末に表示されている名はその二人のどちらでもなかった。
「所属部隊名ラ…ランカーズ、凰樹輝って、表示されてます!!」
「え? うそっ!! でも、何処にも人なんて」
その時、駐車場内に足を踏み入れた小型GEだけでなく、周りを埋め尽くしていたGEが一斉に苦しみだして内部から爆ぜる様に自壊をはじめた。
初めは数体だった自壊は次第に視界を埋め尽くしていた全てのGEに波及し、おそらく千近く存在していたであろう小型GEが残したおはじきサイズの低純度魔滅晶がコンビニ跡地の周りの地面に散乱していた。
「GEが……消え…始めた……」
「私達……、たすかった……の?」
「あんなに居たGEが……」
現在時刻は午後八時五十二分、帳が下りた田舎のコンビニ跡地には街灯の明かりすらなく、夏の生温い風だけが車が通らなくなって久しい道路を吹きぬけていた。
レーダーからひとつ残らず紅点が消滅し、少し遠回りではあるが安全区域まで引き返せるルートも確認できた。
確認していた端末に、【新規メール】の表示が現れ、一年の延宝澪子がそれを確認していた。
「あ、またメールが……。KKI一三五地点の拠点晶が破壊された為に安全区域に指定されました、該当エリアに展開中の部隊に通達を……」
「拠点晶を破壊って。申請からまだ何分も……」
この電撃的な救出劇には少しばかり事情があるのだが、その事情を部隊長の応徳はしらなかった。
ここからどうやって祥和と完泳の二人を連れて退却するか、完全に暗闇に閉ざされたコンビニ跡で話し合っていた時、最短距離で安全区域に向かえる道路の方面から一台のバイクが近づいてくる。
そのバイクは駐車場前に止まり、GE用の特殊装備に身を包んだ一人のAGEが応徳達に近づいてきた。
被っているヘルメットはバイク用をGE用装備に改造された最新式の高級品で、そのAGEは被っていたヘルメットを脱いでそれを左脇に抱えて話しかけてきた。
「要請を引き受けた者だが、救援要請をした桃色戦天使で間違いないか? 誰か重篤な状態の隊員はいるのか?」
「あ…はい。桃色戦天使の隊長、応徳涼香です。私を含めて隊員十四名、命を救われました」
応徳は敬礼をして礼を述べたが、その間に凰樹は全員の左手に装備されたリングの色を確認していた。
「その奥の二人、リングの生命力の表示がオレンジじゃないか。後どのくらい残っているんだ?」
リングの表示はダメージを受けて生命力が減少すると緑→黄緑→黄色→オレンジ→赤→灰色と変化するが、オレンジ色の表示はかなり危険な状態だった。
表示が赤、数値にして残量が十を切ると通常の回復薬では生命力を回復させる事は出来ず、特殊な回復薬を使っても一~二回復させるだけでも一週間以上かかる場合すらある。
オレンジでも市販薬や一般AGEが購入や申請が可能な回復薬ではほとんど役に立たず、セミランカーやランカー用の特殊な回復薬でないと、大きく回復させる事は難しい。
病院に運び込めば特殊な点滴などで回復させる事も可能だが、保険が効かない為に非常に高価で学生AGEでは支払いに窮する者も多かった。
「絵梨香が二十五、舞由希が二十七です」
「まだ特殊回復薬で行けるな。ランカー用の特殊回復剤だ。コレを飲んで一晩寝ていれば、生命力が二十は回復する。生命力が四十台になれば病院に行けば割とすぐに回復できる筈だ」
凰樹はタクティカルベストの胸ポケットから二本の飲み薬を取り出し、隊長の応徳に差し出した。
小さな細い特殊プラスチック製のスティックに入ったそれは黄金色に輝いており、栄養剤系のドリンクに金粉か何かでも混ぜられているかの様だった。
「でもそれ、物凄く高価だって……」
「自分の部隊の隊員の命より高い薬があるのか? 隊長なら、黙って受け取っておけ。俺は金など受け取ろうとは思わんしな」
応徳は迷いはしたが凰樹から回復薬を受けとり、それを祥和と完泳に飲ませた。
このランカー用の特殊回復剤は注射などの静脈注入では無く、経口摂取で十分に薬効がある。
より効果が高い即効性のガンタイプの無針注射も存在するが、こちらは使用する為に一定期間の研修を受ける必要があり、ランカーに昇格したばかりの凰樹はまだその研修を受けていなかった為に使用許可が下りていなかった。
「後、此処から徒歩での退却は難しいだろうから、俺の独断で対GE民間防衛組織の救助部隊に回収を要請しておいた。もうすぐ此処に来るはずだ」
「え? でも、この先のKKI一三七にもうひとつ拠点晶が……」
市道を分断するように存在していた拠点晶がある為に、此処に辿り着く為には結構な大回りをする必要がある。
その拠点晶の存在があるから、応徳は此処から一歩も動けなかったのだから。
「そんな拠点晶は、もう存在しないさ。これでこの辺りまでは殆ど安全区域だ。っと、回収のバスが来たな」
「存在しないって、まさかその拠点晶も……」
それだけでは無い。
凰樹はこの日もKKI一三五やKKI一三七を含める十二の拠点晶を破壊しており、それにより居住区域からこのコンビニ跡に続く区域は全て安全区域へと移行していた。
安全区域になった為GEに脅威に脅かされる事無く、青一色に赤い十字が付いたAGE回収用の輸送バスがコンビニ跡に近づいてくる。
地面に散乱している低純度の魔滅晶には気が付いているようだが、そんな物にはお構いなしに道路を走り続けていた。
「回収、および輸送要請で来ました。ランカーズの凰樹さんは何処ですか?」
「ここだ、すまないが回収は彼女達を頼む。俺はアレが有るんでね」
回収に訪れた救助隊員が分かる様にオフロードバイクを指さし、それに向かって歩き始めた。
ランカーからの回収要請だった為に急いで現場に駆け付けた救助隊員たちは肩透かしを食らったが、コンビニの陰で目に涙を浮かべている少女達を発見し急いでこの現場に駆けつけてよかったと実感した。
凰樹が背を向けた為に応徳は急いでその傍に駆け寄り、短いお礼の言葉だけをなんとか口にする。
「あ…あの、ありがとうございました」
「どういたしまして、……もう無茶な作戦はやめておけよ。じゃあな」
凰樹はバイクに跨り、周りに散乱する低純度の魔滅晶など一つも回収する事無く、来た時と同じ様にオフロードバイクで市道を走り去っていった。
さっきの台詞、窪内や神坂達が聞いていたら、「でっかいブーメランでんな」、「それ、此処の鏡に向かってもう一度いってみろ」などと言われるに違いなかった……。
よんで頂きましてありがとうございます。




