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ランカーズエイジ  作者: 朝倉牧師
偶像奪還編
20/98

新しい力 二話

 続きになります。

 楽しんで頂ければ幸いです。


 七月五日、火曜日。


 この日は通常通りの授業があり、学食戦争や購買部での激しい争奪戦が行われた昼休憩も終わっていつも通りの平穏な放課後が訪れた。


 取り決め通りにこの日の昼食は楠木(くすのき)が凰樹に弁当を作っており、おかずは定番の鶏カラ、チーズを豚肉で巻いた揚げ物、ウインナーなど肉類をメインにしたラインナップでご飯の上には小梅の梅干しが乗せられていた。


 野菜類もカリフラワーやニンジンのソテー、キュウリの浅漬けなど彩りにも気を使った取り合わせだ。


 ただし、食べる凰樹が茶色一色の弁当でもまったく気にしない性格なのが問題ではあったが……。


 竹中はコンビニに置いてある冷製ポタージュスープを用意し、それを紙皿で凰樹に提供していた。


 パウチ商品でありながらも以外に美味しく、凰樹だけでなく楠木達の評判も上々だった。


◇◇◇



 放課後のGE対策部の部室では、凰樹が端末の前で夥しい数のメールの処理を行っていた。


 メールの殆どは近隣の部隊からの共闘申請で、共闘といえば聞こえはいいが大半の部隊は凰樹の部隊の戦力目当てで一緒に作戦に参加するだけして報酬だけ持って行こうとする輩ばかりだった。


 一度断った部隊はリストに入れて次からは共闘の申請を弾くようにしているのだが、新しい部隊が次から次へと共闘を申し込んでくる為にその内容の確認に毎回結構な時間を必要としていた。


「また有象無象(ハイエナ)の共闘願いでっか? 遠足気分で作戦に参加されるこっちの身にもなって欲しいですわ」


「前の部隊にいた時は数が必要な時期もあったから、何度か共闘したけどいない方が()()な奴らばかりだったからな」


 奈良崎(ならさき)の部隊にいた時は何度か共闘をしていたが、低純度弾を持って来て一緒に戦おうという奴らはマシな方で手持ちが無いから弾をよこせだとか言いたい放題し、そのくせ碌に戦いもせずに逃げ回り戦利品の魔滅晶(カオスクリスタル)だけは勝手に回収するような部隊も存在する。


 凰樹がGE対策部の部長となり、隊長に就任してからは信頼できる部隊以外との共闘などはしていない。


 ランカーがいる部隊にこういったメールを送ってくる事自体が常軌を逸しており、普通はセミランカーの居る部隊にさえ普通の部隊であるならば共闘など申し込める筈も無かった。


「共闘申請と、今回はメーカーからのスポンサー契約なんてのもある。トップランカーが六人いる部隊なんて今まで前例すら無いから、これ以上無い広告塔として利用できると思ってるんだろうな」


「スポンサー契約でっか? 確か契約したらタダで武器とか回して貰えるって話でんな」


「その他にも、専用武器のカスタムサービスとかしてるらしいっス。体格とか腕力に考慮して最高のバランスで仕上げるとか……」


 スポーツ選手とのスポンサー契約の様に、メーカーロゴが大きく入った武器や装備を提供しようとするメーカーもあり、セミランカー上位辺りからこの手の話を持ちかけられる事が多く、スポンサー契約を結ぶと其処以外の商品が使えなくなるデメリットもある。


 しかし、運営資金に乏しい部隊などにセミランカーがいれば、この手の話には即座に飛びつき、セミランカー本人だけでは無く部隊の装備一式をそのスポンサーの装備で固める事すらある。


 この場合、部隊全員に無償提供とは言わないが、メーカーも格安で装備を提供したりカスタム代金を割引したりしている。


 凰樹の様に様々な所から試作武器を回して貰える様な部隊は遥かにデメリットの方が大きく、契約を結ばないケースが多い。


「うちの部隊には必要ないな。断りのメールを返しておこう」


 このまま放置すると下手をすればサンプルと称して大量の商品を送って来る事もある為に、形だけでも断りのメールを返す必要がある。


 スポンサー契約のメールを送られていた全メーカーに断りのメールを書き、そしてまだまだ残っている大量のメールから一通のメールを選んだ。


「これは……、三女神(ヴィーナス)織姫(おりひめ)ヒカリから先日のお礼か……。あんな所をうろついてるからだが、……ん? 廃棄地区KKI〇〇五の拠点晶(ベース)破壊及び、石像の回収依頼?」


 部隊がある程度有名になると、石に変えられた親しい者や恋人などを見つけ出して取り残されている石像を奪還する内容の依頼などが来る事もある。


 GE対策部は設立からまだ日が浅い為に今まではこういった依頼は来なかったのだが、先日、この部隊がランカーズなどと呼ばれるようになってから、幾つかそういった依頼が来るようになっていた。


 今は部隊の装備が整っていない為にそれを理由に断っていたのだが、大切な誰かを取り戻したいという依頼主の心情は理解できるために、今後は幾つか引き受けてもいいとは考えてはいる。


 しかし、神坂達の興味は依頼では無く、その依頼を寄越した人物の方に向いていた。


「ちょっと待て輝。お前、三女神(ヴィーナス)織姫(おりひめ)ヒカリとメールのやり取りするような仲なのか?」


「そこまで懇意にしている訳じゃないんだが、この前、廃棄地区KKI〇一七の拠点晶(ベース)を破壊しにいった時に偶然な……」


 そこまで言って、凰樹はある事に気が付いた。


「廃棄地区KKI〇一七の拠点晶(ベース)破壊? そういえば最近、夜中にバイクでKKI(あの辺り)の廃棄地区をうろついてるAGEがいるって噂を聞いたぞ」


「そういえば、輝さんのポイントが二千万ポイント程増えてたんっスけど、もしかしてひとりで拠点晶(ベース)の破壊をしてるんスか?」


 そう、秘密裏に行っていたこの作戦を、こいつらにまだ話していなかったという事実に……。


「藪蛇だったか。そういう事だ、ある実験の為に特定地区の拠点晶(ベース)を破壊していたんだ。首都圏奪還作戦って聞いた事あるだろう?」


「首都近郊を取り戻した防衛軍が考え出した、環状石(ゲート)を枯渇させる作戦でっか? 環状石(ゲート)の周りの拠点晶(ベース)をぐるりと破壊して、孤立させて潰したっていう話でんな」


「五年がかりで首都近郊に存在したレベル四までの全ての環状石(ゲート)の周りにある拠点晶(ベース)を破壊して、環状石(ゲート)を弱体化させて潰したってアレだろ?」


 二〇〇一年、防衛軍のある下士官が様々な資料に目を通し、考え出した作戦。


 環状石(ゲート)拠点晶(ベース)を繋げて支配地区を増やし、GEを送り込んでそこに住んでいる人を襲って石に変える。


 拠点晶(ベース)が密集すればする程GEの脅威は増し、逆に少なければGEの侵攻ルートは制限されて侵攻速度は大幅に下がる。


 この事を調べ上げ、であるならば環状石(ゲート)の周りの拠点晶(ベース)を一定間隔で全て破壊し、完全に孤立させた場合にどの様な結果が齎されるか?


 その事に疑問を持った。


 実験の為にある環状石(レベル一)を標的として、下士官の考えた作戦が実行される。


 環状石(ゲート)周辺の拠点晶(ベース)を円形に破壊して外部との接続を完全に断ち、その後の経過を観測した。


 結果、周りの拠点晶(ベース)を完全に破壊されて孤立した環状石(レベル一)は、ひと月ほどで弱体化しエリア内で中型(ミドルタイプ)GEさえ見かけなくなった。


 そして、更にひと月後、殆ど抵抗らしい抵抗も受けず、防衛軍はその拠点晶(ベース)の破壊に成功した。


 他の環状石(ゲート)拠点晶(ベース)で繋がっていない拠点晶(ベース)はなぜか弱体化し、急激に力を失うという実験結果を得た。


 様々な環状石(ゲート)での実験の結果、円の直径が小さければ小さいほど内部の勢力の弱体化が著しく、また円の直径がある程度以上大きければ、この作戦にあまり意味が無い場合もある事も分かった。


 そして、この方法が通用するのは精々レベル五~六程度までの環状石(ゲート)の話で、レベル七を超えるとどんなに弱体化させても現行の兵器では門番GE(キーパー)要石(コア・クリスタル)を破壊出来ないという事だった。


「そう、アレを実験的に行っていてな。廃棄地区KKIにある環状石(ゲート)を孤立させる為に、ちょっと夜中に壊せそうな拠点晶(ベース)を破壊してたんだけど、その時に移動中の彼女達がGEに囲まれてる場面に遭遇して助けただけさ」


 このために凰樹はオフロード用のバイクを用意し、レーダーを見ながら紅点の少ない部分を強引に突破し、拠点晶(ベース)を破壊して一気に周りのGEを処理していた。


 普通の人間が単独でこんな事をすれば拠点晶(ベース)破壊前に小型(ライトタイプ)GE辺りに取り囲まれて大惨事となるが、拠点晶(ベース)破壊程度であればチャージ時間が殆ど無い新型の特殊小太刀を使える凰樹だからこそ実現しえた作戦だった。


 このオフロード用バイクを駆使して、比較的GEの少ない地区の拠点晶(ベース)を特殊ランチャーなどで破壊する作戦は、九州方面の一部の部隊で数年前によく行われていたが、僅かな油断から無数の小型(ライトタイプ)GEに取り囲まれて幾つかの部隊が壊滅した時点で、この無謀な作戦を行う部隊は殆どいなくなっている。


 この時でもオフロードバイクを扱えるAGE数人で部隊を組み、周りの小型(ライトタイプ)GEを撃退する者と、特殊ランチャーで拠点晶(ベース)を破壊する者に分かれていたのだが、あろうことか凰樹はその作戦を単独で行っていた。


「このポイント数だと、ここ数日で拠点晶(ベース)を十以上破壊してるって事だよな? 生命力(ゲージ)は一体どうやって回復……」


「そこまで減った事はないが、緊急用の回復剤も使えば一日に最大四十は回復できる。新型の特殊小太刀は生命力(ゲージ)の減りがかなり少ないから、拠点晶(ベース)だけ狙えば何とかなったよ」


「昨日、伊藤の特製ドリンクに手を出したのもその為か? あいつのドリンクは少しだけだが、何故か生命力(ゲージ)が回復するからな」


「不思議なドリンクだよな……。生命力(ゲージ)を二十回復させて、時間がまだ経ってないのに少しだけでも生命力(ゲージ)が回復したりする。アレはアレで貴重な回復薬だよ」


 いくら伊藤の特製ドリンクが不味いとはいえ、通常の回復薬の副作用や翌日訪れる胸やけなどに比べれば遥かに()()だ。


 回復しきっていない生命力(ゲージ)の補給の手段として、伊藤のドリンクと言う最終手段が残されているのは凰樹にとっては喜ばしい事だった。


 他の隊員の意見は少々違う様ではあるが……。


「相変わらず闇雲に突っ走る奴だ。いいか、お前は俺達の隊長なんだ、部隊の事を考えて、こういった真似はやめてくれ」


 神坂が指摘したこういった真似が、単独での拠点晶(ベース)破壊であるのか、伊藤の特製ドリンクでの生命力(ゲージ)の回復であるのかは微妙な所だった。


 付き合いの長い窪内(くぼうち)神坂(かみざか)、それに荒城(あらき)などは凰樹のこういった危うさの様な所を十分過ぎる程に理解している。


 安全マージンが常人とは違い、他の人間では真似が出来ないような事を平気でやってのけるが、話を聞いて卒倒しそうになる事も今迄に何度もあったからだ。


「武器は? まさかその特殊小太刀だけって訳じゃないんだろ?」


「メインウエポンは家に置いてあった予備のM4A1カービンを使った」


「いつものM4A1カービンは防衛軍に送ってただろうからな。以前窪内に予備を用意させていたのはこの日の為か?」


「まさか、今使ってるのは以前坂城の爺さんに貰った試作品だ。龍にカスタムして貰った物より劣るが、自宅にはこれしかなかったんでな」


 凰樹も自宅に様々な武器を用意しており、緊急時にはそれを使うようにしている。


 神坂達が更に言葉を続けようとした時、奥の部屋のドアがあき、大きなトレイを抱えた伊藤が、甘い香りの漂うカップケーキを運んできた。


「みんな~、ケーキが焼けたよ♪」


「もう、(ゆかり)は料理以前に、味覚の改善からだね」


「お菓子は甘い方が良い。きっとあきらもそういう」


 この日、宮桜姫(みやざき)を初めとする女性陣は、奥のキッチンで部活開始直後からカップケーキやクッキーなどを焼いていた。


 先日送られてきた小麦や、以前完全廃棄地区で入手した砂糖や蜂蜜などを有効活用する為だが、楠木達の主な目的は凰樹の味覚改善だ。


 そこまで味音痴と言う訳では無いのだが、凰樹がもう少し人並みの味覚になってくれればと楠木などは考えてはいた。


「あの話は後でな」


「分かった」


 この事が宮桜姫達に知られるとまためんどうな事になりかねないので、一時的にこの件の追及を止め、カップケーキやクッキーを食べながら休憩という事にした。


 プレーンやココアなどを練り込んだものまで様々なカップケーキがテーブルに並べられ、それぞれが好きなカップケーキを口にしていたが、凰樹の前には何故か様々なカップケーキが並べられている。


 部活中に過度のアピールを行えば凰樹の逆鱗に触れる事位理解している竹中たちは、こういった時にそれとなくアピールをし、少しでも凰樹の気を引こうとしていた。


「あの、輝さん、そろそろ伊藤さんにシールドの張り方を教えてはいかがですか?」


 カップケーキを食べながら休憩をしている時に、以前とは完全に口調が変わった荒城(あらき)が優しい声でそんな事を言い出した。


「シールド? アレ、私達も使えるの?」


 それを聞いて楠木もシールドを張れない事が発覚し、シールドを張れない隊員がひとりではない事を荒城に知られる事となる。


「……もしかして、楠木さんも使えないのですか?」


 その言葉に、凰樹、神坂、窪内の三人は背筋に冷たい汗をが流れた。


 荒城の口調は優しいが、そこから漂う雰囲気は以前の荒々しい口調よりも遥かに殺気や怒気に近い物を発していたからだ。


「この部隊にはベテランの輝さんや神坂さん達がいながら、新人の楠木さん達にシールドの張り方も教えず、危険な戦場に隊員として同行させていたんですの?」


 わざと言葉を切って微笑みながら優しい口調で問いかけて来る荒城に、凰樹達は凄まじいプレッシャーを感じていた。


 リングに備わっているシールド機能はAGE隊員などの公然の秘密で、一般人には殆ど知られていない。


 基本的にはシールドの役目といえば、GEの攻撃によるダメージの軽減、および、味方が退却する時の時間稼ぎが主流でありAGE隊員の必須技能では無く、また、個人の資質によりシールドの能力や機能、それに生命力(ゲージ)の消費量が変わる為にこの能力を使えればGEとの戦いが有利になるという事でもない。


「いや、だから伊藤達には後方で探索任務に……、それにシールドを張る事態なんて、余程緊急の……」


「あの……、それはどんな物なんですか? 私はAGEに登録して間が無いので、色々知らない事も多くて……」


 先日までAGEに参加していなかった宮桜姫は当然シールド機能の存在など知る筈も無く、初めて聞くその言葉に興味を示していた。


「いい機会だから後で教えておくか?」


「今日なら生命力(ゲージ)を消費しても、週末までに回復できるし丁度いいかもな」


 凰樹や神坂が今まで楠木達にシールドを教えてこなかった理由は幾つもある。


 まずひとつ目に、シールドの展開には生命力(ゲージ)を使用し、しかもそれが一や二では無く、慣れない者が咄嗟に使えば生命力(ゲージ)の消費量を調整できず、下手をすれば十以上一気に消費する事もあるからだ。


 下手をすれば受けたダメージより、シールドを展開する為に使用した生命力(ゲージ)の方が多いなんて事もよくあった。


 それに加えて毎週、週末に拠点晶(ベース)の破壊や、中型(ミドルタイプ)GEの討伐に出撃している凰樹の部隊で、完全に生命力(ゲージ)が回復していない状態で楠木達を同行させることにためらっていたという事情もある。


 そして、ふたつ目に、下手にこの技術を教えてしまえば、危ない状況であるにも拘らずに無茶をし、シールドを使って切り抜けようなどと考えてしまう為だ。


 これに関しては多くの部隊で同じ様な事例が見受けられ、今までであれば迷わずに退却を選んでいた隊員がシールド機能に頼って踏みとどまり、その結果手酷いダメージを受けて回復に膨大な時間を必要としたなどという話もある。


 知らなければ済んでいた事でも、知っていれば欲が出る。


 また、仲間を逃がす為に使い慣れないシールドを使い、生命力(ゲージ)を使いすぎて動きが悪くなった為に逆に仲間全体が窮地に陥る事すらある。


 凰樹はそんな最悪の事態にならない様に、探索時以外では伊藤を索敵要員としてのこしてその護衛に必ず楠木などを配置していたのだが、その事をあまり知らない荒城は凰樹達が面倒だからシールドの使い方を教えていないと誤解していた。


 そして最後に、シールド機能はかなり特殊で、同じだけの量の生命力(ゲージ)を使っても、全員同じ性能ではないからだ。


 一番分かりやすいのが凰樹のシールドで、同じだけの生命力(ゲージ)であっても通常の数十倍の強度を持ったシールドを張る事が出来る。


 また、シールドでGEを弾き飛ばしたり、角度を調整してGEの攻撃をいなしたりする事も可能だ。


 先日戦った百足型門番GE(キーパー)の攻撃も、凰樹のシールドであれば全て防ぐ事が出来ていた。


 そして例外的なシールドを使うのが霧養(むかい)で、盾の様な形状の普通のシールドは作れないが自分の分身的なダミーの様な物を生み出す事が出来、それを退却する際の囮として使ったりGEを誘き寄せる罠に使ったりもする。


 窪内や神坂はシールドを使わずに走って逃げる事が多く、魔弾系の攻撃能力を使うGE以外ではシールドを使う事など殆ど無かった。


「後で全員、トレーニングルームに集まってくれ」


「了解」


 カップケーキを食べ終わった部員たちは、ルームランナーやトレーニングマシンが並ぶトレーニングルームに移動した。


 この部屋は基本、体力の向上や肉体改造の為に用意されているのだが殆ど使われる事が無く、身体を動かす為の広いスペースだけがこういった時に利用されていた。


「俺のシールドは参考にならないし、霧養も論外だな……」


「普通なのはわてか、神坂はんでんな。いうても、これ、感覚的やから……」


 窪内が左手に意識を集中させて、一メートル四方の大きさのシールドを作り出し、作りだされたシールドは僅か十秒程で虚空に消えた。


「これでだいたい一~二生命力(ゲージ)を使いまんな」


「今ので生命力(ゲージ)を二も使うの?」


「いや、慣れてないと、一気に五とか最悪十くらい生命力(ゲージ)を使う時もある」


「五とか十って、ちょっと遠慮したいんだけど」


「でも、使えれば便利ですよ。いざという時の保険ですが」


 全隊員にはシールド程度の技術を覚えて欲しい荒城だが、その裏には彼女達を守る時に凰樹の負担を少しでも減らしたいという事情がある。


 言い換えてみれば、楠木達に自分の身は自分で守れと言っているようなモノだ。


「憶えれば便利な機能なんだが、慣れるまでに時間が掛かるのは特殊マチェットに通じるところがあるんだ。霧養の様な例外もいるしな」


「これっスね」


 そう言われ、霧養は自分の周りに光で作られた自分の分身を三体生み出した。


 これだけ分身を作っても消費生命力(ゲージ)はゼロ、調子に乗って作りまくった時だけ一程度消費するが戦闘時にそこまで分身を作った事は無い。


「すごーい!! それどうやるの?」


「あれは誰も真似できないから、霧養だけのオリジナルシールドなんだよな……、アレを使ってGEを誘き寄せて纏めて仕留めた事もある」


「なんとな~くスよ。何となく」


 何となくでシールド機能を使った分身を出して見せる霧養も異常だが、この技術は衛軍特殊兵装開発部に映像データとして送られている。


 凰樹の特殊マチェットへのチャージ能力同様に、特殊個体技術として衛軍特殊兵装開発部では様々な方法で再現しようとしているという話だ。


「後は、確か以前までトップランカーだった奴が、シールド機能を使ってGEの魔弾の様な物を作り出してそれで攻撃したって噂がある」


魔弾使い(ブラスター)の事か? シールドでGEを弾き飛ばす技術の応用で、別段珍しい技じゃない。正直、使う生命力(ゲージ)に見合う能力とは思えない」


 超小型のシールドを生み出して、GEに向けて発射する魔弾(カオス・ブレット)と言う技がある。


 GEを弾き飛ばしたり、盾の形状次第ではそれだけで小型(ライトタイプ)を倒す事も出来るが、消費する生命力(ゲージ)から考えれば、まだ低純度弾の込められたハンドガンあたりで攻撃した方がいい。


 緊急時にこの技術で中型(ミドルタイプ)を倒した守備隊の部隊もあるが、二度と同じ真似をしようとはしなかった。


「凰さんの特殊マチェットと比べたらかわいそうでんがな。消費する生命力(ゲージ)を抑える技術は慣れ意外にありまへんからな」


「十年以上やってりゃ、そのうち慣れるさ」


「十年?」


 AGEの登録は、公式で十歳以上と言う事なので、今年十六歳になったばかりの凰樹であれば、最大でも六年の筈だった。


「まあ、親父の関係で小さい頃から守備隊の詰め所とかで遊んでたからな」


「特殊ナイフや、特殊マチェットの改良回数考えたらわかりそうなもんだが」


 非公式と言う事で、凰樹がいつからGEと戦っているかはほとんど知られていない。


 意外な事ではあるが、GEと戦う凰樹の一番昔の姿を知っているのは、結構前から同じ部隊で戦っている窪内や神坂では無く荒城であり、その事を思い出しているのか少し頬を赤く染め、頬に手を当てて顔を綻ばせていた。


「輝ってさ、いつからGEと戦ってるの?」


「………最初にGEと戦ったのは三歳の頃で、中型(ミドルタイプ)GEを倒したのが四歳の時だ。当時親父に支給されていた試作型特殊ナイフを使ってな」


「よ……四歳? っていうか四歳でいきなり中型(ミドルタイプ)撃破?」


「諸事情あってな。当時は特殊弾の性能も悪くあの団地を守るには青年団や守備隊の装備だと難しかったんだ。今でもそうだが、当時は中型(ミドルタイプ)がかなりの強敵で、守備隊の装備だと倒しにくかったので、俺が特殊ナイフで戦うしかなかったというのが実状だ」


 今の様な強化型の特殊改造トイガンや特殊マチェット、それに高純度の特殊弾が普及するまで中型(ミドルタイプ)GEは今の大型(ヘビータイプ)GE並みに脅威だった。


 特殊改造トイガンや特殊マチェットなどの初期型試作タイプは二〇〇一年頃には出始めていたが、今の強化型の特殊改造トイガンに比べれば同じ純度の特殊弾を使った場合でも威力は十分の一以下で、無数に押し寄せる小型(ライトタイプ)GEを相手にする時でさえ、今とは比べ物にならない程に苦戦を強いられていた。


 その為、当時では驚異の中型(ミドルタイプ)GEを特殊ナイフ片手に処理する凰樹の存在は貴重で、守備隊はその事実を隠しながらほかの部隊では真似が出来ないような実績をうちたてていた。


 六年前、凰樹の故郷がGEに襲われた時に凰樹が守備隊の詰め所にいた事は偶然では無く、そして未来への希望と考えた守備隊の隊員たちが凰樹を防衛戦に参加させず、最優先で安全区域へと逃がしたのは様々な思惑が絡み合った結果だ。


「非公式だから、AGEの撃破ポイントには加算されて無いんだよね?」


「ああ、今のポイントは十歳の誕生日に正式に登録された後のポイントだ」


「今は四十一億ポイントだったか? 今までランキング一位が三億ポイントだった事考えりゃ馬鹿げた数字だよな」


 先日の環状石(ゲート)の破壊ボーナスや部隊ボーナスなどで一気に四十億ポイント加算され、一気にトップランカーに躍り出たが、この記録が大きすぎる為にランカーズのメンバーごと別枠で扱おうなどと言う案も出ていた。


 当然この数値分のポイントとして使用できる為、今迄は控えていた高純度弾のみの部隊運用を考え、凰樹は一発五千円クラスの高純度弾を大量に申請し始めていた。


「一位から六位までを俺達が独占してる上に、全員十億ポイント以上って冗談みたいな状況だからな」


「まともに追い抜こうと思えば、何処かの環状石(ゲート)を破壊するくらいしか方法が無いから……」


 実際、此処までポイントで差を付けられると、大型(ヘビータイプ)GEタイプを狩り続けても何年かかるか分からない。


 しかも、凰樹が馬鹿みたいな速度で拠点晶(ベース)を破壊し続けているので、これに追いつく方法を持つ部隊など存在しなかった。


「話がかなり脱線したが、シールドは使えそうか?」


「さっきから試してるんだけど、うまく使えないんだよね~」


「あ……、もう生命力(ゲージ)が十も消費されてる。今日はもうやめておくね……」


 伊藤と楠木は繰り返し練習していたが、リングに表示された生命力(ゲージ)の残量を見て今日の練習は取りやめる事とした。


 僅か一日で自由自在とはいく筈も無く、誰も新たにシールドを使えないまま練習を終えた。


 しかし、荒城はシールドの存在と発動方法を教えた事で満足し、後は個人で練習を続けて使える様になればいいと考えていた。


「輝さんの負担にならなければ、後はどうでもいいですわ♪」


 最終的に、凰樹の隣に自分がいればいいと考えている荒城は、僅かでも凰樹の負担を軽減させる方法だけを考えていた。


 それに加え、今まで幾つも部隊の崩壊や壊滅を経験している凰樹にとって、部隊の壊滅がそこまで深刻な問題で無い事も見抜いている。


 とはいえ、これほどまでに一芸に突出した人材が揃った部隊など、今まで存在した事など無かったのだが……。





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