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ランカーズエイジ  作者: 朝倉牧師
偶像奪還編
19/98

新しい力 一話

 新章の続きになります。

 帝都角井だとか日本エアガン《JAG》とか色々なメーカーも出てきますが、当然元ネタは全部有名なメーカー様です。

 無くなったメーカーも多いのが残念ですが。


 昼休憩、凰樹(おうき)(あきら)はGE対策部の部室で、今朝教室で宮桜姫(みやざき)から貰った弁当を食べていた。


 弁当の中身は半分を占めるご飯の上に鶏そぼろ、桜デンブ、胡麻塩のふりかけが乗せられ、焼いた鮭二切れ、タマゴ焼、アスパラの豚肉巻き、ブロッコリー、プチトマトと彩りのバランスもとれた内容だった。


 食べ盛りの凰樹の事を考えればウインナーか唐揚げあたりの肉類をもう少し入れるべきだったのだろうが、一度にあまり詰め込みすぎると次に作る時に苦労するので、妹の鈴音にその事を注意されてこんな形となっている。


 楠木(くすのき)宮桜姫(みやざき)伊藤(いとう)竹中(たけなか)が同じテーブルで昼食を食べていたが、誰が凰樹の隣に座るかでも少しだけ揉めていた。


 この事態を知ってか知らずか、窪内(くぼうち)霧養(むかい)神坂(かみざか)荒城(あらき)はいつも通りに学食で昼飯を食べている。


 先日の環状石(ゲート)破壊の報酬とは別だが全員ランカー用のS特券を大量に入手した為、目を血走らせて食券販売機に並ぶ生徒を横目に専用の注文口で好きなメニューのS特券を出して普段は手を出さない好きなメニューを注文していた。


 厳密に言えば学食に向かったメンバーのうち神坂だけはランカーではないのだが、部隊に届いた報酬の中からS特券を何冊か受け取っている。


 部隊に届いた物なのでどう分配するかは自由であり、部隊内での配布であるために咎められるいわれも無かった。


「凰樹君の好みがわからなかったから、そんな味付けにしたんだけど、どうだったかな?」


「美味しいよ。味付けが薄ければ塩か醤油をかければいいんだし、問題はないだろ?」


「あ~輝はそういうよね………。せめて甘いのが好きだとか辛いのが好きだとか言って欲しいんだけど」


 これは今迄散々楠木が通って来た道であり、割と何でも美味しく食べる凰樹の舌を改善しようと窪内(くぼうち)と一緒に何度も弁当を作ってきていたにも拘らず、あまり進展がみられなかった。


 その証拠という訳ではないが、永遠見台高校(とわみだいこうこう)や今まで一緒に行動した部隊で、伊藤特製ドリンクを平気な顔で飲めたのは伊藤本人と凰樹だけだ。


 食事の時には部室のテーブルの上に各種調味料も置かれており、味が薄いと感じたらそれを使って調整していた。


「流石に辛くないカレーはアウトだろ? 後、酢豚にパイナップルは宣戦布告してるようなもんだ」


「そういえば、おかずが妙に甘いのがダメなんだっけ? 甘すぎるかぼちゃの従妹煮とか甘い卵焼きとか……」


 甘い卵焼き~の所で、宮桜姫が少し驚いた顔になって弁当箱に並んでいる黄色い卵焼きを凝視した。


「宮桜姫さん、おかず交換しない? 私からは鶏の唐揚げ、宮桜姫さんのからは卵焼きを貰うね」


「あ……」


 宮桜姫の返事を待たずに楠木は箸を逆さに持ち、自分の弁当箱から唐揚げを取り出して宮桜姫の弁当箱の卵焼きと取り換えた。


 女の子同士なので別に向きを変える必要はないと思うが、楠木は宮桜姫をまだそこまで友達と思っておらず親しくも無いので無意識のうちに端を逆さにして握っていた。


「ん~、宮桜姫さんて卵焼きに結構お砂糖入れてるんだね。此処まで来るとお菓子みたい」


「卵焼きやカボチャの従妹煮なんかは最初から甘いと分かってれば、デザート代わりに食べるからそれでもいいよ。炒め物系にフルーツとか入れたりするのはアレだけど」


「あ、そうだったんですね。うちの卵焼きはかなり甘口で砂糖が沢山入ってますから、デザートとして食べて貰えますか?」


 意中の相手の食べ物の好みの情報、それは値千金であり胃袋を掴むために欠かせないアピールポイントでありそしてライバルを蹴落とす絶好のネタでもある。


 今回、宮桜姫の卵焼きを食べて味を確認した楠木の行為は、助け舟だったのかそれとも少しだけマイナスポイントを付けようとしたのかは誰にも分からなかった。


 数年前、結婚年齢の引き下げと共に一夫一婦制も一部見直され、年収が億を超える者及び資産が十億を超える者は二人まで妻を持つ事が許されている。


 この逆……、女性が二人の夫という事が許されていない理由として、日本国内の状況ではあるが近年様々な理由から男性の数がやや減少気味である事、そしてもう一つ大きな理由としてより多くの子供を産める環境を作りたいという政府関係者の狙いがあった。


 その為に条件は上記の資産の他に重婚が許される年齢は二十代までと決められており、三十代になると幾ら稼いでいても新たに重婚する事は認められない。


 また、特例として婚姻関係にある者が石化して十年以上経過し、元に戻る事が出来ない場合は一方的に婚姻状態を破棄して再婚する事が出来る。


 この条件を満たす者はあまり居ない為に、世間一般では意味が無いとは言われている。


「あきら、コンビニのおかずで良ければ、これも食べる? 塩味の鳥皮なんだけど……」


 この面子の中で唯一料理が出来ない竹中は、一緒に部室で食事をする為にコンビニで弁当とオカズを購入して食べていた。


 割と小さめの鮭ほぐし弁当と、おつまみ鳥皮というちょっとわからない組み合わせだったが……。


「ありがとう、でもいいのか?」


「うん、じゃあこれ、ご飯の上に乗っけるね」


 胡麻塩のふりかけがかかった所に鳥皮をのせ、凰樹はなんの抵抗も無くそれを口にした所で、周りの楠木達は思わず「あっ」と声を出していた。


 竹中は箸を反しておらず、凰樹が鳥皮を口にした瞬間の表情からそれがわざとだと気が付いたからだ。


「ご馳走様でした」


「あ、凰樹君、お弁当箱は貰うね。明日も作って来るから……」


「ちょっと待って。毎日作るのも大変だろうから、明日は私が作ってあげるよ」


 いつか凰樹に弁当を作って来る為に練習を重ねていた楠木にしてみれば、それは譲れない一線だ。


 宮桜姫が此処までアグレッシブに攻めて来るとは思わなかったし、魅惑的なボディタッチでアピールを続ける竹中に対抗する為にもせめて胃袋だけは押さえたいと考えたからだが。


「あの、その事だけど、S特券を使えと学校側から言われてるから。毎日ってのは勘弁して欲しいんだ」


「そういえばそんな話もありましたね。あれって絶対なんですか?」


「ランカーになったから本当は全食S食券を使って欲しいらしいんだけど、流石に毎日は気が引けるからって断ってるくらいだよ」


 せめて人の少ない時間にと思って、凰樹が朝食を学食で食べたのにはそんな理由がある。


 流石にこれ以上使用頻度が落ちれば間違いなく学校側への行政指導が入り、様々な場所に迷惑がかかる。


 そう判断した凰樹は最低でも週二回から三回の学食でのS食券利用を考えていた。


「ではこうしませんか? 今日が月曜日ですし、月木は私、火金は楠木さん、水土は学食、学食が混む十の付く日は二人で色々用意するとか……」


「週二かぁ……、でもそれが一番いいかも知れないわね」


 この時、楠木の脳裏では祝日と言うキーワードが浮かんでいた。


 現在の祝日はほぼ月曜日、その事に気が付いているのかいないのか宮桜姫の迂闊な提案を後押しする様にその案に賛成した。


「昼食はそれ位ならいいか。あまり学校側から言われるようなら、また話し合いをするって事で」


 ランキング一位になった為に様々な場所から注目されている凰樹の場合、本人の意志とは関係の無い所で様々な苦労を背負い込む事になっていた。


 たとえば、学食の利用率が悪ければ何か問題があるのではないかと考えられ、来週追加で食券販売機を一度に五台も増設される事になっている上に材料の仕入れ量や価格の見直しなども行われている。


 その後まだ利用状況が悪ければメニューや学食で働いている職員にまで改善の手は及んでいくだろう。



 ◇◇◇



「すいません、お届け物です」


「荷物? この時間に?」


 GE対策部宛ての荷物は大体放課後に届く様に時間指定してある。


 あくまでも部活動であり、この日の様に昼休憩に部室を使用している事が少ないという理由もあるが。


「はい、対GE民間防衛組織本部様と防衛軍特殊兵装開発部様からで、出来るだけ早く届ける様にと言う事でしたので……」


「特殊兵装開発部? また坂城の爺さんが作った試作の新型装備かな?」


 防衛軍特殊兵装開発部。


 特殊マチェットをはじめ、様々な試作兵器を作っては凰樹に送り付けてくる坂城(さかき)厳蔵(ごんぞう)という変わり者のいる部署。


 坂城とはもう十年以上の付き合いで、正式にAGEに参加する前からGEと戦っていた凰樹の為に様々な特殊兵装を作ってくれた恩人でもあるが変人でもある。


 子供の頃の凰樹は坂城が特別に拵えた特殊ナイフや特殊改造トイガンと同じと様な構造の装置を付けたブーツ、特殊改造トイガンの使用年齢は十歳以上と決められていた為に小型のM16ミニというタイプを改造した超小型の銃を使用していた。


 少し前にAGE事務局で入手した試作武器は坂城の仲間の一人で、様々な場所でよりGEを効率的に倒せる武器を生み出そうとしているが、その多くは役にも立たないガラクタである事が多い。


 その中から少しでも使えそうな発想などは、坂城をはじめ防衛軍特殊兵装開発部の研究員の手で劇的に進化し、新たな力として防衛軍やAGE本部でGEと戦う者達の手に渡っていく。


「何処に運びましょうか?」


「両方奥の倉庫にお願いします。クレーンとか使いそうです?」


「出来たら使わせて頂けると……」


 送られてくるものによってはかなり重量がある事も珍しくなく、搬入にクレーンを必要とする場合も多い。


 慣れた手つきでクレーンを操作して倉庫の一角に並べ終わった後、書類に受領印を押して運送会社のトラックは帰った。


「防衛軍の差出人はやっぱり坂城の爺さんか。そっちは申請補給物資と、試作武装?」


 箱を開けると、対GE民間防衛組織本部からは申請していた小麦粉やバター、それにクラッシュアーモンドにスライスアーモンド、各種ナッツ詰め合わせなどクッキーなどお菓子つくりに必要な物が大量に詰められていた。


 箱の数がやけに多かったのも小麦粉の袋が全部で二十キロ分あり、バターは特殊な保冷型の箱で送られていた為だった。


「すごいです~♪ これだけあれば、暫くお菓子つくりの材料に困らなくて済みます。ナッツ類なんて、なかなかこれだけの量は手に入りませんし……」


「コンビニが復活してるし、スーパーも昔より品揃えは良くなってるけど、嗜好品系は補充が遅いから……」


 生産優先順位の高さから言えば、米などの穀物、副菜、乳製品であり、次に入荷率がいいのは比較的生産量の多い塩や一部奪還に成功した沖縄で生産されている砂糖や黒糖などだ。


 砂糖に関しては結構値段が高騰しているが、やはり人工甘味料では満足しない人が奮発して購入する為に入荷率や入荷数の割に意外に品切れが多い。


 他の商品でも人気の高い嗜好品や入手が困難な物であればある程値段は高騰しているが、保存の効く物や生活必需品などは値段がわりと安定している。


 国内での生産が困難で輸入に頼っている胡椒などは品切れする事も多いが、様々な材料で調整されたカレー粉なども比較的安価に販売されており、アメリカと日本の連合軍で奪還した東南アジアの島で生産されている珈琲豆や香辛料などは奪還地区が多い為に生産量も多く、嗜好品の中では比較的安価に販売されている。


「こっちは試作型兵器だな。ガンケースが十、パーツが入ったBOXが十、後はバッテリーやマガジンか……」


 対GE民間防衛組織本部の試作兵器は、当然、防衛軍特殊兵装開発部の試作品より数段劣る。


 たまに使えない事も無い兵器が混ざっている為、窪内(くぼうち)がフルチューンを施して使っていたりもする。


 最近は金さえ出せれば帝都角井や日本エアガン(JAG)、トイガン・テクノロジー辺りのフルカスタムを買った方が早い場合も多いが、最低でも数十万ポイント掛かるメーカーフルカスタムに手を出す猛者(もさ)は少ない。


「そっちは後でたっちに見せた方が良いね。防衛軍の方は?」


「試作型次世代特殊小太刀、試作型次世代トイガン、強化ブーツ……、特殊スーツ?」


 特殊スーツと書かれているが、今までの経験から言えばGEの攻撃によるダメージを軽減させる新素材を使用したアンダーウエアだったり、タクティカルベストだったり、ボディアーマーだったりした。


 一回ガチでヒーロー物の特殊スーツを彷彿させる物が送られてきたが、一回も使用する事も無く坂城宛てに送り返した事もあった。


「これの開封は放課後だな」


「そうだね、昼休みもあと五分位しか無いし」


 時間を確認し、倉庫に鍵をかけて凰樹達は部室を後にした。


 隙あらば凰樹に抱き着こうとする竹中を警戒し、密かに楠木と宮桜姫が協力して対応していたが、元々運動神経が良くスナイパーまでしていた竹中の嗅覚に適う筈も無く、幾度となく凰樹への過度なボディタッチを成功させられていた。



◇◇◇



 放課後、凰樹達はGE対策部の倉庫内で昼間に届いた大量の装備類の分配やチェックを行っていた。


 取り合えず、武器類、衣服系の装備類、食糧、S特券等の紙類などに分類してひとつひとつ入念にチェックをし始めた。


「またS食券が届いてるな……。俺達がどれだけ食うと思ってるんだろうか?」


「S食券だけじゃなくて、食事券まであるぞ。これ緊急時特権(裏ワザ)に協力してる店で使える券だ」


「使用されると後で換金できる上に使用頻度が高けりゃ確定申告時に減税まであるちゅう話でんな。でもまあ、程々にしとくんやね」


 一緒に入っている食券はビール券などと同じ様にほぼどの店でも使える特殊金券類だ。


 この金券は使用された店が対GE民間防衛組織に提出すれば現金に換金されるほか、その金額分は丸々非課税となる為に使われた店は絶対に拒否などしない。


 とはいえ、この手の食券が一般のAGE部隊に支給される事は殆ど無いのが現状だ。


 無数に詰め込まれている紙類の分別は神坂達に任せ、凰樹と窪内は本命である装備をひとつずつ取り出してたしかめていた。


「これが防衛軍特殊兵装開発部製の新型試作型次世代特殊小太刀に試作型次世代トイガンでっか? 見た目はいつもの改造トイガンと変わりありまへんが、また特殊バレルとか内部のブラックボックスがパワーアップしとるんやろか?」


「流石にブラックボックスは弄れないからな。コレを外したり壊したりすると、どんな高純度弾を使ってもGEにダメージを与えられないって事だし」


 簡単に交換が可能な特殊バレルと違い、グリップとトリガーに繋がる謎のパーツ類はバラしたり素材を変えると特殊弾が効果を発揮しなくなる事さえあるが、逆に試作品や市販のトイガンにそれらのパーツを組み込むと政府公認の改造トイガンと同じ性能を発揮する事もある。


「この試作型次世代トイガン、チャージ機能対応型とか書いてあるけど……」


「チャージ機能? ホントだ、チャージ機能なんて怖くて使えないよ」


 部活中は竹中の口調も以前の感じに戻り、真剣な眼差しで送付されていた資料に目を通して試作型次世代トイガンの機能などをチェックしていた。


 今回の目玉機能は特殊マチェットなどに内蔵されていたチャージ機能を、改造トイガンのブラックボックスに組み込んだという事だ。


 それに伴い特殊バレル等の改良が施されており、肝心のチャージ機能はトリガーでは無くグリップにチャージボタンとして増設されていた。


「俺のM4A1カービンだけじゃなく、竹中のPSG-1や、MP7A1、P90、M16A2、それにサブウエポンの電動デザートイーグル.50AEやM1911A1(ガバメント)まであるな……」


「ランカーに昇格した隊員分の武器が揃ってまんな。ただ、夕菜(ゆうな)ちゃんや神坂はんのが無いのが残念でしかたありまへんな」


 環状石(ゲート)破壊作戦に反対し、予定していた合流前にGEに敗れて石と化していた楠木や神坂にはポイントが与えられず二人だけはセミランカーにすら昇格していなかった。


 同じ部隊と言う事でランカー用の武器を使う許可は出されているが、凰樹達以外でそんな事をする部隊が殆どないので有名無実な取り決めと化している。


 誰も他の隊員にセミランカー用の武器を貸し出したりしなくなったのは、貸し出した武器の持ち逃げや横流しが過去に横行した為ではあるが……。


「いつも通りブラックボックスだけ移植すりゃいいだろう。楠木と俺の分を頼んだぜ」


「仕方ありまへんな。その代りブラックボックス以外は前の流用でっせ」


「使い慣れてる分そっちの方がありがたい」


 竹中、荒城(あらき)、伊藤の武器は前回の戦いで粉々に破壊されている為、今回の新型試作兵器の補給は非常にありがたかった。


 と、その時、()()()を思い出した凰樹が神坂の顔を見た。


「………蒼雲(そううん)、今日は体調がいいのか?」


「いや……、残念ながら胃腸が悪くてな、今日は勘弁して貰えるとありがたい」


 神坂は胃の辺りを抑え、それが何を意味しているのか凰樹は理解していたので、今日の所は勘弁してやろうと思った。


 しかし、運命の女神はこの日の神坂に微笑んではいない。


「それは丁度良い所です~。今日の特製ドリンクは、と~っても胃と腸に良いんですよ~」


 気をきかせた伊藤はナナハンタイプの魔法瓶を取り出してその中身を紙コップへと注ぎ始める。


 見逃して貰えると思っていた神坂は、紙コップに注がれていく奇妙な色のドリンクを見て一層顔色を悪くしていた。


「甘草や桂皮、丁字、茴香に、芽キャベツ、ニラ、ニンニクの芽、それとヨーグルト()()()の乳酸菌がタップリ入った自信作だよ」


「その材料でこんな色なのか? ふつうそれだと緑っぽいだろ?」


「後の材料は内緒♪ だ~いじょ~ぶ、ちょっと苦かったけど、でもほら、胃薬とか苦いの多いし……」


 紙コップから漂うやけに甘そうな香りと、ちょっと苦いという情報が一致せず、神坂はそれを手にするかどうか悩んでいた。


「胃腸に良いのか。俺も貰ってもいいか?」


「いいよ~♪ はい輝さん」


 無敵の舌を持つ凰樹は、何食わぬ顔でそのドリンクを飲み干した。


「胃腸には良さそうだが、複雑な味だな……」


「体に良い物は少し苦かったりしますから~♪」


 意外に何でも美味しく食べたり飲んだりする凰樹のその反応に、()()()()な部類のドリンクなのかと戸惑い、手を伸ばすかどうかまだ迷っている。


 安全を選んでの拒絶と、男としての矜持を天秤にかけ、やがてそれは一方へと大きく傾く。


「ええい、俺も男だ!!」


 覚悟を決めて特製ドリンクの注がれた紙コップを一気にあおった神坂は、最初の意外に悪くない口当たりに油断し、()()()()だと胸をなでおろした。


 しかし、その後に来る異様な苦甘い後味と乳酸菌独特の酸味が口と喉で炸裂し、胃の中で存分にその本領を発揮しはじめる。


「グ……、んっ……」


 湧き上がる嘔気と戦う永遠とも思える数秒が過ぎ、どうにかそれに勝利した神坂は用意していた缶コーヒーの蓋を開けてそれを一気に飲み下した。


 ブラックの筈のその缶珈琲は、今の神坂にはやけに甘く感じられた。


「流石凰さん、よく平気な顔でアレを飲みまんな」


「あれだけは真似できないっスね………」


 平和なやり取り中も武器のチェックは続き、特殊小太刀や特殊ナイフ系の武器が凰樹用のコンテナの中に詰め込まれていた。


 送り込まれていた武器類のチェックが粗方終わり、幾つかの武器は予備として武器庫に保管される事になった。


「とりあえず、試作型次世代トイガンのチャージ機能やその他の性能は実戦で試すしかないな。何処か近場でいい場所は無いか?」


「KKS方面は殆ど安全区域になっちゃったし、少し離れた場所しかもう残って無いよ」


「この居住区域の周辺が殆ど安全区域になったから仕方が無いな。KNH方面か、KKI方面の拠点晶(ベース)でも狙うか?」


「それは週末までにどのくらい武器の調整が可能かにもよる。(たつ)、どうだ?」


「とりあえずこの試作型次世代トイガンは無改造(ノーマル)で試してみまへんか? 夕菜ちゃんや神坂はんの分はなんとかしてみます」


 新型はチャージ機能さえ使用しなければそこまで問題が無いと思った。


 しかし、竹中のPSG-1は連射機能が無い為、サブウエポンとして送られてきていたMP5KA4を装備する事にした。


「こっちの対GE民間防衛組織本部の試作兵器はいつもどおりでんな」


 窪内たちはガンケースをひとつずつ開けて、中に収められていた武器を確認し始めた。


 今迄も武器と比べて殆ど変わりの無い銃ばかりで、これならば今まで使っていた武器の方がマシと思われた。


 おそらく、前回の戦いで多くの武器を失った事を知った対GE民間防衛組織本部が、使えそうな武器を調整して送ってきたのだろう。


「向こうもこっちを心配して送ってくれたんだろうが、坂城の爺さんと同じ日に届いたのは運が悪かったな」


「あの爺さんは防衛軍の変人さんでっからな。偶にはずれもありまんが」


「対GE民間防衛組織本部の試作兵器は、いちおう全部調べた後で予備兵装かカスタムパーツ行きだな。物は良いんだけど」


「普通の部隊なら取り合いになりまっからな。少し余裕のある部隊なら、横流しも多いって聞きますわ」


 横流しは禁止されているが、わざと外装に傷を付けて中古販売業者に持ち込む者も多い。


 その武器を買って活躍する部隊もある為、最近では厳重な取り締まりをしていないという噂すらある。


「俺達を心配して送ってくれたんだ。ありがたく頂戴しておこうぜ」


「そうだな、ほかの部隊にも悪いしな……」


 全員が部室に戻り、いつものテーブルでくつろごうとした時、ドアがノックされて二人の少女が姿を現した。


「えっと、足を引っ張らないから、GE対策部に入れて貰えないかなと思って……」


「ご迷惑かも知れませんが、わたくしもGE対策部に入れて頂けないかと思いまして……」


 そこに立っていた少女、ひとりはクラスメイトの宮桜姫だったが、もう一人が誰なのか凰樹以外は判別が出来なかった。


佳津美(おまえ)はいつでも歓迎すると言っていただろう。これからもよろしくな」


「え? このお嬢さんが、荒城なのか? 髪だって長いし、格好やその言葉使いも……」


 復活した神坂が、荒城の姿を見て驚いていた。


 荒城(あらき)佳津美(かつみ)は今までの様な荒々しく着崩した格好では無く、ネクタイまできっちり締め、元々長かった髪を風に(なび)かせていたからだ。


 顔つきも優しくなり、肌の色まで白くなっている。


 どこから見ても良家のお嬢様で、男言葉を使っていたこの前までの面影など何処にも残っていなかった。


「輝さんに追いつく為にあの様な真似をしていましたが、先日の一件で追い付くなんて無理だと悟りました。ですので、せめて隣に並べる様にこの様な装いで訪ねさせて頂きました」


 手で軽く口元を隠しながらそう言った荒城。


 昔、出会った時に荒城の姿を知っていた凰樹だけは即座に荒城だと理解したが、その事が荒城の心に大きく響き心の奥にあったある想いをより一層燃え上がらせる事となった。


「で、宮桜姫さんには悪いが、此処では特別扱いはしない。入部条件を満たしてないから正式な部員として迎える事が出来ないんだけど……」


「迷惑はかけません。せめて、入部テストを受けさせてください」

 

「入部資格はAGE登録者である事、登録から半年以上経過している事、今までに最低一度でもGEとまともな戦闘経験がある事だ。宮桜姫さんは他の条件はクリアしているけど、登録してまだひと月ほどしか経ってないだろう?」


 知り合いであるからといっても、実力も分からない者にここで甘い対応はしない。


 AGE活動がどれだけ大変な事であるか骨身に浸みて知っているし、甘い判断から部隊を全滅の危機にさらしかねないからだ。


「あの防衛戦に参加したなら、経験は十分じゃないか?」


「石に変えられたのに、AGE続けてるだけでも評価の対象にはなるんじゃないかな?」


「……確かに、石化から戻った七十人のうち、AGEを辞めなかったのは僅かに三名だったか?」


「いや、正確には宮桜姫だけだ。後の二人は直接戦闘には参加しないと公言してゲート研究部に入部したそうだ」


「特券や特別待遇狙いみたいっスね。周りが全部安全区域になったから、非常招集がかからないと思ってるらしいっスよ」


 AGE登録者の特典は大きい。


 特券やポイントの恩恵だけでは無く、遅刻早退の容認、授業や試験の一部免除まである。


 また、アイドルグループのコンサートチケットなどの購入の為だけに登録している者まで存在する。


 その為、登録だけして一度も戦闘に参加しない者もいるが、登録後一年以上何も活動が無ければ資格を取り消され逆にブラックリストに登録される事すらある。


「お前達が良いなら入部テストを行うが。龍、蒼雲、準備できるか?」


「はいな~。すぐに準備しまっせ。武器は何つこうてはりますか?」


「えっと、これなんだけど……」


 ガンケースから取り出したのは日本エアガン(JAG)製のメーカーフルカスタム六十四式小銃で、グリップとストックの木目が綺麗だった。


「えっらいマニアックな趣味でんな。つこうてる人初めてみましたわ」


「最近は帝都角井製が多いからね。もう少し小型の方が使いやすくない?」


 今まで共闘した部隊でさえも一度も見た事が無いレアな装備に、窪内と楠木が興味深そうに見入っていた。


 性能は申し分ないのだが、使われない理由としては日本エアガン(JAG)製のメーカーフルカスタムは非常に高価で、この六十四式小銃であれば百万円は下らないと思われる。


 食事まで学食の半額セールや、コンビニのワゴン商品に手を出さないといけない学生AGEなどにそんな余裕などある訳も無く、性能が良いにもかかわらず防衛軍以外で使われる事は殆ど無かった。


「いろいろ試しては見たんですけど、これが使いやすくて……」


「比較的安くて性能の良い帝都角井のM16(イチロク)系が多いからな。弾は通常弾使うからマガジンは空にして貰えるかな?」


「はい、こっちが空のマガジンです」


 マガジンに詰め込まれていた弾を確認すると、おそらく一発五千円近くするであろうかなり高純度な特殊弾が詰められていた。


 おそらく、前回石にされた時の教訓として、中型(ミドルタイプ)GEを倒しうる弾を装備するようになったのだろう。


「それじゃあ、出てくるターゲットを撃破してくれ」


「分かりました」


 物陰や天井、床から仮想GEが姿を現し、宮桜姫はそれを冷静に一体ずつ処理し始めた。


 その腕は試験を監督していた窪内や神坂が感心する程で、楠木辺りと比べると宮桜姫の方が若干勝ってるとさえ思えた。


「もしかして、宮桜姫はんって掘り出しもんとちゃいまっか?」


「ああ、心臓が強いというか普通なら慌てそうな状況でも冷静にキッチリ処理してるな。このまま戦場に連れて行っても、前衛でも伊藤の護衛でも十分に勤まりそうな腕だ……」


 流石に霧養(むかい)竹中(たけなか)には及ばないが、宮桜姫は新人として迎えるなら十分過ぎる程の実力を発揮して試験を終えた。


「良かったな宮桜姫、合格だ。輝、問題無いだろう?」


「ああ、此処までハイスコアな新人はあまりいないからな」


 誤射、つまり宮桜姫は普通の新人に比べて無駄弾が極端に少なく、比較的狙いやすい場所に的を絞って攻撃していた。


 経験の少ない新人などは出現するターゲットの数が増えれば増える程焦りで冷静な判断が出来なくなり、狙いを殆ど定めずに適当にターゲットの周りを撃ち続けて無駄弾を増やして弾切れを起こすケースが多い。


 時間内であるにも拘らずマガジンが空になった時点で試験は終了し不合格となる。


 しかし宮桜姫は試験終了時でさえ残弾をかなり残していた。


「ありがとうございます、みなさんこれからよろしくお願いします」


「合格おめでとう、一緒に頑張ろうね♪」


 凰樹を狙う恋のライバルだと分かっていても同じ部隊の仲間と言うのはまた別であり、楠木も宮桜姫の加入を歓迎していた。


「まだ弾は三分の一も残ってまんな。撃破率といい、新戦力間違い無しですわ」


「後はその銃の調整か……、龍、頼めるか?」


日本エアガン(JAG)製のメーカーフルカスタムでっから殆ど弄る事は無いと思いまんが、ブラックボックス系の調整だけはしてみましょ」


 各メーカーのフルカスタムとなれば、流石に窪内クラスのカスタマーでも手を入れる部分は少なくなる。


 と言うよりも、百万以上するフルカスタムと同等以上のカスタムが出来る窪内が部隊にいるのが異常な事で、ほかの部隊はメーカーカスタムはおろか試作兵器辺りをそのまま使っていたりする。


 購入した武器をそのまま使う部隊も多く余程予算に余裕が無ければ、銃一丁をカスタムするよりも同じ予算で銃の数を揃える方を優先していた。


日本エアガン(JAG)製の予備パーツやマガジンは新規に注文しないとダメだな。この際だから各メーカーの多弾装マガジンやバッテリーを揃えておくか……」


「うちの部隊も帝都角井製が多いからな。申請するか?」


「多弾装マガジンやバッテリーなら通販系でも揃うから、そっちに頼むさ」


 対GE民間防衛組織と提携している通信販売メーカーや、トイガンショップ系も多い。


 ランカーやセミランカーがいない部隊などはそういったショップの通販を利用する事も多く、信頼度などは細かくチェックして評価されている。


 また、メーカー直販の通信販売もありこちらは値引き等は一切ないが、まず問題のある商品を送って来る事は無く急いでパーツやマガジンなどが必要となった時は此処を利用する者も多い。


「各メーカーの通販サイトで注文しておきますね~」


「何処でもポイントが使えるっていいよな」


 AGEポイントは現金としても使える為に殆どの場所で使用できる。


 かなり古い店舗だと対応してい無い事もあり、中にはいまだに現金のみ扱う店すらあった。


「銃に新戦力か……、とりあえずまた拠点晶(ベース)の破壊を続けるしかないな……」


 流石に故郷の環状石(レベル四)の破壊に向かおうとはいえない。


 そして現状の戦力では環状石(レベル四)の破壊など不可能である事も十分過ぎる程に理解している。


 しかし、凰樹は他の隊員には内緒で、数日前から密かにある事を実行していた……。


 その不可能を可能にする為の実験として…………。






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