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ランカーズエイジ  作者: 朝倉牧師
ランカーズ編
12/98

非常招集 三話

 凰樹の部隊と、普通の学生AGEの部隊の違いなどを書かせていただきました。

 楽しんで頂ければ幸いです。




 KKS二七六の防衛用の拠点のひとつ。


 そこには守備隊に所属する十人のAGEと、送迎用のバスで送り込まれた数十人の学生AGEが防衛任務に就いていた。


 基本的に迎撃用の拠点は大量に小型(ライトタイプ)GEが押し寄せる事が予測される激戦地で、防衛用の拠点は各迎撃用の拠点から流れてきた小型(ライトタイプ)GEを倒し、守備隊の退路などを守る為の比較的楽な拠点の事だ。


 防衛用の拠点には学生AGEの中で、比較的戦闘経験の浅い者が集められ、その学生AGEを守備隊に所属するAGEが様々な指示を飛ばし、無理の無い任務に就かせていた。


 しかし、守備隊の中には学生AGEを囮程度の捨て駒にしか考えておらず、彼らを犠牲にし、如何に楽をして戦果を上げようか、考えている者も多かった。


「膠着状態だね、……向こうの守備隊に連絡を入れな」


「了解しました、(あね)さん、内容はどうしますか?」


 守備隊の隊長、久地縄(くちなわ)(ともえ)は朽ち縄とも呼ばれる残忍な性格で、過去に何度も学生AGEを囮にし、自分たちだけが生き残って戦果と報酬を丸飲みしていたのだが、確たる証拠が無かった為、今も守備隊とAGEを続けていた。


 AGEに登録したての頃は、献身的に味方の援護を行っていたが、何時の頃からか、他人を犠牲にして生き残る残忍な人食い蛇(クチナワ)へと豹変していた。


小型(ライトタイプ)GE、尚も増加中、迎撃に向かった学生AGEは被害甚大、事態収拾の為、守備隊の決死隊による拠点晶(ベース)破壊を決行する。KKS二七三方面の守備隊は、増援の小型(ライトタイプ)GEに注意されたし。以上!!」


「被害甚大ですか? そこまでの被害は出て………。まさか」


KKS二七六(この地区)拠点晶(ベース)に斬り込むにゃ、周りにいる小型GE(雑魚)が邪魔だろ?」


 現状、事態はやや膠着状態であり、KKS二七三方面の拠点晶(ベース)付近で小型(ライトタイプ)GEを凰樹達がかなりの数を押さえていた事もあり、KKS二七三方面にある他の迎撃用拠点や防衛用拠点はかなり優勢な状況で戦う事が出来ていた。


 このままでは碌な戦果も挙げる事が出来ず、また、凰樹達と組んでいた為、かなりの戦果を挙げると予想されている桐井の存在もあり、守備隊でデカい顔をし続けるには、それなりの戦果を挙げる必要があった。


「相変わらず怖いお人だ。誰に持ちかけますか?」


 部下にそう問われ、久地縄は先日AGEに登録したばかりだという一人の少女の顔を思い浮かべた。


 周りの男どもからチヤホヤされ、同じ学校のAGEが揃ってその少女のフォローに回っていた。


「さっき、世間知らずの(人の好さそうな)嬢ちゃんがいただろう? あの嬢ちゃんに頼みゃいいさ」


「周りの学生AGEが黙ってませんよ?」


「なに、数十分程度別方向に進む事位、作戦次第ではよくある事さ」


 それらしい理由と作戦を考え、その少女の周りにあまり人が居なくなった時に久地縄はある作戦を実行した。


「攪乱作戦ですか? えっと、それは一体……」


「なに、このまま戦い続ければ、そのうち囲まれて全滅なんて真似になりかねないからね。そこで、この先の十字路まで進軍して三方向に一時的に別れ、一定数小型(ライトタイプ)GEを押さえて援軍を待つって算段さ」


「援軍なんて来るんですか? 来てくれるなら私達も助かるんですけど……」


 少女は周りの友達を呼び、その事で相談し始めた。


 これはまずい……。


 久地縄はそう考え、この少女だけなら騙しやすいと思ったが、周りの男どもが難色を示しそうなのでそれらしい話を持ち出す。


「どうやら、KKS二七三方面(むこう)は上手くいってるらしくてね。こっちに回れそうな部隊を寄越してくれって知り合いの部隊に頼んだんだよ」


「時間はどの位ですか? 俺達だけだと、そこまで戦い続けられません」


「二~三十分って所かね。実際に戦う時間は十分程度だよ」


 近くに居た男が何かを考え、少女に状況を説明していた。


 過去にも似た様な作戦は何度もあり、一定の戦果はあげる事が多かった。


 問題は作戦の危険度だが、小型(ライトタイプ)GEだけならば問題無いと考えられなくもない。


「分かりました。どういった形で部隊を分けますか?」


「うちの守備隊だけでひとつ、そちらの部隊を半分に分けて、中央と右側を担当して貰いたい」


「左側は拠点晶(ベース)に近いですけど、守備隊の人間だけで大丈夫ですか?」


 学生AGEの数は現状で約七十人。


 それに対して、守備隊の人間は十人しかいない。


守備隊(うち)の隊員を舐めて貰っちゃ困るね。なに、小型(ライトタイプ)GEに遅れなんて取らないさ。準備を済ませたらすぐに行動を開始するよ」


「分かりました、ではこちらも作戦に移ります」


 この作戦、それらしく見えるが、問題はこの先の十字路の先にあった。


 一見、小型(ライトタイプ)GEは前方三方向の道から攻めてきているように見えるが、左側はその数百メートル先の橋が崩れ落ちている為、実際には飛行タイプ以外のGEは中央と右側の道からしか小型(ライトタイプ)GEは攻めて来ていない。


 左側の道は拠点晶(ベース)に居る一割に満たない数の小型(ライトタイプ)GEを処理すればいいだけで、他方向からの援軍さえ来なければ拠点晶(ベース)の元に辿り着く事も容易と考えられていた。



◇◇◇



「向こうは納得してくれた。あの嬢ちゃん、世間知らずだと思ったけど思ったより扱いにくかったね」


「そういえばあの顔、何処かで見た気が……。思い出した、あの女は宮桜姫(みやざき)家の長女じゃなかったですか?」


「宮桜姫家って大地主のかい? そりゃ温室育ちの筈だね。環状石(GATE)が出て来る前に持ってた土地が高騰して相当儲かったって話だよ」


 宮桜姫家は元は広大な荒地だった安全区域の土地を半分近く所有しており、国が纏めて買い叩いた時の額ですら以前の価格の一万倍以上の値が付いた。


 国が居住区域を作る為に宮桜姫家が所有していた土地を強制的に買い取った為、税金などもかなり優遇されて莫大な額を手にしたという話だ。


 今では住まいを居住区域で一番安全な中心部の大きな庭付きの屋敷に移し、そこでGEの脅威とは無縁な生活を満喫していた。


「良いんですか? あの女に何かあれば面倒な事になりませんか?」


「戦場にいる以上、此処に特別な人間なんていないんだよ。GEに襲われりゃ、誰だってただの石像になっちまうんだからね」


 今迄も良家の坊ちゃん嬢ちゃんが何を考えたのか、安全な地位にありながら親などに黙ってAGEに登録し、戦場でGEに襲われて石像に変わるという事件が起こっている。


 札束で頬を叩き、誰も彼も言いなりにしてきた彼らはGEに対しても特別であると錯覚し、多くは無茶な突撃を仕掛けて自滅するパターンがよく知られていた。


拠点晶(ベース)破壊用の特殊ランチャーを用意しな」


「桐井の名で申請したあれですか?」


「そうさ、身内のセミランカーは利用しなけりゃね」


 ランキングではかなり下になる久地縄に拠点晶(ベース)破壊用の特殊ランチャーの申請が通る筈も無く、桐井の名を使って申請してポイントで支払いだけ済ませていた。


 桐井はその事を知っていたが、拠点晶(ベース)破壊用の特殊ランチャーはいつか必要になるだろうと判断して久地縄にその事を追求はしなかった。



◇◇◇



「それじゃあ、作戦を開始するよ。援軍が来なければ三十分後に撤退、それまでは頑張って支えて貰いたいねえ」


「了解しました。そちらも気を付けてください」


 学生AGEの中で、戦歴の長い者がそれぞれ指揮官として名乗りを上げ、三十五人ずつの混成部隊を率いて右側と中央の道を進み始めた。


 この時、三方向それぞれに存在する大きめの紅点の意味を誰一人として理解していなかった……。


「この先の紅点、ちょっと大きいけど、小型(ライトタイプ)GEがこれだけいるから重なって表示されてるんだろう」


「あるある。たまに拠点晶(ベース)と間違える時ってあるよな」


「あの……、それってこの紅点の事ですよね? 他のGEって可能性は無いんですか?」


「こんな所に大型(ヘビータイプ)GEなんていないし、中型(ミドルタイプ)GEだって滅多に居ないから」


 中型(ミドルタイプ)GEの数には限りがある為、拠点晶(ベース)付近に攻め込まなければ、レベル2程度の環状石(ゲート)が支配するエリアでは滅多に遭遇する事は無い。


 更に言えば凰樹の部隊が結構な数の中型(ミドルタイプ)GEを倒している為、今現在存在する中型(ミドルタイプ)GEの数は、残り二体を除いて二週間程は復活しない計算になっている。


「あの鼠みたいなGE、少し大きくありませんか?」


「どれ? あ…、あのサイズ。大変だ!! 中型(ミドルタイプ)GEが一匹混ざってる!!」


中型(ミドルタイプ)GE? 俺達の使ってる特殊弾(コレ)じゃ、止め(トドメ)が刺せないぞ。攻撃力が足りない!!」


 右側のルートに進んだ宮桜姫達の前に、尻尾が毒蛇(マムシ)になっている、体長一メートル以上の大きさを持つ中型(ミドルタイプ)GEが姿を見せた。


 百匹を優に超える小型(ライトタイプ)GEの群れの中に一匹だけ存在しており、その紅点の塊を全て小型(ライトタイプ)GEだと誤認していた。


 学生AGEに凰樹の部隊の様な装備を揃えさせるなんて真似は無理な相談で、使用している特殊弾も普段凰樹の部隊で使っている一発十円ほどの低純度弾だった。


 中には出所の怪しい特殊弾を使っている部隊があり、その弾は時々GEに命中しても効果を発揮せず何事も無かったかのように地面に落ちるなんて事もしばしば起こっていた。


「誰か、高純度弾持ってないか? 特殊マチェットか特殊ナイフでもいいけど……」


「誰もそんな(もん)持ってねーよ!! どうすんだよ? 撤退するか?」


「まだ五分も経ってない。あと二十五分持ち堪えないと……」


 この状態でもまだ作戦を順守しようとする者も多く、中型(ミドルタイプ)GEに低純度弾を撃ち込みながら周りにいる小型(ライトタイプ)GEを撃破し続けていた。


 もし仮に凰樹や神坂などがこの部隊を指揮していて、今のこの部隊の様に中型(ミドルタイプ)GEを倒す手段を持ち合わせていなければ迷う事無く最初の防衛拠点まで撤退する事を選んでいただろう。


 しかし、混成部隊であった事も災いし、当初の作戦を続けようとする者も続出した為に撤退という選択をする事が出来ないまま次第に小型(ライトタイプ)GEの群れに退路を塞がれ始めていた。


「おい、二年の坂本が特殊マチェット三本持って来てるって」


「それ本物か? 前に握りん所だけ作り直した偽物持ってたやつがいたし、確認しろ」


「大丈夫、トリガー引いたらゲージが減ったし。本物っぽい」


「ゲ、ゲージが減るのか? おい、誰かアレ使って中型(ミドルタイプ)GEにトドメ刺す奴いないか?」


 この状況で無くてもゲージが減る武器を好んで使う人間はいない。


 更に言えば、例え動きが鈍くなったとはいえ、中型(ミドルタイプ)GEに白兵戦を挑む勇者などそうそう現れなかった。


「わ…私にひとつ使わせてください」


「え? み…宮桜姫さんが?」


「はい。私は今までほとんどゲージを消費していませんし、あの大きな鼠にこれで斬り付ければいいんですよね?」


「それはそうだけど……。よし、俺がひとつ使うから、宮桜姫さんも一緒に来てくれるか?」


「お…俺も一本使うよ。まだゲージは八十本残ってるし……」


 三本ある特殊マチェットのうち、一本を宮桜姫、残り二本のうち一本を二年の坂本、最後の一本をこの混成部隊を指揮していた三年の井瀧が手に取り鼠型MIX-A中型(ミドルタイプ)GEに斬り込む事が決定した。


「あの鼠、全身傷だらけになって、かなり動きが鈍くなったぞ」


「今ならいけるか?」


「よし、他の皆は小型(ライトタイプ)GEを頼む、行くぞ!!」


 宮桜姫達三人は隊列から飛び出し、動きの鈍くなった鼠型MIX-A中型(ミドルタイプ)GEに目掛けて突撃を敢行した。


 周りに居る無数の小型(ライトタイプ)GEを切り倒しながら、赤黒い傷跡を晒す中型(ミドルタイプ)GEに数メートルまで近づいた時、上空から(アブ)をベースにした数十匹の飛行タイプ小型(ライトタイプ)GEが全身に顔から延びた管や、胴体から生えるヤモリの頭で三人に襲いかかった。


 最初の一撃で三人の左手に装備したリングのゲージが半分の五十まで削られ、表示された文字なども黄色からオレンジへと変化していく。


「身体が……重い……、力が入ら……、あ…ごめんなさい、武器を……」


 GE攻撃を受け、突然、激しい疲労感に襲われた宮桜姫は手にしていた特殊マチェットを持ち続ける事が出来ずそれを地面に落した。


 身に付けていた対GE用の装備もボロ布の様な姿に変わり、細くて白い腕や、形の良い乳房などが露わとなっていたがそれを隠すだけの体力もすでに持ち合わせていなかった。


「み…宮桜姫さん達が襲われてる。誰か!! あのGEを倒して……」


「もう無理だって。あの状態からは助けられねえよ!!」


「お前!! 見捨て……、ああっ!!」


 三十五人の混成部隊を取り囲んでいた小型(ライトタイプ)GEの群れは、上空と地上から同時に襲いかかり、そこにいた学生AGE達からゲージを奪いつくして彼らを次々と石像へと変えて行った。


 逃げようとした姿で石像に変わった者、最後まで戦い抜き、視界が灰色に染まるまで銃を撃ち続けた者、石と化した仲間の姿に驚き恐怖に歪んだ顔で石像に変わる者など様々な格好で一か所に集まった三十二体の石像が完成した。


 中型(ミドルタイプ)GE付近で襲われた宮桜姫もリングの表示が赤に変わり、先に石像へ変わった坂本と井瀧を焦点の定まらない瞳でみつめながら最後の時を迎えようとしていた。


「お……凰樹く…ん……」


 虚空に向かって最後にそれだけを呟き、宮桜姫はこの場に存在する三十五体目の石像と化した。


 宮桜姫が石像に変わった時、もう一方に進んでいた三十五人も無数の小型(ライトタイプ)GEに取り囲まれて殆ど抵抗らしい抵抗も出来ないままに全員が石像へと姿を変えていた。


 そして、拠点晶(ベース)の破壊に向かった久地縄達も計画通りに楽に拠点晶(ベース)まで辿り着ける筈も無かった。



◇◇◇



「ちくしょう!! なんであんなのが此処に居るんだよ!!」


 凰樹が倒した大型(ヘビータイプ)GEと同じヒキガエル型のGEが拠点晶(ベース)の前に陣取り久地縄達十人の前に立ちふさがっていた。


 周りにいた小型(ライトタイプ)GEは殆ど倒し、後は大型(ヘビータイプ)GEとその後ろの拠点晶(ベース)だけだったが、その拠点晶(ベース)への攻撃が出来ず膠着状態に陥っている。


(あね)さん、あいつをなんとかしないと、後ろの拠点晶(ベース)にランチャーの弾が……」


「そんな事は分かってるよ!! よし、私達八人であいつを引き付ける、お前は何とか隙を見て拠点晶(ベース)を破壊しな」


「……了解です」


 このままでは学生AGEを囮にしてまで拠点晶(ベース)を破壊するという作戦自体が失敗し、莫大な犠牲を出しただけの無能者の烙印を押される事は間違いなかった。


 それどころか、このまま何の手柄も無く守備隊に帰れば学生AGEを犠牲にした責任すら問われかねない。


 それだけは何としても避けたかった。


「よし、あのデカブツにありったけの高純度弾を叩き込むよ」


「了解!!」


 久地縄達八人は、一発五百円ほどの特殊弾を装填したAK47を手に、ヒキガエル型GEの右方向に動きながら無数の特殊弾を撃ち続けた。


 しかし、その程度の純度の特殊弾でヒキガエル型GEにダメージなど与えられる訳は無く、殆ど無傷なままの大型(ヘビータイプ)GEの攻撃に久地縄達は晒される事になった。


「くっ…、あの舌、なんて威力だ……。ゲージを……、一気に六十も…減らし……」


「蟷螂の鎌も、あんな位置まで伸びて来るなんて……、ああっ、磯松が石に変わっちまった」


 八人いた久地縄とその部下は徐々に数を減らし、拠点晶(ベース)破壊用の特殊ランチャーを持った鹿納(かのう)猿渡(さるわたり)が射程距離まで拠点晶(ベース)に近づいた時、石像に変わっていないのは久地縄だけになっていた。


「もう力が……、情けないね、あれだけの学生を、囮に使って……此処まで意地汚く生き抜いて来たって言うのに……」


 ヒキガエル型GEは長く伸びる舌を鞭の様に使い、久地縄の身体を守る特殊素材の布ごと生命力(ゲージ)を奪い取り、そして殆ど動けなくなった久地縄に最後の一撃を叩き込んだ……。


(たくみ)……、ごめんよ。おねえちゃん、やっぱりダメな人間だったよ……』


 遠くの廃棄地区で石像と化した弟の顔を思い出した時、ヒキガエル型GEから強力な舌での一撃を受け、それがトドメとなって久地縄は石の像へと姿を変えた。


 久地縄が石の像へと変わったのと、猿渡(さるわたり)が放った特殊ランチャーが拠点晶(ベース)に命中し、粉々に砕け散ったのはほぼ同時だった。


 影響力が急激に低下した事により大型(ヘビータイプ)GEであるヒキガエル型GEは苦しみはじめ、大きな身体を引き摺りながら影響力が及んでいるエリアへと向かい、他の防衛軍から連絡を受けてこの場所に向かっていた凰樹に発見され、僅か一太刀で真っ二つに切り裂かれてあっけなく消滅した。



◇◇◇



「宮桜姫さん……」


 今朝まで一緒の教室で過ごしていたクラスメイトの石像を前にし、凰樹の脳裏でそれが六年前、生まれ故郷の街で石像に変わった姉の絢音(あやね)や母親の姿と重なった。


『また助けられなかったのか? また助けられないのか? 姉さんも母さんも、宮桜姫も、他の皆も……、防衛軍も、守備隊も、大人は無理だと言って、きっと誰も助けてくれない、誰も話を聞いてくれない、だれも……、誰も……。だったら…………、だったら、俺が!!』


 凰樹の脳裏で何かが渦を巻き、そしてある作戦へと変わり始めていた。


「B組の高島さんに…、D組の柴岡君も……」


「向こうも(ひっど)いありさまでんな。それと、半死の中型(ミドルタイプ)GEが一匹残ってたんで処理しときました。しかし、守備隊や二年や三年のAGE登録者も居たのに、何が起きはったんや?」


 状況から考えれば、学生AGEを囮にして守備隊に所属するAGEが拠点晶(ベース)の破壊に向かった事が容易に想像できた。


 しかし、途中で出会った大型(ヘビータイプ)GEのヒキガエル型GEがいたという事は、全員で拠点晶(ベース)方面に向かっていたとしても、結果は同じだっただろう。


 石像に変わる場所が、この付近に変わるだけだ。


「俺達の勇み足だ。すまん」


「詳しい話は守備隊で聞くわ。無事で済むとは思わないでね」


 合流した同僚の鹿納(かのう)猿渡(さるわたり)に対し、桐井は淡々とした口調でそれだけを言い放った。


 もう少し一緒に居ればその顔を思いっきり殴り飛ばしたくなる為にその場を離れ、近くの守備隊員を呼び寄せて学生AGE達を運んできたバスに石像と化した彼らを乗せて一人残らず移送した。


 この作戦中にGEとの戦いに敗れ、石像と化したAGE達は百二十一名。


 そのうち、半数以上を占める七十人が永遠見台高校(とわみだいこうこう)の生徒であり、GE対策部先代部長の堀舘(ほりだて)護哉(もりや)が出した犠牲者の数を上回るという大惨事となった。


 更にこの戦いでは隣にある永遠見台付属中学とわみだいふぞくちゅうがくの学生AGE十名が犠牲となり、石像と化した姿で無言の帰還を果たしていた……。





 読んで頂きましてありがとうございます。

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