GATE・ENEMY
新作小説で、絶望的な世界で敵と戦う少年少女の物語になります。
現代を舞台にしていますが、石化などの特殊な表現が出てきます。
色々設定などがあり、読みにくい点もあるかもしれませんが、楽しんで頂ければ幸いです。
二〇一六年六月十二日。
現在時刻は午後三時二十四分。
昨日まで降り続いていた雨が地面に無数の水溜りを作っているうえに灰色の雲が空を覆っているが、天気予報を信用するならばこの後天気は回復に向かうはずだ。
特殊ゴーグル越しの瞳に映るのは廃墟と化して数年が経ち、朽ちてひび割れたアスファルトから雑草が生い茂った何処にでもある住宅街で、そこを駆け抜ければ湿気の多い蒸し暑い風が僅かに剥き出している頬をかすめた。
その住宅街ではまるで彫刻の展示に力を入れている美術館の様に、彼方此方で人の姿を模した石像が乱雑に立ち並んでいる、それも人だけでなく犬猫やカラスなど様々な動物の石像も数多く見られ、どの石像も細部に至るまで作り込まれた精巧な作品だ。
その石像の立ち並ぶ廃墟と化した住宅街で、先月十六歳になったばかりの少年、凰樹輝は【GE】と呼ばれる異形の生物と幾つものポイントで戦闘を行っている。
GEは正式には【GATE・ENEMY】といい、一九七五年に世界中に突然現れた、ピンク色をした鉱石の環状石から出現した、世界の敵とも言える異形の魔物だ。
この住宅街周辺に点在するGEを討伐する為、凰樹は六人の仲間と共にこの場所を訪れて朝の十時から既に五時間近く戦闘を繰り返していた。
途中で何度か休憩を挟んでいるとはいえ、長時間の戦闘で体力にかなり自信のある凰樹でもかなり体力を消耗していたが、それでも足を止める事も無く石像の点在する住宅街を走り続けている。
凰樹は対GE用の装備に身を包んで錆付いた自動販売機や長い年月放置されてタイヤの空気の抜けた軽トラックを軽快にかわして団地の奥深くを目指して突き進む。
地面の水溜りを特殊ブーツで踏む度にドロが混ざった水飛沫が辺りに飛び散るが、そんな事にはお構い無しに目標のポイントへ急いだ。
◇◇◇
「レーダーに映る紅点は次の曲がり角の四件先か……、っと」
住宅街をひた走る凰樹の目の前に突然、人影が飛び込んできた。
一瞬、隊員の誰かかと思ったが別のポイントを目指している仲間が目の前に居る筈も無く、すぐにそれが立ち並んでいる石像のひとつだと分かった。
その石像はあまりにも精巧に作られていた為に何も知らない人が見たとしても、人の手で作り出されたとは思いもしなかっただろう。
「大下さん家の娘さんか。そういえば、この地区の石像はまだ回収対象になってないから、襲撃の日に逃げ遅れて、そのままなんだ……」
この石像はGEに襲われて生命力を奪われ、その身を石に変えられた少女の変り果てた姿だ。
少女は家から飛び出した所をGEに襲われたようで、振り乱した髪の毛はそのまま空中で石に変わり、何かを押え付けて抵抗したと見られる右手もそのままの形で動かなくなっていた。
左手首の生命力量を知らせるリングのゲージは灰色に変わり、黒い文字で二〇一三年十月三十日と表示されている。
石像に変わった少女の顔に刻まれた恐怖と絶望の表情に、一瞬、顔を曇らせた。
今まで他の住宅街で出会ってきた多くの石像も同じ様な表情をしていたが、この表情を見るだけでこの住宅街がGEの襲撃で壊滅した時の恐怖と混乱を伺い知る事が出来た。
「少しだけ待ってろ。僅かでも生き返られる可能性をやるからな」
言葉を噛み締める様に呟いて、凰樹は再び目標のポイントに向かって走り出した。
◇◇◇
「凰樹だ、情報を貰った第五ポイントの紅点を肉眼で確認。主力は中型GE、兎と蝙蝠の魔族合成動物種と判明。数は二。その他に蜘蛛と蜥蜴のMIX―A、小型GEが……、八」
曲がり角の家の白壁に身を潜めてGEの姿を確認する。
MIX―Aと呼ばれた中型GEは兎の背中に生えた不釣合いな蝙蝠の翼を広げ、近くに潜んでいる凰樹の気配に気が付く事も無く、キィキィと耳障りな鳴き声をあげながら辺りの様子を伺っていた。
二匹の中型GEは翼を除いて体長九十センチ程の大きさしかなかったが、油断出来る相手ではない事を、凰樹は過去の経験で十分に知っていた。
その周りに体長四十センチほどの、蜘蛛の頭部を持つ蜥蜴が八つの黒く丸い目で辺りを見回していた。四対八本の蜘蛛の足が蜥蜴の胴体から伸び、その先端だけが蜥蜴の足の形をしている。
小型GEは見た目は醜悪だが、この位の数であれば特に脅威では無い。
この住宅地が壊滅した時には数千、数万とも言われる小型GEが地面を埋め尽くして襲い掛かったと言う話だったが、この辺り一帯が壊滅して時間が経った今では、稀に数十匹の群れを見かける位だった。
「こちら神坂。予定通り第六ポイントで中型GE、鼠と蛇のMIX―Aを肉眼で確認。数は三。辺りに他の、小型GEの姿は無し」
凰樹の仲間で別働隊の神坂蒼雲も、インカム付きの特殊ゴーグルの小型ディスプレイに表示されたGEを示す紅点に近づき、敵の種類を確認した。
神坂の他にも数人の仲間が存在するが、中間地点や後方に待機し、凰樹からの次の指示を待っている。
「しっかし、伊藤の情報だったとはいえ少し眉唾だったが中型GEだけで行動ってホントに珍しいよな。紅点とGEの数は間違い無いが……、輝、敵が強くないか、コレ? 三匹とはいえ全部中型だぞ?」
凰樹は神坂から携帯型の端末に送られてきた画像を確認した。
鼠と言ってもその大きさは一メートル以上あり、おぞましい事に尻尾が毒蛇になっている。
本来餌とする鼠の後ろで、シッポと化した毒蛇が何かを威嚇する様に鎌首を持ち上げている姿は滑稽に見えなくも無い。
「大丈夫だ蒼雲、そいつは見た目ほどは強くない。こっちのGEは俺が処理するから、霧養、竹中、窪内は出来るだけ急いで蒼雲の援護に向かってくれ。蒼雲は三人が合流した後で戦闘を開始。どちらか一方がGEを殲滅したら合流して残りを挟撃する」
神坂に何気無く答え、右手で帝都角井製政府公認の特殊改造エアーガンを構えてセーフティロックを解除しセミオートに切り替えて、十数メートル先で蠢く十匹のGEに狙いを定めた。
弾倉に詰められているBB弾も対GE用に開発された特殊弾で、頼りない事この上ないが、コレがGEに有効な数少ない武器のひとつだ。
何かを感じ取ったのか、第五ポイントのGEが一瞬動きを止める……。
刹那の好機、それを凰樹が見逃す筈も無かった。
「仕掛けるぞ!!」
凰樹は身を隠していた白壁から飛び出し、同時にM4A1カービンのトリガーを絞る。
シュパパッ、シュパパッと、エアーガン特有の発射音があたりに響き、薄っすらと光る無数の特殊弾がGEに撃ち込まれ特殊弾がGEに触れた瞬間、特殊弾は激しい閃光と共に花火の様に弾け飛んだ。
その攻撃で全身に赤黒い傷を負ったGEは甲高い悲鳴のような声を上げて、敵を探す為に周囲に視線を巡らせる。
特殊弾を浴びて深い傷を負ったGEの体からは一滴の血も流れる事は無く、代わりに傷口が赤黒く不気味に光っていた。
凰樹は次々に標的を変えて無駄弾を押さえつつ効率的にGEを撃ち続け、特殊弾を受けたGEは傷が増えるたびに動きが鈍くなってゆく。
数秒遅れてインカムの向こう側からエアーガンの発射音が響き、第六ポイントでもGEとの戦闘が始まった事を知った。
時折聞こえる神坂の的確な指示に感心しながら、凰樹が目の前のGEに意識を集中させると、急襲した敵の姿を確認する為に二匹の中型GEが血の様に赤い瞳で周囲を見渡していた。
悍ましいその瞳を見れば並みのAGEであれば恐怖で動けなくなるところだが、しかし、戦闘経験豊富な凰樹は、中型GEの瞳に特殊な力が無い事を熟知しているので恐れる事は何も無い。
「ウスノロめ、ようやくこっちに気がついたか。だけど……、遅い!!」
凰樹が数匹の小型GEに十発近い特殊弾を撃ち込むと、甲高い断末魔をあげてGEのその身が砂の様に崩れ去る。
小型GEの身体が崩れ去り、その後にはGEの身体はまるで初めからそこに存在していなかったかのように、飛び散った身体の欠片さえ残されていなかった。
そして、消滅したその後にはGEの代わりにおはじきと同じ位の大きさ程の光る鉱石が残されていたが、そんな物には目もくれずに凰樹はGEとの戦闘状態を維持している。
消滅したGEの後ろから残りの小型GEや中型GEが姿を現すが、凰樹は地面を蹴って十分な距離を取り、空になったマガジンを一瞬で入れ替えて特殊弾を再度フルオートで叩き込んだ。
僅か数分の戦闘で全ての小型GEを殲滅し終え、後は全身に特殊弾を叩き込まれて体中を赤黒く染め上げた中型GEを残すのみ。
怒りを露にした二匹の中型GEが凰樹に向かって突進するが、今までに受けたダメージが大きすぎ、既にその動きは芋虫の這う速度よりも遅かった。
「やっぱりコレじゃないと中型GEの止めはキツイか。蒼雲達に持たせてる止め用の高純度特殊弾でもいいんだけど……」
凰樹はM4A1カービンを背中のベルトに固定し、代わりに左の腰にぶら下げていた刀身五十九センチの特殊マチェットを引き抜く。
薄っすらと刀身の光るそれを右手に構え、アスファルトを力強く蹴って動きの鈍くなった中型GEに肉迫し、地面スレスレの位置からGEを一閃に斬り上げて反す刀で止めとばかりにもう一度水平に薙ぎ払った。
GEの体が大きく切り裂かれ、断末魔の悲鳴と共に砂の様に崩れ去る。
後にはビー玉と同じ位の大きさの薄っすらと光る謎の鉱石が残されていたが、それを回収する事無く、もう一匹の中型GEに斬りかかった。
――――時間が無い、蒼雲達と少しでも早く合流しなければ……。
作戦行動に厳密な時間制限がある訳では無いが、戦いが長引けば長引く程状況は不利になり、目的としている場所に辿り着けなくなる可能性まであるので、少ない人数を更に分けるこんな作戦を実行していた。
目の前の敵に確実に止めを刺してもいないのに、別の事を考えた凰樹のわずかな油断。
その一瞬を瀕死のGEは見逃さなかった。
半死の状態とは思えない素早い動きから驚くべき跳躍を見せ、その口に生える鋭い牙で左の足首に噛み付こうとしたが、その動きに反応した凰樹は左手首に装着されているリングの機能を使ってシールドを発生させ、それで襲いかかってきたGEを弾き飛ばした。
GEに襲われた事によるダメージは無かったが、代わりに僅かに一瞬ではあるが体力をゴッソリ持っていかれるような疲労感が襲い掛かる。
振り下ろした特殊マチェットを弾き飛ばされて地面に叩きつけられたままの中型GEに深々と突き刺し、今度こそGEが消滅した事を確かめた。
「直接のダメージじゃないけど、ゲージは……、一つ減ったか……」
左手首に着けている銀色のリングに表示された緑色のゲージが八十七本になり、表示されている色が緑から黄緑へと変化した。
このリング自体は二〇〇一年に政府から全国民に支給されて装備を義務付けられた物だが、このゲージの表示は装着した者の生命力とリンクしているらしく、GEに襲われてこのゲージが一本も無くなった時に人はその身が石に変わる。
最初のGEが人類の前に姿を現して二十五年も経つが、GEに襲われて生命力を奪われた人が何故石に変わるのか、そのシステムは未だに解明されてはいなかった。
「凰樹だ、こちらは片付いた。直ぐに援護に向かう」
「はいな~、こっちは四人で囲んで集中砲火中。流れ弾に当たっても痛いだけやけど、気い付けてや~」
蒼雲では無く、窪内から返信があった。
通常、特殊BB弾は人に当たってもGEに撃ち込んだ時の様に弾け飛びもしなければ、大怪我をする事も無い。
ゴーグルが無い状態で特殊BB弾が目に直接当たれば、最悪の場合に失明する事もあるが、特殊ゴーグルを装備している今はその心配は無い。
「了解。無理するなよ」
それだけを伝え、凰樹は第六ポイントに向かって走り始めた。
◇◇◇
午後三時五十二分、神坂達と合流した凰樹が特殊マチェットで三体の中型GEに止めを刺して、無事に第六ポイントでの戦闘は終了した。
GPSを利用したレーダーを確認し、辺りに他のGEが存在しない事を確かめて、五人はこの日の最終目標である住宅街最深部にある公園に向かった。
団地内にある小さな公園にはブランコと滑り台しかなかったが、これでもこの住宅街が平和だった頃にはたくさんの子供が集まり、笑顔と笑い声の絶えない子供達の憩いの場だった。
今ではあの日に逃げ遅れた三人の子供の石像が立ち並ぶ、恐怖と悲しみの傷跡の消えない場所に変わっている。
公園の中央、象の形をしたみずいろの滑り台の横に、高さ十センチほどのピンク色の水晶の様な物が地面から筍の様に生えていた。
【拠点晶】と呼ばれるそれは、長くGEに支配された地区に発生する物として知られ、今まで拠点晶が環状石に成長したという記録はないが、長い年月放置していればやがてゲートに成長すると言われていた。
「レーダーの反応通りだ。やっぱりここに生えてたな。じゃあ輝、いつも通り頼む」
「ああ、まかせろ」
凰樹は特殊マチェットを引き抜き、右手の人差し指で柄の部分にあるトリガーを押しながら精神を集中させる。
はじめはぼんやりとしか光っていなかった刀身が、徐々に眩い光りを放ち始めた。
「砕けやがれ!!」
光り輝く刀身に貫かれた拠点晶は大きくひび割れ、ガラスが砕けた時の様な甲高い音を立てて粉々に砕け散り、砕けた拠点晶の欠片は光る鉱石に変わってゆく。
凰樹達は今回の作戦で最大の戦利品であるその地面に転がる光る鉱石を拾い集めた。
「これでこの辺りの危険度は下がる。石に変えられた人の移送が始まるだろうな」
「野晒しは可哀想だからね。本当は全員移送したいんだろうけど、GEが多いとそれも出来ないから……」
「石化が解除される事は稀だけど、このままの恰好ってのは可哀想っスよね」
何故か分からないがGEに人や動物を傷付ける能力は無く、爪で斬り付けられたり、鋭い牙で噛み付かれても身に付けている衣服は破壊されるが、襲われた人の身体に傷ひとつ付く事は無い。
その為、GEに襲われて石に変えられた人はボロボロに破壊された衣服を着たまま石像に変わり、最悪、一糸纏わぬ姿で襲われたその場所に石像として存在し続ける事すらある。
石像に変えられた人の何割かは保管所に移送され、男女別に分けられて特殊な布で身体を覆われ、衝撃緩和材などで保護された上で保管される。
石化前に持病があった人や治療中の病気があった人なども可能な限り調べられ、そういった人たちは石化が解除された時の為に病院に近い場所に建てられた保管所に運ばれている。
もっとも、環状石が破壊されて石化が解除される事態など、滅多にありはしないのだが……。
◇◇◇
「ちょっと輝~~。な~んで、今回も私達に戦闘の指示が無いのよー。 私と聖華の事、忘れてるんじゃない?」
突然インカムから聞こえたのはバックアップ担当の楠木夕菜の声だ。
もう一人の伊藤聖華と一緒にノートパソコンを使って住宅街周辺のGEの索敵を任せていた。
凰樹達は二人の事を忘れていた訳ではなく、目の前に居るGEの殲滅と拠点晶の破壊を優先しただけだ。
「おいおい、輝は聖華には接近してくるGEの警戒と索敵。夕菜には聖華の護衛を任せてるだろ? 一歩間違えればGEに囲まれて、最悪、俺達も石に変えられてここに並んじまうんだから、見張りをしっかり頼むぜ」
「護衛ったって、この数ヶ月まともに戦闘が無いじゃないの!! それに聖華の護衛なら紫でも問題ないでしょ?」
「拠点晶が無事に壊せたんだったら、この辺りはか~なり安全になってますよね? レーダーにも紅点は存在しませんよ~。それに楠木さんの言うように、同じ女の子なのに竹中さんだけ毎回戦闘要員なのは、ちょ~っとかわいそうだと思いま~す」
「そうよ! 紫も黙ってないで何とか言ったら?」
「私はGEが倒せれば問題無いわ」
今回戦闘部隊に参加した唯一の女性隊員、竹中紫は興味無さそうな声で答え、温くなったアルミパウチ入りのスポーツドリンクを口にしていた。
「はいはい、お二人さん、ゆかりんが困ってますやろ? GEとの戦闘が無いならいいじゃーないですか~。後ろのお二人さんに危険がある様なら、こっちの状況は激ヤバですって」
戦闘が終わって緊張が解けたのか、それぞれが通信に割り込んで好き勝手に話し始める。
そんな会話をよそに凰樹は拾った直径三センチ程の光る鉱石を握り締め、回収用のポーチの奥に無造作に詰め込んだ。
拠点晶が破壊されるとその周辺のGEの支配力が落ち、小型GEなどは急激に力を失って、攻撃を受けていないにもかかわらず消滅したりもする。
小規模な部隊では例え低レベルであっても環状石など破壊出来る筈も無く、この、環状石に繋がる拠点晶を発見して破壊する事がAGE登録者の最高の目標と言われていた。
光る鉱石を拾う手を休めて、凰樹は視線を目の前の小さな山に向ける。その山中にはこの辺りの住人を石像に変えた元凶、環状石が存在した。
『今に見てろよ、周りの拠点晶をひとつ残らず潰して、そのうちゲートを叩き壊してやる!』
環状石が破壊されれば、そのゲートが影響力を及ぼしていた地区の住人は石化が解ける。
しかし、当然、ゲート周辺のGEの数は尋常ではなく、一体一体の強さも拠点晶周辺のGEの比ではない。
しかも、ゲートを破壊するにはゲート内部の特殊空間に侵入し、【要石】を破壊する必要があった。
戦力的に言えば凰樹達ではゲート周辺に存在する無数のGEの殲滅すら難しく、凰樹達の手でゲートを破壊するという事は、目標と言うよりは都合のいい幻想でしかなかった……。
◇◇◇
GATE・ENEMY、通称GEとAGE。
GE……。
ピンク色の鉱石で出来た環状石から現れた、この世界に存在する生命体全ての敵。
今回、凰樹達が戦った魔族合成動物種と呼ばれるタイプの他に、様々な大きさや姿のGEが存在する。
すべてのGEに共通する事は、GEに襲われた者は生命力そのものを奪われ、全ての生命力を奪われた者は灰色の石の像に変わると言う事と、GEを倒す事が出来れば拠点晶を砕いた時と同じ様に、【魔滅晶】と呼ばれる光る謎の鉱石が手に入る事位だった。
GEが何の目的で現れ、何の目的で人類や様々な生物を襲っているのかは知る由も無かったが、襲われた人類も黙ってやられていた訳ではなかった。
各国の軍により、A・B・C兵器を初めとするあらゆる手段が試され、そして、十分な戦果が挙げられぬまま、人類同士で殺し合う為に作られた兵器がGEに対してほぼ無力であるという非情な事実だけが人類に突き付けられる。
ある町にGEが攻めて来た時、建材屋の店員がアルミの角材で応戦した時に他の鉄材や銃火器以上のダメージを与えられた事が発見されてアルミが武器として注目され始めた。
しかし、アルミを使って銃弾を作ってもそこまでGEに効果が無く、アルミのみを使用する場合はアルミを剣や槍のような形にして直接攻撃する必要がある事が分かった。
その後、魔滅晶や様々な鉱物などによる特殊な合金が開発され、それを使った有効的な攻撃方法として、当時はホビー用であったトイガンに特殊な加工を施した特殊改造エアーガンが開発される。
不思議な事に、その特殊改造エアーガンも一定以上に威力を上げるとGEに対して効果が弱くなり、結局はトイガンレベルの性能しか持たない特殊改造エアーガンがGEに対して人類に残された数少ない対抗手段となった。
各国の軍が特殊改造エアーガンで武装してこの頼りない兵器でGEと戦い続けたが過去三度のGE大侵攻により人類の総人口は十分の一まで減らされ、各国の軍はほぼ壊滅してわずかに残った兵で首都を辛うじて守り抜いている様な状況だ。
多くの都市が石像の立ち並ぶ廃墟と化し、無数の拠点晶が生え、迫り来るGEの影は居住区の僅か数キロ先まで及んでいた。
そんな世界情勢の中で二度目のGE大侵攻の後、首都以外の街を護る為に政府と企業が共同で出資し、民間の対GE防衛組織、通称【AGE】が誕生した。
GEに襲われて家族を失った人、故郷を奪われた人、街を護る為に立ち上がった人が参加し、やがてその参加者にまだ成人していない少年までもが加わり始めた。
長い戦いで多くの人的資源を失った政府はコレを認めざるを得ず、多くの少年がGEとの戦いにその身を投じていく。
AGEでは倒したGEの数、強さ、収めた魔滅晶等に応じてポイントと報酬を受け取る事ができ、武器の支給や装備の強化等、様々な恩恵を受ける事が出来た。
そして、最も多くポイントを稼いだ者の上位百名は敬意をこめられて、【ランカー】と呼ばれている。
読んで頂きましてありがとうございます。
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