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ピザと古典映画と移民船団

幕間です

「お前さ、例えばこいつの行動についてどう思う?」

 そう、キースはクロスの肩を叩いてからテレビを指さして言った。

 テレビではどこかの戦場で、爆弾に吹き飛ばされたらしい自分の片腕を小脇に抱えて戦場を呆然とした体で歩き回る兵士の映像が流れていた。クロスはピザを切る手を一旦止めて、訝し気な顔でテレビの画面を見た後、

「腕は後で治療して生やせばいいんじゃないか? いっそ代替えで義手にしたほうがいいだろ。リハビリがうまくいけば生身より動くご時世だぞ」

「いやいやいや、これ古典映画の世界ですから。当時はナノマシンとか無いから。確か飛行機がまだ石油で飛んでた時代の映画だぞ?」

 そうか、とだけ言ってクロスはピザを正確に半分にする。そこからさらに横にも包丁を当ててさらに半分。円形状のピザは奇麗に誤差なく4等分された。全身義体だと知っているキースは驚きはしなかったが、そこまで正確に義体を扱うクロスに感心の表情を浮かべた。

クロスは映画に興味が無い、という風にテレビのチャンネルは変えた。今度は古典映画ではなく、ニュースの放送が始まったところだった。どうやら現在の移民船団の軌跡をドキュメンタリー風に撮った物のようだ。

 我々が遥か彼方の故郷を旅立ち348年の月日が経ちました。未だに母なる惑星に近い環境を持った惑星の発見には至っておらず、また人類が暮らしていけるような環境を整えられた惑星を発見しても原住惑星人からの反発もある為、移民は少ない数しか受け入れられず、総数32万の国民は未だに冷凍睡眠装置で眠り続けたまま電脳世界で暮らしています。

「じゃあさ、これどう思うよ」

「歴史の授業」

「いや、俺たちが移民として32万の人間を眠らせたまま旅してるって話。348年経ってるのに移民もうまく言ってないだろ」

「・・・・・・どう、と言われてもな」

 ピザを八等分したクロスは包丁をテーブルに置くとテレビを見て苦笑いを浮かべて言った。

「俺たちの力不足を日々感じる」

「いや、そういうことじゃなくてよ。そもそもの原因。故郷が暮らせなくなったからと言って、宇宙にほっぽりだすかって話。これ、今更言っても仕方がないけど移民政策じゃなくて棄民政策だろ」

「じゃあ、やめるか? 今更言ったところで過去は変わらないだろう」

 クロスはそう言ってつまらなそうにテレビのドキュメンタリーを見ながらピザにかじりついた。

「仮にそうだとしても、俺たちのやることは変わらないさ」

「ドライだねぇ」

「機械だからな」

「いや、お前人間だからな」

 いつもの二人のやり取りをしながらクロスはピザをキースに差し出す。キースはチャンネルをクロスから分捕りチャンネルを映画に戻した。ピザを片手に映画がよく見えるソファを陣取りピザと炭酸飲料をテーブルに並べる。映画の世界では未だに実弾を用いた銃火器での戦争が当たり前の世界で戦う兵士たちが映し出される。隊長、諦めましょう、ブライアンの奴は死んでるんです、俺にはわかるんだ! と叫ぶ部下に隊長は、だが奴を故郷に連れ帰るのが俺たちの任務だ、と厳しい顔で任務の続行を言い渡し部下たちから反感を買っているシーンになっている。キースは厳しい顔でその何度も見ただろう映画を鑑賞していた。

「例えば俺がさ。クロス、俺にはわかってんだ。俺たちが移住できる惑星なんて存在しねぇ。この旅は無意味なんだ。と言ったらどうする?」

 キースの視線はテレビから離れずに、ソファの後ろに立ってキースと同じくピザを食べているクロスに問いかけた。クロスはそのキースとの言葉遊びに付き合いながら即答した。

「そうか、お前は宇宙の全部を知ってるんだな」

「知るわけねぇだろ。そんなの知ってるのは神様かうちの隊長ぐらいだよ」

 へっ、と鼻で笑ったキースはソファの上で首を逸らせてクロスのほうを見るとクロスは片眉をあげた意外そうな顔でキースを見下ろした。

「キースが隊長をそこまで買っていたことに驚いた」

「俺はお前が驚いたことに心底驚いたよ」

 ははは、と乾いた笑い声をあげたところでキースは炭酸飲料の入ったコップをクロスに突き出した。それに合わせてクロスも炭酸飲料の入ったコップをキースのコップに重ねてカチン、と軽快な音を意味もなく鳴らす。

「5年間も宇宙を一人で放浪。事故に巻き込まれて脱出船で宇宙を飛び回り母船に帰ってくる根性。半端なことじゃないと思うがね」

「それは、ヴィン隊長の不屈の精神とサバイバル技術の為せる業だな。あの人は元々軍の出だから生存率が高かったんだろう。生存と帰還を達成するために常に最適な答えを出し続けたんだろ」

「結果論だな」

 よいしょ、とキースは姿勢を正すと映画を指さして笑った。

「不屈の精神。任務続行への意志。経験豊富な仲間と咄嗟の判断に優れた隊長がいても――」

 映画の中では橋を巡っての激しい攻防の末、新人の兵士とブライアンだけ生き残った映像が映し出されている。煤と灰に塗れたその姿は美しいという感想は出ず、任務としてはブライアンを救出し、戦闘にも勝利した風に見える。

「死んじまえばそれで終わりだよ。お前、これどう見るよ」

 まるで悪戯でもしたかのような顔をするキースにクロスは困ったような顔をして、

「任務は達成されたが隊長自身は死んでる。戦闘行動の任務としては大成功ではあるな」

 そうだな、とキースは呟いてからふっと真面目な顔で言った。

「だが、こんなのは御免だな俺は。任務達成より生き残ることを選ぶよ俺は。だから軍じゃなくて調査員を選んだんだから」

 その独白にも近い言葉にクロスは何も言い返さなかった。

 自分自身の機械的な部分は自己犠牲を『当たり前』の事として容認しているが、人間的な――心の部分ではクロスもまた、

「そうだな。任務の為に死ぬのは馬鹿らしい」

 そう思えたからだ。たとえ、それが32万の人間の生活が掛かった任務だとしても、だ。

「それは、軍を辞めて調査員になった隊長も同じかね?」

 どうかな、とキースの言葉にクロスは少しだけ考える。映画のスタッフロールが終わり、次のバラエティ番組が始まるのを見ながら、

「わからないな。本人に聞いてみろよ」

 とだけ答えて、キースから「できるわけないだろ」と言われて「たしかに」と肩を竦めたのだった。

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