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Savage[サベージ]~未開惑星にて故郷を求める~  作者: 夕時雨
第1章 『墜落』 クロス編
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原初の魔術師『青』

今回は設定類説明回。つまらないと思う方は飛ばした方が無難

「まず、初めに謝罪をしよう。申し訳なかった。僕たちに君たちと敵対する気はない。君たちの船を撃墜したのは僕らの総意ではない事を初めに説明させてほしい」

 そう語りだしたブルーは椅子に座ったままテーブルに頭をぶつけそうなほど深く頭を下げた。

 その姿にどうした反応をしたらいいものかと悩むクロスは「リリティエ、ハラハラしています」と顔に書いてあるリリティエとばっちり視線があった。

「ク、クロスさん。怒ってます?」

 視線が合ったからだろうか。恐る恐るといった態で聞いてきたリリティエににっこりとクロスは笑いかけ、

「もちろん、怒ってる」

 と返してリリティエが「あわわわ」と目をぐるぐるとするほど慌てさせてから、ブルーのほうへと視線を向けた。

「謝罪を受け入れる。あくまで『一隊員として』だが。公式的な移民船団からの返答を代弁する立場に俺は無いし、その判断をできる最高意思決定はヴィン隊長だ。俺じゃない」

「構わない。君個人が悪感情を抱いていないのなら、この場において冷静な会話ができるものとして僕は受け取るよ。ありがとう」

 そういって顔をあげたブルーはにかっと笑って握手を求めてきた。その辺の文化は船団内における文化と差異は無い様だ、と受け取りクロスはブルーの手を握り返した。何を思ったのかリリティエが慌てて「わ、わたしも!」と手を重ねてきたので握手が一転してまるで試合前の掛け声みたいな形になる。

「で、総意ではないと言う事は一枚岩ではないんだな。この惑星の組織は」

「その辺から説明しないといけないよね。少し長くなるが勘弁してほしい」

 ブルーは紅茶のカップを手元に引き寄せてカップを弄ってから苦笑いを浮かべてからこの惑星について説明を始めた。



 惑星の歴史はどこからだろうか。

 おおよそ、クロス達の母星ともいえる故郷ではおよそ人類の歴史は2000年と言われてきた。だが、どこからを人間と定義するかによって状況は変わってくる。人間の歴史とは人間が二本足で立ち始めた頃からか? それとも火の扱いを覚えた頃か? それとも田畑を耕すことを始めた頃か? 住居を、村を作った頃からか? つらつらと上げていけばきりがない。

 そういう意味で考えるならば、この惑星の歴史はおよそ600年ほどであるが、実際は3000年以上はあるのだそうだ。

「それは、人類が誕生して3000年というわけじゃないだろ?」

 クロスの故郷であっても人類の誕生は学者によって意見が分かれる所だが、100万とも200万年前とも言われているし、更には1000万という数字を提唱する学者もいる。

「文明の交代があった?」

 クロスは異星調査船団に属する開拓地調査員である。誰よりも早く未開の惑星に赴き、空気中の酸素濃度や有害物質を調べ、地質調査を行い、先住民とコンタクトをとる。問題なければ移民受け入れを申し込むところまで交渉を持って行くのが仕事だ。あらゆる惑星を調査するにあたって『古代文明』という単語に別段目新しさは感じない。「ここもそうなんだな」という程度の感想だ。

「その通り! いやぁ、さすがは人類の先駆者! 進化の先を行っている君にはお見通しか!」

 軽快に指を鳴らして嬉しそうな声をあげるブルー。

「そう、この惑星は何度となく文明の世代交代を繰り返している。先程3000年と言ったが、それはあくまで『僕が知る限り』の話でしかない。僕が知っている前にもかなり発達した文明が存在していた。

 ともあれ、今のこの時代は600年と言うところまで来たところの赤ん坊でしかない。先史文明はそりゃあ栄に栄えたさ。おそらくだが、君たちの文明と比肩しうるだろう。その先史文明の遺産の一つがマナであり、魔物であり、僕たちだ」

 ここまでの説明でおかしなところはあるだろうか? とクロスは腕を組んで考える。

 マナを自然発生と定義したナノマシンであるが、それはあくまで『人工物ではない自然物から発生した』という意味合いでしかない。つまり、木々や生物からだ。逆に言えばクロスの体内に存在するプラントから生産したナノマシンもまた厳密に言えば『自然物から発生した』とも言えるが、肉体の大部分を機械化している身を客観視すれば『人工的』でもあり、だが自分は人間であることは確かな事なので意味合いとしてはどちらになるだろう、と思考が脱線しかけたところで意識を現実へと戻した。

「マナの厳密な理論などはここで話したところで意味がないかもしれないが、概ね君の体内にあるものは『オド』。あ、これは体内生命魔力のことを指す言葉なんだが、君の体の中にあるナノマシンを僕たちの認識で分けるならば『オド』になる。体外魔力、自然魔力、魔素とも言われる『マナ』とほぼ同質な物だが、『オド』は肉体に宿るもので、『マナ』は自然を流れ、漂うものと認識して欲しい。

 それらを使って扱う技術を魔法、ないし魔術と呼ぶわけだが――その辺の認識のすり合わせは必要かい?」

 という、ブルーの言葉にクロスは「いや」と首を振る。

 ナノマシンの主だった利用は肉体の強化や治癒、仲間内の連絡、多言語翻訳など多岐に渡る。だが、そもそもナノマシンという道具がない文明の惑星住民からすればそれは『魔法』とも称するほどの肉体強化であり、回復力であり、テレパシーであるのだ。ナノマシンが潤沢に存在している空間では、空気中に燃焼率の高い元素を組み合わせて爆発を起こさせたり、ナノマシンに自己放電を強要して感電現象を起こすことも理論上可能だ。それらもまた『魔法』と呼ばれるに値する出来事であり、体外活動専用と思われる『マナ』はおそらくそっち方面に特化した物なのだろう。

「進み過ぎた機械技術は魔法と区別できないっていう奴だろ」

「その通り!」

 まいったなぁ、僕の説明キャラとしての立場が危ういんじゃないかな。このままだと影が薄いよ僕。と悲しそうな顔をするブルーと話が退屈なのか船を漕ぎ出しているリリティエ。おそらく、『マナ』とか『オド』とかその辺の話は常識の範疇できっとリリティエにとっては耳にタコなのだろう。

「話をもどそう。『マナ』と『オド』。『オド』にとても近いが別物の『ナノマシン』ということは理解してくれたかな? ここで気になるのが君の体を構成する物を維持しようとするとどうしても『ナノマシン』という物質が必要で、それを損なうとどこまで――不調をきたすのかは聞かないでおこう。それを知ったら僕が悪用できるからね」

 そういってから紅茶を口にしようとして中身が空っぽなことに気付いたブルーはリリティエの肩を叩いて金髪少女を起こすと紅茶のおかわりを注文する。眠たい目を擦りながらリリティエがキッチンへと戻って行くのを確認してから、ブルーはさらに話を続ける。

「君たちに救難信号を送ったのは間違いなく僕たちであり、その目的は君たちに文字通り助けを求めてだ。この惑星の現状を知らないだろうから説明するが――」

「先史文明が残した魔物の暴走、だろ? マナの説明をこれだけしたんだから、この惑星住民にとっては無害な物だろうし。ナノマシンとほぼ同質な物ということを先程説明したのもその為だろう?」

 長い話にクロスは疲れたように首の関節を鳴らす。いくら義体化したと行っても人の話を聞き続けると言うことは疲れるのだ。同じ姿勢を取り続けたところで乳酸や水が筋肉や関節にたまるわけでもないが。

「お前たちは先史文明から生きている存在で、一枚岩ではない。魔物も先史文明に生まれた物であるなら生物兵器という線が高いな。それとも、お前たちも、か? ともあれ過去がどうのこうのというつもりはないよ俺は。過去がどうあれ、今が大切だ。で、俺たちに敵対意思を持つ派閥があり、襲ってきたのはその一派?」

 クロスの確認にブルーはにっこりと笑った。

「その通り。まず派閥の話からまずしよう。僕ら『色つき』は原初の魔法使い、もしくは原初の魔術師と呼ばれていて、この惑星の管理運営を担っている存在だ。まあ、先史文明の人間たちが自分たちの全滅を予見して作りだした『二の轍を踏まない様に』という次の世代の監督者とも言えるかな。ああ、リリティエありがとう」

 リリティエがちょうど紅茶の御代りを持って来てブルーに手渡すが、その顔は俯き加減で表情がうかがえない。どうしたのだろうか? と首を傾げるクロスだったが、「お話が終わったら呼んでください!」と強い語調で言われて思わず頷いてしまった。足早にリビングから出ていく少女をクロスは不思議そうな顔で見送り、ブルーは微笑ましいといった風に見送った。

「僕らは全部で8色いる。君たちの船を撃墜したのは『赤の原初魔術師』と呼ばれる存在だ。奴は過激だからね」

 ふぅ、と紅茶に息を吹きかけて冷ましつつブルーは続ける。

「青、緑、赤の三原色。混同色の黄、空、紫。中心にある白と黒。とはいえ白と黒は最終装置で目覚める事は稀だし、混同色の黄、空、紫は定命の種族から選ぶことになっている。リリティエが僕の事を師匠と呼ぶけど、彼女は混同色の候補の内の一人だよ。混同色は皆、原色の魔術師から学び、任命を受けて初めて混同色になるんだ」

「それはいいから、赤の目的を教えてくれ」

「ずいぶんドライじゃないか。一応、あの子は君の恩人だよ?」

 ブルーは紅茶を一口飲んでから「甘くない」と不満をこぼす。

「命の恩人だが、俺が関わったからって任命されるわけじゃないだろ。それより目下の敵対勢力の話を聞きたい」

「――――それもそうだね。うん、赤は一言で言うと『過激派』だね。惑星の運営管理、発展と進化を内々で済ませたいと考えている奴さ」

 クロスは「まあ、それも一つの方針といえば方針だな」と頷く。多種多様性を良しとする文化と嫌う文化と様々な価値観がそれこそ星の数ほど存在する。とはいえ、この場が隔離された封印森林であったり、忌子として排斥されているらしいリリティエのことを考えれば、この惑星の文化に『選民思想』『人種至上主義』などが存在しているのは想像に難しくなかった。

「元々は優しい奴なんだよ。他の惑星からの来訪者とかによって環境を荒らされるのを嫌う。元々暮らしていた存在がそのままの環境で進化と繁栄と衰退を行っていくのを良しとしている。それは元をただせば今ある者たちの幸せと繁栄を願っているということだ」

「青の魔術師。お前は違うのか?」

 クロスのその言葉に若干の苦い物を感じたのか、ブルーの表情は良い物ではなかった。

「先史文明は生物兵器としての魔物や兵器によって衰退してしまったからね。僕としては未だにそれらが無計画に稼働している状態での歴史は苦い物になると思っている。このままで起きるのは人間と言う種の衰退では無く魔物と言う種による人類淘汰だ。赤は魔物が次の人類になることも良しと思っているが、僕としては生みの親である人類種に次の文明もまた担ってほしいと思っている」

 それは、どうなのだろうか。

 クロスの個人的な意見からすれば、自然が自然のままに文明の担い手を変えてしまうのは仕方が無いと思う一方、『人類の進歩と保全』を目的としているらしい原初の魔術師達にとって方向性の違いに互いを牽制し合っている今の環境は決して惑星にとっても良い事ではないだろうな、と思うぐらいだ。だが、少なくとも魔物と言う種がどこまでの知性と文化を有しているのかはわからないが、これが仮に原始種族的な文明であるとするならそれこそ石器時代に逆戻りという展開もありえるかもしれない。そうなってしまっては『人類の進歩』どころではない。それこそ何万年と言う月日を見守り管理運営していく必要が出て来る。

「俺たち移民船団に助けを求めたのは魔物の討伐の為?」

「うん、だけど『赤』に気付かれて撃ち落とされた。救難信号は以前、墜落した遭難船の機材を使わせてもらったよ。もっともその遭難船の存在が無ければ惑星外に高度な文明をもった知的生命体がいるという確証も得られなかったわけだけど」

 ブルー、いや『青』と呼ぼう。『青』は「これが君たちを呼び寄せた理由」と話に一区切りがついて疲れたのか椅子の背もたれに全体重を預けてため息を吐いた。

「で、報酬は?」

「ん?」

「報酬だよ。その魔物の討伐を受けたとして、俺たちが受け取る報酬―――つまり、移民をいくら受け入れるんだ」

「ああ、それなら『受け入れられるだけ受け入れよう』と思ってる」

 その『青』の返答にクロスは意外そうに眉根をあげた。今までの旅路でどこの惑星も移民に関して慎重だった。よくて100名や200名。今まで最大で1000名が最大だっただろうか。悪い時は50名という時もあった。

「ずいぶん安請け合いするんだな」

 だから、クロスの心にこの提示された報酬を『最初から渡す気が無い報酬』という疑心を生んだ。

「君が思っている以上に人類は窮地に立たされているんだよ。魔物の勢力圏は単一大陸であるこの大陸の8割を占めている。王国、帝国、連合、その他もろもろ合わせて5国が寄り合って魔物の脅威と戦っている。だけど、魔物の方が強くて状況は芳しくない。このままのペースでいけば200年を待たずに人類は衰退。全滅は必至だね」

「人類が絶滅するぐらいなら、他惑星の由来の先進文明社会を受け入れると?」

「人間、利用できるものは利用しなくちゃ。先史文明と言う素材があるんだから、畑が多少違くてもお手本を見れば古代文明の道具の使い方ぐらい学ぶだろ」

「ほんと、お前は『今の人類が生き延びて繁栄すればいい』と思ってるんだな」

「うん、多少血が混じったりすることはこの際必要なリスクと考えてる」

 つまり、他惑星に祖をもつクロス達移民船団と、この惑星の住民との混血すら容認する構えなのだ。

「生活圏の開拓さえ進めば人類の発展は約束されたも同然だ。なに、僕たちは『二の轍を踏ませない』為にいるんだ。今度は先史文明の様にはならないさ。優秀な先駆者もいるわけだしね? 暴走はさせないよ」

 そういってウィンクする『青』だったが、顔が整ってる分様になっているのが若干癪に障る。

「だいたいのことはわかった。だが、最後に一つだけわからないことがある」

 クロスは若干前のめりとなって『青』の顔を覗き込む。正確には目を覗き込む。それに居心地が悪そうな『青』はそれでもちゃんと目を合わせてくる。大事な話だと感じているのかもしれない。

「移民船団、ナノマシン、母船、その他もろもろ。遭難船のデータベースを漁った程度で出て来るはずの無い情報を持っているのはなぜだ?」

「ああ、それはもっともな質問だね。そこを答えなければ君は納得しないだろう。もちろん、僕はありのままに。正直に。素直に答えようともさ」

 若干芝居が掛かった様子の『青』。どうやら今までの会話で驚かせることが出来ず、ただ淡々と事実確認を進めてきたクロスの態度が崩せるかもしれないと期待しているのかもしれない。だが、それは無理な話だ。なぜならクロスは常に感情をナノマシンでコントロールし、いつでも冷静な判断を下せるようにして――、


「ミリア君から聞いたんだよ。今、彼女はコルバニース王国の王城にて保護されている」


 『青』の言葉にクロスは思わず椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。

国の数が13とか思いつかなかったので5個に減らしました!2017/5/20

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