未開惑星調査船団は剣と魔法の世界へ墜落しました
救難信号を受信しました。
当該信号を計測。
当連邦所属艦で使用されているものと一致しました。
信号元の割り出しに成功しました。
当該宙域にて未探査惑星の存在を検知。
未探索惑星より信号が発信されている事を確認しました。
未探査惑星を遠距離走査開始。
当艦艇の目的『移住』を78%の確率で達成すると推測。
救助、及び未探査惑星の調査を推奨します。
それは緑の惑星と言うべきか。水の惑星と言うべきか。
生命の誕生に水は欠かせない存在であるが、衛星軌道上から確認した限りではその惑星は「緑色だ」というのが最初の感想だ。
とはいえ、それはクロスたちが知っている惑星のほとんどが砂と岩の大地であり、ガスの充満した黄色い惑星であったりするのだから、青だろうが緑だろうが濃厚な生命の気配に満ちた惑星がそこに存在しているというだけで奇跡に近かった。できるならば今すぐ宇宙服のヘルメットを取り外して直接窓から顔を出して観たいぐらいだ。
「知ってるか? 俺たちの生まれ故郷も水の惑星って言われてたらしいぞ」
仲間内の回線からそんな言葉が聞こえてくる。
「はは。そうらしいな。今や灰色の大地しかないが」
皮肉気に笑ったのは隊員の一人だ。皮肉屋でお調子者のキースだ。
「おいおい! そんなこというなよ! 俺たちの生まれ故郷だぞ!」
そういって形だけでも憤慨したのは「生まれ故郷は水の惑星」と発言したヴィン隊長だった。形だけ憤慨したヴィン隊長に対して「へいへい」と肩を竦めてみせたキースは俺と同期の隊員だ。
「わ、私たちの故郷になりますかね? どう思います? クロス先輩!」
若干落ち着きがないような声音を聞いて、隊の中で苦笑が漏れた。
「それは早計じゃない? まだ現地惑星の調査は済んでないんだから。化け物だらけかもしれないし、惑星の原住民から拒否されるかもしれないし。そもそも危ない病気だって――」
「いや、お前そこは「そうなったらいいな」って言ってやれよ。な? クロス先輩?」
キースの皮肉が飛んでくるが、クロスからすれば自分たちは今任務中であり、真面目な態度で挑むべきだと思う。
「それよりミリアちゃんは俺になんも聞いてくれねーの? クロスより頼りになるキース先輩に頼ってみろって! な?」
「え、いや、その、キース先輩はすぐに茶化すと言いますか。真面目に答えてくれないと言いますか…」
「つまり、信用がないんだな」
ばっさりと切り捨てたヴィン隊長は「どうしてなのさー! 俺だって真面目ですよー!?」と叫ぶキースを無視して手信号で『切り替えろ』と合図を出す。
此処で雑談は終わり。キースからは先ほどまでの騒がしさは一瞬で消え真面目な雰囲気となり、ミリアからはごくりという生唾を飲み込む音が聞こえてきそうなほど緊張した空気が漂ってくる。
「クロスはいつもどおりだな」
ヴィン隊長からの声にクロスは僅かに肩を竦めただけでそれ以上の反応を返さない。
「これより、未開惑星への降下を開始する。目的は未開惑星から発信されている救難信号の発信元を特定。救難信号を出しているものを救助、もしくは原因を調査! 更には、我々にとって最終目標となる『第二の故郷の獲得』に向けて現地の調査だ。多数の 生命反応と現地住民と思われる人間の生命反応も確認。町や国と思われる規模の生活圏も確認した。現地住民との接触も視野にいれるように。今作戦では新人のミリアが参加する。キース、クロス両名は場数を踏んでいるから平気だろうが、ミリアのサポートも忘れるな。ミリアも先輩の足を引っ張らないように注意しろ。以上だ。各自降下準備を行え」
了解、と口々に答えると座席に座り安全ベルトで体を固定する。降下船は徐々に高度を落としていき、大気圏へと突入する。空気との摩擦で船体は燃え上がるかのように真っ赤となり、ガタガタと今にも分解してしまいそうなほどの不安な音を船内へと響かせた。
「ク、クロス先輩」
隣に座った新人ミリアのほうへと見ると、その宇宙服のヘルメット奥から緊張した、というより怯えの雰囲気を感じてクロスは小さく笑った。
「わ、私たち…大丈夫ですよね?」
さて、どう応えるべきか、と一瞬だけ悩んだクロスは
「そうなったらいいな」
と答えて他の仲間たち全員からブーイングを受けた。
ともあれ、気の合った仲間たちだ。
この4人が揃えばどんな任務だってやり遂げられる。
まして、今回は自分たちの母船の最終目標である『移住』という悲願が達成されるかもしれない惑星の調査だ。知れずに調査に向かう隊員達の間に期待と不安が入り混じるのは仕方がないことだ。
不満げな気配を隣から流れてきていることに気づいたクロスは苦笑いを浮かべて通信越しに安心させてやるのも先輩の務めか、と大気圏に突入し揺れが収まった辺りで、
「大丈夫だよ。ヴィン隊長やキースもいるし、それに俺もいる。ミリアが心配することはなにも――」
瞬間、今まで感じたことがないほどの衝撃と揺れを感じた。
未探査惑星調査隊の調査船は「なにか」に撃墜された。