1、不法侵入者に遭遇
不定期更新の予定です。軽い話です。
近頃おかしい。
何がおかしいって、仕事から帰ってくると……誰か家に居た?みたいな違和感があるから。
食べ物が減っている訳じゃない。
無くなっている物があるわけでもない。
部屋が荒らされているわけでもない。
光熱費が増えたわけでもない。
トイレットペーパーの減り具合だって変化はない。
でも、かれこれ半年だ。
最初の違和感を感じてから半年だ。
盗撮や盗聴も疑った。
探してもらった。何も出なかった。
その結果に安心と同時に不安が起きる。
その違和感は消える事がなかったから。
ある日、出かける前とクッションの位置が違った。…ような気がした。
またある日、テーブルの上のリモコンの位置が変わっていた。…ような気がした。
それが気のせいではなかったと気づかされる事が起こり始める。
洗濯籠の中の色分けして置いたシャツとブラウスがごっちゃになっていた。
多かったのは本棚の本の位置と栞紐が違う場所に移動している事。
怖かったのが、靴箱に掛けてある私の傘の隣の隣に…まるでもう一本傘を掛けてあったかのように、その下に水溜まりがあった事。
絶対に誰か居た!!
ストーカーかも。
よし、引っ越そう。
更新料を払うのも何だか損している気になってきていたし、不動産屋さんで気になっている所も何軒かあったし。
うん、引っ越そう。
少しずつ少ない荷物を纏め、引っ越し準備を始めた。
何故?
引っ越し準備を始めて、元々空間に空きがあるクローゼットに邪魔にならない様に箱詰めした荷物をとりあえず置いていった。
あれほど、気配を残していた不法侵入者の気配がいつの間にかぱったりと無くなった。
少ない荷物がさらに減り、部屋は殺風景になっていた。
引っ越しを辞めてもいいかなんていう考えが頭をよぎるほどに、全く気配がなくなった。
でも折角その気になったし、気分転換にもなる。
だから結局、引っ越した。
新居は会社にも近くなった。さすがに徒歩通勤を考える程には近くないが、会社近くで飲み会があって終電に乗り遅れてしまった時に、仕方ない勿体ないけどタクシーを使おうって思える位の場所だ。
不法侵入者からも解放されて安心と安全の毎日が戻ってきた。
が。
私の家を知る同僚から妙な話を聞かされる。
私の部屋から多分だけど外国人が出てきたよ、と。
は?
彼氏が外国人かって?ナイナイ。小心者ですから。そもそも今居ないですし。
多分気のせいだと同僚には伝えた。
まさかと思いつつ部屋の確認をする。
特に変化はない、と。うん、よし。大丈夫。
郵便物の中に同窓会の案内を見つける。
「どうしよっかなぁ。今も付き合いある人ってあんまり居ないんだけどなぁ。でもせっかくだから出席してみようかな。どんな子が居たっけ?アルバムと卒業文集はっと…」
殆ど見る事なんてない。開くの何年振りだろう。ダニ付いてないといいんだけど。埃は被ってないかな。
一人で懐かしみながら捲っていく。
アルバムも開く。
一冊目、二冊目と進んでいき、割と最近の物に辿り着く。
「…無い」
何枚か抜かれていた。
「いつ?」
引っ越す前?後?分からない。
不安に憑りつかれながらアルバムを仕舞った。
「最近素敵な人を見つけたの!」
「日本語ペラペラの日本人!」
「それ、普通だから」
「日本人に見えない日本人なんだよ」
「どう素敵なのよ」
「見た目!」
「え~、何それ」
「だって話したことなんてないもんっ」
食堂はみんなで使っているのです。もう少し音量を控え目でお願いします。
…ガタガタガタガタ…
「何?」
有給休暇の消化で半休貰ったので早退してきたのだが。
ガタガタガタガタと音がする。
泥棒?いや、まさか。家に限って。
そっとドアを開ける。
玄関に靴は無い。
砂や泥、葉っぱも落ちていない。
ん?声がする。
やばいやばいやばいやばい、どうしよう!
しかも男の人の声だ。
ガコン、ガコン、ガコン…
「どうしよう、抜けない。くそっ、僕としたことが。ああもう、どうしたらいいんだ。エイッ!ああ~、抜けない、出られない…どうしよう」
何が起きている?声は浴室から?洗面所?ドキドキしながら足音を忍ばせて近づく。
「帰って来るまでに絶対抜け出す!…破壊するか?…その後新品を買って帰って来る前に設置すれば万事OK?うん、よし、それで行こう。じゃ、足に魔力を集中して…」
おい、ふざけんな!
「やめろや、おんどりゃ~!!」
がばっと開けて、通勤カバンで洗濯機の中に居る男を殴りつけた。
これがリックと私の出会いだった。
◇
「人ん家の洗濯機の中で何してんよ、この不審者」
間抜けな姿に荒げた声のまま続ける事は出来ず、呆れを含んだ低い声が出ていた。
薄い茶色の髪に赤茶色の瞳。焦っていた顔は苦笑に変わる。
「あの、とりあえず、出して頂けませんか?」
「無理」
即答だ。誰が不審者を出すか。動けない状態だって確認できたからこうやっていられるんだ。
「どうしても駄目ですか?」
「駄目。まずは警察に連絡を」
「しないでっぅ、う~~、あっやば」
警察という言葉に焦って暴れた動きがぴたりと止む。
「えっ?」
やめて欲しくて暴れた拍子に何かが起きたらしい。
赤くなってあたふたしている。
私は当然、一歩また一歩近づく。
「いやっ、来ないで!」
「は?」
進めた足が止まる。
さっきは助けを求めたのに今度は来るなと言う。
ん?
思わず顔がにやける。
起きた事に予想がつ~いた。
あれさっきは無かったよねぇ。ニヤリ。
「初心じゃなくてごめんなさ~い」
男のたれ目が涙目になっていく。
「いや~!来ないで~~見ないで~~!!!」
洗濯機が透明ならM字スタイルっぽく見えるのだろう。
「ふっふっふっふっ…」
「悪魔~~!男の尊厳を守って~~~!」
「不法侵入者にそんなもの無~い!」
「ぎゃ~~~~~~~~!!!!!!!!」
「人聞き悪いわ!この変態が!」
ニヤリと極悪な笑みを浮かべたまま覗き込む。
「あら。そういう趣味がおありで?」
さすがにお触りはしませんよ?けど、まじまじと眺める。
「あまりお使いになっていない?」
顔とブツを見比べる。丸見えではないんだけど気づいていない?
動けないのをいい事に彼の着衣のボタンを外し首や鎖骨を撫でまわす。
苦しそうな表情が何とも………そそる。
「痛い…です。……苦しい。見ないで」
彼は洗濯機の中で動かせない腕、はみ出した足。動いたせいで途中まで脱げて丸出しになっていると思い込んでいる下半身を多分猛らせて、開けた着衣に泣き顔という、御馳走さまですと手を合わせたくなるような姿を私に晒している。
「やばいかも」
泣いているせいで顔がぐちゃぐちゃだ。
「出してあげてもいいわよ」
えぐえぐ言いながら私の視線とぶつかる。
「ここから?…これも?」
「そっちは保留」
しょぼんと萎れた姿はまるでワンコだ。何だか憎めない犯罪者だ。でもさ、そんなカッコじゃあ。
「だって、私から見たら君は良く言って初対面の男。私から見た事実は変態の不法侵入者、だもの」
「変態…!」
信じられないという顔で固まっている。脱げたのは事故だってわかってるよ。私の常識で測ると変態って言葉は外せないね。
「僕はあなたに求婚を…!」
変態の不法侵入者から求婚されるようです。ナゼ?片言の副音声が聴こえ私の首がかくっと横に倒れた。
「何故とは?」
副音声は私の口から出ていたものだったらしい。
私がおかしいのだろうか。この流れでそうくるのか。
「初めて会った変態不法侵入者から求婚、これ如何に?」
「召喚は犯罪です。ですから僕が参りました。僕、ちゃんと勉強しました!」
覗き込むと、御立派さんだったらしいソレはぽにょっていた。治まったようだ。覗き込まれてまた少し大きくなってしまった。う~む。今度は見えちゃってるよ。私は恥ずかしくないから気にしないけど。
「ということで、出して頂けませんか?」
「入れたの私じゃないし。求婚なんて言葉聞いてしまったら尚更出すのを躊躇うわ!出したら強姦されるかもしれないじゃん。…ホントにストーカーだったんだ。やっぱ警察に電話するかぁ。掛けた事無いから緊張するわぁ。はぁ」
「違いますって。全部話しますから!嘘偽りなくお話ししますから。どうか聞いてください。お願いします。…で、あの、お手洗いをお借りしたいのですが」
「早く言えっ」
私じゃ引きずり出せないので、あちこちのひっかかりを外し、排水ホースを引っこ抜き、注水口も外し、洗濯機を倒した。
もぞもぞと這いだす時に脱げかけのズボンからポロリしていたモノが私の洗濯機に直に触れていたのを見てげんなりする。
「誰のでもグロいのねぇ。結構濃いわ。毛の話よ。それでもやっぱ色素薄いとあんまりそうは見えないもんなんだ」
「恥ずかしいんで見ないでください」
「直してないで早くトイレ行ってきなさいよ」
「はい、お借りします」
…説明しなくても迷わず行ったよ。場所知ってるんかい。
と思っていたら戻ってきた。
「あ、すいません。この部屋は初めてでした。お手洗いどこでしょう?」
この部屋は、ね。私の頬がひくついた。
主人公の名前はそのうち出てくるはずです。
お読み下さりありがとうございました。
*メイン更新は「あの世特務課」です。




