夢か現か
男はその日、夢を見た。
やけに鮮明な夢だ。色までついている。
真紅の月がのぼる広大な土地の真ん中に男は立っていた。
右からも左からも怒声が聞こえ、ほら貝の音が鳴り響く。
それはまるで戦国時代の大戦の様だった。
テレビで見るようなきれいな戦争などではなく、あちらこちらで腕が引きちぎられ、
首が飛ぶ。その争いのど真ん中で男はただ、呆然と立ち尽くしていた。
不思議と死の恐怖がない。まるで傍観者のような心地だ。
男の真横で槍を持った獣が、敵兵と思われる獣の胸を貫き、脇差で腹を切り裂く。
「あぁっ・・がふっ・・」
崩れ落ちる獣。もう一方は、颯爽と次の標的へ走っていく。
男は今にも命の灯が消えそうな獣と目が合った。
痛まれるような気持ちなど微塵もない。男の心はただ、空虚だった。
「?」
飛び散る血の影響もあってか、赤々とした大地の上で、急に青白い光が放たれた。
思わず、視線を戻す男。その目線の先から、真っ白な女の子がこちらを見ている。
目と目が合ったその時、男は涙を流しているのを感じた。
悲しいのだろうか。
男の心には、まるで女の子に栓が開けられたかのように悲しみの感情がなだれ込んだ。
耐えきれない感情。男はゆっくりと目を閉じる。
次第に周りの音が小さくなっていった。