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イケメン部  作者: 凪 °
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四の章

伝統部は部員全員が集まってから活動をスタートする、や、何時からどんなことをする、等の決まり事が特にないので、部長の佐々木が不在でもかなり順調に事が進んでいた。

5月の生温い風が窓から入ってくる。

「おぃ、西条。窓を閉めろ」

窓のすぐ傍で琴をひく準備をしていた御影が物凄い形相で西条を睨む。

「あぁ?何でだ?」

西条は制服の裾をまくり、欠伸をしながら問う。

「こんな生温い空気に触れたら、琴が湿気ってしまうからに決まっているだろう!!」

御影は普段の冷静な様子とはうって変わって、部室内が震えるほどの怒鳴り声をあげた。

零和はその様子にひどく驚き、傍にいた城津の制服の裾にしがみついた。

「おゃおゃ…」

城津は零和が隣に来たことを知り、振り向く。

「み、御影先輩ってあんな人でしたっけ…?」

恐る恐る訊ねる零和に、城津は少し呆れたような顔をして、

「琴の話になると、いつもああなるんだ。全く、仕方ないね」

首を横に振った。

零和は、そうですか、と短く返答し、城津の影からまたそっと二人の様子を窺った。

西条は御影が怒鳴ってもまだ欠伸をしている。

御影はというと、琴を片付け、西条に背を向け此方に歩いてきている。

…えっ、此方にくるの!?

零和はより一層、城津の制服を握る手に力を入れた。

近づいてきた御影はそれを見て、

「すまないな、海空。驚かせてしまったか」

苦笑し、零和たちの後ろにいた楠見に一言、

「今日は部活、早退します」

ただそれだけ言って、部室から出ていってしまった。

「えっ、あのっ…御影先輩っ!?」

零和は澄まし顔の西条を置いて、急いで御影の後を追いかけることにした。

「あ~あ、残念だったな、西条。あいつは御影に盗られるぞ」

零和がいなくなった部室で楠見がにやけながら西条に呟く。

西条は我に帰ったようで、

「あっ、海空っ…!!ざけんな、御影ぇぇぇ―!!!」

急いで2人の後を追った。

「…なんであんなにも御影くんを敵対視するんでしょうね?」

静かになった教室で桐神が首を傾げた。




…*…




「御影先輩っ、待ってくださいっ」

零和が御影の後を追って辿り着いたのは校舎の片隅にある、小さな花壇の目の前だった。

そこで御影は目を細めながら小さな花をそっと触っている。

「…っ」

彼は零和の存在に気付くと、驚いたような表情をし、

「海空!なんだ、追ってきたのか!?」

問い掛けた。

零和はコクりと頷き、

「はい…。すみません、こんなことしちゃダメだっては分かってたのですが…」

俯く。

対して御影は静かに笑みを溢し、

「なにも叱ろうとなどは思っていない。心配してくれたんだな?ありがとうな」

零和に向かって礼を述べてきた。

「おっ、お礼の言葉なんてっ、そんなっ…」

零和は両手を振り、御影に申し訳ないと心で謝った。

御影は暫くそんな零和の様子を見ていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「…なるほど」

「……?」

零和には全く理解不能な言葉だった。

「なにが、なるほどなんですか?」

問い掛けるものの、彼は爽やかに微笑んだままで答えを返してこない。

困り果てる零和に、御影は聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、

「…どうりで西条が惚れるわけだ」

と呟き、

「お前は早く、部活に戻れ」

心配してくれたお礼だというように、ペットボトルのお茶を零和に差し出し、門の方へと歩いていった。

暫くの間、零和は学校の外へと出ていった御影の姿を見送り、渡されたペットボトルを大切そうにぎゅっと握った。




…*…




西条と零和が落ち合ったのは、部室の近くにある図書室の前だった。

西条は、やっと見つけたというように、猛ダッシュで零和に駆け寄る。

「海空っ!どこにいたんだ?」

一瞬ビクッとなる零和。

「え、えと、花壇の方に…」

「花壇……御影、そこにいるのか!?」

西条が両目を大きく開く。

「も、もう今はいませんっ。…帰ってしまいました」

零和は目をそらし、御影から貰ったペットボトルをきつく抱き締める。

「あんちくしょー!!逃げやがって!」

西条は悔しそうに拳を握ったあと、零和が持っているペットボトルに気が付いた。

「それ、買ってきたのか?」

指を指し、訊く西条。

「いぇ、これは御影先輩から貰ったんです」

零和は笑顔で答える。

もちろん悪気はない。

西条はその言葉を聞き、ひどく不機嫌になり、

「み…か…げ………?」

その3文字に殺意を込めて言った。

「…………あ」

禁句を発したと気付いたときには時すでに遅し。

西条は怒りを込めた声で、

「俺も今日は帰る…。じゃあな」

一言だけ言うと、すぐに走って校舎から出ていった。




…*…




部室に戻った零和は、入った瞬間に張り詰めた糸が緩んだように、その場に倒れこんでしまった。

すぐに桐神が駆け寄ってくる。

「大丈夫ですか!?」

城津はコーヒーを持ってきてくれた。

楠見はというと、窓際に座り、チラチラと零和の方を見てきている。

……………落ち着く

零和は伝統部に入って初めてそう感じた。

西条と御影がいないだけで、こんなにも落ち着くのか、と。

「今の伝統部はバラバラだからね…。部長も不在だし」

城津は困ったな、と頬を掻く。

「あいつがいなくても、3年は俺がいるし。俺が部長になっても良かったんだし」

楠見は少し拗ねたような感じで言う。

城津は、そうでしたね、と苦笑を浮かべる。

………部長…

部長である佐々木に会えていないことが何か寂しい。

零和は楠見に近寄り、訊いてみることにした。

「あの…、部長はいつになったら戻れるんでしょうか?」

楠見は少し考えるような姿勢をし、

「さぁね」

窓の外に視線を反らしてしまった。

…まだ、部長が戻ってくる気配はないんだ

零和は落ち込み気味に、

「やっぱり、当分戻っては来ませんよね…」

悲しい笑みを浮かべた。

それは、まるで佐々木を恋しいと思い始めているのではないかと周囲に感じされるような笑みであった。

File.4

佐々木 教芳[ササキ ノリヨシ]

身長;178㎝

体重;63.3㎏

特技;書道

other;零和に告白をするのが日課だったりする

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