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イケメン部  作者: 凪 °
1/6

壱の章

自分は基本、ハーレム系をよく書いていました。女子大勢の中に少しエロい男子を一人…。ハーレムは意外と奥深く、追及すれば追及するほど面白く感じられます。

この際、逆ハーレムでも良いのではないか、と思い今回の作品「イケメン部」は男子生徒の中に控えめな女子生徒を一人配置するといった少し危険な物語にしようと思ったのです。


面白いかどうかは判りませんが、女子にはたまらない恋愛ストーリーにしていきたいと思います!

国立鷹坂高校「伝統部」。ここは日本古来の伝統に携わる事を身に付けている人たちが集まる部活。和歌や舞、居合いに槍、能に狂言……とにかくそんな部類の物が得意な人が集まる部活だ。そしてこの部活のまたの名は…

―――イケメン部




…*…




「えっ!?澪和、イケメン部に入部するの!?」

「…まだそうと決まった訳じゃないんだけどね」

「良いなぁ~。羨ましいよぉ」

「真菜香も入れば良いのに…」

「ダメダメッ、私は吹奏楽一筋だもんッ」

「…そっか」


1―Bの教室の隅。そこに海空澪和の席があった。

「あっ、あと2分で部活だよ!!…どの先輩が一番カッコ良かったか、明日教えてね?…じゃあ、おっさきに~!!」

「えぇっ!!…あ、うんっ」

チャイムが鳴る前に教室から飛び出ていった友人、長井真菜香の背中を見て、澪和も決心した。

……よしっ!!私も頑張ろうっ!!!




…*…




「……おい、御影。窓閉めてくれ」

「断る」

「何でだよ」

「窓から吹き込む桜の花を感じながら弾く琴が、たまらなく気持ち良いからだ」

「……んなこと言ってる場合か。他の部活のヤツがうるせぇんだよ」

「知らん」

「………はぁ、…ったく」


イケメン部はその名のとおり、イケメンが集合している部活である。

なので…

「キャ――ッ!!私、今西条様と目があったの~」

とか

「どうしよっ、御影先輩の琴の音、生で聴いちゃってるわよっ」

とか……

まぁ、とにかく女子たちがうるさい訳で。

「…もう限界だ。俺、一旦部室出るわ。ジュース買ってくる」

てな具合に何時も注目を浴びているイケメン達は女子から逃げているのである。



……ガチャッ

イケメン部の部員の一人、2年の西条永利が部室のドアを開けた瞬間――

「「あっ」」

ドアの前に立っていた一人の女子生徒とバッタリ鉢合わせた。

彼女の手には何やら小さな紙切れが握られている。

「あっ…、あのっ」

女子生徒はおどおどしながら西条に話かける。

西条は顔をしかめ、

「何?伝統部に何か用でもあんのか?」

不機嫌そうに訊ねる。彼女は首を縦に「こくっ」と振り、顔を上げて言った。

「あのっ…、わ、私、1年B組の海空澪和って言いますっ。…でっ、伝統部に入部したくてやって来ました…!!」

「………っ!!!!」

西条の動きは一瞬固まり、少し顔を赤らめながら彼女を部室の中へと入れた。

「…部長は今、生徒会の方で居ないから。…好きに座ってろ」

「…はい」


部室の中は意外と広く、パッと見教室3個分くらいはある。

澪和は近くにあったパイプ椅子に礼儀正しく姿勢を伸ばして座り、部長の帰りを待つことにした。

「…これ。アイスココア。会が終わるまで少なくてもあと30分はかかるから…」

「有り難うございます」

西条が差し出してきたコップを受け取り、澪和は微笑んだ。

「べっ…、別に礼を言われるような事じゃねぇしっ」

真っ赤になりながら顔を背ける西条の姿を見て、

「…………惚れたか」

低く透き通った大人っぽい声が後ろから聞こえてきた。

振り返ると、漆黒の髪を風に靡かせ琴を部屋の隅に片付けている男子生徒の姿が見えた。

「……てっ、テメッ」

「なんだ図星か」

「…………っ!!!」

西条は何も言い返せず少し長めの赤い髪をくしゃっと崩した。

「あ…、あの……」

戸惑う澪和。――と、その時

「あ~、本当面倒くさい。僕、会議とかニガテなんだけどなぁ~」

部室のドアが開き、背の高い茶髪で耳元にヘアピンをした少しチャラそうな人が入ってきた。

「おっ、永利君に誠君~♪早いねぇ~」

………誰?

澪和が椅子に座ったままポカンとしていると、

「お疲れ様です、部長。今日は遅かったですね」

御影が澪和の横を通り、その男に挨拶をした。

「……ぶ、部長っ!!??」

「…ん?誰このコ?可愛いんだけど」

澪和の存在に気付いた部長が近づいてくる。

「……っ!!」

それを見て真っ先に間に入ったのは…

「部長っ、怖がってますって!!」

「え~、何、永利君。もしかして嫉妬~?」

西条永利だった。

西条はボッと赤くなり、その後首を振る。

「しっ、嫉妬なんかしねぇよ…あ、じゃねぇ、しませんよ」

「そんな真っ赤な顔して反論されても説得力ないんだけど」

反論する西条をニヤニヤしながら見る部長。

「くそっ……!」

西条は彼から目を離した。

状況が飲み込めない澪和に、部長がすっと手を差し出す。

「はじめまして。入部したいのかな?」

優しい微笑みに安心した澪和は頷く。

「はい。伝統部に入りたくて」

その言葉を聞き、部長の顔はますます明るくなる。

「そっか♪…僕の名前は佐々木教芳。伝統部の部長をやってるんだ。…一応生徒会にも入ってるし。…キミは?」

問われて澪和は少し緊張気味に、

「かっ…海空澪和ですっ。宜しくお願いしますっ」

自己紹介をし、頭を下げた。

「澪和ちゃんかぁ~。宜しくね♪…澪和ちゃんみたいな可愛いコちゃんが入ってくると、男臭さも減少されて良いね~」

佐々木はギュッ、といきなり澪和に抱きついてきた。

「う…わっ、部長っ!!!離れて下さいッ!!!」

「嫌だね。…え?何、また嫉妬?」

横入りをする西条に佐々木部長はため息をつく。

「…あ、あの……」

部長の腕の中で澪和がおどおどしながら話しかける。

「何?」と部長が澪和を見下ろすと、

「あれは…誰でしょうか?」

澪和が指差した場所は部室の入り口だ。

3人とも澪和が見ている方を見つめる。

――と、

微かに開いたドアの隙間から何者かの影が見える。

「あ~れ~、誰?」

部長が澪和から手を放し、ドアへと歩み寄る。

…と、その瞬間澪和の腕を何者かの力が引き寄せた。

「………ッ!!??」

見ると、

「部長には気をつけた方が良い。アレは痴漢と同じだ」

常に冷静を装う御影誠が澪和の腕を強く引き、胸元に寄せていた。

「痴漢…ですか?」

「あぁ。痴漢だ」

「……おぃっ!!御影、テメェ何気に抱き寄せようとすんなっ!!」

…と、御影と澪和の会話の最中、西条が割り込み御影を睨む。御影は小さくため息をつき、

「…熱くなりすぎだ。お前はバカか。そんなんだから何時まで経っても恋人が出来ないんだ」

澪和から手を放した。

西条は舌打ちをした後澪和に目線を遣る。

「海空。…後で話がある。部活が終わったら少し残ってくれねぇか?」

澪和は「えと…」と少し考えた後に、

「判りました」

先輩の命令は絶対。という言葉に倣って了承した。

これに西条は心から喜んだが、一方御影の方はというと、額に軽く手をあて、

「西条も西条なら海空も海空だな…」

と、顔を反らした。




…*…




「…新人?」

「うん、そう♪澪和ちゃんって言うんだぁ~♪」

「…澪和?…で?何?コイツが入ってくんの?」

「そう♪可愛いでしょ?」

「はっ…、別に。外で騒いでる女達の方がまだ可愛い」

「何それ。澪和ちゃんにそーゆー口きくの止めてくれない?」

「本当の事を言っただけなんだけど」


ドアの隙間から覗き込んでいた人影の正体は、3年の楠見薙早だった。

澪和は突然現れた楠見と楠見の意味不明な発言に、どう反応しようか戸惑っている。

どうやら佐々木はそれに気付いたらしく、

「騒がしくてごめんね?…こいつ、本当にムカつくヤツだから…。気にしなくて良いよ?」

楠見を指差し澪和に向かって微笑んだ。

「…え、えとっ…」

上手く対応の出来ない澪和に代わり、

「……取り敢えず海空、こっち来い。簡単に伝統部の説明するから」

御影が周り込んで部長をフォローした。澪和はそれに従い、御影の後に付いていく。


御影が最初に案内したのは――

「…っ、みっ、御影先輩っ!ここは私には…っ」

「良いから入れ。何遠慮してるんだ」

「遠慮じゃなくて…っ」


――男子更衣室

部室の奥にある部屋のドアにはそう書かれているプレートが掛かっている。

「…ああ、このプレートが気に入らないのか」

そう言うと御影は木のプレートを外した。

「そういう問題じゃなくて…ッ」

まだ動揺している澪和の肩を押し、御影は無理やり更衣室へと入れさせた。

「大丈夫だ。わざわざ男子更衣室なんて書かなくても、この部は男子しか居なかったんだ。プレート無しでも十分男子更衣室だ」

サラッと言い、涼しい顔をする御影。

「うぅ…」

澪和は両手で顔を覆い、なるべく更衣室内を見ないようにする。その様子を見て御影はため息混じりに、

「安心しろ。怪しげな物は置いていない。…だがロッカーの中を開けるのはやめた方が良いな。特に部長のロッカーは」

更衣室内は安全である(佐々木のロッカー以外はだが)事を伝える。

澪和は少しずつ手をずらし、視野を広げていく。

完全に手を顔から離したあと――

「……広い」

広かった。

元々伝統部の部室が広いのに、部室の隣の部屋を更衣室に使っているのだから、更衣室なんていうレベルの広さではなかった。

澪和の感想に御影は静かに微笑み、

「お前のロッカーはもう決めてあるんだ」

奥にあるロッカーへと歩み寄った。

見ると知らない人の名前の隣だった。澪和は暫くその名前を見つめていたが、やがて御影が口を開き、説明をする。

「…ここ、"一樹"って書いてあるだろ?これ、部長の弟」

「………ッ!!??」

いきなりの衝撃に澪和は言葉も発せられない。

「全然来ないけど。確か得意分野は将棋だった気がする…」

御影は静かに部長の弟のロッカーを開ける。

中からは大量の将棋に関する本が出てきた。

「…凄い量ですね」

崩れた本を拾いながら澪和が呟く。御影は頷き、

「趣味に関してはかなり勉強熱心だったからな。…学問の方はそう優れてはいないが」

山積みになった将棋の本たちをロッカーへと戻す。

「…そうだ、言い忘れていた。俺は琴専門だ。…海空の専門分野は何だ?」

ふと思い出した、と言ったように御影が澪和に訊ねてくる。澪和は一瞬戸惑ったが、「えと…」と言いながら口を開く。

「私の専門分野は日本舞踊です」

顔を真っ赤に染め、もじもじとしながら答える澪和を見て御影は暫くそんな澪和を見つめていたが、

「良いんじゃないか。日本舞踊を専門にしている部員、調度居るし」

澪和を安心させるよう、優しい口調で呟いた。

澪和は「えっ!?」と言って、御影を見上げる。

「まだ来ていない。…その内来るだろ。部室で待ってるか?」

御影はスッと立ち上がり澪和の方を見る。

澪和は頷き、更衣室から出ていく御影の後を追った。


部室に戻ると西条が不機嫌を隠しきれていない顔でパイプ椅子に足を組んで二人を待っていた。

ギロリと御影を睨み、

「遅かったじゃねぇか。…何だよ御影。後輩に手ェ出してんじゃねぇよ…」

じりじりと御影に近寄る。

一方の御影は涼しい顔をしたままで、何も言葉を発しない。

それが余計に気に食わなかったらしく、西条は小さく舌打ちをし御影の胸ぐらを掴んだ。

「……ッ!!!」

澪和は目の前で起きている状況を止めようと、

「西条先輩っ、止めてください!!御影先輩は更衣室を紹介してくれただけですっ!!」

二人の間に割って入ろうとした。

西条は澪和の言葉を聞き、目を見開き御影の胸ぐらを掴んだままの手にさらに力を入れた。御影の身体が徐々に宙に浮く。元々御影の身長は182㎝、西条の身長は176㎝と身長の差があったためか、今では御影の頭は西条の頭の2.5個分も上にある。

喉元が苦しくなったのか、御影が咳をする。

「…おい、その辺で止めろよ。見苦しいんだよ」

後ろの方で碁石の詰まった箱を持ちながら楠見が西条に声をかける。―が、西条は聞き耳も立てない。

「…更衣室って。更衣室って言ったよな?」

西条は御影を責めるかのように声を怒りに震わせながら訊ねる。

御影は冷静に、

「あぁ。海空のロッカーを紹介したんだ。更衣室に入るのは当たり前だろ?」

西条の目を見ながら答えた。

西条はパッと御影から目を反らし、

「………更衣室に連れ込んで何したんだよ。押し倒したのか?キスでもしたのか?…それとも無理やり……」

「あ~ソレ、僕も可笑しいと思ってたんだよね~」

突然割って入ってきた声に3人は声の主の方を見る。

声の主は佐々木教芳だった。

佐々木は、

「だいぶ時間掛かったし、いやらし~事とかしてたんじゃないのかな~って。…まぁ、女の子に慣れていない誠君にはムリだと思うけどさ」

チクリと棘のある言葉を御影に向ける。

西条は佐々木に同意だ、というようにさらに追い討ちをかける。

「…で、実際どうなんだよ?」

御影は小さくため息をつき、

「ふざけるな。俺にそんな趣味はない。…俺はお前や部長みたいに女を弄んだりなんかはしない」

胸元にある西条の腕を払いのけ、緩んだネクタイを縛りなおした。

西条は御影の想像以上に強かった腕の力に驚き、ただただ固まったままだ。

佐々木はというと、つまらなそうに頭の後ろで腕を組み、澪和の方を見た。

佐々木とまともに目が合った澪和は急に視線を反らすのも失礼かと思い、一応軽く会釈をした。

澪和の急な会釈に佐々木は微笑み、手を振る。

その一部始終を見ていた楠見は大きなため息をつき、

「ダメだこりゃ…」

半ば諦め気味に呟いた。

結局この日、澪和が西条に呼び出される事はなかった。




…*…




結局部員全員が揃ったのは澪和が入部してから4日が経った時だった。


「あ~あ、土砂降りだよ~。春雨って感じじゃないね」

窓の外を眺めながら伝統部部長・佐々木教芳が呟く。

「…傘、持ってきてないな」

カーテンをまとめながら楠見薙早が呟いた。


伝統部は基本、朝には部活はないのでこの会話が交わされているのも午後の部活の時だ。


伝統部部室には伝統部部員全員が揃い――

「じゃあ、せっかく揃ったんだから一人ずつ自己紹介しよっかぁ♪」

佐々木の合図により部員が一斉に円になる。

「じゃあ先ずは僕から♪…えーっとぉ、書道担当の佐々木教芳です。一応部長兼生徒会生徒です。んーっとね、身長は178㎝だよ♪最後に…澪和ちゃん、大好きだよッ」

佐々木の自己紹介に皆沈黙する。

澪和はおどおどしていたが、

「よ、宜しくお願いします」

深々と頭を下げた。

次に名乗り出たのは佐々木の隣に座っていた西条だ。

「西条永利。担当分野は横笛。…よろしく」

短めの挨拶だった。

「はい、此方こそ」

微笑む澪和を見、西条は一気に赤くなった。

その隣で呆れたようにため息をつき、自己紹介をし出したのは、

「御影誠だ。担当分野は琴。部長や西条に何かされたら直ぐに俺を頼れ。力になってやる」

顔色一つ変えずに言う御影だった。

御影の発言に佐々木.西条は不満を感じたものの、澪和の顔は明るくなり、

「有り難うございます」

素直に感謝の言葉を伝えた。

「2人とも見事にフラれたな」

笑いながら言う男は――

「3年、楠見薙早。得意分野は囲碁だ。お前なんかには興味ないから安心しとけ」

「本っ当そーゆーの、鬱陶しいよ?この部活に3年生は僕一人で良いのに」

楠見の腹の立つ自己紹介にすかさず佐々木が言葉を挟む。

「生徒会だからって調子乗んなよ。フラれた癖に」

言い返す楠見。

「………それやめて?本当に傷ついてるから」

佐々木は耳を塞ぐ。

「…ご、ごめんなさい」

罪悪感を感じた澪和は佐々木に向かって謝る。

佐々木は手を振り、

「いいよ…。でも、本当に悲しかったから今日は1日、慰めてね?」

澪和に向かって微笑んだ。

「……ちょっ、俺だって…」

慰めてもらいたい、と言わんばかりに西条も話に割り込む。

その隣で御影がやれやれ、といった瞳で澪和を見てきた。

「…あの、そろそろ良い…ですか?」

か細く、少し控え目な声が楠見の隣から聞こえてきた。

見ると青く細いフレームのメガネをかけ、サラサラとした桜色の髪をしている背の高い男子が佐々木をうかがうように見ていた。

佐々木は頷きその男子に許可を出す。

「はじめまして。桐神時雨です。担当分野は日本舞踊です。…同じ日本舞踊同士、仲良くしましょうね」

桐神と名乗った男はほんわかとした和みのある笑顔を澪和に向けた。

自然に澪和も口元が綻ぶ。

「最後に俺か。…城津亘。分野は殺陣だ。…よろしくたのむよ」

長い紫色の髪をゴムで束ね、大人びた顔立ちをした男が軽く会釈をする。

「此方こそです」

澪和は城津の礼儀正しさに感嘆し、会釈をする。


「よし、これで全員自己紹介終了したよね?澪和ちゃんのプロフィールが知りたければ個人で聞くように♪」

佐々木の言葉を〆に、円は崩れる。

「じゃあ今からは個人練習ね。…時雨君、澪和ちゃんの事、頼むよ」

佐々木は桐神の肩に手を置き、澪和の方を向き微笑んだ。

イケメン部の部長――学校一のイケメンと呼ばれている佐々木の笑顔は反則物だった。

澪和は硬直し、気付いた時には桐神に両手で背中を押され、舞台へと案内されている途中だった。


「うわぁ…、しっかりしてる!」

舞台を見た澪和は顔を綻ばせた。

桐神も嬉しそうに澪和を見、

「ですよね。この学校、何気に伝統部に資金かけてるのではないか…とかたまに思ったりする時があるんです」

舞台へと上がっていく。

桐神の癖なのだろうか。年下の澪和に敬語を使ってくる。

「…あ、先ずは自分が舞いますから…、み、見ててくださいっ」

桐神はそう言うと、制服姿のまま舞台の上に置いてあった短剣を手に取り、舞台の中央に立った。

澪和はその姿をじっと見つめる。

暫くの沈黙の後――

……空気が動く感じがした。

桐神の演舞が始まった。

始めの内は静かに清らかに……開始から2分が経った頃だろうか。桐神の動きが急変した。

鋭く空間を切るような眼差し。

指は腰に差してある短剣、太刀の鍔に掛かっている。

……と、次の瞬間、

ザッ……

鋭い音とともに二本の刀が出現する。

「…に、二刀流……!?」

澪和は息を飲んだ。

今まで二刀流を使う人を見た事がなかった澪和は、すっかり桐神に釘付けになってしまった。

桐神は太刀と短剣を巧みに使い、美しくしかし勇ましく舞う。

男の舞は澪和も何度か見た事がある。

力強く、まるで目の前に誰か人間がいるかのように素晴らしい刀裁きをする――

稽古教室の先生は何時も稽古の最後に舞を舞ってくれた。

…しかし、その先生の舞と桐神の舞とでは全く貌が違った。

どこが違うのか、と問われると澪和も答える事は出来ない。が、あきらかに違うのだ。


舞始めてから4.5分後――

太刀を舞台に着いて、桐神の舞は幕を閉じた。

………美しかった

澪和は暫く口を開いて固まっていたが、やがて気付いたように拍手をした。

「凄かったです!男の方とは思えないほどのしなやかさと美しさがあって…。本当に綺麗でした!!」

興奮する澪和に桐神は苦笑し、

「大げさですよ…」

舞台から降りる。

澪和は桐神の方へ近寄り、

「…何歳の頃から舞を習われていたのですか?」

メガネのずれを直す彼に訊ねる。

桐神は澪和の方を向き、

「そうですねぇ…、2,3歳くらいの時からでしょうか…」

顎に指を当て、考えるかのように答える。

「海空さんは、おいくつくらいの頃から…?」

逆に問われた澪和はしばらく思い返した後、

「えっと…、4歳頃だと思います」

不確かな記憶を伝える。

桐神は頷き、

「そうですか。それなら自分とあまり変わりませんね」

微笑する。

可愛い笑顔だった。

…この部活内で桐神先輩は今まで女役だったんだろうなぁ……

そんな事を思うくらいの女子力の高い笑顔だった。

まじまじと顔を見られた桐神は少し赤くなって、

「な…、何か変ですか?」

澪和から視線を外す。澪和は我に返り、

「いっ、いえ何も…」

「そうですか。…あ、海空さんも舞いますか?」

まさか女役に回されていたのだろう等と思われていたなんて事は露知らず、桐神は人懐こい笑顔で訊ねてくる。

「あ、はい。是非」

澪和は多少罪悪感を感じながら手元に置いてあった扇を取った。

――と、その時

…ピカッ、ゴロゴロ…

割と近くで雷が鳴った。

「うーわ~、いよいよ本降りになっちゃったね」

まだ窓の外が気になっていた佐々木はすぐさま窓に駆け寄り外の様子を窺う。

「…誰か毬咲区よりに家がある人とか居ない?俺、傘持ってきてないや」

「俺も」

「……俺もだ」

「俺だって」

「自分もです」

「あ~、僕も」

城津の質問に部員全員が答える。

「なんだよ、誰も持ってきてねぇじゃねぇかよ…」

西条がため息混じりに言う。

そこで、ふと気付いたかのように楠見が澪和を見遣る。

「…お前は?」

「え?」

急に話題を振られ、澪和は硬直する。

「あ…、えっと…、一応持ってます。…折り畳みですけど」

途端、皆の目が輝く。

「ひぇっ!!??」

澪和は軽く後退り。

詰め寄るように西条が近寄ってきて、

「ほっ、本当か!?…ならさ、入れてくれねぇか?お、俺とお前…二人で……」

「あれ~?永利君、抜け駆けかな?ダメだよ。澪和ちゃんは僕と一緒に帰るんだから♪」

「あっ、あのっ…、自分確か海空さんと同じ方角に帰るような気がするのですが…!」

「海空、もしかしてキミは鞠咲区方面かな?」

などと澪和の傘に入れてもらおうとする人が続出した。

「下郎だな。見てて悲しくなるわ」

鼻で笑う楠見と

「あぁ。海空は確か桜難市方面だったよな?」

困惑する澪和に話し掛ける御影。

澪和は御影の方を見て頷いた。

「はい。桜難中学卒ですので――」

御影は「そうか」と言い、澪和から目を離しながら

「…俺も桜難中卒だった」

呟くように言った。

小言で言ったため、この御影の言葉が聞き取れたのは楠見だけで、

「地元じゃないんだな」

「あぁ、はい…。まぁ、色々あって」

「あっそ。まぁ興味ねぇけどさ」

「それで良いです」

御影と楠見の間でしかこの話題は出なかった。

「……で、結論どうするんだぃ?」

改めて城津が部員に決断を委ねる。

「う~ん、困ったなぁ…」

腕を組み、顔を俯かせ考える佐々木の隣で、妙に目をギラつかせている男が居た。

「お…俺が…海空と…相合い傘を………!!」

西条永利だ。

西条はそう言うと、澪和の腕を強引に掴み、

「一緒に帰るぞ…!!!」

部室から飛び出て行った。…もちろん澪和を道連れにして。


「……大丈夫かな?澪和ちゃん…」

「西条君、少し強引なところありますもんね…」

「まぁ、何とかなるでしょう」

「…御影、海空と同じ方面だったって言わなくて良かったのか?」

「……あぁ、はい。別に濡れて帰るくらい平気ですし」

「そういう問題かよ…」

「それ以外に何があるのですか?」

「…まぁ、別に俺には関係ないけどな」

澪和と西条が居なくなった部室では各部員が様々色々な思いを抱えていた。




…*…




「…えーっと、ここはどこだ?」

「確かこの先の道を真っ直ぐ行けば、桜難中学に着くと思います」

「…お、おう。……で、新厘市はどっち方面なんだ?」

澪和の答えに困惑の表情を浮かべる西条。

「新厘市ですか…。たしか桜難駅から乗り換え有りで40分かかるはずですが……」

「ちょぉぉっと待ったぁぁぁぁッ!!!!」

澪和の発言に割り込むように西条の勢いの良い声が入ってくる。

「…な、なんでしょうか?」

衝撃に身を反らす澪和。

西条は冷や汗を垂らし、

「……俺、もう帰るわ」

自分(西条)と澪和をまだ空気が冷えていて、冷たい雨から守ってくれていた傘の柄を澪和に返した。

澪和は首を傾けた。

「……?西条先輩、桜難方面じゃないんですか?」

ここまで澪和を送ってくれたのだ。彼は桜難方面に家があるに違いない。

――そんな澪和の意見を西条は一言で否定した。

「新厘方面だ」


そう言う彼の目はどこか寂しさを帯び、誰にでもなく助けを求めるような、美しく孤独な感じがした――




…*…




午後6時を少し過ぎた頃。

ピンポーン…

家のチャイムが鳴った。

「は~い」

両親共に仕事で不在のため、澪和は2階にある自室から降り、インターホンを見ずにドアを開ける。


……ガチャ


「こんな時間にすまないね」

「……ッ!!!」

見るとそこには190㎝を超える巨体……城津亘が立っていた。

澪和は城津の顔を暫く見上げていたが、首が痛くなり顔を下げる。

城津は苦笑しながら、

「変な気を使わせてしまってすまないね。大丈夫だ、直ぐに終わらせるから」

と言い、胸元から茶色い大きな封筒を取りだし、微笑んだ。



「…アンケート、ですか?」

「そうだ。伝統部に入るともれなくアンケートに答えてもらう仕組みになっていてね…。問題数が多いから面倒くさいんだけどさ…」

城津はお行儀良く正座をし、封筒の中身に目を遣っている澪和を見る。

場所は澪和の部屋。

「城津先輩もこのアンケート、やったんですか?」

封筒から手を放した澪和が問う。

城津は頷き、

「そうだ。このアンケートは部長が作ったものでね…。俺らの代から始まった制度なんだ」

酷いよな、とため息をついた。

澪和はもう一度、封筒の中に入っている書類を見て、今度は中からアンケート用紙を取りだした。

「……それにしても、広い部屋なんだな。俺の部屋の5倍以上ありそう」

部屋を見回す城津。

彼に悪気は無い。

だが澪和は少し俯き、

「……まぁ、ものだけはくれるので…」

小さな小さな声で呟いた。

城津は少し罪悪感を感じ、言葉を詰まらせた。

そんな城津に気付いたのか、澪和は自ら語りだす。

「…私の両親は大手企業の社長と専務なんです。昔から仕事ばかりで今もそう…。家に帰ってくるのは大体一年に3度程度。後はすべて海外で過ごすか会社で仕事をするか…」

城津は黙って聞いている。

「お金や欲しいモノはくれるんです。お金の場合、1週間に5万円は届きますし…。生活に苦労はしていません。……して…いないのに…」

澪和の言葉が途切れた。

城津はそっと澪和に近づき…

「………ッ!!!???」

優しく抱いた。

「…もう無理はしなくて良いんだ。泣きたければ泣けば良い。俺が受け止めてあげるから。…キミは愛が欲しかったんだろう?暖かみのある、親からの愛が…」

城津の言葉は澪和の胸に強く響いた。

いつの間にか澪和の頬には一筋の涙が伝っている。

城津は優しく澪和の髪を撫でた。

「…こんな事をしてるって事が部長や西条達にバレたら多分俺は殺されるんだろうな」

苦笑混じりに言うが、澪和を抱く力は変わらない。

「俺の事はお兄さんだと思えば良い。………彼氏だと思えなんてそんな贅沢な事は言わないから…」

最後の方は小言で言ったため、澪和は上手く聞き取れなかった。

「…うっ……、ぐすっ…、えと、今何て…?」

込み上げてくる涙を飲みながら、澪和は城津を見上げる。

「………ッ!!!」

涙目で上目遣いをしてくる女子…。男ならばこの感情を抑えきる事は出来ないだろう。


――襲いたい


城津は澪和を見る度込み上げる気持ちを自制し、澪和を安心させるよう笑顔を向ける。

澪和はそんな城津の思いなど露知らず、まだ見上げたまま、

「……お兄さん…ですか?」

城津の顔を覗き込みながら言う。

城津は顔を赤らめながら頷き、

「そうだ。何事にも信頼し合える仲間が必要になる。…そんな時、何時でも信じられる存在として俺を思い出してほしいんだ。…遠回しの告白だよ」

また最後の方は声を潜めた。

澪和はというと、満面の笑みを浮かべながら、

「嬉しいですッ!!私なんかが城津先輩に頼っても良いだなんて…!!」

澪和の笑顔を見て、またもや城津は罪悪感を覚えた。

……すまない。俺はそんなに良い人間なんかじゃないんだ。ただ、誰よりもキミの近くに居たい…そんな自欲に満ちた、最低な人間なんだよ……


結局、城津が自宅に帰ったのは午後8時前後だった。

己の腕の中で泣き寝入りした少女を軽々しく抱き上げベッドへ寝させ、優しく静かに頬にキスを落としてからの帰宅となったのだ。




…*…




ヴ―ヴ――…


澪和は枕元に置いてある携帯の着信音で目を覚ました。

時刻は午前5時過ぎ。

"通話"の画面をスライドし、一応短く朝の挨拶をする。

「…ぶちょー…、おはようございます…」

発信者は佐々木教芳だった。

「うん、おはよう♪」

元気な佐々木の声と裏腹に澪和はまだ眠そうな声をしながら、

「…こんな時間にどうしたんですか?朝部、ありませんよね?」

欠伸混じりに質問する。

佐々木は「うん」と短めに返し、

「そうじゃなくて、澪和ちゃんの声が聞きたくて電話したんだ♪」

と、軽く返してきた。

「…私の声って……」

「相変わらず朝から可愛いなぁ♪傍にいってぎゅーってしてあげたい」

澪和は佐々木の朝からの猛アピールに戸惑い、返す言葉を一生懸命頭の中で考えていた。

…と、

「あのさぁ、一つ聞きたい事があるんだけど」

沈黙を破るかのように佐々木が澪和に話し掛けてきた。

「は、はい。何でしょうか?」

澪和は言いながら、机の上に置いてあるまだ何も書いていないアンケート用紙を見た。

だが、佐々木の質問はアンケートの事ではなく、

「そっちにさぁ、永利君いない?」

「え?」

「昨日から行方不明らしいんだよね。永利君の家から連絡が入ったんだ」

「……西条先輩…が?」

どうやら本題はそっちのようだ。

澪和は自然と手が震えた。

……どうしよう…私のせいだ…。私が一緒に西条先輩の家まで送ってあげなかったから……

そんな澪和に気付いたのか、佐々木が優しい声色で話す。

「多分澪和ちゃんと一緒に帰ったんじゃないかな…って思っただけで…。大丈夫だよ、キミは何も心配しなくていいよ」

「……でもっ」

「大丈夫。…あの永利君だもん。よっぽど変な事には巻き込まれてないよ」

今にも泣き出しそうな澪和を慰めるかのように佐々木は小さく笑う。

「…そう、ですよね……」

澪和も少し励まされ、心が落ち着いた。

「じゃあ、一応澪和ちゃんの家には永利君は来てないって事で。――こんな朝早くにごめんね?…それじゃあ、また学校で………っ!!!!????」

別れの挨拶を仕掛けた佐々木の声が途切れる。

「ぶ、部長ッ!?」

澪和が慌てて訊ねると、佐々木は震える声で言った。

「…テレビ……ニュース…見て…?」

澪和は言われるままにテレビの電源を入れ、ニュース番組を見る。

――と、

「…………ッ!!!???」

澪和は言葉を失った。


ニュース番組には中央に女性アナウンサーが座っていて、彼女の右上に画面が映っていた。

廃工場の様子だ。

彼女の真下には黄色い太い文字で、

『国立鷹坂高等学校2年の男子生徒が誘拐』

と書かれている。


…………鷹坂高校の2年男子。

昨日から行方不明。



それは何か大事が起こる前兆のように感じた――

File.1

海空澪和[カイクウ レイワ]

身長;148㎝

体重;秘密

特技;幼い頃から習っていた日本舞踊

other;ド天然

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