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第22話

すいません。

また、かなりの期間を開けてしまいました。

「あんたといい、キリカといい…鍛冶師って強いわよねー。ジャパングって実は結構な軍事力があるんじゃないの?」

 白いシーツの掛かったベットに腰掛るクックは、不思議そうに問いかけた。

 純白なシーツとは正反対の彼女の髪は、こげた部分をそいだせいか気持ち短くなってしまったようだった。

「二日も眠って、さらには三日ぶりに顔を合わせた第一声がそれ?」

「だって気になってたんだもん」

 ぷぅっと頬を膨らませるクックに、タクミは小さくため息をついた。

 あの後、ボロボロになった二人と昏倒しているキリカを、自警団の人たちが村へとつれて帰ってくれた。

 ちょうど村に戻った自警団の人たちがクリスに事情を聞いたらしい。

 村へ戻ると、キリカは牢屋代わりの小屋へ、クックは診療所へと運び込まれた。

 キリカは一日、クックに至っては二日もの間眠り続け、タクミはその間ちょっとした用事を済ませるために村を離れていた。

 タクミがいない間に、キリカは軽い尋問を受けた後街へと連行され、クックは暇そうにベッドの上で天井のシミを数える作業に興じていたという具合だった。

 そして実に三日ぶりに診療所を訪れたタクミに掛けられた言葉はそんな、微妙な言葉だったのだ。

 もっと何か別の言葉を掛けられると思っていただけに、肩透かしを食らったような気分になる。

「あのね……。前にも言ったけど、僕はちょっと剣術をかじってるだけ。それに、キリカに関しては、たぶん剣術に関してはシロートもいいところだよ」

「はあ? 何言ってるのよ。シロートが私と同等に戦えるわけ無いじゃない。あれは大きな街の騎士団にいても不思議じゃない強さだったわ」

「そりゃあそうだよ。それが《妖刀》の最大の特徴なんだから」

 そう答えると、タクミはそばにあった椅子に腰掛けた。

「例えばさ。クックが剣で木を両断したからと言って、そこらへんの剣も握った事の無い人に同じことができると思う?」

「余程剣の才能が無い限り無理ね」

 クックは間髪いれずに即答した。

 剣で斬るということは、意外に難しく、それなりに技術がいる。

 どれだけ切れる剣でも、使う人間が素人なら二束三文で売ってる中古の剣と変わらない切れ味になってしまうのだ。

「そう。だからムラマサはそこに目をつけたんだ」

「というと?」

「ムラマサの作品は、マサムネの元を去る頃には他の追随を許さないほどの切れ味をほこっていた。それでも切れ味を追求し続けたムラマサは、人間自体の腕を上げる事を思いついたんだ。どんな素人でも、刀を握っただけで達人になり、達人が握ればそれこそ神がかった領域まで押し上げる。ムラマサはそれを思いつき、完成させたんだ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!」

 右手を上げて、クックは慌てて口を制した。

 タクミの言った事が余りにも非現実的なことだったからだ。

「『腕を上げる』ぅ? そんなことできるわけ……」

「どうかな? 君は先日、キリカ以外にも異様な身体能力を持つ盗賊たちとも戦ったじゃないか」

「う……そ、それは……そうだけど……」

「まあ、あれは『腕を上げる』じゃなくて『身体能力を上げる』っていう、ちょっと能力が違う物だったみたいだけどね」

 ぎしりと背もたれに身を預けると、タクミは少し難しい顔をした。

「実際のところね。先日君が戦った刀――仮に《妖刀もどき》とすると、《妖刀もどき》みたいな刀は結構ジャパングに出回ってるんだ。でも、《妖刀》のような『腕を上げる』能力を持った刀は《妖刀》以外には一切無い。つまり、製法が一切わかって無いんだ。数年前に途絶えたムラマサの家系以外にはね」

「製法って……《妖刀》だって魔剣なんだから、作り方なんて一緒でしょ?」

 身を乗り出すクック。

 彼女の言うとおり、《妖刀》は魔剣だ。

 だが、

「クック。魔剣っていうのはね、魔精加工が出来て、さらには魔精鍛造っていう技術を持って作られるんだ。これは絶対と言ってもいい」

「知ってる。あんたに教えてもらった」

「そうだね。ちなみに森の中でムラマサの話をした時に僕は言ったよね。『ムラマサは魔精加工の才能が無かった』って」

 タクミの言うとおりだ。

 そう納得すると同時に、すぐに疑問が湧き上がる。

 それならなぜ、タクミは《妖刀》の事を「魔剣だよ」といったのか。

 そんな事が顔に出ていたのか、タクミが疑問に答えた。

「《妖刀》の事を魔剣だと認識し始めたのは、二代目の作品からなんだ。二代目には魔精加工の才能があったらしいからね。それ以降はずっと魔精加工の使える人間ばっかりだったし、初代の作品自体も数本しかない事から、『《妖刀》イコール魔剣の一種』という図式が出来上がった。まあ、キリカの《妖刀》はムラマサの中でも、『強度を上げる』っていうことに魔剣の特性を置いた作品だったから、魔剣と言っていいかちょっと怪しいけどね」

「なるほど……なんにしても、魔剣としての特性はあくまでもオマケってわけね」

「その通り。だからこそ、初代の頃から受け継がれる『腕を上げる』という能力が謎に包まれてるんだ。一説によると、《妖刀》を持った人間は例外なく殺人衝動を覚えることから、『有名な人斬りの魂を詰め込んだんじゃないか』って言われてる」

「魂を?」

「定かではないけどね。確かに歴史に名の残る人斬りなら、腕もそれなりにあるだろうし、『人や物を斬る』っていう抵抗感も取り払えるから、腕が上がるってことかもしれないよ。だからキリカも強かったし、人を斬る事を楽しんでいたんだと思う」

「キリカ、ね」

 クックが少し、考え込むようなしぐさを見せた。

 尋問を行った自警団員の話だと、彼は元々小さな村で鍛冶師をしており、真面目でそれなりに才能のある人物だったらしい。

 ところがある日、旅人が彼に東洋の魔剣《妖刀》について話してしまった。

 魔精鍛造もでき、いずれは後世に名の残る魔剣を作りたかった彼は、《妖刀》探しの旅に出て――そして《妖刀》を見つけ、二人に敗れた。 

『ありがとう。助かった』

 倒れる直前に言った。

 それに、戦いの最中に泣いていたし、人を殺した事を悔やんでいた。

 たぶん彼も、心のどこかで必死に戦っていたのかもしれない。

 既に街へと連行された今となっては、確かめようも無いことだが。 

「どっちにしても……なんともぶっ飛んだ話ね……」

「僕もそう思う」

 そう言って二人は頷きあった。

 その時。

 ――コンコン。

 診療室の扉が叩かれ、返事をする前にヒョコッと金髪の青年が顔を出した。

「あ、まだお取り込み中でしたか?」

「ううん。ちょうど終わったところよ。……クルス、だっけ?」

「ちがうよクック。グリスだよ」

「……クリスです……」

 肩を落とすクリスだったが、すぐさま立ち直り部屋の中へと入ってきた。

 クックの前に立ち止まると、手に持っていた包みをクックへと差し出しす。

「お姉さんに言われてたもの探してみたけど……むりでした。代わりに、うちの村で用意できる一番上等なものを持ってきました」

「あー、やっぱり……まあいいわ。ありがとね、クリス」

 少し残念そうな顔を見せながらも、クックは包みを受け取り、感謝の言葉を口にした。

 さっそく包みを広げ始めるクック。

 白い布に包まれたそれが気になり、タクミは何も言わずにじっと眺めていた。

 一分も経たない間に、その中身があらわとなる。

 包みの中身は二つだった。

 一つは、ところどころ傷の目立つ真紅のコートだった。

 キリカとの戦闘で攻撃を受けたり、止血の為に破ったりとボロボロになってしまったため街までの応急処置として軽く直してもらっていたのだ。

 そして、もう一つは包丁だった。

 黒光りする刃。

 白木の柄。

 紛れも無い包丁だ。

「へぇ……意外にいい包丁じゃない。ふつーだけど」

「さすがに『魔剣みたいな包丁』なんて注文無理ですよ。でも、ジャパングから輸入したものですから、かなり上等なものだと村長も言ってましたよ」

「護身用の包丁が欲しかったんだけど……でもいいわ。ありがたく頂戴しておくわ」

 まんざらでもないといった風に言うと、クックはニコニコしながら包丁を眺めていた。

 なんだかんだ言って、普通の包丁でも良いものを貰うと嬉しいらしい。

 その証拠に、自慢したいのか、タクミの眼前に包丁を突きつける。

「見てタクミっ! 結構いいもの貰っちゃった~!」

「わかった! わかったから、目の前で振り回すのはやめてっ! 刃物恐怖症がぶりかえすっ!」

 テンションの上がったクックと、青ざめたタクミの声が診療所に響き渡る。

 このとき、クリスだけはタクミが何かを後ろに隠したのを苦笑いしながら目撃していた。


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