15話: 背負わなければいけないこと
引っ越しやらなんやらで、ごたごたしてました。
ホントすいません
クックが山へと向かい始めた頃。
タクミはベッドに寝転がり、ぼうっと天井を見上げていた。
「なんで叩かれたか考えなさい、か」
未だジンジンと痛む頬をさする。
何故叩かれたのか、タクミには全くわからなかった。
――あんたのストーカーやめるわ。
その言葉を言われた瞬間、頭を鈍器で殴られたかのような襲った。
自分からストーカー宣言しておいて、何を言っているんだ。
そんな考えが浮かぶより先に、
――いやだっ!
そう叫びそうになった。
二日間だけとはいえ、彼女との旅は楽しかった。
どこか飄々としているかと思えば、墓穴を掘って顔を赤くする彼女。
自分勝手なやつかと思えば、他人をいたわる優しい一面を持つ彼女。
料理ベタなクセに、めげずに突き進む一途な彼女。
そんなクックとふれあい、もう少しだけ一緒に旅をしてみたいと思った。
だからこそ、彼女に危険な目にあってほしくない。
相方なら《妖刀》相手でも――
「あ……そうか」
タクミは気づいた。
彼女の言葉をちゃんと受け止めていなかった。
――だから、責任を背負ったり罰を受けたりするなら、自分の分だけにしときなさい。
クックはそう言ったのだ。
自分はその言葉を、まるで免罪符を受け取るかのように聞いた。
だがそれは、決して免罪の言葉ではない。
言葉のとおり、自分の分は自分で背負わなければいけないのだ。
そんなことにも気づかず、自分のやらなければならないことを相方に背負わせようとした。
「なんだ……ホントに大馬鹿野郎じゃないか……」
自分の馬鹿さ加減に、失笑する。
クックが怒るのも当然。
言われたそばから、話を聞いていない発言をすれば誰だって怒る。
つまり彼女は、こう言いたかったのだろう。
――人の話をちゃんと聞きなさい!
「そうとわかれば……っ!」
自らの頬を、パンパンッと思いっきりたたいて気合を入れる。
やることはわかった。
まずは、彼女に謝る。
死ぬほど謝る。
そしたら、
「《妖刀》退治っ! ……は、まだ無理かな。でも――」
できることはまだある。
そう意気込み、両手に手袋を装着すると、早足にドアのほうへと向かっていく。
と――
トントン。
今まさにドアを開けようとした瞬間、小気味のいいリズムでノックがされた。
タイミングの良さにすこし驚きながら、ドアを開ける。
そこには、胸元から包帯をちらつかせる、自分より少し年上の青年が立っていた。
「えっと、どなたでしょうか?」
「あ、あのっ。赤いお姉さんのお連れの方ですよねっ? あ、す、すいません! 自分は、クリスっていいますっ」
青年は声をうわずらせながら、用件と自己紹介を言う順番を間違えてしまう。
相当あわてているのが見て取れる。
「赤いお姉さん……ってやっぱりクックのことですよね。彼女が何か?」
「そ、それが、その……なんと言っていいか……」
青年はきょろきょろと視線を漂わせ、もごもごと何かを言おうとしていた。
本当に言っていいのか? と悩んでいるようだ。
しばらく悩んだ青年は、
「そのクックさんが……尋問をおこないまして……」
ためらいながら小屋での話と、彼女が山のほうへ走っていったことを告げた。
「あの馬鹿っ!」
そう叫ぶやいなや、タクミは鉄塊入りの袋を腰に取り付けると、勢いよく部屋を飛び出した。
ガンガンとけたたましくブーツの音を響かせながら階段を駆け下りると、宿屋の店主が驚いたような顔をしていた。
「すぐに戻りますっ!」
投げやりに言い、暗い外へと出る。
山の方角を確認し、土がむき出しになった道を全力で駆け出す。
青年の話によると、彼女が小屋を出たのは二〇分ほど前。
全力で走れば追いつけるかもしれない――彼女が歩いていれば。
追いつける可能性はかなり低い。
それでも、タクミは走った。
謝罪の言葉以外にも、彼女に言ってやりたいことが二つも出来たのだ。
絶対に言ってやる。
だから、
「だから、無事でいてくれっ!」