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第13話:僕が殺した

 結論から言うと、先に倒した二人と全く同じ方法で、クックは五人の男を倒した。

 これ以上敵が現れないのを確かめると、すぐさまタクミを呼びに行き、二人で村人達の手当てに当たった。

 幸いなことに、村人たちの命に別状は無かった。

 出血の割りには傷は浅く、致命傷となるような怪我は無かったからだ。

 そして今、二人は村人達の好意により――

 なぜか、二人一部屋の宿に無料で泊めてもらっていた。


「いつまで落ち込んでるのよ」

 向かいのベッドで寝転ぶタクミに、クックは呆れたように声を掛けた。

 クックが戦っていた間、ずっと物陰に隠れていたことを後悔しているらしく、毛布に包まり顔を枕にうずめている。

「昨日も言ったけど、怖いものは誰にでもあるものよ。昨日の今日で刃物恐怖症が治るなんて思ってないし、戦わなかった分あんたは村人の手当てを私以上に頑張ったじゃない」

 そうフォローするも、タクミからの反応は返ってこない。

 思っていた以上に重症らしい。

 その時、ふとあることに気づいた。

「タクミ、一つ聞かせて。――――あんた、何でここにいるの?」

 ピクッ。

 クックの言葉に、タクミが反応を示した。

「僕は……《妖刀》を探してるんだ……」

 枕に顔を沈めたまま答えるタクミ。

「そんなこと知ってるわよ! でもあんたの言ってることっていろいろおかしいじゃない! あんた自分が『大馬鹿野郎だ』って言ってたわよね? でもね、いくら『大馬鹿野郎』でも剣を見ただけで動けなくなるような刃物恐怖症のあんたが、《妖刀》とかいう刃物の為にこんなところまで来るわけ無いじゃない!」

 クックは一気にまくし立てた。

 その剣幕に、タクミも顔をあげ、身を起こす。

 少し逡巡するように目をゆらゆらと彷徨わせてから、

「僕は……国の命令とは関係なく《妖刀》を探さなきゃいけないんだ」

 そう静かに言った。

「どういうこと?」

「…………」

 目を瞑り、再び口を閉ざすタクミ。

 だが「これで話はお終い」という意思表示ではない。

 おそらく、迷っているのだ。

 「本当に話していいのだろうか?」や「話すべきだろう」といったことを、頭の中にいる何人もの自分が会議を開いているのだろう。

 ――無理に話さなくてもいい。

 そう言おうとクックが口を開いた。

 が、その言葉が口を飛び出す前に、タクミの脳内会議での議決が終わったようで、タクミは右手でクックを制した。

 そして、ゆっくりと目を開き、決意に満ちた瞳でクックを見据えると、


「僕はね、人を殺したんだ」


 そう言って、あの日の出来事を話し始めた。


   ***


 旅に出てすぐ、僕は旅のサーカス団と出会ってね。

 そのときに起こった事件にちょっとだけ関わった。

 そしたら、団員の一人にえらく気に入られて、君みたいに「お前を私たちの仲間にしたい! 安心しろ、お前が『うん』というまでストーキングしてやる!」って言ってついてきたんだ。

 不満顔しないでよ、本当の事なんだから。

 でね。

 そいつが本当に君みたいなやつで、とにかく剣術に秀でていたんだ。

 曲芸が得意だから身についたらしいんだけど、そいつ――相方と一緒に旅することになって、いろいろあった。

 《妖刀》にこそ出会う事は無かったけど、悪さをする魔剣士とか魔法使いとかと戦う事もあった。

 それでも僕たちの旅は順調だった。

 だけど、僕は気づいてなかったんだ。

 相方がいたから僕の旅は順調だったということにね。

 そして、半年前。

 ナカックニの西部の街を訪れたとき、再び相方が居たサーカス団にあったんだ。

 ところがそのサーカス団に全然見物客が来てなくてね。

 話を聞いてみると、花形スターだった相方が抜けてから客足が遠のいていったらしいんだよ。

 だから僕たちは一旦別れる事にした。

 相方曰く、「五ヶ月もあれば、代わりのスターを育てられる」との事で、とりあえず半年後に、明日行く街で落ち合う約束をしたんだ。

 ただ――今思えば、僕はそのサーカスで大道具にでもなればよかったんだと思う。

 

 相方と別れてから一週間後。

 立ち寄った街で、僕は《妖刀》の手がかりを掴んだ。

 その街は、夜になると辻斬りが出るって噂で持ちきりで、僕は早速《妖刀》探しを開始した。

 ナカックニの東部――比較的ジャパングが近いという事もあって、自警団のお偉いさんがジャパング鍛冶師の事情を知っていたから、夜でも街を自由に歩ける許可をもらえたんだ。

 もちろん、監視を一人つけることを条件にね。

 とりあえず僕は聞き込み始めた。

 何件も情報が集まりそうな場所を当たり、最後に寄った孤児院で、僕は四つぐらい下の兄妹と出会った。

 妹の方があんまりにも泣きじゃくっていたから、僕は「どうかしたか?」って二人に声を掛けた。

 話を聞いてみると、両親の形見のペンダントを曲げてちゃったから泣いていることがわかった。

 だから僕は、魔精加工で治してあげた。

 するとその兄妹は眼を丸くして、「お兄ちゃん錬金術師ぃー?」って聞いてきたよ。

 僕は自分が鍛冶師であることと、旅の目的を話した。

 話してしまったんだ。

 そしてその夜、自警団の人と街を見回りしてる最中、孤児院を抜け出してきた兄妹を見つけた。

 問いただしてみると「ペンダントのお礼に見回り手伝ってあげる」と兄妹は言った。

 危ないから帰りなさい、と言っても二人は頑として譲ってくれなかった。

 仕方なく僕は「じゃあ、軽く見回ったら戻る。それでいい?」と答えてしまった。

 本当だったら、一直線に孤児院に連れ戻すべになのにも関わらずだよ?

 たぶん、相方と旅をしていた頃と同じ感覚だったんだろうね。

 魔剣や魔女を相手にして無事だったんだから、この二人も守れるだろう。

 相方の活躍があった結果なのにも関わらず、僕は自分が強いと思い込んでしまっていたんだ。

 そして、その数分後。

 僕たちは《妖刀》使いに襲われて――その兄妹は殺された。

 最初に自警団員の腕が切り飛ばされた瞬間、僕は恐怖で固まってしまった。

 だけどそいつは、転げまわる自警団員や、硬直する僕には目もくれず、腰を抜かしている兄妹に迫り、一振りで首を跳ね飛ばした。

 それだけじゃない。

 そいつは崩れ落ちる兄妹の体を、切り刻んで遊び始めたんだ。

 そこで僕は我に返って、転がる自警団の腕から剣を毟り取ると、悲鳴とも雄たけびとも取れない声を上げて、そいつに向かっていった。

 そこまできても、まだ僕は自分の強さを信じ込んでいたんだよ。

 魔精加工で強化すれば、何合かは持つだろう。

 そう思いながら振り下ろした剣は、一合も持たず、根元から切り飛ばされた。

 その瞬間僕は自分が勘違いしていた事を知り、四つん這いになって、そいつから逃げ出そうとした。

 そいつの目に滑稽に映ったのか、すぐには殺そうとせず、そいつは薄皮一枚を剥ぐように僕を斬りつけていったんだ。

 ちょっとでも気が変われば、殺されるかもしれない。

 そんな考えばかりが頭の中を駆け巡り、僕は怖くてたまらなかった。

 そしてそいつが「飽きた」と言って《妖刀》を振り上げたとき、僕や自警団員の悲鳴を聞いて十数人もの自警団員が駆けつけてきたんだ。

 そいつは「水をさされた」そうつぶやいて、路地に逃げ去り、街からも姿を消した。

 民家でこっそり見ていた人や、一緒に居た自警団員の証言もあり、「そんな化け物じゃ仕方が無い」と言って、責める人はいなかったよ。

 兄妹が居た孤児院の院長さんも何も言わなかった。

 誰もが僕に「仕方ない。兄妹に運がなかった」と声を掛けた。

 確かに、二人の命を奪ったのはその《妖刀》使い。

 だけど。

 僕がちゃんと説得して、二人を守るべきだった。


 ――――僕の勘違いが、慢心が、二人を殺したんだ。


   ***


「その日以来、僕は刃物が――刀剣が怖くて仕方なくなった。それと同時に、何が何でもその《妖刀》を見つけ出したくなったんだ……」

 全てを話して、肩の力を抜き深いため息をつくタクミ。

 と、今まで彼の話を黙って聞いていたクックが口を開いた。

「……一ついいかしら?」

「うん」

「確かに、あんたの慢心が起こした悲劇かもしれない。それに、私はタクミが悪くはないとは言わないわ」

「…………」

 ぐうの音も出ないとはこの事だろう。

 たぶん彼女は自分を責める。

 タクミはそう思った。

 だが、

「でもね、あんただけが悪いわけじゃない。あんたはちゃんとその兄妹に危険を教えたし、自警団の人も止めるべきだった。だから……」

 ゆっくりとタクミの頬に手を這わせる。

「だから、責任を背負ったり罰を受けたりするなら、自分の分だけにしときなさい」

「にッ!」

 ぎゅっと頬を引っ張られた。

 結構な力で。

「は、はにふるんはよっ」

「あんたの罰なんてそんなもんよ」

 ふふふ、といたずらっぽく笑いながら手を離した。

 ジンジンと走る痛みに、顔をしかめ頬をさするタクミ。

 ただ、そのしかめっ面には先ほどまでの悲壮的な色は浮かんでおらず、すこし晴れやかな面持ちだった。

(これなら大丈夫ね)

 そう感じたクックはベットから飛び降りた。

「どうしたの?」

「いや、さすがに屋根がある場所で若い男女が一夜を過ごすのはマズイでしょ? もう一部屋用意できないかお願いしてみるわ」

「……そっか。それもそうだね」

「なに? あんた私と一緒にいたいの?」

 からかうようなクックの言葉。

 実際「うん」といわれたら、顔を赤くする事になるのは自分なのだが、タクミはたぶん首を縦には振らないだろうし、暗い雰囲気を飛ばすためにあえてその言葉を口にしたのだ。

「うん……今晩は一緒に……寝て欲しいかな」

 言葉のボディーブローがクックを襲った。

 『一緒にいて欲しい』ではなく『一緒に寝て欲しい』。

 タクミの言葉が頭の中で何度も反響する。

(だって――それって――!)

 言葉の意味を勘違いしたクックは、頬を染めた。

「あ、あんた、なに言って――――っ!」

「ち、ちがうよ! そういう意味じゃない! 一緒にいて欲しいって意味だよ!」

 慌てて訂正するタクミ。

 だがクックの意識は既にピンク色の方面に向かっているようで目を白黒させている。

「クック? おーい、クック」

 ペシペシ。

「――はっ! タ、タクミの気持ちは嬉しいけど、出会って間もないし」

「いや、だから違うって」

 半眼を向ける。

 タクミのしぐさに、クックは自分の勘違いだという事に気づき、こほんと咳払いをすると、

「わ、わかってるわよ! それに――どっちにしてもダメ。ついでにあの男達を尋問しなくちゃいけないからね」

 トーンを下げて、冷静さを装った。

「なんか変だったのよね。刀なんて盗賊っぽくない武器持ってたし」

 刀という単語に、タクミはピクンと眉を跳ねあげた。

「それに、動きも普通の盗賊って感じじゃなかったわね。でもその割には刀失った途端逃げそうとするし……とにかく変なやつらなのよ」

「僕も尋問に付き合う」

 急にタクミが立ち上がった。

 何の前触れもなく立ち上がったので、クックはぽかんとした。

「たぶん――《妖刀》が関わってる」

「え? そりゃ、違和感のある刀だったけど――いくらなんでも七本も《妖刀》があるわけ」

「わかってるよ。ほぼ確実に、その刀は《妖刀》じゃない。たぶん、《妖刀》を模した真っ赤な偽物だと思う」

「だったら《妖刀》は関わってないじゃない」

 クックが異を唱える。

 仮にタクミの言っている事が正しいなら、《妖刀》は今回の件とは全く関係ないということになるのだ。

 だが、タクミは首を横に振った。

「よく考えてみて。刀自体持ってることが少しおかしいのに、全員が全員、《妖刀もどき》を持ってるなんて、明らかに異常事態だよ」

「言われてみれば……」

「たぶん、あの盗賊たちの背後には魔精加工が出来る鍛冶師がいる。それも《妖刀》を持った、ね……」

 拳を握り締める。

 おそらく、そいつはジャパング鍛冶師じゃない。

 ジャパング鍛冶師なら、《妖刀》を持てばどうなるかわかっているからだ。

「とにかく、聞いてみるしかない。もし僕の予想どおりだったら」

 ごくりとつばを飲み込むと、天井を見上げ、その言葉を口にした。


「朝一で街に行って相方を連れてこよう。あいつなら……《妖刀》相手でも大丈夫だ」

 

 今度はあの時のようなことを起こすわけにはいかないのだ。

 と――

「タクミ」

 クックが静かに声を掛けた。

「ん? なにクッ――――」

 タクミは言葉を続けられなかった。

 クックの白い手が、タクミの頬を思いっきり引っぱたいたからだ。

 その衝撃に、タクミはベットに倒れこんだ。

 慌てて身を起こすと、クックの目には失望の色がありありと浮かんでいた。

「ごめん。あんたの罰――さっきのじゃ軽すぎたわ」

 ぷいっと顔を背けると、クックはツカツカとドアへと向かっていく。

「あんたは来なくていい。なんで叩かれたか考えなさい。もし、わからないようだったら……私はあんたなんて要らない。あんたのストーカーやめるわ」

 そう言って、部屋を出て行った。

 あとには、呆然と扉を見つめるタクミの影だけがランプに照らし出されていた。

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