第11話:笑う鍛冶師
手下達が出て行くと、アジトには首領とキリカだけが残っていた。
「あんた一体何がしたいんだ?」
「なんのことだい?」
工房に戻ろうとしていたキリカは歩みを止め、首領へ向き直る。
発した言葉の通り、『わからない』といった顔に、首領は拳をめり込ませたくなった。
「あんた、一週間前は『騒ぎを起こされたら困る』って言ってたじゃねぇか! それなのに……『村を襲え』って言うのはどういうことだっ!?」
叫ぶ首領の顔は、少し青ざめていた。
盗賊稼業をやっていると、人を襲ったり、必要があれば殺したりはした。
だが、いくらなんでも村を襲ったりはしなかった。
村を襲うということの危険性を理解していたからだ。
「『騒ぎを起こされたら困る』……? ああ、そういえばそんなこと言ったな」
キリカは思い出したかのようにつぶやいた。
村を襲えば、下手をすれば騎士団が討伐に来る。
それを避けるために、自分は気をつけていたはずだった。
だが、今はむしろ騎士団に来て欲しいとさえ思っている。
(そうすれば……強いやつが手に入り、もっともっと大胆な研究もできる)
騎士団にいるような人間なら、多少危険な失敗作を渡しても生き残る事が出来るだろう。
それに――
(それに、手に入らないなら入らないで、強いやつを切り刻めるじゃないか)
そう考えただけで、キリカの胸は歓喜に満たされていく。
しかし直に首を振り、
(俺は何を考えている……っ!)
頭に浮かんだ思考を振り払う。
自分がやりたいのは人殺しではない。
夢をかなえたいだけなのだ。
そこで、ふと、腰に刺した《妖刀》に目を落とした。
《妖刀》と呼ばれる由縁、それは人の心を妖惑するところからきているのだろう。
だからこの刀を手に入れるために人まで殺したに違いない。
自分も《妖刀》の餌食となりつつある。
別にそれでも構わない、とキリカは思った。
ただ、
「あの八本は失敗作だ」
それだけが心残り。
この《妖刀》を手にしたとき、不思議な高揚感と、体の軽さを感じた。
それが《妖刀》の能力だと思ったのだ。
だからこそ渡した刀には、内包したマナが気持ちを高揚させ身体能力を上げる効果を付与させた。
だが、それは違った。
《妖刀》の能力とは、妖惑し、そして――
「おい! さっきから何ぶつぶつ言ってるんだよっ」
キリカの胸中など知らない首領が、迂闊にも声を掛けてしまった。
その声に、キリカはピクリと反応を示すと、
「ああ、そうか。そういうことか」
そうつぶやき、首領の首を跳ね飛ばした。
首を失った首領の体から、噴水のように鮮血が飛び出し、深紅の雨となってキリカの白い髪を染めていく。
そんな降り注ぐ血の雨の中、キリカは楽しそうに笑った。
「わかった! これが《妖刀》の能力! 次は……次は必ず成功させるっ!」
そして盗賊どもが帰ってきたら、不良品ごと始末しよう。
そう決めると、キリカはもう一度刀を作るため、工房へと戻っていった。
残されたのは血溜まりに沈む、首領だったものだけだった。