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幕間2

「あー、くそっ!」

 空になった酒瓶を地面にたたきつける。

 キリカと名乗る鍛冶師の青年が工房に篭って、既に七日が過ぎた。

 その間、盗賊たちといえば、入口の広間ともいえないような空間に集められると、「絶対に騒ぎを起こすな」と脅され、盗賊家業が一切出来ない状態になっていた。

 逃げればいいと思う人もいるかもしれないが、それは出来ない。

「こんな恐ろしいもんつけやがて……」

 そう忌々し気に、首元で光る銀色の首輪を引っかいた。

『一定期間俺から離れると、その首輪がお前の喉を貫く』

 キリカの言葉を思い出す。

 こんなものがあるせいで、首領は逃げ出す事ができなかったのだ。

 この首輪、実際にはただの鉄の首輪である。

 キリカが言った効果など無いし、魔精加工は物質に触れていないと行使できない。

 つまり完全な自由の身なのだが、鍛冶師のことなど良くわかっていない首領は逃げ出そうとはしなかった。

 そんなことは露知らず、首領はイラつき、とにかく物に当たり散らしていた。

「お、おちついてくださいよぉ……」

「うるせぇっ!、俺ぁここの首領だぜっ? それがなんで鍛冶師なんかに舐められなきゃいけねぇんだ!」

 険のこもった目で手下達を睨みつける。

 と、一人の男が辟易したように、口を開いた。

「なにが首領だよ。雑用は全部俺達に任せて、てめぇは酒飲んでるだけじゃねぇか。ここが襲われたときなんて、へっぴり腰で向かっていってパンチ一発でダウン。――もう誰もあんたを首領なんて認めてねぇよ」

「お、おいっ」

 慌てて隣の男が小突いた。

 だが、それでも男は口を閉じない。

「なんだよ。お前だってそう思ってるだろ? あんな役に立たない男なんて――」

 男の言葉は中断された。

 顔を真っ赤にした首領が、男の顔を思いっきり蹴り付けたからだ。

「ああん? 俺がなんだって? そういや、あの鍛冶師つれてきたのは、てめぇだったな? てめえのせいでこんな事になってるんだよっ――」

 執拗に蹴り続ける。

 そんな首領の姿を、手下達は怯えた目ではなく、汚いものを見る様な不快感のこもった目で睨んでいた。

「なんの騒ぎだい?」

 不意に、静かで低い声が部屋に響いた。

 首領を含め、全員が声のした通路の方に視線をむける。

 すると、暗い通路から黒服の青年がニヤリと笑いながら、ゆっくりと姿を現した。

「もしかしてケンカか? それはいけない」

 そう言って、何がおかしいのか青年はケタケタと笑った。

 その青年がキリカだということに全員が気づくまで、数秒かかった。

 髪の色がブラウンからプラチナブロンド――いや、完全な白髪になっていたからだ。

 短期間に一気に魔精鍛造を行ったための反動のような物だが、そんなことを知らない一堂は呆然とした。

 そんななかキリカは、

「悪い。どうやらだいぶストレスが溜まっていたみたいだな。じゃあ、ストレスを解消させてやろう」

 そう言って、再び通路に消えたかと思うと、数分も経たぬうちに八本の刀を抱えて姿を現し、盗賊たちに一本一本手渡した。

「これは俺がこの一週間で完成させたばかりの刀だ。無論、ただの刀ではない」

「どういうことだ……ですか?」

「抜いてみればわかる」

 不敵な笑みを浮かべるキリカの言葉に、男たちは顔を見合わせ、戸惑いながらも鞘から刀を引き抜いた。

 サーベルにも似た形状のその刀身は、黒く光り、すらりとまっすぐ伸びる波紋が特徴的で、かがり火に照らされなんとも怪しく輝いていた。

「なんだ……?」

 一人の男が声を漏らす。

 今までの苛立ちとかそういったものはすっかり消えうせ、なんだかいい気分になってきた。

 それに、体も軽い。

 男は試しに、刀を軽く振るった。

「おおぅっ?」

 生まれた遠心力に体勢を崩し、その場で転倒してしまう。

 頬を赤くしながら身を起こすと、他の者も同様に刀を振ったり、その場でジャンプしてみたりと、体の違和感を感じているようだった。

 その様子をみて、キリカは満足そうにうなずいた。

「わかったようだな。今君たちは、力を手に入れた。並みの騎士よりちょっと上ぐらいのな」

「力を……?」

「そうだ。だが――」

 刹那、キリカが腰の刀を引き抜いた。

 素早く振り返り、キンッという音が響いたかと思うと、

「く、くそっ」

 という、首領のか細い声が聞こえた。

 続いて、黒い刀身が首領の足元に落ちるのが見えた。

 いつの間にかキリカの背後にまわりこんでいたらしい。

 首領の刀を切り落としたキリカは、首領の喉元に切っ先を突きつけると、首だけをこちらに向けた。

「こういうバカな考えは起こさない事。俺の刀は君たちのものとは違うし、俺自身も君たちより強い。――わかった?」

 ギラリと睨みつける。

 刺し殺しかねないその鋭い眼光に、盗賊たちは無言でコクコクと首を振った。

「それでいい」

 短くつぶやき刀を納めると、一同に向き直った。

 と、首領と口論していた男が手を上げた。

「なんだ?」

「この刀やあんたの刀がすげぇってのはわかったけど……俺たちにこんなもん渡して、何がしたいんだ?」

 男が言うと、キリカは呆れたように肩をすくめ、さも当然のように言った。

「言っただろ? ストレス解消させてやるって。今から近くの村を襲って暴れて来てくれないか?」


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