9話
「っ……」
背後に迫る殺気。振り返る間もなく鉄棍棒が振り下ろされる。俺は腰を捻り、寸前で躱す。
「死ね!!」
鉄棍棒使いが叫ぶ。続けて踵落としを放つが重心を利用して滑らかに捌く。
しかし鈍器による攻撃は厄介だ。
ハインリッヒが横槍を入れた。
「やれ!!全力で叩き潰せ!!」
一斉に動き出した。
三人が俺を包囲し打撃を加える。
棍棒、ナイフ、鉄パイプといった凶器持ち。
まず棍棒を持つ男の腕を掴む。
腕を極めて肩関節を外すと悲鳴を上げて跪いた。
次にナイフを振る男の手首を掴み勢いを利用しぶん投げる。
壁に激突した。
鉄パイプを握る男が吼えながら振り下ろすが一歩踏み出して足を払う。男はバランスを崩し倒れたところに肘打ち。
「くっ……!!」
残りが及び腰になる。
一方ハインリッヒは後ろで眺めていた。
「おい!!何をしてる!?相手は一人だぞ!!まとめてかかりやがれ!!」
俺はゆっくりと深呼吸をした。肉体と精神が呼応し研ぎ澄まされていく。
どうやら身体の使い方は心得ているらしい。
記憶ではない、“本能”と言っても過言ではない。まだ1週間だけど剣道部での成果はすぐに身体に表れた。
彼らの動きがスローに見え隙を突けば容易に制圧できる。
残りが恐る恐る接近してきた。警戒しつつも明らかに怯んでいる。
俺は両掌を前に出し挑発した。
先に一人が拳を振るってきた。左へ避け右肘で腹部を貫く。悶絶して倒れる。
次に最後の一人。恐怖に目を見開き震える手で棍棒を構える。
俺はゆったりとした歩みで近づき肩に触れる。
「もう終わり? 悪いけど君たち如きでは太刀打ちできないよ」
青ざめて腰が抜けたようで武器を取り落とし尻餅をつく。
それを確認するとハインリッヒの方へ向き直る。
ハインリッヒは冷や汗を垂らす。
「ふざけるなっ……!」
「それはこっちのセリフだよ。こんな卑怯な真似をするなんて」
ハインリッヒは苦虫を嚙み潰した表情だ。それでも余裕を見せようと虚勢を張った。
「たまたまだろう……運が良かっただけだ! お前なんかすぐ泣き入れることになるさ!」
どう考えても負け惜しみだった。
念の為周囲に被害が及ばぬよう注意を払いながら一歩踏み出す。するとハインリッヒは後ずさり距離を取った。
「まあまあまあ!今日はこんなところでいいじゃないか」
ザック先輩が間に入ってきて手を挙げながら制止する。
「まあ今回は俺が仲裁しとく。双方血は流れず一件落着。これ以上揉めるなら学生保安委員会に正式に訴えられるぜ?君も困るだろ?」
さっきまで尊大だった態度が一転して小さくなるハインリッヒ。その目に明らかな狼狽が浮かんだ。
「チッ……覚えとけよ。これは終わっていないからな!」
「じゃあな」
ハインリッヒは捨て台詞と共にザック先輩に背を押されて立ち去っていく。
他の連中は恐怖と痛みで腰が抜けたまま這いずるように撤収して行った。
俺は安堵の溜息をつきながら額の汗を拭う。
遠くから一部始終を目撃していた女子グループの歓声が聞こえてきた。
何だかすごく恥ずかしくなってしまう。
「帰ろ」
■
夕食後。フィリアとミアが心配そうに駆け寄ってきた。
一部始終を聞きつけたらしい。
「クルト君、大丈夫? 怪我してない?」
ミアは心底不安げな表情だ。いつもの凛とした風格は影を潜めている。
「心配してくれてありがとう。でも無理に戦ったわけじゃなくて正当防衛だから」
「……危ない目に遭わないでほしい」
「わかった。出来るだけ気を付けるよ」
するとフィリアが俺の袖を引っ張る。
「クルト君すごかったよ!見た目は小さいのに強いんだね」
「強いのかな……自分では判断しかねるけど」
「十分だよ!自信持っていいよ!」
その後は何事もなかったかのように話しをした。
しかしその裏ではさらに大きな波紋が広がっていることを俺たちはまだ知らない。
ツェラー家の子息に恥をかかせたことで学院内外に注目されつつあるのだった。
■
翌日の朝食後。
高等部2年のある教室。そこにはツェラー家子息ハインリッヒの兄に当たるヘンドリッヒが座っていた。整った顔立ちに柔らかな物腰を持つ彼は弟と比べ遥かに評判が良い。
しかし弟の愚かな行為の報復には常に関与している。
そのヘンドリッヒは教室で新聞部所属の友人と話をしていた。
「……というわけで弟がエルスター家の四男に喧嘩を売ったら返り討ちにあったそうだ」
友人が苦笑して言う。
「ツェラー家も大変ですね」
「まったく。しかし面目丸潰れだ」
すると彼の周囲にいた生徒達が噂話を聞かせてくれる。
「しかも相手がAランク保持者のレイラ部長が絶賛する剣道部の期待株だとか」
「へぇ……面白いじゃないか」
ヘンドリッヒは興味深そうに椅子に凭れかかる。
「噂は噂。どれほどの実力があるのか実際に確かめてみたいところだな」
すると一人の女生徒が割って入ってきた。
「でしたら、公式の決闘申請を行われては如何でしょうか? 相手が拒否することはできません」
「決闘か……まあ弟の代わりに名誉挽回をするのも悪くないな」
女生徒は意味深に微笑む。
「学園騎士制度も制定されましたし、これほど公平な方法はありませんわ」
「ありがとう。参考にするよ」
ヘンドリッヒは思考するように目を伏せた。
弟の仇打ちに見せかけて実は自身も興味津々。
この瞬間、新たな火種が生まれつつあった。
■
フィリアが俺に言う。
「クルト君に決闘状が届いたって……」
俺の部屋に書状が届いていたのだ。
差出人はハインリッヒの兄であるヘンドリッヒ=フォン=ツェラー。
内容は至ってシンプル。
『学院代表騎士として勝負せよ』
俺は読み終えると天井を見上げた。
「確かに剣道部だけど、別に学院代表騎士になったつもりは無いんだけどな……」
フィリアとミアがそれぞれ俺の表情を窺う。
「断れないよ……そんなことしたらエルスター家がねぇ……」
ミアが固唾を呑む。
「そうだけど……でも危険すぎる」
「それでも……やるしかない」
覚悟を決めた表情に二人は顔を見合わせて沈黙した。
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