11話
夕暮れ時。校舎裏の使われなくなった倉庫街。そこにひっそりと佇む旧講堂で奇妙な密談が行われていた。
「ご足労願えて嬉しいよザック殿」
ヘンドリッヒ=フォン=ツェラーが柔らかな声音で呼びかける。対するのはザック。その表情は険しく、警戒心を露わにしていた。
「お前の招待を受けたら碌なことはないのはわかってるんだがな」
「心外だな。君との旧交を温めたいだけなのに」
「社交辞令は要らない。用件を言え」
ザックの視線がヘンドリッヒの後ろに立つ黒装束の用心棒にちらりと移る。明らかに護衛などという優しいものではない。武装も施している。
「簡単な話さ」
ヘンドリッヒは肩を竦めてみせる。
「我々の面子を潰したあのクルトを始末したい。それが望みだ」
「馬鹿野郎。殺人教唆か? 学院内でそんな事をすれば即刻除籍どころじゃ済まねえぞ」
「もちろん直接手を下すとは言っていない。事故で亡くなってもらうだけさ」
朗らかな笑顔とは裏腹に内容は冷酷そのものだ。ザックは鼻を鳴らす。
「なるほど。で? なぜ俺に依頼する?」
「理由は単純明快。君なら出来ると知っているからさ」
「買い被りだ」
「そうかな? 君もここで反旗の機会を窺っていたはずだ。チャンスを与えようと言っているんだ」
「……」
ザックの背筋に氷柱のようなものが走る。相手はこちらの思惑を見透かしている──いや見せかけで動揺を誘っているだけかもしれない。
「成功すれば名誉も女も金も手に入るよ?」
「……」
ザックは暫く押し黙ったまま考え込む。ヘンドリッヒの提案は魅力的すぎるほど魅力的だ。だが同時に自分の立場が一気に危うくなることも明白だった。ヘンドリッヒの用心棒たちがじっと彼を睨みつけている中で返答を迫られる。
「もし失敗したら?」
「君の生死はどうでもいい」
即答だった。
ヘンドリッヒは満面の笑みを崩さず続ける。
「ただし報告を怠れば即刻消えてもらう」
選択肢など最初からない。ザックは観念したように肩を落とすと、短く吐き捨てるように呟いた。
「わかった」
「素晴らしい」
ヘンドリッヒは満足げに頷くと手を伸ばした。握手などする気にはとてもなれない。ザックは黙って彼の懐から現金の入った小包を受け取る。重い。おそらく前金だろう。
「では成功を祈ってるよ」
「祈るよりも監視してるんじゃないのか?」
「君次第だよ」
ヘンドリッヒが去った後、倉庫に取り残されたザックは深くため息をついた。小包を開ければ大量の札束。これまでに見たこともない金額だった。あまりの誘惑にクラクラしそうになる。
「最高だな……」
本作を読んで ほんの少しでも
『面白い』
『続きが気になる』
と感じられましたら、
ブックマークへの追加やページ下部
『ポイントを入れて作者を応援しましょう』項目の
☆☆☆☆☆にポイントを入れて頂けると
今後の更新のモチベーションが上がるのでよろしくお願いします。




