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近未来の魔法世界に転生して最強ハーレムを作る  作者: ななお


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10/17

10話

 数日後の放課後。武道場は普段の賑わいとは異なる静寂に包まれていた。


「肩の力を抜いて。無駄に消耗すれば本番で持ち堪えないよ」


 レイラ部長の声に俺は頷いた。彼女の指示通り、深呼吸を三回繰り返す。決闘申請を受けた時から何度か聞いてきた言葉だ。けれど今この瞬間はとても大切に感じる。



 壁際ではミアさんが救護セットの最終確認をしている。消毒液にガーゼ、止血用の軟膏……白磁の顔に一切の油断はない。フィリアさんはその背中を見つめながら静かに祈りを捧げていた。


「時間だ」


 扉が開き審判役の教官が顔を出す。立ち上がって礼を交わし、再び皆の前へ戻る。道着の襟を正す指がかすかに震えているのに気づき苦笑する。

 臆病なのではなく慣れていないせいだと信じたい。


「クルトくん……」


 フィリアさんが涙を滲ませながら俺の右手を握った。


「必ず勝ってね」

「約束はできないけど……精一杯やる」


 温もりを一瞬だけ刻み込み離すと次はミアさん。薬品特有の仄かな匂いと共に真っ直ぐな眼差しが射抜いた。


「くれぐれも無理だけはしないで」

「向こうが俺に無理をさせないことを願いますよ」


 冗談めかすとレイラ部長の頬が緩む。張りつめた糸が僅かに緩み背負い籠が軽くなった気がした。


「怖いかい?」


 部長が声量を落として問いかける。


「少しだけ」

「結構。怖さを忘れた者は伸びないよ。行きなさい」


 礼をして歩き出す。刀を握る掌は熱い。まだ触れてもいない相手の存在感が肌を刺すように実感されていた。


 全ての視線が一身に降り注ぐ想像を振り払い扉に手を掛ける。


 深呼吸。


 戸を開ける。


 眩い午後の光とともに轟くような喝采が耳朶を打った。



 決闘場の周囲には立ち見の群衆が犇めいている。学院の行事としても珍しくメディア関係者まで駆け付けているらしい。巨大な円形アリーナはかつて古代の競技場を模して建設されたと聞く。今は整備された石敷きと金属製の柵がその荘厳さを増幅させていた。


 中心に立つヘンドリッヒの姿は遠目にも優雅だった。金髪を風になびかせ完璧な所作で礼をする。制服の上に銀地の外套を翻し、明らかに注目を集めるパフォーマンスだ。


 観客席の一角。視界の端ではメリッサとオットマーが固唾を飲んでいた。


 審判は厳粛な軍服姿の教師。両者が指定位置につくと右手を上げる。


「はじめ」


 冷たい空気が肺を満たす。互いに柄に手をかけたまま間合いを探る。ヘンドリッヒの剣は標準的なロングソード。切れ味と耐久性を両立させる鍛錬法で有名なグランスミス鋼を使っているのだろう。刃渡りは九十センチ程か。対する俺は同じく鋼で鍛えた打刀風の形状だが厚みは控えめ。重量で押すタイプではなく速度を重視した設計だ。


 一拍の静寂。


 鞘走りが乾いた音を立てた瞬間、俺は踏み込む。雷光のような速さで一閃。刃と刃が擦れ火花が散る。衝撃と共に金属音がビリビリと鼓膜を震わせた。


「ほう……やるじゃないか」

「褒めていただき光栄です」

「だが本番はこれからだよ」


 ヘンドリッヒの片手がわずかに上がった。咄嗟に身を引くと紫色の魔力弾が肩を掠める。衣服が焦げ臭い。この男、剣士面しながら魔法を巧みに使うようだ。


 俺は敢えて下段から逆袈裟に振り上げた。ヘンドリッヒは正確に弾き返しその勢いで半歩踏み込んでくる。右上段から鋭い払い。咄嗟に身を捩り紙一重で回避する。頬にかすった風圧が痛い。


 観客席からのどよめき。ヘンドリッヒの動きは洗練されている。幼少期から徹底的な武芸教育を受けたのだろう。筋肉の流れに無駄がなく淀みがない。


 俺は呼吸を整え相手の間合いに深く入り込む。中段に構えて切り替える所だが敢えて下段。ヘンドリッヒの足捌きを牽制しつつ左へ軸をずらす。


「甘いな」


 見透かされていた。前方への斬撃を掻い潜り瞬時に俺の死角へ回り込もうとする。そこでようやく彼の真意を察した。


(罠だ)


 このまま正面から打ち合えば必然的に自分の剣が疲弊する。対して彼は最小限のエネルギー消費で致命傷を狙ってくる。魔力制御も含め計算ずくだ。


 汗が目に入る。不利を覆せる一手が必要だ。レイラ部長の指導が蘇る。「相手の意表を突け」。

 記憶の中の“古い映画”のワンシーンを借りるなら―――


 刀身を下向きに保ち両手で持つと大きく円弧を描くように横薙ぎ。しかしフェイント。

 そのまま一歩前へ踏み込み両手で柄頭を相手の腹部に叩きつけた。


「ぐっ……!」


 呻き声と共にヘンドリッヒが後方に転倒。剣を取り落とす。その刹那俺は素早く馬乗りになり喉元に切っ先を突き付けた。


 アリーナが水を打ったように静まり返る。審判が旗を揚げ判定を下す。


「勝者――クルト=フォン=エルスター!」


 喝采が沸騰するかのように溢れ出す。フィリアさんとミアさんの歓喜の声が遠くに聞こえた。


 ヘンドリッヒは苦虫を嚙み潰したようだったが、すぐに取り繕うように立ち上がり握手を求めた。


「見事だった」

「……こちらこそ」


 刃を収めて拱手。儀礼を済ませると共に盛大な拍手が続き、俺は笑顔を張り付かせるしかなかった。



 決闘のあと校内では様々な噂が飛び交った。


『剣聖レイラ部長を凌ぐ才能』

『ツェラー家の末路』


 どれも誇張されたものだが否定する気力もない。とりあえず今日一日が無事終わったことにホッとするだけだ。


「お疲れさま!」


 待ち受けていたフィリアさんが抱き着いてくる。柔らかな体温と髪の匂いが脳を蕩かせる。慌ててミアさんに引き剥がされたが笑顔は消えなかった。


「約束通り勝ってくれたね!」

「偶然だよ。相手も本気ではなかったかもしれないし」


 ミアさんが淡々と言う。


「運と努力が両方伴わなければ決して勝てません」

「それにしても……注目されちゃったな」

「貴方が英雄扱いされて喜ぶと思ったのですが」

「そういうキャラじゃないから」

「でしょうね」


 苦笑しながらテーブルに置かれたコーヒーを一口。


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