第二章 「」ドアは開かれた
彼女に異変が訪れ、平穏な日常の終了を告げるが如く迷い混んだ。
重音はスマホを取り出し、画面を見つめた。
「何してんだろ、アイツ」
暗い画面を見つめながら、ため息と共にそう呟いた。
(帰り道転けて膝擦りむいて携帯壊してたりしてないかな・・・・・・。最後までついてやったらよかった。心配・・・・・・)
先程、友人と一緒に下校していた。友人の家と重音の家は少し離れた場所にあり、帰り道が一緒だったので途中まで一緒に下校していた。先に重音の家に着いたので、友人の家まで着いて行こうと言い出した。だが友人は申し訳ないと言い断った。
重音は家に帰りたくない理由があった。帰宅する時間をできるだけの伸ばしたかった。それにこの友人、かなりドジで心配なのである。どれぐらいドジなのか。完璧に塗装されたコンクリートの道で転んだり、学校に必要な提出物を川に誤って流してしまったり。とにかくどうしようもないドジなのである。そんな彼女を心配して、いつも気にかけてやっているのだ。
そして、その友人は重音の気のおけない親友なのだ。気が許せる友は彼女だけだ。
そんな彼女にロインと言うSNSで無事に帰宅しているかの確認メッセージを送ったのだ。だが既読が付かない。時計を見ると、針は5時を過ぎようとしている。今頃は帰宅していてもおかしくない時間帯なのだが。
(なんなんだよ。連絡待つべき?いや、心配だから行こっかなぁ)
うつ伏せで寝ていた重音が立ち上がり、ドア付近に立つとノブを捻り、ドアを開けようと力を入れた。だが、ドアは開かない。
「え?」
ドアには鍵が付いておらず、ドアを完璧に閉めることはあり得ない。ドアの向こう側で押さえつける以外不可能だ。だがそんなイタズラをする人物はこの家にいない。母がそんなことするとは考えられない。
だがどう頑張ってもドアは開かなかった。
(ど、どうなってんの?)
ドアはびくともしない。
(あ、そうだ)
すると重音はあることを思い付いた。声を張り上げ母に助けを求めるという、幼稚だが確実性のあるものだ。母は他人と接することが苦手で、テレワーク可能な職場に就職しているから母は今自宅にいる。母と重音の部屋は少々離れた場所にあるが、流石に大声で叫ぶと母の部屋に届く。
「おかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!」
思いのほか声が出たので思わず両手で口を塞いだ。だが、なんの応答も帰ってこない。薄情な母には期待すらしていなかったのだが、ここまで薄情な人とは思わなかった。
「え・・・・・・洒落になんないんすけど・・・・・・」
床を蹴って音をたててみたが、母はなにもしてこない。母に電話をしてみたがそれもすぐに無意味だとわかった。
「はぁ~・・・あ、そうか。なんだ簡単じゃんか」
そう思い立つと、窓の方に歩き出そうと、窓の方に向いた。だが、なにか妙なことに気がつき、立ち止まった。違和感は、カーテンの明るさにある。春の夕方はカーテンが夕陽でオレンジ色に染まる。だが今は、まるで夜のように、カーテンに変化がない。
「え?いやいや、どうなってんの?」
友人と一緒に帰っていた道中の天気は晴れていた。天気予報では雲ひとつない晴天と言っていた。突然の曇りは珍しくないが、曇りだとしてもカーテンの隙間に微かな明かりが漏れるもの。だが今はそれがないのだ。夜の9時ほどの変化のなさ。
「と、取り敢えず開けてみんべ」
カーテンの方に歩きだした。不気味な状態に終始戸惑う重音であった。カーテンの方に近づくにつれ、謎の緊張感が重音を襲った。開けた途端、そこは知らない世界で、元の世界にはもう二度と戻れないんじゃないか。そう想像するだけで、背筋に冷たいなにかが伝う。だがそんなことはあり得ないし、そんなメルヘンなことが起こりっこない。そう自分に言い聞かせた。
「きっと、大丈夫でしょ」
すると、クローゼットの横にある全身鏡を見て驚愕した。鏡に写っていた自分の服や髪や目の色が異なっていたのだ。両目、髪、セーターの色が赤色でスカートが肌色なのだ。重音の元の服装は、真っ白なカッターシャツに赤いリボンのネクタイ。ピンク色のセーターでスカートはチェック柄の赤。目は黒でカラコンなどしていない。
「え・・・いやいや・・・・・・なんで・・・・・・?」
鏡にバグ機能はないが、なにかしらの機能が搭載している、用途不明の鏡が自室に設置されているという説明がなければ不可解だ。
「ん・・・・・・うーん・・・・・・」
少々目が疲れているのではないかと思い、目を擦ってみたが見間違いではなかった。見間違いではないことを確認し、鏡を裏返しにしてカーテンの方へと急いだ。現実逃避に至るまでの決断の早さたる光速の域である。
「助けを呼ばないと」
この問題を先延ばしにし、カーテンの方へと早足で向かった。
カーテンを開けると、自分の目を疑う光景が広がっていた。窓の外は見慣れた町並みが広がっているはずだった。だが、重音の視界に広がっていたのは、真っ暗な暗闇だった。隣の家など確認できない、漆黒の世界。
「な、なにこれ・・・・・・」
重音の予想が的中してしまったのかと、ヒヤッとした。見渡す限り暗黒で、民家が並ぶ町並み以前に空がないのだ。夜空とかそういう問題ではなく、純粋な闇。まるでロケットから見る宇宙だ。
「え・・・・・・え・・・・・・」
後ろにたじろいだのも束の間、更なる異変が重音を襲った。机の方に物音が聞こえ、不意に物音のする方向を振り向いた。物音の正体はパソコンから発せられる音のようだ。だが帰宅してからパソコンに触れていない。起動するはずがないのだ。そのパソコンが写したのは、誰かの視界のようだ。その景色に重音は見覚えがあった。
「あ、あーしの部屋・・・・・・?」
その視界の人物は漫画を読んでいて、マンガ雑誌の後ろの背景が重音の部屋の背景に一致しているのだ。先程の物音はページをめくる音で間違いないだろう。
「あーしの視界なんじゃない・・・・・・」
だがこれだけは言える。これは自分の部屋でも自分の視界でもない。自室と類似点が多いだけの部屋であり、この視界の持ち主と会ったことがない。部屋は類似しているだけで、家具や家具の配置、如何わしい本、アニメキャラのフィギュア、ゴリゴリの少年漫画など、重音の知らない物品がいくつも見受けられる。重音は少年漫画というより少女漫画を好む。
「もぉ・・・・・・なんなんだよ・・・・・・」
一人の繊細な乙女が、部屋の端で泣いてしまった。夢のような出来事に頭がついていけず、嗚咽交じりで泣いてしまった。
「なんなんだよぉ~・・・ウイッ。誰か助けてよぉ~・・・怖くてたまらないよぉ~・・・・・・ウイッ」
泣きじゃくる彼女に答えるように、ドアが軋むような音で開いた。ドアの向こうは、パソコンの画面とリンクしているようだ。
「も・・・・・・嫌だ・・・・・・お願い・・・・・・やめてください・・・・・・」
ドアの方に首を向け、さらに込み上げる涙。何者かに祈るように命乞いをした。その後も開いたドアは、重音の方を見つめた。重音はドアの向こう側が化物に見え恐怖した。だがこのままなにもしないだけだったら変化は訪れない。行けばこの不気味な何かの正体が掴めるかもしれない。これまでびくともしなかったドアが突然開いたのはきっと、入れと重音に言っているのだろう。重音は恐る恐るドアの方へ行き、勇気を出してゆっくりと足を外に出した。
気づくと重音はあのモニターの人物と同じ場所にいた。モニターに写し出された映像が、今自分の視界限界に広がっていた。
「え・・・・・・」
先程自室にいたのに、今は自分の自室に類似した別の部屋にいる。本棚には先程モニターに写っていた部屋と同様で、少年漫画と如何わしい本が収納され、手前には美少女のフィギュアが飾られていた。手に持っているのは漫画雑誌。少年マガジンが目の前にあるのだ。そう、モニターに写し出されていた光景と一緒なのだ。だが先程まで確かに自分の自室にいた。あのドアに足を踏み入れたからか。
(と、にかく、一度外に出よ)
窓の方を見ると、カーテンはオレンジ色に染まっていた。ここは自分のいた部屋ではない。
一度立ってみると、背が以上に延びていることに気がついた。元の身長が160センチに対して、今は180センチほどの世界を見ている。異常に背が伸びているのだ。
(あれ?)
それだけではなく、自分の髪も短くなっているのだ。いつもなら前髪が見えるのだが、妙に視界がクリアなのだ。視界も良くなっているように思った重音。
(なんなんだ・・・・・・)
漫画を地面に置き、一度鏡の景色を確認してみた。
「え!?」
思わず声が漏れた。当然である。鏡に写っていた人物が自分じゃなかったから。性別は男のようだ。鏡に顔を近づけ、自分の顔を撫でるように触った。間違いなくこの鏡の人物は自分である。
「え・・・・・・え・・・・・・え・・・・・・」
尻餅をつき、ひどく混乱してしまった。全身の震えが止まらず、その内、声にならない声を発した。自分を落ち着かせるように頭を押さえたが、逆効果だ。全身が自分のじゃないから、チクチクした触感でさらに恐怖した。ここに来るまでこういう風に取り乱すことがなかったのが不思議だ。声も自分の物じゃないし、呼吸も自分の力じゃない。仕舞いには自分の意識も誰かの物なんじゃにかと、全てを疑ってしまう。
重音の悲鳴に驚いたなに者がドアを勢いよく開けた。ドアの方を見ると、重音の目にはポニーテールの若々しい女性が写っていた。
「あ、あなたは・・・・・・?」
重音の一言に首をかしげる女性。
ポニーテールの若々しい奥様は一体誰なのだろうか。




