第一章 「」と『』
あなたの異変はなんですか?異変は日常を崩しかねないものですが、その異変が繰り広げるドラマがあるはずです。
今宵開催されますは一人の少年の異変から始まるSFちっくなドラマ。あなたは子の話に没頭できますか?
傘ヶ原重16才。気づいたら彼は診察室にいた。
「ここはどこ?」
先程まで彼は自宅で漫画を読んでいた。だが今は診察室らしき場所にいる。
(・・・これは夢・・・?)
そこで彼は、これは夢なのだと思うことにした。家からここへ移動する間の記憶がないのは、どう考えてもあり得ない。夢であるかを確かめるため、彼は自分の頬をつねることにした。
微かに頬の痛みを感じ、彼は驚いた。
「夢じゃないのなら・・・ここはどこだよ・・・・・・?」
「夢じゃありませんよ」
思わず呟く重に答えるように返した若い男の声。
重は声のする方向を向いた。
先程の声の持ち主らしき、聴診器を首にぶら下げた白衣姿の男が、朗らかな笑みをこちらに向けている。
「お前は誰だ?」
恐怖心を押さえ、威嚇するかの如く口を開いた。
「高校生を監禁して、ナニ目的だ?」
重は同性愛者のいかれた変質者に誘拐されたと思い身構える。男は終始面食らっていた。
男は重を安心させるために事態を説明し始める。
「私はここの精神科の院長、賀谷一平と申します。一度お座りください」
男は重を自分の目の前の丸椅子に座るように促した。だが重は椅子に座るのをためらった。
「大丈夫ですよ。私は怪しい人間じゃありません。本当に医者なので安心してください」
優しく微笑みそう言った男。重はなにか怪しいと思いつつ、男が激昂する可能性を考え、言う通りにした。
「今何が起きているのかさっぱりだと思います。大変混乱なさっていることでしょう。重さんは、今と全く異なる雰囲気のあなたと、心配したご両親と、この精神科に来られました。その間の記憶がないのは、別人のあなたがあなたの身体を乗っ取っていたからです」
「ちょっちょ待ってくださいよ。それって僕が多重人格であるってことですか?」
重は、冷や汗がぶぁっと出た。賀谷に望む回答は、否というたった一文字だけであったが、その望みはコンマ数秒で潰えた。
「はい」
「あ・・・・・・マジかよ。とても信じられん・・・・・・」
ショックを受けた重。嘘みたいな現実をつきつけられ困惑するのは当たり前だ。一生訳のわからない奴と共に生きていかなくてはならない現実を想像すると、深く絶望した。
『あ、やっぱショック受けるよねぇ~』
突然、若い女の声が聞こえた。重は驚きのあまり、その場から勢いよく立ち上がり、椅子をこかしてしまった。その声が信じられないほどに近かったのだ。だがこの部屋にいるのは賀谷と重だけで、他には誰もいない。いるはずがないのだ。
『このお医者さんの言うことは正しいとおもうけど、ぶっちゃけあーし自身は納得してないんだよね』
謎の緊張を感じ、胸に痛みを感じた重。息も切れてきて、体調不良を賀谷に訴えた。だが賀谷は「落ちついてください」と言い続けているだけであった。
『えっと、これってあーしのせい・・・だよね。傘ヶ原くんは全くおかしくないから落ちついて?』
「今彼女、何を言ってますか?」
賀谷は前のめりになりながら重に聞いた。
「あ、えっと、やっぱショック受けるよね~って言ってました。そんで今さっき言ってたのは、自分のせいで僕を混乱させてしまったと、申し訳ない気持ちと、僕は異常なんかじゃないと、あなたが言ったみたいに落ち着かせるような言葉を言ってくれました。でもなんか、変なんですよ」
賀谷の問いかけに答えた重は、コイツは自分の中の自分自身なのに、賀谷が話してくれた多重人格の話に納得がいっていないのはどうしてなのかという、至極真っ当な疑問が飛び交う。
「変、と申しますと?」
「今の状況もすごく変なんすけど、彼女もまったく今の状況に納得いってないみたいで。え?この人格は僕の人格であることを理解してないんすかね・・・・・・」
そこで賀谷の笑みが崩れた。なぜなら過去にそんな事例など存在しないからだ。だが彼女が実際に言ったわけじゃないから、一概に決めつけることはできない。
「あの・・・コイツはなんなんすか?自覚ない別人格ってあるんすか?」
得たいの知れない者に言い様のない恐怖を抱くのは当たり前である。頭を抱える賀谷と、言語化不可能な恐怖に苛まれる重。
『困惑してるところごめんなんだけど、あーしも実は困惑してんだよね。あーしの生活が一変しちゃったから、無理ないけど』
背筋が凍るようなことを言い出した彼女。思い込みの激しい人格であることが容易に汲み取れる。
すると賀谷は、この少女の名前、それと詳細を詳しく話し出した。
「この子の名前は傘ヶ原重音16才。誕生日は12月21日、ここまではあなたと一緒です。しかし年齢だけなんですよ。あとは全く反対なんです。市立相馬薔薇女子高等部1年3組に在籍し、生徒番号39。そんな学園は東京にはありません。重さんが共学に対して、重音さんは女子校。髪型は茶髪のボブヘヤー。肌寒い季節のときはピンクのセーターを着る。休日の過ごし方は友人の趣味に付き合うこと。嫌いな食べ物はピーマン。ちなみにピーマンの肉詰めは好きのこと。彼氏が亡くなって以来異性と付き合うことをやめた。父親の名は春彦、母親は秋奈。あなたの父親が秋彦で母親が春奈。名前は類似しているが性別は完全に異なっている。二重人格そのものが稀なのに、稀に稀が重なっていて、奇妙です。正直、私のこれまでの人生の中で、これほど未知な体験はありません。なんたって主人各の人間関係や生活が異なる事例がないのですから」
感心しながらも疑念が渦巻く賀谷の脳内。賀谷は軽いパニック状態である。彼は26という若さで院長にまで出世した。東京都賀谷精神科という、自分の病院を立ち上げるほどの優秀な天才だ。どんな患者と接するなかで戸惑ったり、普通の医療従事者ならぶちギレるようなことを患者が言っても平常心を保つ。そんな冷静沈着な賀谷でさえこのような有り様だ。
「重さん。これから週に2日、この病院にいらしてください」
「え?は、はい」
これがなんなのか正体を解明させるために通院を促した賀谷。
次の通院の日は明後日の4月9日水曜日になり、診察室を出た。賀谷と重は控え室にいる両親の方へ向かった。
「重!!心配したんだぞ!!」
控え室に入った途端、父が勢いよく重に抱きついた。涙を流しているようだった。
「お父さんちょっと大袈裟だよ」
抱きつく父の力が強く、少し苦しむ重。
するとソファーに座っていた母が驚いたような表情で口を開いた。
「大袈裟なものですか。あの時あんた異常だったもの。珍しく敬語口調で話すものだから、あたしらすごく怖かったのよ。霊的なあれなのかなって思って、あの子がちゃんと状況説明してくれなかったから、お父さんが霊媒師を呼ぶところだったのよ」
心配をかけさせて申し訳なく思った重。
「お母様お父様。重くんの頭の方は正常に稼働しておりますのでご安心ください。重くんと話したのですが、かなりショックを受けている様で、あまり詮索してあげないでください」
「わかりました」
母はコクンと頷き、その日は早々に家に帰ることにした傘ヶ原ファミリー。
少女が目を覚めると、そこはいつもと変わらない自室であった。
「あえ、いつの間にあーし寝てたんだろ?」
髪型は茶髪のボブヘヤー。ピンクのセーターを来ている女子高生。私立相馬薔薇女子高等学校に在籍している女の子。
彼女の名前は傘ヶ原重音。
かっっっっっっっっっっっっっっわいそうな重!!!




