金児、ファーストと激突
金児、ヒメーカ、ジョニーはフィーリングZを発動してFSFと対峙した。
「調査では地球の人間はフィーリングZを使えないはずだが」
とリンゴはピーチへ言った。
「わ……私の調査に間違いはありません。しかし……なぜ……」
ピーチが動揺していると横にいたライムが口を開いた。
「イソハチとジョニー以外にセカンドがいた可能性が一番高いんじゃない? もしくは……地球人がフィーリングZを使える技術がすでに開発されていた……とか」
リンゴはライムのこの発言を聞いて
「これは想定外だったな。作戦変更する。目前の覆面を被ったフィーリングZ使い三名の拘束を第一優先とする。拘束しろ」
とパイン、ピーチ、ライムに命令を下した。
「了解」
「わかりました」
「ほーい」
三人は返事をして一歩踏み出した。ライムは肩に担いでいたイソハチを乱暴に地面に投げ捨てて身構えた。ライムがまばたきを止めて集中すると足元が振動で波打ち始めた。それに呼応するようにパインのドレッドヘアとピーチの黒髪がゆらゆらと揺れ始めた。すると三人が来ていた黒のビジネススーツは粒子となって消え去り、左胸に地球のマークが付けられた黒スパッツの戦闘服に変化した。
「金児、ヒメーカ。奴らは軍の精鋭だ。絶対に気を抜くな。そして無理をするな。イソハチを奪ったら逃げるぞ」
ジョニーは金児とヒメーカを気にかけながらもFSFに意識を集中していた。ジョニーにとってここまでは想定通りことが運んでいた。金児が実戦でフィーリングZを発動すること、そしてファーストが現場にイソハチを連れてくることは未知数だったがそうなるとジョニーは計算していた。実際に金児はフィーリングZを発動して、イソハチは博士に言う事を聞かせる為に連れてこられていた。だが一つ想定外があった。
――くそっ。敵の人数が一人多いな
ジョニーの背中に冷や汗が流れた。ジョニーの想定では野口博士の前に現れるファーストは多くても三人のはずだった。博士の誘拐だけなら二人、もしくは三人で行動するとジョニーは踏んでいた。だが実際は四人だった。ジョニーは今地球に来ているファーストのリーダーは非常に警戒心が強い奴だと分析した。相手が三人ならなんとか博士とイソハチを守れる計算だったが、すでに一時退散できる状況ではないと判断したジョニーは腹をくくった。
「まずは目に力を集中させて防御に徹しろ」
「OK」
「わかったわ」
ジョニー、金児、ヒメーカは徐々に前傾姿勢になっていった。ジョニーとヒメーカの足元の地面は重力で四方にヒビが入った。
「ん⁉ 金児⁉」
ヒメーカは斜め前にいた金児の異変に気付いた。金児は戦闘態勢に入っていなかった。この時、実は金児の足は極度の緊張で震えていた。超ボンボンとはいえ普通の十五歳の高校生とって、本物の宇宙人が超能力で自分を攻撃しようとしてきている事実は衝撃だった。さらに格闘技経験とフィーリングZの感覚によって、金児は直観で目の前にいる奴らのヤバさが肌でわかった。ジョニーは
「金児! 早く戦闘態勢に入れ‼」
と叫んだ。金児にはジョニーの言葉が耳に入らなかった。そしてその隙を見逃すFSFではなかった。地面を蹴る爆音がすると金児の眼球の信号が脳に到達した時には、パインは眼前に迫っていた!
「しまった!」
ジョニーはとっさに金児とパインの間に割って入ろうとしたが、ジョニーにはライムが迫っていた! ジョニーのフィーリングZの層とライムのフィーリングZの層が激突した! 金児はパインの大きく振り抜いた右手の攻撃を喰らい、地表スレスレを這うように飛んで行って地面をバウンドした!
「まずは一人」
パインは倒れて動かない金児を見てそう言った。
「金児っ!」
ヒメーカはピーチのフィーリングZの層の圧力に必死にこらえながら叫んだ。パインはギロッとジョニーの方へ振り向いた。そして岩のような筋肉が盛り上がるとフィーリングZの層が膨れ上がって、ライムと拮抗していたジョニーを横からの圧力で攻めた! ジョニーはライムとパインの両圧力にさらされて上へ弾けた! ジョニーは弧を描いて研究所敷地内のツツジの植え込みに突き刺さった!
「二人目」
パインはつぶやくと今度はヒメーカの方を見た。パインの殺気を感じたヒメーカは対峙していたピーチの圧力を横へ受け流した! そしてFSFから距離をとるために大きくジャンプした! だがその瞬間、目の前にパインが迫った!
「三人目」
とパインはつぶやくと大きく振りかぶった左手を高速で振り抜いた! ヒメーカは飛ばされて研究所の外壁にショートバウントして激突した。パインは大きな体をズンッといわせて着地すると
「あっけない」
と言った。パイン、ライム、ピーチは戦闘態勢を解いた。
「さっさとジェイルで拘束して研究資料を取りにいきましょうか」
ライムは腰に装着しているポシェットから手榴弾のような形成をしたジェイル(対フィーリングZ使い拘束具)を取り出した。それを片手で持つとジョニーの方へむけてジェイルの先端にあるボタンに手をかけた。しかしライムはボタンを押さなかった。背中に異変を感じたからだ。ライムが振り向くと遠くの方で金児が立ち上がっていた。
「パインの攻撃が直撃したはずだが」
ライムはそう言ってジェイルを持っていた手を下げた。
「あの野郎……」
とパインはつぶやいた。パインの攻撃が顔面に直撃したかと思われたが金児は反射的に肩でガードしていた。金児は自分の左肩に手を当てると手のひらに生暖かさを感じた。手のひらを見ると真っ赤になっていた。
「くそ……」
金児は回りを見渡した。視線の先にファーストの三人が立っていて金児を見ていた。そこにジョニーとヒメーカの姿はなかった。
「ジョニー……ヒメーカ……」
金児の位置からジョニーの姿は見えなかった。右斜め前に目をやるとビルの破片に囲まれるようにヒメーカが地面にうずくまっていた。金児はふらつきながら一瞬で自分たちがやられたのを悟った。金児はこの事態を自分が怖気づいたせいだと思った。
——くそっ俺のせいだ。俺がビビったせいだ。まだ足が震えてる。どうすれば——
金児が何もできずに迷っていると、ライムは金児に向かって戦闘態勢をとった。
「まてライム。俺がやる」
パインはライムを制止すると急激にドレッドヘアを揺らして地面を蹴り上げた! アスファルトがめくれ上がって飛び散る! そして一瞬で金児の目の前まで飛ぶと、パインは右手を振り上げて思いっきり金児をなぎ払った!
ドーン‼
強烈な打撃音と共に金児は飛ばされてビルに激突した! ビルに亀裂が入って外壁が飛び散った!
「よしっ」
とパインが言うと金児はゆっくり前のめりに倒れた。パインはジェイルを取り出して金児にかざそうとした。すると金児の髪がゆらゆらと揺れていた。金児はゆっくり立ち上がると両腕から湯気が出ていた。
「あ……危なかった」
金児はまたギリギリでガードしていた。両腕にきしむような痛みが走る。パインは立ち上がった金児を見て全身の筋肉の血管を浮き立たせた。金児はパインの短気な性格の琴線に触れたのだった。
「あのクソヤロウ……」
パインは怒りに打ち震えた。金児は相変わらず恐怖で足は震えていたが、恐怖の質に変化があった。超能力を使う得体の知れない宇宙人への恐怖から死への恐怖に変化していた。宇宙人への先入観から解き放たれて、単純な死へのプレッシャーへ変化した。しかしことにより金児は集中し始めた。金児は生存本能で自然と空手の構えをとった!
「良い度胸だ」
パインは両手を地面につけると、力士の立ち合いのように一気に金児へ飛びかかった! パインは怒りで盛り上がった極太の右腕を金児へ向けて振り抜いた! パインの指先が金児の顔面に触れた瞬間だった。金児が被っていたレスラーの覆面がはじけ飛んだ! 金児は皮一枚のところで顔をかがめて攻撃をかわしたのだった!
「このぉぉ……」
パインの血管はこめかみから鼻の近くまで浮き立った。パインは立て続けに金児へ攻撃した! 金児は頭を弧を描くように動かしてすべて避けた! だがその一発一発は金児の皮膚の一枚一枚を削いでいく事を錯覚させるほど間一髪の攻撃だった! 金児の冷や汗が避けるたびに宙へほとばしる! 金児は首とフットワークだけで何とかすべてかわしたが、パインの攻撃は超高速で飛んでくる大量の大木のようだった!
「くっ! くそ」
金児は防御だけに全神経を集中していたが、それでも徐々に体力が消耗し始めた。一方パインの方は一向に攻撃のキレが落ちる事はなかった。
「動きが鈍くなってきてるぞ! さっさとあきらめろ!」
パインは叫びながらも剛腕を振り続けた! すると金児の右肩にパインの攻撃がかすって制服がズバッと破れた! 金児はグラグラっとよろけた!
「終わりだ」
パインの右手の甲にゴキゴキっと骨と血管が浮き出た! そして鉄のような剛腕を金児へ振り上げた!
「ジョニーっ‼ ヒメーカっ‼」
金児は叫んだ! なんとジョニーとヒメーカがパインの足を片足ずつ掴んでいた!
「金児‼ 避けろぉぉ‼」
ジョニーは必死の表情でパインの足にしがみついた! だがパインはそんなのお構いなしに金児へ襲いかかった!
「死ねぇ‼」
パインは頭に血がのぼって拘束しろというリンゴの命令を完全に忘れていた。冷静さをかいたパインの一撃は見事に金児にかわされた! 大きく空ぶったパインは隙だらけになった! 金児はその隙を見逃さなかった‼ 攻撃に転じようとした金児の目は獣じみた目になり、右の拳に緑の血管が浮き上がった! そして渾身の正拳突きを放った!
ドォォォォォォン‼
パインのみぞおちはメリメリときしんだ! そして背中から波動が抜けていった!
「や、やった……」
パインは腹を抑えながら顔面から地面へ倒れた。ヒメーカとジョニーはパインの足にしがみついていた腕の力を緩めた。だがその一瞬の気の緩みを見逃さない者がいた。ピーチとライムだ。ピーチとライムはパインが倒れたと同時に爆速でヒメーカとジョニーの背後へ回っていた! そして二人はヒメーカとジョニーを思いっきり腕でなぎはらった! だがヒメーカとジョニーは間一髪で上へ飛び上がってダメージを軽減した。そしてピーチとライムの背後に着地した! それを見て金児も後方へ飛んでファースト達と距離をとった。すると金児、ヒメーカ、ジョニーでファースト達を囲む隊形になった。
「今だっ‼」
ジョニーが大声で叫ぶと金児達は一気に全力でフィーリングZを開放した! 金児達の足元は重力で地割れした! そして金児、ヒメーカ、ジョニーが纏った球状のフィーリングZの層がファースト達に迫っていく!
「し……しまった‼」
とライムがつぶやくとファースト達は金児達のフィーリングZの層に挟まれた!
ズズズン……
衝突音が空気を伝わっていった。初動が遅れたファースト達は層の圧力に完全に押されていた。
「ぬぐぐぐぐ……」
なんとか立ち上がったパインはギリギリの所で圧力に耐えていた。パイン、ピーチ、ライムもフィーリングZの層を発動して押し返そうとした! 金児達は防御に徹していた力を今度は攻撃に全て集中させた! 金児達の層はファースト達の上にかぶさるように範囲を広げていった! ピーチが歯を食いしばりながら
「こ……こいつら……!」
と言うとライムが
「こ……このまま密閉されると……酸素がなくなるぞ‼」
と焦った!
「はああああああ‼」
ジョニーはこのタイミングで全力で力を開放した! それに呼応して金児とヒメーカも力を強めた!
ズズズズン……
砂煙が波状に広がって研究所のビルにぶつかった! 金児達のフィーリングZの層がぶつかり合って一つになり、完全にファースト達を覆いつくした!
「くっ! くそぉぉぉ‼」
パインは叫んだ。
「クソ……さ……酸素が……」
ライムは顔を赤らめて踏ん張った。この部下達の想定外の失態についにFSF第一師団長のリンゴが動き出した。
「何をやっている」
リンゴの赤い髪がバサバサと動き始める‼