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不良VS金児

天品高校を覆っている青空をバイクの爆音と怒号が突き抜けた。バイクの排気音が意図的なリズムによって鳴らされており、更に複数の音が輪唱のように重なり合っている事が異変さを物語っていた。

「うぉーい! この学校に金髪の女いるだろー! 出てこーい!」

「金髪の女を出せー!」

バイクに乗りながら金属バットを肩に担いだ少年達が校庭から校舎に向かって吠えていた。校舎にいた生徒と教師達は一斉に窓から校庭を眺めていた。すると副校長が体育教師二人を引き連れて校庭に走り出てきた。

「君たちはなんだ! ここから出ていきなさい!」

副校長の声は高く裏返っている。続いて体育教師達が

「不法侵入で警察呼ぶぞ」

「今出ていけば警察は呼ばないから出ていきなさい」

と高圧的な声で一番前に陣取っていた体の大きいリーダー格の少年に言った。

「おっさん、金髪の女連れて来たら出て行ってやるよ。用はそれだけだからな」

「金髪の生徒なんてウチにはいない!」

「かばってんじゃねぇよ。制服でここの学校ってことはわれてんだよ。俺のダチが昨日その女に世話になったからちょっと焼き入れに来ただけだよ。すぐ終わるって」

「ウチにはそんな生徒いないからとにかく出ていきなさい」

「てめえなめんじゃねぇよ」

リーダー格の少年はマフラーを改造したバイクから下りると持っていた金属バットの先で体育教師の腹をドンッと思いっきり突いた。

「うっ‼」

体育教師が膝から崩れた瞬間、顔面に蹴りが飛んできて教師は地面に転がった。校舎からキャーという悲鳴がこだました。

「おいコラっ‼」

もう一人の体育教師がリーダー格の少年の胸ぐらを掴むとその少年は片手で服を掴み一本背負いを決めた。そしてバットを振りかぶって腹に振り下ろした。体育教師は腹を押さえてバタバタした。副校長は唖然として足が震えている。

「おまえら須藤さんに勝てるわけねぇよ。早く女出せよ」

リーダー格の少年須藤の横にいた別の少年がバイクにまたがったままそう言った。すると

「なんかめんどくせっ。ちょっと中入って探してきてくれよ」

須藤がそう言ってアゴで指示を出した。

「わかりました」

ブルーンとマフラーの音が鳴った。それを合図に二台のバイクが爆音を上げながら発進して一階の入り口から校舎へ突入した‼

二台のバイクは下駄箱のスノコを破壊しながら廊下へ入った。

「オルァァ‼ どけ‼」

バイクに乗った少年達は排気音で野次馬の生徒達を威かくし、蛇行しながら教室の中を見て回った。

「金髪だから隠れてなきゃ見つかるだろ。おっさん、すぐ終わるからそんなビビんなくていいよ」

須藤は震える副校長にやさしく語った。排気音がただただ校舎に響いていた。

その時だった。

パリ……ガッシャーーン‼

とてつもなく大きな破壊音がした。須藤は音が鳴った方を二度見した。そこには窓を突き破り校舎の外へ投げ出されたバイク二台と少年二人が地面に横たわっている。須藤は目を見開らき、何が起こったのか把握できないでいた。するとゆがんだ窓のサッシに足をかけて外へぴょんっと出てきた少女がいた。金髪だった。

「あいつか……!」

握りしめた須藤の拳は熱くなった。ヒメーカは無表情で寝ているバイクを踏みしめながら須藤の方へ歩みを進めてくる。そしてバイク集団の少し手前で足を止めた。

「テメエか。昨日俺のツレをしばいてくれたのは」

と須藤は眉間に大きな溝を作って言った。

「何のこと?」

ヒメーカは無表情だがまばゆいほど綺麗な瞳で須藤を見据えた。

「アイツの顔に見覚えあるだろが」

須藤は後方の二人乗りしている少年を指さした。後部座席に眼帯をした少年が座っていた。

ヒメーカは目を細め、顎を突き出して遥か遠くを見るような感じで眼帯の少年を見て言った。

「ああ。昨日ナンパしてきた男か。だってしつこいんだもん」

「なめんなよ。どうやってやったかしらねぇけど、しつこいからって単車破壊してコイツにケガさせんのか」

「だって私には不釣り合い。そもそも群れてる男は嫌いなのよ。男だったら一人で仕返しにきなさいよ」

「あ⁉ コイツマジでなめてんな。単車三台分弁償ときっちり三人分の焼きをその綺麗な顔にいれるしかねーな」

須藤はアゴで無言の攻撃の指示を出す。20台近いバイクが一斉に爆音を上げ、ドリフトして少女を取り囲んだ。リズミカルな爆音が重なり合って近くの人の声が聞こえない程になった。後部座席に座っている金属バットを持った少年達はエンジンにバットをカンカン当てて威嚇した。ヒメーカは足を肩幅に開いてただ無表情でまっすぐ前を見ていた。

「びびってんじゃねーぞ! オラ!」

と眼帯をした少年がヒメーカに向かって叫んだ!するとヒメーカの髪が一瞬ゆらっと揺れた。

「バーカ……」

とヒメーカは声を発した。するとすべてのバイクの後輪が浮き始めた!

「あれ⁉ おいなんだこれはっ‼」

「うわっおい」

バイクに乗っている少年達はパニックになった。

「なにやってんだ! お前らっ! 遊んでんじゃねぇ‼」

須藤は仲間に叫んだが後輪が地面に下りる気配はなかった。この時、ヒメーカの口元は一瞬ニヤッした。不良少年達はいつもは手足のように使いこなすバイクがまったく思い通りにならないことに苛立っていると、いきなりすべてのバイクのエンジン音が止まった。

……シーン……

校庭は静まり返った。

「何だ……これは……」

須藤は口を開けたまま固まった。次の瞬間エンジンとマフラーがボコッボコッとへこみ始めた!後部座席に座っていた何人かの少年はバランスを崩して地面に落ちた。

その時だった。

黒塗りの高級車がものすごいスピードで校門の段差でバウンドしながら校庭に突入した! そしてバイクの輪の真横で砂煙を上げて急停車した。そして金児が高級車から飛び出してきてヒメーカの肩に手をやった。

「やめろ。ヒメーカ」

金児は柔らかい口調だったが、肩に置いた手の指は食い込んでいた。

「何しにきたの?」

ヒメーカはノールックで尋ねた。

「お前の妙な力の事はわかっている。そんなものを全校生徒の前で見せるな」

金児はヒメーカにしか聞こえないような小さな声で言った。

「ふーん。だったらこいつらどうするの?」

「俺がやる」

「あっそ。じゃどうぞ」

揺れ動く金色の髪が緩やかに止まって、ヒメーカの肩を掴んでいた金児の手の甲にファサっとかぶさった。すると浮いたバイクの後輪がドンっと着地した。金児はヒメーカの肩から手を離すと

「君がリーダーか?」

と金児は須藤に話しかけた。須藤はアゴを上げて金児を見下すような表情をした。そして金メッシュが入ったポニーテールの後ろ髪を触りながら

「あ? 何だてめえ」

と言った。金児は親指でヒメーカを指さして

「俺は彼女とは何の縁もゆかりもないけど、コイツには関わらないほうがいい」

「何言ってんだてめえ。お前に用はねぇ。どけ」

「だからやめた方がいいって。あんたケガするよ」

「あ? どけっ‼」

須藤は金児の顔面に向かって裏拳を放った。金児はその裏拳をまばたき一つせずに片手で掴んで止めた。須藤の顔が怒りで赤々と染まっていった。

「この野郎……」

須藤のキレた顔を見て暴走族のメンバーは全員バイクから下りた。そして金児の一番近くにいた少年が金児にバットを振り下ろした! 金児は須藤の腹を思い切り蹴飛ばしてその反動でバットを鼻先をかすめるようにかわした! バットが地面を打ちつけた瞬間、少年の首は右に曲がった! 金児の回し蹴りが炸裂したのだ! そこを見逃さんとして別の少年が金児の軸足を狙ってゴルフのようにバットを振り抜いた! 金児はそれを後方宙返りで回避! 大振りでよろめいた少年の頭にかかと落としを見舞った!

「な、なめんじゃねぇぇぇ‼」

「ぶっ殺す‼」

更に二人の別の少年が同時にバットを振りかぶった! 金児はさっと屈んでバットを振り上げた少年の又の間をすり抜ける! そして又の間に後ろから強烈な蹴りを入れた! くらった少年は悶絶! そしてもう一人の少年のバットを手で押さえて股間に膝蹴りを入れ悶絶させた。

「てめぇ。足ぐせが悪いな」

須藤は金児を観察していた。

「てめぇはバットじゃない方が戦いやすそうだ」

そう言った須藤はカランっとバットを捨てた。そして金児に向かってダッシュした! 金児よりも一回りも体が大きい須藤はズカズカと大股で金児に詰め寄った! そして太くて長い足で金児の顔面めがけてハイキックを繰り出した! 金児はかわそうとしたが予想よりも速いキックにとっさに左手でガードした! 金児の体はぶわっと宙に浮いた! 肩から地面に落ちたが回転して立ち上がった。

……予想以上に重くて速いな……

と金児は口から少し血を流しながら感じた。金児のガードの隙間から須藤の蹴りが口元に入っていた。口をぬぐっている金児を見て須藤は金児がただの優男ではないと直感で感じ取った。

……こいつ……とっさに後ろに飛んで力を逃がしやがった。格闘技慣れしてやがる……

だが金児も須藤の動きを見てすぐさま感じるものがあった。

「あんた……格闘技やってるだろ?」

金児は須藤に尋ねた。須藤が

「俺は空手と柔道をやってたぜ。もう後悔しても遅いぜ」

と言うと金児は

「へぇー。俺と一緒じゃん」

と言った。須藤は足のつま先で小刻みにフットワークを取り始める。それを見て金児の目は本気になった。須藤はタタンと軽やかにステップしてまたハイキックを繰り出した!

「同じ蹴りを食らうかよ!」

金児はしゃがんでかわした! しかし須藤はハイキックをかわされた反動で一回転して金児のブレザーの後ろ襟を片手で掴んだ!

「掴んじまえばこっちのモンなんだよ!」

須藤はそのまま強引に大外刈りを繰り出した!その台風のような回転に金児は巻き込まれた! かのように見えたが前転宙返りしてそのままブレザーを脱ぎ捨て脱出した!

「すげぇなお前……」

須藤は息遣いが少し荒くなっている金児を見てつぶやいた。ストリートファイトでこれまで負け知らずだった須藤だったが、金児の動きはいままでケンカしてきた奴らとは別物だった。「フン……すぐ脱げる服はもうないぜ」

須藤はまたタタン、タタン、とステップし始めた。そしてオラァ!と叫んでまたハイキックを繰り出した!

「バカの一つ覚えかよ!」

金児は素早くかわした!

「そうでもねぇぜ‼」

須藤はハイキックをかわされると持っていたブレザーを金児の頭にかぶせた! そして目隠しされた金児のYシャツの後ろ襟をブレザーごと掴みにかかった‼

「終わりだ‼」

須藤は叫んだ! 須藤はそのまま金児を投げ飛ばして、馬乗りになって上からボコボコにするプランだった。しかしその瞬間金児は掴みにくるポイントを感覚だけで予測した!頭をギリギリのタイミングで下げて須藤の手をかいくぐった! 勝ったと確信した須藤の手はブレザーをかすめてすり抜けた!大きく前のめりにバランスを崩した須藤の目はギョッとした。

「言っとくけど俺は手グセも悪いぜ」

かぶされたブレザーの中でつぶやいた金児は思いっきり須藤のみぞおちに拳を突き上げた!

ドンッッ‼!

「おうぇ……ぇ」

須藤は腹を押さえてジグザグによろけた! だが須藤はかろうじて膝が地面につくのをこらえた! 顔を真っ赤にして下を向いた須藤。この時校庭の地面に動く影がサッと映った。須藤は顔を上げた。すると金児は青空に向かって足を振り上げていた! そしてその足を垂直に振り下ろすと金児の踵は須藤の脳天に直撃した! 須藤は顔を地面に打ち付けられた! そしてゆっくり膝をついたのだった。

「やっぱり足グセが一番悪いけどね」

金児は顔にかぶさったブレザーを払いながら言った。

ウワァァァァァァァァアアアア‼‼

学校が歓声で揺れた。校舎から恐る恐る見ていた生徒達は窓から身を乗り出して金児を称えた。

「すげぇ‼ 福沢ァァァ!」

「キャアアアア! 金児様っ‼」

「何者なんだ……あいつ」

生徒達の声が入り乱れる中、金児は

「今日はもう帰ってくれ」

と立ちすくんだ須藤の仲間へ告げた。須藤の仲間の少年達はくやしさとあきらめの表情をして倒れている者に肩を貸した。そしてバイクを重そうに押しながら学校から出て行った。金児がひと仕事終えたといった感じでブレザーのほこりをはたいているとヒメーカが後ろから近づいてきた。

「一週間後、この前と同じ第二校舎の屋上で待ってるわ」

とヒメーカは言った。

「だからあの話は……」

金児は断ろうとしたがヒメーカは最後まで話を聞かずに

「あなたの案を聞かせてもらう」

金児の耳元に顔を近づけて言った。ヒメーカが顔を近づけた事をキスしたと勘違いしてキャーキャー騒いでいる女子で校舎の廊下はあふれかえっていた。ヒメーカはその中をかきわけるように校舎に消えた。


「ハーイ、オーライ、オーライ、オーライ」

登校している生徒がぽつぽついる中、窓の施工業者の車がバックで校内に駐車しようとしている。窓枠を見てひえーという顔をしている作業員。昨日の余韻がまだ学校内に残っていた。学校の生徒達、特に一年生の金児と同じクラスの生徒達は昨日の話題で持ちきりだった。

「大倉って小学校から金児のこと知ってるの?」

「大倉、昨日の金児すごかったな! 超高校級にケンカ強えーな!」

「大倉君、福沢君の中学時代のこと教えてよ」

金児の親友である銀太は昨日の出来事で完全にスター扱いになっている金児についてクラスメイトから質問責めにあっていた。

「大倉君、金児君は今日休みなの?」

女子の一人が銀太に尋ねた。

「さっき連絡きて一週間学校休むってよ」

とほとほと疲れたという感じで銀太は答えた。

「えー。彼女いるか聞こうと思ったのにぃ」

女子は両肩を揺らしながら夢見心地で言った。

「いやアイツ彼女なんていないよ」

「えっほんと!でも五組の斉藤さんと付き合ってるんじゃないの?」

「斉藤ヒメーカ?」

「そう。超お似合いで不良から助けられたプリンセスってことで女子の間で話題なんだから!」

「へー。じゃーヒメーカ本人に聞いてきたらいいじゃん」

「それが今日休みなんだって」

「ふーん」

二人とも休み? と銀太は思った。

……ホントにアイツら付き合ってたりして……

とちょっと金児を羨んだ銀太だった。


金児が不良を撃退してから一週間がたった。PM21:00。金児は第二校舎の屋上で夜風に吹かれながら職員室の電気が消えたのを見ていた。満月がきれいな夜、金児の手は緊張で汗ばんだ。軽く深呼吸した時、キィィィと屋上のドアが開く音がした。金児は振り返るとヒメーカが立っていた。

「逃げずに来たのね」

ヒメーカは歩みを進めながら言った。

「約束は覚えてる?」

「ああ」

金児はヒメーカと真正面で対峙した。

「君の父親のことだけど、ウチのオヤジに変わって謝るよ。プロジェクトが閉鎖になったからって辞めさせることはなかった」

と金児はヒメーカを逆なでしないように優しい口調で言った。しかしヒメーカの目は鋭さを失わなかった。

「そんなこと今更言われても遅いのよ。謝ったら済むと思ってる?それにまどろっこしい話し合いはしたくないわ。再入社できるの?できないの?」

ヒメーカは以前と同じ高圧的な態度だった。

「もう少しだけ待ってくれよ。一週間でどうこうできる話じゃない」

と金児は言った。するとヒメーカは

「はぁ? 一週間もあげたのよ。もしかしてあなた……そうやって伸ばして話をうやむやにする気じゃないでしょうね」

「そんなことはない」

「信用できないわ。こうなったら……」

ヒメーカは急に押し黙って少し考えた。

「こうなったらフクザワホールディングス本社を攻撃して社長を引っ張り出してやるわ」

とヒメーカは真剣な顔で言った。金児はそのヒメーカの腹のすわった目を見てこれは冗談ではないと察知した。コイツは本当にやると思った金児はつかつかとヒメーカに歩み寄ってヒメーカの手首を掴んだ。

「そんなこと俺がさせるわけないだろ」

金児はヒメーカを睨み付けて言った。ヒメーカは視線を自分の手首から金児の顔へ移した。そして

「時間がないのよ。お父さんはとにかく時間がないって言ってた。地球があぶないって。なぜかは教えてくれなかったけどとにかく急がないといけないのよ」

と言った。

「だからあなたにもう構っている暇はないわ」

ヒメーカの髪がゆらゆらと動き始めた。

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