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『迷惑な大地』 その頃日本海軍では③計画が

命中率は適当です。


少し修正。5月05日。

 海軍では来たるべき条約明け後の艦船建造計画が錬られていた。

 第三次海軍軍備補充計画。いわゆる③計画。


「この110号艦は必要ですか」

「当然である。数を持てない帝国海軍が太平洋の向こうに対抗しようと思えば個艦性能は絶対である」

「個艦性能を優先するあまりに第4艦隊事件や友鶴事件が起きたことをお忘れか」

「アレは小型艦故であろう。A140には当てはまらないと考えるのである」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

「A140を採用とする」


 しかし、その後の実弾演習で問題が起きた。砲身交換前に遠距離砲撃訓練を行ったのである。主砲砲身の命数は尽きていない。しかし、砲身を造り続けなければ、大口径砲製造技術が失われてしまう。それを避けるために造り続けてきたのだが、在庫が積み上がってきた。各艦とも2回は交換できる数がある。今後も積み上がるだろう。重巡洋艦でも20センチ砲艦で正8インチ砲(20.3センチ)に換装する予定の艦は、砲弾をまとめて撃ってしまうことにする。

 そこで現在の砲身を交換する前に実弾発射訓練を行った。ついでに大演習として期待の酸素魚雷を戦闘状態で発射訓練してみた。

 机上演習では遠距離砲撃の命中率は2万でも戦艦で20%、重巡洋艦で13%となっているが…

 魚雷もかなりの命中率に設定されている。


 各砲100発以上撃った結果。

 結果は惨憺(さんたん)たるものだった。弾着観測機ありでこれでは。 

     2万メートル  2万5000メートル 3万メートル

一戦隊   12%     7%         4% 

二戦隊    9%     5%         2%

三戦隊   11%     6%         3%

以上は戦艦戦隊である。戦艦戦隊でこれだと重巡洋艦は期待など出来ない。

四戦隊   6%      2%

五戦隊   6%      2%

六戦隊   3%      0      


 1%程度は誤差とされた。演習でこれである。定速で直進しかしない標的相手でこれだ。想定通りに敵艦隊は動かないだろうし、弾着観測機が敵機に迎撃されたり対空砲火で邪魔をされたり落とされたりする事態もあるだろう、と弾着観測機の実効性にも疑問が付く。

 だから命中率は実戦なら下がることは有っても上がることは無いと思われる。

 二戦隊の命中率の悪さと主砲故障は艦型など機材によるもので技量では無いとされ、士官下士官が兵に当たることは咎められた。事実、1万5000まで近くなると一戦隊とそう変わらない命中率になっている。

 四戦隊の妙高級と五戦隊の高雄級も二戦隊同様かねてより散布界の広さが問題とされてきた。対策されてきたが、補えない欠点が明らかになった。六戦隊の青葉級は遠距離砲戦の期待はされていないので。

 この演習結果から遠距離砲戦に固執するのは危険とされた。

 しかも戦艦主砲は50発撃った辺りから故障が相次ぎ、山城など砲身爆発事故が起きている。幸いなことに死者も弾火薬庫に火が回る事も無かったが重軽傷者多数が出た。戦艦、重巡問わず砲塔員に熱射病で倒れるものが続出。結果、熱の問題もあり弾火薬庫が空になるまで連続で撃ち続けるのは実用上無理とされた。熱射病対策と砲塔内の環境が重要視されるようになったが防御の問題もあり対策に頭を悩ませる。


 

「46センチ砲でもたった2隻18門で2万5000を超える遠距離砲戦で撃ち勝つのは無理でしょう」

「…ううううむむむむ…」

「いくら46センチ防御でも命中率が良好な距離まで近寄れば40センチ砲でも大きな損害を受けますし、数の力で押し切られると考えますが」


 アメリカ海軍が旧式戦艦代替として新型戦艦6隻を計画しているのは伝わってきていた。日本海軍では16インチ砲搭載と考えている。つまり2対6で勝てるのかということだ。両洋に配備されるはずだが、太平洋のみという可能性が無いわけではない。


 18インチ砲9門のA140はお蔵入りとなって110号艦として本採用となったのは、新世代の長門と言わんばかりの実用的な16インチ砲連装4基8門装備で30ノット発揮の高速戦艦。三連装を避けたのは高速艦型での前部弾火薬庫防御力が懸念されたからだった。砲塔こそ新設計だが砲身と砲弾は新規ではなく従来品が搭載される。予算的にも余裕が出来る。

 建造数は二隻ではなく四隻建造として戦力を充実させる。③計画の戦艦建造は金剛級代替が名目なので正しい形になったとも言える。


 この結果は最上級の20.3センチ砲換装計画にも影響を与え計画は中止となった。威力は有るが当たらない砲よりも弾量で圧倒できそうな砲を残すと。


 一方期待の九三式魚雷であるが、事前の予想通り進路が海流に大きく作用され相対距離1万5000メートルを超える遠距離雷撃では天任せと判明した。ジャイロを積んでいても流された距離までは補正できない。補正できるのは進路だけ。天任せは運任せ以上に当たらない事を皮肉った言葉だった。

 そこで射程距離よりも雷速を取り、雷速は48ノット、射程は2万メートル固定とした。さらに整備性向上を目指し撃発感度調整式の信管も撃発感度固定とした。これらの対策により製造コスト削減と整備性向上が実現した。



 大演習の結果、机上演習での設定命中率が砲撃・雷撃ともかなり高めになっていた事が判明した。海軍中央で大問題とされた。原因は実際の予想よりも命中率を上げて成績を上げようとした人たちがいたせいだった。現担当者の処分は勿論、過去に遡り関係者は賞罰などの取消変更をされてしまった。勿論全員勤務考課表に大バツが付いたのは間違いない。

 以降、机上演習ではシビアに判定が下されることとなる。

 この大演習は、掛かった予算にふさわしい結果が出たとして成功とされた。

 一部の人間は不満たらたらだったが、そんなことはお構いなく時間は過ぎていく。



 ③計画において、シベリア油田の影響は大きかった。重油・石炭混焼缶が新規建造艦から廃止され、全艦重油専焼缶となったのである。

 また電気溶接は専用鋼材製造と溶接部材製造と溶接技術習得にドイツからの技術導入が順調で、かなりの艦が全溶接構造として建造される。これは建造コストを抑えることと、船殻重量軽減に必要なことだった。第四艦隊事件後の溶接忌避は技術力向上と共に無くなっていく。一部譲らない人が技術力不足と見て全溶接反対派だったが。


 





 ③計画において計画された艦艇は、


 戦艦     4隻 3万5000トン  金剛級代替

 空母     2隻 2万5000トン  新規増

 甲型駆逐艦  18隻 1個水雷戦隊16隻+予備艦2隻

 海防艦    4隻  占守級

 潜水艦    12隻

 他各種艦艇  32隻  


戦艦は金剛級代替、甲型駆逐艦は峰風級代替である。

潜水艦は代替と純増分。

海防艦は北方警備用で暖房設備と救難設備が充実される予定。

海防艦と各種艦艇は条約制限外になるように設計される。条約明けが1941年だが、それまでに竣工する艦種は条約に沿って設計された。



 ③計画で実際に完成したのは昭和16年年末までに以下の艦艇。排水量が条約規定数値より多いのはアメリカ合衆国が条約を破棄したせいでエスカレーター条項が発動したため。


 近江おうみ級戦艦  近江 淡路 出羽 薩摩

 基準排水量       3万8000トン

 機関出力        16万馬力

 速力          29ノット

 航続距離        9000海里(18ノット)

 主砲          40.6センチ砲 連装4基8門

 高角砲         八九式連装高角砲 8基16門

 機銃          九六式25ミリ三連装機銃 12基

               同     単装機銃 8基  

 電探          二一号 1基

 対水上電探       三二号 2基

 射撃管制電探      四一号 4基 

 聴音機         九六式聴音機 1基

             4隻とも昭和16年4月までに竣工。 



 翔鶴級空母       翔鶴 瑞鶴

 基準排水量       2万8000トン

 機関出力        16万馬力

 速力          33ノット

 航続距離        1万1000海里(18ノット)

 高角砲         八九式連装高角砲 8基16門

 機銃          九六式25ミリ三連装機銃 12基

               同     単装機銃 12基              

 電探          二一号 1基

 対水上電探       三二号 2基

 射撃管制電探      四一号 4基               

 聴音機         九六式聴音機 1基

 搭載機数        常用83機 補用8機

             両艦とも昭和16年4月までに竣工。


 陽炎級駆逐艦(甲型)       

 基準排水量       2300トン

 機関出力        5万8000馬力

 速力          36ノット

 航続距離        6000海里(18ノット)

 主砲          三年式12.7センチ連装 3基6門

 機銃          九六式25ミリ三連装機銃 4基

                同    単装機銃 4基

 魚雷          九三式61センチ魚雷発射管 五連装2基

             予備魚雷無し

 爆雷          投射器 K砲 4基

             投下軌条 2基

             爆雷搭載数30発

 電探          二一号 1基(谷風以降に装備)

 対水上電探       三二号 2基(嵐以降に装備) 

 聴音機         九六式聴音機 1基

 探信儀         九七式音波探信儀 1基                        

 同級艦         陽炎 不知火 黒潮 親潮 早潮 夏潮 

             初風 雪風 天津風 時津風 浦風 浜風

             谷風 野分 嵐 萩風 舞風 秋雲     

             全艦昭和16年10月までに竣工。

             全艦に四一号射撃管制電探が装備されたのは

昭和17年末からでドック入り時に。

             二一号と三二号は機会を見て搭載。



 占守級(海防艦)    占守 国後 八丈 石垣

 基準排水量       860トン

 機関出力        4000馬力

 速力          19ノット

 航続距離        8000海里(16ノット)

 主砲          三年式12センチ砲 単装 2基

 機銃          九六式25ミリ三連装機銃 2基

               同     単装機銃 4基

 爆雷          投射機 Y砲 2基

             投下軌条 1基

             爆雷搭載数 20発         

 聴音機         九六式聴音機 1基   

 占守級4隻は竣工が早く、竣工時には電探を装備していない。重い予定の電探と救難装備の代償重量で3門の予定だった主砲を2門に減らしている。


 電探は生産量の関係で大型艦が優先されている。小型軽量化を急いではいる。


******************


日本海軍の電探関連型番

十番台   陸上基地用

二十番台  艦艇用対空捜索電探

三十番台  艦艇用対水上捜索電探

四十番台  艦艇用射撃管制電探

五十番台  陸上基地用射撃管制電探

六十番台  航空機用電探各種

七十番台  予備

八十番台  予備

九十番台  逆探 


次回投稿、5月10日(土曜日) 05:00。

④計画です。

既に10話で終わらない予感が。


旧海軍の机上演習のパラメーターどのくらい細かかったんでしょうね。

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