表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧の扉  作者: 藤魔 朔
9/13

8章

隆二側は、カトレの入り口の正門前に着いており、三人で何やら話をしている。

「いいですか。この街は軍の見張りが一番厳しい街と言っても過言ではありません。私たちの顔はもう知られていると思った方がよいでしょう。なのでフードを被り極力バレない対策をしてください。」

エレナの言うことに隆二と啓は頷き、三人はフードを被る。

「しかしかなり広い街だなあ。とりあえずオレたちは迷子にならないように気を付けないとな。」

隆二が言ったが、啓は別の方を見ていた。三人がいる正門とはほぼ真反対の門から長い階段を上った丘の上にそびえ立つ城。ハイルズ現国王が根城にしており、かつて啓が洗脳されていた時に啓自身がいたアルガナ城である。エレナもそのアルガナ城を遠い眼差しで見ていた。隆二は二人が見ている方向を見ると、互いに何を思っているのかを悟り、あえて何も言わなかった。

「それで、二人の話だとその目的の人って酒場の店主なんでしょ?今日会うの?もう日が暮れててこの時間帯がお店的に一番忙しいと思うんだけど。」

啓が唐突に話し出す。

「一度酒場に向かって判断してみましょう。もし無理そうなら明日の朝にでも。」

エレナが返した。隆二と啓は頷き、三人は互いにフードを被っているのを確認するかのように見合わせ、街の中へと歩き出す。



その頃アルガナ城では、ハイルズが縦に長いテーブルで兵士二人を両脇に配備させて食事をしていた。その反対側にカルティナも同じく食事をしていた。

「それで、名越啓って魔導士はあっけなくやられちゃったわけ?なのにそんな吞気にしてて平気なの?」

カルティナがハイルズに問いかける。

「問題ない。一人戦力を失おうが、まだまだこれから大量の兵力が集まるんだ。それにそいつが私に楯突くことがあっても、私には適わないよ。」

ハイルズがステーキを頬張りながら話す。

「ふ~ん。ならいいんだけど。」

「ところでカルティナ。他の異世界人の魔力の具合はどうだ?あの名越のように、強大な魔力を扱えるようになったのか?」

ハイルズが逆にカルティナに問う。

「それも問題ないわ。もう全員が私の手に負えないほどの力を手に入れてるわ。あの者たちだけで隣国は軽く潰せるぐらいの力よ。」

「それは頼もしいな。だがまだまだこれからもっと強い軍隊になっていくんだ。引き続き異世界人の世話は任せたぞ。」

ハイルズとカルティナは互いに目を合わせ不穏な笑みを浮かべるのだった。



時を同じくして東京の方衛大学旧キャンパスでは、荒木と老婆、そしてその二人に連れ去られた茉奈が、旧キャンパスの中で一番大きい建物の最上階に次元の裂け目から移動していた。茉奈は薄暗い部屋で口にガムテープを貼られ、両手を茉奈の頭上でロープで縛られ、壁にそのロープを老婆の魔力で作られた杭のような物で固定された状態で監禁されていた。その隣の部屋で荒木と老婆が何やら話している。

「それで、これからどうするのだ?あれだけの人に見られたんだ。世間に知られるとお前の存在も危うくなるぞ。」

「ヒッヒッヒ・・そうだねえ。こうなったら先ほどのやつらの記憶を消すしかないねえ。それにあの小娘も記憶を消してやらないと。」

老婆は茉奈も含めて宗次や加賀美、将の記憶を消して、事件を揉み消す算段を立てた。

「記憶を消すだと!?そんなことができるのか?」

荒木が驚いたように話す。

「ああ簡単さ。あたしぐらいの魔法使いとなればねえ。でも今は魔力不足で使えないから、少し時間がいるんだがね。」

「なるほど。さっきの扉を開けたときに魔力とやらを使いすぎたってことか。なら少し伊原君と話することがある。」

そう言って荒木は茉奈がいる隣の部屋へと移動する。その部屋の扉の前で荒木は律儀にノックしてから部屋の中へと入った。

「んん~~!!んんん~~~!!」

口にガムテープを貼られた茉奈が唸っている。荒木は茉奈に近寄り、そのガムテープを勢いよく剥がした。

「いた!」

茉奈はキッと荒木を睨みつけた。

「それで伊原君。君はなぜ私を庇うようなことをしたんだ?私も少し驚いたよ。」

「ふざけないで!こんなことしてタダで済むと思ってるの!?これは立派な犯罪よ。」

茉奈は荒木の問いに答えずそう話した。

「いつもは敬語で話す君が今回はどうしたと言うんだ?」

「犯罪者に敬語を使う理由がないからよ。いずれあなたの悪事も明るみに出るに違いないわ!」

茉奈が言うと荒木は不穏な笑みを浮かべながら話す。

「その心配はない。君も含めて、先ほどの者たちの記憶を消すことにするよ。これであの扉の存在を知る者はいなくなる。事件はまた闇の中になるわけだ。」

「記憶を・・消す?そんなことができるわけないでしょ!?」

「できるんだよ。あの老婆の力でね。ただ、少し時間を要するみたいで、今は残念ながらできないらしいが。」

「そんな・・・」

茉奈は意気消沈したように顔を下に向けた。

「少しおしゃべりが過ぎたようだな。あの老婆の魔力が戻るまで、ここで待ってるといい。」

荒木がそう言って部屋から出て行った。一人になった茉奈はここから逃げることを考える。しかし固定されたロープを解こうと力いっぱい引っ張るが、壁に打ち付けられた杭はびくともしない。茉奈は「はあ・・はあ」と息を漏らす。

「何としても記憶が消される前にここから逃げないと!」

茉奈は心の中でそう意気込んだ。



その頃宗次側は加賀美の運転で旧キャンパスに向かっている最中だった。後ろの席に座っている将の手錠は宗次によって解かれていた。

「それで、勢い任せで旧キャンパスに向かってますけど、何か策はあるんですか?」

将が隣にいる宗次に話す。

「あまり警察を舐めるなよ。俺にも考えがある。それで、奴らは今具体的にどこにいる?」

「そうですねえ。これは旧キャンパスの一番上になるんでしょうか。見てください。」

将は見ていたスマホを宗次に渡す。

「おそらく建物の最上階か屋上ってことだろう。加賀美、あとどれぐらいで着く?」

宗次が今度は加賀美に聞く。

「あと5分といったところですかねえ。この時間はやけに車が多いですから。」

加賀美が運転する車はあと少しで旧キャンパスに到着するというところだった。


そして隆二たちは目的の酒場へと到着したところだった。中からたくさんの人のがやがやとした声が聞こえてくる。

「着きました。ここですね・・ブライドさんが言ってた酒場は。」

「ようやくか。その目的の人に会うためにどれだけ時間がかかったことか。」

隆二は店の看板を見つめながら言った。そして三人は酒場の中へと入ると、中は予想以上の客で埋め尽くされており、目的の店主がどこにいるのか分からないぐらいだった。四人掛けの丸いテーブルに五人から六人ぐらいのグループを作り、皆が笑いながらそれぞれの会話を楽しんでいる。

「うわあ~、こんなに人がたくさん!オレ達座ることもできないんじゃないか?」

啓が辺りを見渡しながら話す。

「あそこのカウンターが空いてますよ。行きましょう。」

エレナが指さした方を見ると、六人分の椅子があるカウンターがあり、ちょうど三人分が空いていた。三人は人込みを避けながらその席に向かう。するとカウンター越しに下からひょこっと顔を出した人物がいた。体系はいかにも童話に出てきそうな小人の姿をしている。

「おやいらっしゃい。初めて見る顔だね。何にするんで?」

その小人は笑顔を見せ三人に話す。

「あの・・私たちこのお店の店主のハイゼールさんにお会いするために来ました。けどさすがに今は厳しいですよね?」

エレナが言うと

「おや、店長ご指名のお客さんか。ハイゼールさんは奥の厨房で料理を作ってるよ。でもそうだねえ。今は注文でてんてこ舞いだから、何か飲み食いしながら待っててよ。ハイゼールさんにはちゃんと伝えておくから。」

小人がそう言うと、三人は飲み物だけ注文した。

「オレ、これください。」

隆二がメニュー表の中の一つを指さして言った。

「じゃあ私はこれを。」

エレナも別のものを注文した。

「あの、お茶ってありますか?」

啓がそう言うと

「お茶?なんだそれ?そんなものこのお店にないよ。ていうか初めて聞くね。メニュー表の中から選んでちょうだいよ。」

小人がそう言うと、啓ははっとした顔をする。

「ああ・・じゃあこれで!」

啓は急いでメニュー表の中から咄嗟に目についた飲み物を注文した。

「あいよ・・少し待っててね。」

小人が一通り注文を聞き終えると三人から離れ、奥の厨房へと向かって行った。

「啓・・向こうの感覚で頼んだんじゃないのか?」

隆二が啓に言った。

「うん。普段僕お酒飲まないから、ついああ言っちゃったよ。ははは・・」

「でもさっき啓が頼んだ飲み物ってこっちではかなり度数の高いものですよ。大丈夫ですか?」

今度はエレナが聞く。

「え?うそ!?そんなこと書いてないじゃん。なんか騙された感じがする。」

啓ががっかりした様子で答えた。

「オレは酒好きだからなんでも来いって感じよ。もし飲めなかったらオレが飲むよ。」

隆二がフォローする。

「ありがとう・・その時はよろしく。」

三人が話していると、先ほどの小人がまたカウンター越しに下から現れ、三人が注文した飲み物をそれぞれの前に出す。

「はいよ、お待たせ。ハイゼールさんに伝えといたよ。落ち着いたら向かうって言ってた。」

「ありがとうございます!では少しここで待ちましょう。」

エレナが言った。ハイゼールが来るまで時間がかかりそうだったが、三人はそれまで注文した飲み物を飲みながら待つのだった。


一方その頃宗次側は方衛大学の旧キャンパスに到着し、宗次と加賀美は車の後ろのトランクから何やら物騒なものを準備していた。

「それは何です?」

将が聞くと。

「これはスタンガンだ。見た目は銃の形をしているが、銃弾は使用しない。標的に当たると確実に身柄を拘束できる代物だ。ただし一発しか撃てないから慎重に狙う必要はある。」

宗次が答えた。

「それで、さっき車の中で考えがあるって言ってましたけど、何か作戦でもあるんですか?」

将が言うと

「ああ。ここまで来た以上、最後まで日野には付き合ってもらうぞ。まずは俺達二人で最上階に行って、荒木とあの老婆がいるかどうか調べる。安全が確保出来たら三人でそのポイントに向かう。もし安全が確保できる前に荒木と老婆に出くわしたら、お前はその下の階で待機しろ。いいな?」

宗次が言い終えると将は頷く。そして宗次は付け加えるように話し続けた。

「あと日野、お前の銃をよこせ。警察じゃない者が持っていい代物じゃない。」

宗次が言うと将が反発する。

「それは無理な相談ですよ警視監殿。これを警察の手に渡ってルートとか何やらを調べ上げられたらこちらの商売に影響するんでねえ。」

将が一歩後退りそう話す。

「無事に茉奈を取り戻せたらちゃんと返してやる。本来は確実に押収しないといけないところなんだろうが、事情が事情だ。一人の警官として恥なことも分かってる。だがこれは警官としてのプライドを捨てて、男と男の約束だ。」

宗次は銃をよこせと言った感じで手を差し出す。将は少し間を空けた後、渋々懐にしまっていた銃を宗次に渡す。

「茉奈ちゃんを取り戻したら必ず返してくださいよ?プライドを捨てた男を見るのは久しぶりなんでねえ。」

将が皮肉を交えて言うと、宗次は何も答えず三人は目的の建物に向かうのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ