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碧の扉  作者: 藤魔 朔
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6章

異世界側

隆二たち三人はカトレに向かう道中で鉱山を登っていて、その洞窟の中で大きなコウモリのような魔物四匹と闘っていた。

「啓!そっちに二匹行ったぞ!」

「分かった!任せて。」

隆二と啓が上手く連携を取って魔物を退治する。エレナはその後方で支援に回っていた。

「隆二!二匹がそちらに向かってきます!」

エレナが隆二に向かって叫ぶ。隆二は向かってくる一匹を剣で切り倒した。しかしもう一匹の攻撃を避けれず肩を噛みつかれた。

「隆二!」

エレナと啓が叫んだが、隆二はあまり痛そうにしていない。

「くそ!一度も攻撃を食らわずに倒したかったんだが。」

そう言って隆二は肩を噛みついているコウモリを剣で突き刺した。コウモリは紫色の煙となって消え、洞窟内が静かになった。

「二人ともお疲れ様です。それで隆二、怪我は大丈夫なのですか?」

「ああ、血は出てるけど、あまり痛くなかったんだよ。」

隆二はそう答えたが、出血の量は少しというほどではなかった。エレナは隆二の肩に治癒魔法をかけ傷口を塞いだ。

「痛みを感じないっていうのは、それも悪魔の力なのでしょうか?」

「わからねえ。でも敵に恐れることなく突っ込んでいけるのは良いことだろ?」

隆二の返事にエレナと啓が心配する。

「それでもあまり無理はしないでください。仲間を頼るのも大事ですよ。」

「そうだよ。僕もフォローするから、無理はしないでよ。」

二人の言葉に隆二は感慨深くなる。

「仲間か。そうだな・・次は気を付けるよ。」

「さあ、この鉱山を抜けたらカトレが見えてくるはずです。もう一息頑張りましょう!」

そう言って三人は薄暗い洞窟の中を進んでいく。その洞窟を抜けて外に出ると、遠くで何十人という人がトロッコのような荷車で鉱石のような緑色の石を運んでいる姿が見えた。そしてそれを指揮している国の兵士も数人いる。三人は咄嗟に物陰に隠れて話す。

「あの石・・なんか似てるような。」

隆二がぼそりと話す。

「似てるって何と?」

啓はなにか分かってない様子だった。

「分からないか?オレたちがこの世界に引きずり込まれた時に学長が使ってた石とだよ。」

隆二が言うとようやく啓も理解したようだった。

「あ・・たしかに似てるような。じゃああの石はここから採掘されてきたやつだったんだ。でもなんで世界が違うのに学長が持ってたんだ?」

「学長の隣にいた老婆だろうよ。あいつはこっちの世界と向こうの世界を行き来して、学長にあの石を渡していたと考えると辻褄が合う。」

隆二の説明に啓もエレナも納得した。

「しかし、ここで交戦したら面倒です。迂回して別の道を探しましょう。」

エレナの提案で、三人は遠くにいる兵士にバレないように緩やかな坂を下り、別の経路でカトレを目指した。その途中また洞窟の中を通ることになり、薄暗い洞窟の中を三人は慎重に進んでいく。するとその奥から人の話し声のようなものが聞こえた。

「向こうに誰かいるのか?」

「話し声?何か叫んでいるようにも聞こえるけど。」

隆二と啓が話す。三人はその音の方向に向かって歩いていく。するとそこは天井が空いており、日光で少し明るくなった広場のような場所だった。三人はその広場の中央に歩いていく。先ほどの話し声のような音も次第にはっきりと聞こえるようになった。三人はその音のする方を向くと、そこには人間ではなく身長5メートルはあるかなりでかいゴブリンの魔物が五体もいた。そのゴブリンたちは三人に気づかず背を向けたまま食事をしている最中だった。

「あれって人間じゃないよね?」

「ばか、どう見ても違うだろ!魔物だよ。」

啓の問いに隆二が答える。

「しかしまだ私たちに気づいていません。なんとか今のうちに通り抜けましょう。」

エレナが言うと三人は声や音を殺すように忍び足で先の出口に向かう。ゴブリンたちは肉や魚をむしゃむしゃと食べている。しかしその時啓が足元の小石を無意識に蹴とばしてしまい、その音に気付いたゴブリンたちは一斉にこちらに振り向いた。

「ブヲオ~~~~!!」

ゴブリンたちが三人に気づき、高い雄たけびを上げ、全員巨大な剣を取り、三人に向かって走り出した。

「くそ!やっぱそう上手くいかないものだな!」

「ごめん!もっと足元に注意していれば!」

「仕方ありません。こうなってはこちらも応戦するしかありません!」

エレナと啓はそれぞれ魔法陣を出現させ、エレナは光の魔力で作った槍を飛ばし、啓は火の玉を飛ばした。ゴブリンたちはほぼ全ての攻撃を受け、足を止めその場で悶え始める。

「今です!早くあの出口まで!!」

エレナが出口の方を指さし、三人は走ってそちらへ向かう。三人はその出口から広場を抜け、また薄暗い洞窟の中を走る。すると先ほどのゴブリンたちの雄たけびがまた聞こえ、地響きを鳴らしながらこちらに向かって走ってくる。

「あいつらどれだけ追いかけてくるんだよ!」

「私たちを仕留めるまででしょうね。ゴブリンは人間を食べる魔物として知られていますから。」

「さらりと怖いこと言うな~!」

三人は走りながら話す。ゴブリンたちはその巨体を揺らしながらどんどんこちらに迫ってくる。すると啓が魔法陣を出現させ、巨大な火の玉を作り、ゴブリンたちに目掛けて放った。

「ブヲオ~~~~!!」

一番先頭にいたゴブリンに直撃し、そのゴブリンは跡形もなく焼失した。

「よっしゃ!一体消えたぞ!このまま残りもやっちまえ!」

隆二が啓に向かって話す。

「いや・・それは無理だ。あれは連発できるようなものじゃないんだ。一度の攻撃でかなりの魔力を使うんだよ。」

「啓、あまり無理はしないでください。私はゴブリンたちを足止めするぐらいしかできませんが・・二人とも目を塞いでください!」

エレナがそう言うと、両手を上に掲げ、光の玉のようなものを出現させゴブリンたちに向かって放った。するとその光は強い閃光を発生させ、隆二と啓は咄嗟に顔を腕で隠す。ゴブリンたちはあまりの眩しさに目をやられたのか、剣を捨て両目を手で覆い始めた。

「今だ!走れ!」

隆二が二人に叫ぶ。三人は一目散にその場から離れ、長く続く洞窟の中を走っていく。

「もうここまで来れば・・はあ・・はあ・・」

エレナが息を切らしながら話す。あのゴブリンたちからだいぶ距離を離すことができたように思える。

「ぜえ・・ぜえ・・もう無理。走れない・・」

「少しここらで歩こうぜ・・ぜえ・・ぜえ・・」

隆二も啓も壁に手をつきながらあまり話すことができないぐらいに疲れている。三人がいる場所は先ほどから景色はまったく変わらない薄暗い一本道の洞窟の中だった。

「またあのゴブリンたちの声が聞こえたらどうする?」

啓が言った。

「その時はまた逃げるだろ。あんな巨体といちいち戦ってられねえよ。」

「そうですね。啓の魔力でも一匹倒すのが精一杯ですし、戦うのは得策ではないと思います。」

隆二とエレナは互いにそう話す。

「ならまたエレナのさっきの魔法に頼ることになっちゃうね。すごく眩しかったけどあいつらにはすごく有効だと思うよ。」

「ふふ、分かりました。もし遭遇したらまた使いますね。」

三人は歩きながら話していると、先ほどのゴブリンたちの地響きとほぼ同じ揺れが三人を襲う。

「この揺れってもしかして。もう来たのか!?」

「さすがに一本道だから走ってれば追いつかれるか。」

「二人とも走れますか!?」

エレナの問いに二人は頷いてまた走り出す。しかし次第にその揺れが大きくなっていく。

「なんか揺れがすごくないか?」

隆二がそう言った瞬間、三人のやや前方の天井がひび割れ始め、そこから先ほどのゴブリン一体が崩れた天井から物凄い音と共に現れ始めた。

「え?上から!?この洞窟どうなってるんだ!?」

「あのゴブリンも先回りする知能はあるみたいですね。それは誤算でした。」

「そんな冷静な分析いらねえよ!」

隆二が思わずエレナにつっこむ。そして後方からも残りのゴブリン三体の姿が見え始めた。

「くそ!八方塞がりかよ・・もうこうなったらやるしかないか。」

隆二は剣を抜き臨戦態勢に入る。すると前方の遠くからさらに三人と同じぐらいの大きさの比較的小さなゴブリンが無数に現れ出した。

「噓だろ・・子供のゴブリンまで・・」

「数が多いからと言ってここでやられるわけにはいきません!啓、火の魔力は使えそうですか?」

エレナが啓に問う

「たぶん一発なら打てると思う。前にいるでかいゴブリンに放ってみるよ!」

啓はすかさず魔法陣を出現させ、先ほどと同じ巨大な火の玉を作ると、前方にいる巨大なゴブリン一体に目掛けて放った。その瞬間その巨大なゴブリンの後ろにいた小さなゴブリンたちが巨大なゴブリンを守るかのように啓が放った火の玉目掛けて突っ込みだした。

「あれって親のゴブリンをかばって・・」

エレナがぼそりと口にする。火の玉は小さなゴブリンたちに直撃し、巨大なゴブリンに当たる前に消え去った。

「嘘だろ・・自分の身を犠牲にして守りやがった。」

小さなゴブリンたちは指で数えれるほどまで倒すことができたが、肝心の巨大なゴブリンは無傷だった。後ろから走ってきている三体の巨大なゴブリンも三人に追いついた。

「くそ!何か手はないのか・・え?」

隆二が手を見ながら話していると、隆二本人も気づかないうちに腕だけが悪魔と化していた。

「つまり殺れってことか。」

そう言った隆二は剣をしまい、前方の巨大なゴブリンの顔面に向かってジャンプした。

「しゃおらあ~~!!」

隆二の叫び声とともにその悪魔の拳で巨大なゴブリンの額を思いっきり殴り飛ばした。殴り飛ばされたゴブリンは後ろにいた小さなゴブリンたち数匹をその巨大な背中で踏みつぶした。

「隆二!!」

エレナと啓は互いに叫びながら殴り飛ばす光景を見ていた。すると後ろにいた巨大なゴブリン三体が凄まじい雄たけびをあげ、三人に向かって走り出した。

「まずい!後ろのやつらが!」

「ここは任せてください!」

エレナはすぐさま両手を掲げ、先ほどと同じ光の玉を作り、後方にいるゴブリン三体に目掛けて放った。しかしゴブリンたちはその瞬間一斉に目を片腕で隠し始め、発生した強い閃光の対策をしたのだった。

「くっっ・・やはり同じ手は効きませんか。」

ゴブリン三体は閃光が消えると三人に向かって押し寄せてくる。すかさずエレナは魔法陣を作り、今度は光の結界のような壁をエレナと啓を包み込むように張った。

「グウォォ~~~!!」

三体のゴブリンが一斉に剣を振り、結界もろとも破壊しようとする。そして三本の巨大な剣が結界に当たると、ガラスが割れるような音とともに結界は壊れ、エレナと啓は隆二の近くまで吹き飛ばされた。

「エレナ!啓!ぐあ!!」

隆二が二人の方を見て叫んだ瞬間、隆二に殴られて吹き飛ばされたゴブリンが隆二に近寄り、片手で握りつぶそうと隆二を掴んできた。

「くそ!すげえ力だ・・何もできねえ!」

「隆二!」

エレナと啓も隆二の方を見て叫ぶ。隆二は口から血を流し、次第に意識が朦朧としてきた。後方の三体のゴブリンもどんどん近寄ってきて絶対絶命のピンチだった。その時隆二の身体から紫色の稲妻のようなものが流れ始め、隆二の叫び声と共に強い光が放たれた。隆二を掴んでいたゴブリンも思わず目を塞ぎ隆二を手から離し、エレナと啓もあまりの眩しさに目を開けれず、咄嗟に顔を腕で隠した。光が収まるとなんと隆二は宙に浮いており、禍々しい紫色のオーラを放ちながらヌレンベークで悪魔と化したあの姿になっていた。しかし目は赤く光っていて、隆二の背後には巨大なゴブリンたちとほぼ同じ大きさの隆二の悪魔とは別の姿の悪魔の化身の残像のような者が浮かんでいた。隆二は羽を広げるとその悪魔の化身は隆二が取った行動とは別に、巨大な剣を出現させ前方のゴブリン一体をたったの一振りで一刀両断し、そのゴブリンは跡形もなく消え去った。

「隆二・・」

エレナは隆二だと分かっていながらも、悪魔の姿となるたびに別の姿になっているため半信半疑でいた。啓は初めて見るその姿に言葉も出ずただ見つめているだけだった。そして隆二は後方を振り返り、三体のゴブリンに向かって空中から目で追えないようなスピードで急接近すると、ゴブリン三体のかなり後ろで止まった。するとそのゴブリンたちは腹を境に真っ二つになり、他の魔物と同様に煙となって消えた。すべてのゴブリンが消滅し、隆二の背後の悪魔の化身も消え、隆二本人も元の姿に戻る。

「隆二・・君は一体・・」

啓が言った。

「オレも分からないことだらけなんだ。あの悪魔の残像が急に現れた理由すらも。」

「でもなんとか窮地を乗り越えることはできました。ありがとうございます。隆二。しかし次第に隆二の中に眠る悪魔の力が本来の形になろうとしていると考えられます。意識があるだけマシと言ったところでしょうか。」

エレナが言うと隆二も何も言わず頷いた。

「今考えてもどうしようもないし、早くカトレに行こうぜ。早く目的の人に会ってこの悪魔のことをちゃんと知った方が良い。」

隆二が言うと二人は頷き、洞窟の中を進む。

少し歩くと出口が見え、三人は洞窟の外に出る。空を見たら夕焼け空が広がっていた。三人のいる位置は標高が高く、見晴らしのいい丘の上にいた。そこから遠い距離に街のようなものが見える。

「二人とも見てください!あの街がカトレです。ようやく目的地ですよ!」

エレナが嬉しそうに話す。

「やっとカトレかあ。けっこう長かったなあ。あと少し頑張るか!」

隆二が言った。三人は再びカトレを目指して丘を下るのだった。


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