4章
翌朝の異世界側
エレナと隆二はパルラの要望で2階の部屋に泊まらせてもらい、二人は目覚めのいい朝を迎えていた。
「おはようございます隆二。よく眠れましたか?」
エレナが言った。
「おはようエレナ。相変わらず起きるのが早いな。」
隆二は関心しながら話す。
「顔を洗いましたら一緒に下に行きましょう。もしかしたらアイクさんが目覚めているかもしれません。」
そう言ってエレナは綺麗な金髪の髪を整えている。隆二にとってはもう見慣れているが、いつ見てもやはり美しく思える。
「分かった。ちょっと待っててくれ。」
隆二は部屋を出て、2階の洗面所に行き顔を洗う。その時、パルラが1階から階段で上がってきた
「あ、隆二さんおはようございます!アイク店長が目を覚ましたんですよ!事情は簡単に私の方から説明してあるので、よかったら下に降りていただけますか?」
パルラが喜びの表情を浮かべ、顔を洗っていた隆二に話す。
「そうなのか!じゃあエレナにも伝えてすぐ下に行くよ。」
パルラにそう伝えた後、エレナがいる部屋に戻り、二人で一緒に下に向かう。
パルラが階段の下で待っててくれていて、三人でアイクが眠っている奥の部屋に行く。
「アイク店長、二人を連れてきました。」
パルラがそう言って、部屋のドアを開ける。すると昨日まで口を開けないほどの重傷を負っていたアイクが、ベッドの上で上半身だけ起こして三人の方へ顔を向けていた。
「君たちが命の恩人だね。この度は本当に世話になった。今まで何も礼も言えず申し訳ない。」
アイクはベッドの上で頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそアイクさんの命をお救い出来てなによりです。もう身体は大丈夫なのでしょうか?」
エレナがアイクに聞く。
「ああ。おかげで今日も仕事ができそうだよ。君たちは旅の者なんだってね、パルラから聞いたよ。今日も旅に出るのか?」
アイクの問いに二人は「はい」と返事した。
「だったら朝飯でも食ってけよ。旅の力になるような栄養満点の料理を作るから。」
アイクの言葉に隆二はよだれが出ていたが、エレナは逆に申し訳なさそうに一度遠慮するが、アイクの強い要望に今度は快く受け入れた。
その後みんなは店側に行き、エレナと隆二はテーブルに、アイクとパルラは厨房に向かい、アイクの料理をパルラが運んでくれた。だが隆二が見たことない料理が出てきた。ぱっと見だと山菜と魚の炒め物っぽいが、ほうれん草とも思えないし、レタスとも思えない、具体的に言うなら、輪になったレタスの葉の上に魚の切り身が焼かれてあって、その切り身が綺麗に並べられている料理だった。しかし味はとても美味しい。
「これすごく美味しいです!」
隆二が率直な感想を漏らす。
「だろうよ!この店の看板メニューなんだからな。足りなかったら言ってくれ。」
昨日ご馳走したパルラのまかないといいこの料理といい、この店には感謝の言葉しか出ないと隆二は思っていた。
二人がアイクの料理を食べ終えた後、アイクが隆二たちが座っているテーブルに寄り腰かける。
「それで君たちはもう行くのか?」
「はい。カトレに向かいたいのですが、国の兵士がそこまでのルートを巡回していて、他のルートでカトレに向かおうと思っているのですが。」
そこまでエレナが話すと
「なるほど、だったら船でセネク港まで向かうといい。セネク港はここから船で3時間で着くんだが、セネク街は金持ち貴族も住んでいる街で、あの街の特徴は何と言っても水の精霊様の加護を受けているところだ。」
セネク街はアルガナ国の東に位置する街でアイクの言う通り水の精霊の加護を受けている。そのおかげで、人災や天災が起きてもあまり被害はでないらしい。カトレへは馬で半日程度で行ける距離だそう。
アイクが続ける。
「俺はもともとセネク出身なんだ。仕事でもよく仕入れに出かけているが、そこの港で船乗りをしている知り合いに文通を渡してくれたら快く受け入れてくれると思うよ。」
「え~~~!店長ってセネク出身だったんですか!?」
パルラが急に驚いた。隆二は心の中で「知らなかったのかよ!」とツッコミを入れる。アイクが言うには、その知り合いはセネク港で船乗りをしていて、海のルートを使ってよくアイクと食材やその他物資の仕入れ交渉を行っているらしい。他の街の高級な食材を比較的安く仕入れるコネがあるから、よくこの店は繁盛するとのことだ。
「では・・またアイクさんにお世話になってしまいますね。」
エレナは終始申し訳なさそうな感じだった。
「気にするな。俺も二人に助けられた身だ。それに人との出会いとはこういうものだろ?」
とアイクは話す。そして何か書かれた文通をエレナに渡す。
「そうですね。ありがとうございます。」
エレナはその意味をしっかり嚙みしめ、感謝の意を伝える。
「ヌレンベーク港はここから海沿いに歩いていけば見えてくるよ。あの波止場の近くに停まってる船に年配のじいさんがいるはずだから、事情を説明したらセネク港に連れてってくれるよ。」
アイクが遠くにある波止場の方向を指さしながら伝える。
「分かりました。そこに向かいます。」
と言い、エレナと隆二はアイクとパルラに別れの挨拶をして波止場まで向かうのだった。
そのころアルガナ城王座の間
失踪した58人のうちのほとんどが上級魔法を扱えるようになっており、中には雷一発で村を滅ぼすほどの力を手にした者もいた。
「貴様たちの成長速度には心底関心するよ!もう城の練習場が崩壊するレベルらしいじゃないか。次はもう実践で試させる方がいいのかな?」
ハイルズが王座に座りながら洗脳された失踪者58人に向けて高笑いしている。そこに一人の兵士が報告にあたる
「ハイルズ国王!現在捜索中の例の二人ですがゼレス村から出たきり、まったく見つかりません!」
「なに!?隈なく探しているのか?こうなるんだったらもっと兵をよこすべきだった。いや待て・・そういうことか。」
ハイルズが何か推測した様子で笑みを浮かべる
「おい、お前名前はなんていうんだっけ?」
ハイルズは失踪者のうちの一人を指さして言う。
「名越啓と言います。」
ハイルズに指を指された者が答える。
「啓、お前はたしか火の魔力は最大まで出せるんだったな?ならお前に一つ実践テストを与えてやろう!」
ハイルズが啓に指示する。
「今からお前はあのセネク街を襲うのだ。そこでエレナを見つけたら私のところまで生きたまま連れてこい。」
「分かりました。」
啓はハイルズの指示に従い啓だけセネク街に向かった。
「ハイルズは死にぞこないの王族がセネクにいるんじゃないかと思ったの?」
そう言ったのは王妃であるカルティナだった。
「ああそうだ。あとそれと個人的にあの街にいる貴族どもはいずれ脅威になる可能性もあると思っていた。早いうちに消しておくことにするよ。」
ハイルズの高笑いがまた一段と大きく響き渡るのだった。
一方そのころ方衛大学
「将、昨日の件だけど・・・これ。」
和人が将に三枚の写真のようなものを昨日の空き教室で渡している。深夜に和人は自宅のパソコンで大学の駐車場を映している防犯カメラをハッキングし、見事例の三人が映っている映像を見つけ、プリント化していた。一枚目は隆二と荒木、老婆が映っている写真、二枚目は荒木の横顔とはっきりと分かる荒木本人をどアップさせた写真、そして三枚目は隆二が裂け目に吸い込まれる瞬間の全体を映した写真だ
「助かるよ。これだけあれば十分だ。やっぱ和人は仕事が早いよね。卒業したらうちに入ってきてほしいぐらいだよ。」
将は不穏な笑みを浮かべながら和人に話す。
「いや、遠慮しとくよ。将とは今のままの関係でいたいから。」
和人は苦笑いをしながら言った。
「分かった。でもありがとう。あとは僕に任せて。」
将がそう言うと
「これから少し大事な連絡をするから、一人にしてくれないかい?」
将のその一言で和人はスマホで組の人に連絡するのだと察し、一言挨拶をして教室を出た。一人になったのを確認した将はスマホで一人の男と連絡をする。
「もしもし、僕だけど、昨日言った例のやつ、あれを今日中に一つ僕用に調達してほしいんだけど、できるよね?」
将は組の人間と思われる者と何か連絡をしている。
「決行はいつか?明日だよ。それを持って大学に行くんだから。」
将はまた不穏な笑みを浮かべるのだった。
そして警視庁では、昨日の防犯カメラの映像を警視総監も確認し終わり、非現実的な光景であることから、捜査に関わっている約100人のうちの大半を事情を説明せず捜索班から外し、別の事件の捜査に当たってもらうことになった。残っているのは警視監である宗次と部下の加賀美、そして宗次の上司である警視総監の3人のみだ。警視総監も防犯カメラの映像を見て宗次たちと同じような反応をし、最終的にこのような指示を下した。警視総監と宗次は現実に戻ろうと二人警視庁の喫煙室で煙草を吸っている。
「しかしまあ・・世も末だな。あんなものを映像越しとはいえ直に見ると、何が正解で何が間違いなのか分からなくなる。」
警視総監は宗次と煙草を吹かしながら話す。
「まったくですよ。」
宗次は言いたいことは山ほどあったが、二人しかいない喫煙室だが、場所を考慮してその一言だけに留めた。それから二人は加賀美を連れ、三人だけで狭い会議室で話す。
「お前らは明日、大学に向かってもらう。拳銃の所持も許可する。相手は謎の能力を使ってくるんだ。もし身の危険を感じたら発砲も構わない。極力何も起きずに身柄を拘束できればいいんだが。」
警視総監の命令に二人は頷く。
「罪状は?」
加賀美が質問する。
「そんなもの必要ない。事情聴取という程で現行犯逮捕のつもりで動け。」
「分かりました。」
部下は納得した様子だった。
「決行は明日17時だ。16時半にここを出たらおそらくその時間に大学に着くだろう。」
警視総監は再度命令する。
その後、細かな行動を警視総監が立ち去った後残った二人で話し合い。明日に備えるのだった。