4章-1.戦うための武器は多いに越したことはない 2022.12.8
「おはよう。お嬢ちゃん。随分元気そうだね」
「うぬ! 佐藤も元気じゃな!」
「ははは。そうだね。中野君も随分顔色が良くなったように見えるね。若返ったんじゃないか?」
「おかげさまで」
朝のジョギングを終えてアパートへ戻ってくると、アパート前の掃除をする大家の佐藤と会った。いつからだったか、ジョギングに少女もついてくるようになり、一緒にジョギングするのが日課となってしまっていた。少女のせいというか、おかげというか、健康的な食事に規則正しい生活が身に付いた事で、俺自身の生活の質が格段に上がっていた。毎食自炊もするようになり、佐藤からお裾分けを貰わずとも、食卓は華やかになった。自分のためだけを考えていたら絶対にやらなかっただろう事が、少女がいるためにやるようになるなど、本当に自分の変化に笑ってしまう。
少女は最近は店の方へは戻っていないようだ。体中の傷はすっかり良くなり、元気そうにしている。時折ニコニコと笑い年相応の姿も見せるようになり、精神的にも良い方向に向かっているように見える。このまま悪質な店には戻らずにいて欲しい反面、問題の先延ばしをしている気もして不安になる。
こうして俺は、だいぶ形は変わったものの平和な日常を取り戻したわけではあるが、当然問題が無くなったわけではない。それは少女自身が一番理解しているようで、たまに深く考えている様子も見かける。少女自身が答えを出さなければならない問題であるため、俺はその様子を見守る事しかできない。少女が今後どうしたいのかという事が大事だと考えている。外部の人間が、お前の店主は間違っている、悪質で悪い人間だ等と言っても効果はないだろう。俺はゆっくりと待つことにしたのだった。
ジョギングが終わると、アパート前の少し開けた場所で少女と軽い手合わせをするのが毎日のルーティンである。本気で向かってくる少女を軽くいなしていく。最初に比べれば随分と良い動きになったと思う。フェイントをかけてきたり、死角に回り込もうとするなど少女は頭を使うようになった。また、体幹も鍛えられてきたようで自由に体を動かせるようになっていた。運動自体は嫌いではないため、俺自身も多少楽しみながらやっている。少女の成長を見るというのも悪くない。格闘についてはかじった程度ではあるが心得はある。少女ができそうなものを選び、教えた。
いつか少女がここを去って、店主の元へ戻る事になったとしても、しっかりと戦えるようにと思うのだ。自衛できるだけの力が備われば、酷い仕打ちも減るかもしれない。そう考えて、俺は少しずつ少女に教えることにしたのだった。




