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3章-2.常備薬くらい常備しておけ 2022.11.30

 俺はインターホンを鳴らした。いつも鳴らされる側であるため、何だか不思議な気持になる。暫くすると室内から足音が聞こえて来て、玄関の扉の鍵が開く音がした。まもなくすると玄関扉が開き、大家の佐藤が顔を出した。


「佐藤さん、こんにちは」

「あぁ、中野君。どうしたんだい? 君の方から訪ねてくるなんて珍しいね」


 俺は苦笑いを浮かべた。


「傷薬なんてありますか? もしあれば、頂けないかと。もちろん、後日新しい物を買って返しますので」

「あるよ。ちょっと待ってなさいな」


 佐藤は一旦部屋の方に戻っていった。そして少しそのまま待機していると、再び玄関扉が開いて佐藤が顔を出した。


「これ持って行って」

「え……」


 佐藤が手渡してきたものに俺は驚いた。それは立派な救急セットだった。一般家庭にここまで立派なものが常備されているものだろうかと勘繰ってしまいそうになる。


「ははは。妻が昔、看護師だったんだよ。だからこんな立派なものがあるだけさ。全部持って行って好きだなけ使ってくれて構わないから。傷が治るまでは持ってなさいな」

「ありがとうございます」


 俺は有難く救急セットを受け取り、自宅へ戻った。


***


 自宅に戻ると、少女は居間の椅子に座っており、明らかにしょんぼりしていた。襲ってくる様子もない。


「どうした?」

「傷を見られたくなかったのじゃ」


 俺は問答無用で少女の服を脱がせたのだ。幼いとはいえ女の子だ。そこは配慮すべきだったと俺は深く反省した。


「この仕置きの傷は未熟な証拠じゃ……だから、おぢには見られたくなどなかったのじゃ」

「は……?」

「我は全然立派な殺し屋じゃないのじゃ!」

 

 俺は再び頭を抱えてしまった。少女の切羽詰まったような様子から、その言葉が本心から言っているものなのだと分かる。要するにこの少女は、自身が受けた傷というのは、自分が未熟ゆえに受けたものであり、妥当なものと認識している。さらには、その傷は失敗の証拠なのだから恥ずべき物だと認識しているというわけだ。こんな仕打ちが妥当なわけがない。6歳前後の子供を鞭で打った所で何が改善されるというのか。


「おぢが言うように、我はポンコツなのじゃ……」

 

 ついにはポロポロと涙を零し始めてしまった。初めて見る涙に俺は何も言えなくなる。子供の慰め方等知っているはずもない。俺は結局何もできず、少女が泣き続けるのを黙って見ていた。

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