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母が逆ハーレムを狙うので抵抗してみた。ちなみにヒロインは私  作者: 在江
第二章 選択しなくともイベントは起こる
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騎士様のフラグはバッキバキ

 事情聴取に応じて、帰宅したら、夕食の時間に間に合わなかった。

 ジョセフは手当をしてもらったと言うが、頭の怪我である。一度、医者に診てもらった方がいい。それも、明日以降になりそうだった。


 「強盗に遭ったんだって?」


 取り置きの食事を一人で取っていると、父が食堂へ入ってきた。騎士団から連絡が入ったのだ。そうでなければ、食事抜きで説教を喰らうところだった。


 「はい。ジョセフが頭に怪我をしましたが、他は無事です。ご心配をおかけしました」


 食事を中断し、謝ろうとするのを、父が制した。


 「続けて」


 礼を言って食事を再開する。父が、戸惑いの表情を浮かべた。

 続けるのは食事ではなく、報告だ、と気付く。

 しかし、食事を禁止された訳ではない。食べながら説明をする。


 私は騎士団に対し、図書館の帰りに、気分転換で散歩のために訪れた公園で、偶然強盗と出会した、と説明した。


 「そんな訳あるか」


 一通りの聴取が終わって帰ろうとしたところへ、パーシヴァルがやって来て、私の供述調書を斜め読みするなり、担当騎士を叱ったのである。


 形の上ではともかく、私に言っているのは明らかだった。


 「すみません。もう少し、お時間をいただきたく」


 こちらの騎士は平民出自なのか、新人なのか、やたら腰が低かった。見ていて気の毒になり、座り直す。

 パーシヴァルは、騎士の背後に立って腕組みをし、私を見下ろす格好になった。


 貴族令嬢に脅しをかける攻略対象がいるとは。私、一応ヒロインなのだが。ルートを外れたら、モブ扱いなのかもしれない。それなら、この対応は喜ぶべきところだ。

 でも、やっぱり嫌だな。


 「ええと?」


 向かい合って座り直したものの、騎士は何が問題だったか分からず、質問できない。

 私は、もとより喋るつもりがない。


 「強盗が吐いたぞ」


 パーシヴァルが、意味ありげに言う。言葉遣いが変わっている。まるで私が黒幕だったみたいではないか。目の前に座る騎士が、ハッとしたのは、完全にその誤解である。


 「逢引きしていたそうじゃないか。馬車同士を繋げ、馬車を揺らしつつイチャイチャするところを、目撃されているぞ。はしたない」


 目の前の騎士が、パーシヴァルと同様、軽蔑の眼差しを向ける。

 それは、恐らく、王太子が飛び乗った時の振動ですね。

 平民の幼児が遊ぶみたいに、馬車が揺れるほどはしゃいだ、と思われたのだ。確かにはしたなく、軽蔑されても致し方ない。


 「で、誰と会っていたんだ? 確か、まだ婚約者は決まっていなかったな」


 もう、完全に、格下の扱いである。パーシヴァルは伯爵家の出で、私は男爵令嬢だ。正式には、家督を継ぐ立場でなければ、どちらが上、ということもないが、世間的に、あちらが上位とみなされるのは、普通のことである。


 騎士団は文字通り騎士の集まりで、身分に関わらず、令嬢には丁寧に接するのがマナーとされている。


 要するに、彼にとって、私が令嬢ではなくなった訳だ。まあ、恋愛フラグは、折れた。ついでに、私のパーシヴァルに対する好感度も、下がった。


 「それについて、お話する必要は、ないと存じます」


 こういう時は、より丁寧に話した方が、勝ちだ。慇懃無礼(いんぎんぶれい)というやり方である。

 ウィリアム王太子に呼び出され、仕方なく、あそこでお話ししておりました。と言っても、向こうが否定すれば終わりだ。


 騎士団が私の言い分を信じたとして、何の用で呼び出されたのか説明するのは、もっとまずい。王太子に消される。


 「それなら、誰かと逢引きしていたことは、認めるんだな?」


 冤罪(えんざい)って、こうやって作られていくのだわ、と私は前世の記憶を掘り起こす。真面目な受験生だった私は、前世で警察に補導された経験がないけれど、新聞やネットで、冤罪とか再審とかの記事には触れていた。


 この世界には録画機器もないし、弁護士もいない。密室って、怖い。


 「これまで、逢引きしたことは、ありません」


 「ちっ。アバズレめが」


 パーシヴァルは、小声で、しかし私に聞こえるように言った。その発言を几帳面に記録する騎士に気付き、慌てて止める。


 「それは、書かなくていいっ」


 「ふ」


 つい、口から笑みが漏れた。パーシヴァルの顔が紅潮した。


 「ぐっ、ぬぬっ」


 握った拳に浮き出た血管が凄い。殴るのだろうか。

 このゲーム、逆ハー失敗すると、ヒロイン闇落ちルートが開くのでは? ヒロインが、攻略対象に殴られるって‥‥痛そう。


 前世でも今世でも、殴られたことがない私は、さすがに身をすくめる。


 ノックの音がした。


 扉を開けたのは、副団長である。


 「パーシヴァル、ここにいたのか。何を揉めている?」


 敏感に、空気を察して問いかけた。


 「はっ。実は‥‥」


 パーシヴァルからの説明を受けた副団長は、苦笑いした。そのまま、私に顔を向ける。

 内心どう思っているかはともかく、軽蔑の眼差しでは、ない。


 「アプリコット男爵令嬢だったかな。うちの団員が失礼した。先程捉えた強盗団は、あの辺りで繰り返し事件を起こしていた一団らしくてね。裁判の関係上、現行犯の今回と、これまでの一連の犯行を、綺麗に結び付けたかったんだ。人気のない場所で逢引きする男女が別々に帰宅する際、警備が手薄な方を狙う、というのが奴らのやり口だ」


 被害者ではあるが、捜査員ではない部外者の私に、丁寧に説明する。見た目は地味でも、副団長の方が、好感を持てた。残念なことに、既婚者である。


 「お話は、理解しました。逢引きではなく、出先であちらの急用のために、呼び出された、と調書に記録していただけるのならば、構いません。その場合でも、相手の方に迷惑がかかるので、身元をお知らせすることはできないのですが、如何でしょう?」


 「十分です。そのように、記録させます。本気で調べれば、わかることですし。ご協力、ありがとうございます」


 温厚に微笑む副団長の隣で、パーシヴァルが悔しげに私を見る。フラグのバッキバキに折れた音が、聞こえた気がした。



 「それは、災難だったな」


 父は言った。私は、父に対しても、初めに騎士団へした説明を繰り返したのだった。

 ただ、捕まった強盗団が、これまでにも犯行を繰り返してきた凶悪な連中らしい、ということは伝えた。それで、事情聴取が長引いた、と解釈されるのを期待してのことだ。


 王太子とのやりとりを明かしても、父は他言しないだろう。むしろ、情勢を見極め、身の振り方を考える上では、教えておいた方が良い。


 はっきり言えば、王太子のせいで強盗に遭い、王太子のせいで騎士団と揉め、夕食に遅れたのである。単純な話だ。

 但し、それを今、給仕やら誰やらいる前で、話すことは出来ない。

 なるべく早く、機会を作って話しておこう。


 食事を終えて自室へ戻ると、今度は母に呼び出された。

 早く入浴して、着替えたいのだけれど。

 食後すぐに風呂へ入るのは、健康に悪いのだった。腹ごなしに付き合う、と思うことにする。


 「今日一日で、ウィルとクリスとパーシーに会ったんですって?」


 ソファへ座らされるなり、母の興奮した声を浴びた。


 「ど、なたのことですか?」


 本気で、一瞬分からなかった。

 ウィルはウィリアム王太子、クリスはクリストファー=サルビア、パーシーはパーシヴァル=アキレアの愛称である。『咲くトリ』で、ヒロインが攻略を進めると、対象キャラから、愛称で呼ぶことを求められるのだ。私は王太子ルートしかクリアしていないが、クリスやパーシーが何の愛称かは、この世界の常識として知っている。


 百歩譲ってクリストファーとパーシヴァルを内輪で愛称呼びしても、王太子はまずいだろう。不敬罪、というものが、この世界にはある。まして、ここは貴族の邸宅。何処に耳目があるか、分からない。


 そこで、アンの存在を思い出した。見ると、必死で首と手を振っている。一切喋っていないのか、王太子に呼び出された件だけ守ったのか。その言い訳が真実なら、後者だろう。残念ながら、雇い主に問われれば、召使が黙秘を押し通すのは難しい。


 そろそろ、私の個人資産で従者を雇うことも、考えるべきか。


 「いやあねえ、とぼけちゃって。『図書館の邂逅』イベントで二人のフラグゲットするとは思わなかったわ。やっぱり、少しズレが出るものなのね。強盗イベは、問題なし、と。順調順調。マルティナ、このまま逆ハー目指すわよ」


 前世の記憶があっても、母の思考についていけない。

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