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母が逆ハーレムを狙うので抵抗してみた。ちなみにヒロインは私  作者: 在江
第八章 どこがエンディングか不明だったりする
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プレイヤーにネタバレ

 テオデリクは、王太子の提案に、ひどく抵抗したらしい。

 それに乗っかって、宰相夫人は国内貴族から娶るべきではないか、という意見も複数出た。

 そもそも、女性騎士の導入に反対の貴族もいるのだ。


 フリチラリア王国はゲーム上、王子様とお姫様がお花畑でうふふ、みたいな世界だった。女性騎士活躍への道は遠い。

 ひとまず、王太子の結婚準備のため、両問題とも棚上げとなった。



 今日は、結婚式の日である。

 アザレア公爵の夫人は、既に亡くなっており、代わりに母が支度の立ち会いに来た。


 「ウィル‥‥リアム殿下との結婚式を見られるなんて、最高のエンディングね。写メがあったらよかったのに」


 久々の対面にも、通常運転である。ある意味安心だ。


 「お母様。これまでお世話になりました。ケネスをよろしくお願いします」


 「世話はしてないけど。私のおかげで逆ハー成功したって意味では、そうね」


 「成功、したのですか?」


 思わず問い返す。


 「したでしょ? クリス‥‥トファー=サルビア伯爵とも、パーシー‥‥ヴァル=アキレア伯爵令息とも、テオ‥‥デリク=プロテア宰相とも仲良しで、殿下と結婚するんだもの」


 いつものように愛称呼びしてしまうのを、どうにか繋げて体裁を整える。聞いている方が疲れる。

 支度が整ったので、私は侍女を全員下げた。アンが不満そうにしていたので、扉の外で他の人が来ないように見張りを言いつけた。


 「どなたとも、仲良しというほどではありませんよ」


 クリストファーは、今や私の話し相手となったグレイス嬢にベッタリで、相談と言えば中身はほぼ惚気だ。もうすぐ子供が生まれる予定である。


 パーシヴァルは、女性騎士の参考にするとか言って、私の剣稽古を見に来ては、フォスター先生とトレーニング談義をする。稽古の邪魔なんだが。


 邪魔と言えば、テオデリクもよく顔を見せる。王太子との予定が次に組み込まれていると、支度の時間がなくなることもしょっちゅうだ。迷惑である。


 王太子は、実父のアプリコット伯爵を繋ぎ止めるために、私と結婚するのだ。

 これを逆ハーレムと呼ぶなら、その意味は、恋愛とは逆の関係で囲い込まれている、とでも定義したら良い。


 「もう、最後なので、前世のお名前を伺っても、よろしいですか。恐らく、日本の方ですよね?」


 私は聞いた。母の目が見開かれた。こんなに驚かれたのは、長い付き合いで、初めてだった。


 「マルティナ、様も、転生者なの?」


 「ええ、まあ。そうですね。でも、ゲームの事は、わからないです」


 そこから怒涛(どとう)の質問を噴出する母を抑え、前世の名前を聞き出した。

 私と同国人だったが、まるっきり知らない人だった。


 実は、ちょっと期待していたのだ。

 本当に、前世でも母娘だったかも、とか、親しかった友人だったかも、とか。

 親子で転生者などという偶然は、前世の因縁から生じたかもしれない。


 それに関しては、期待外れだった。

 逆に言えば、母や友人は生きている可能性が高い。考えようによっては、それで良かった。

 特に母とは、喧嘩別れみたいになってしまったから、後を追って死んだなどと聞かされた日には、罪悪感の重みで人生暗くなっていただろう。


 これで他人とわかった訳だ。

 もう、ほとんど会うことがなくても、気にならない。

 私と母は、乙女ゲームの駒とプレイヤーみたいな関係だった。エンディングが到来したなら、手を離れたって良いだろう。

 自分でも言っていたではないか。世話はしていないって。尤も、貴族の母親としては、それは普通のことなのだ。



 もっと話したそうな母を尻目に、私はアンを呼んで、侍女たちを入れる。

 どのみち、お喋りに費やす時間はない。


 最終点検を終え、案内に従って、式場へ移動する。

 扉の前には、アプリコット伯爵が立っていた。


 ヴァージンロードは、アザレア公爵と歩くことになっている。私は戸惑った。


 「この向こうに、もう一つ部屋がある。アザレア公は、そこでお待ちだ」


 では、わざわざ来てくれたのだ。王家と公爵が許可を出したからでもある。


 「長い間、お世話になりました。その、私は逞しく生き延びるので、お父様には、お気遣いなきよう、お願いします」


 本当は、私のせいで自由になれなくなって、ごめんなさい、と謝りたかった。しかし扉の向こうには、養父がいる。離れた場所ではあるが、侍従や侍女もいた。私がここで頭を下げると、大ごとになってしまう。


 「そうですね。アザレア公爵令嬢は、王太子妃になられる。私もアプリコット家を後継ぎに任せて、自由にさせてもらいますよ」


 父が他人行儀に返した。

 そうか。私と父は他人になる。だから、気にするなと言いたいのだ。私は泣きそうになった。


 「最後に一つだけ、父として忠告する」


 また父に戻った。その緊張した声に、私の涙が引っ込んだ。


 「殿下には、包み隠さずお話しするのだ。ちゃんと、聞いてくださる方だから」


 「は、い。それは‥‥?」


 どういう意味か、と問う前に、アプリコット伯爵が、扉を開けた。アザレア公爵が、いつもの、人の良さそうな笑みを浮かべて出迎えた。


 「ご令嬢を、お連れしました」


 「素晴らしい。ありがとう、アプリコット伯爵」


 父と養父が目を合わせ、笑い合った。

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