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母が逆ハーレムを狙うので抵抗してみた。ちなみにヒロインは私  作者: 在江
第八章 どこがエンディングか不明だったりする
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腹黒爆弾炸裂

 母とそんな会話をしてから間もなく、王宮に呼び出された。父も一緒である。


 「マルティナ=アプリコット男爵令嬢。この度そなたが、王太子ウィリアムの危機を救ったこと、感謝する」


 玉座から国王に声をかけられた。その隣に、王妃はいない。ロルナ王女もいない。


 「それに加え、長年の国に対する貢献を鑑み、アプリコット家に伯爵位と、領地を授ける」


 「ありがたくお受けします」


 隣の父が、改めて拝跪したので、私も礼を取った。父は驚いたように見えない。内々で打診されていたのだろう。

 賜った領地は、ヘレニウム公爵家から取り上げた土地だった。元から町や村もあり、手を入れれば発展の可能性もある、割と良い土地である。


 ただ、王都から距離があるので、商売をする我が家が拠点を全面的に移転するかどうかは、微妙なところだ。

 何なら私が、そこを治める手伝いをするとか? 結構実現可能な案だと思う。


 「また、マルティナ嬢とウィリアムとの婚約を受け入れたことにも、礼を言う」


 将来の青写真を描いて口元を緩めた私に、爆弾が降ってきた。

 何ですと?

 見上げた私の目に、満面の笑みを浮かべる王太子の姿が映った。

 その笑いは、恋が実る甘い喜びとはかけ離れた、罠にかかったネズミを見るネコを連想させた。



 そこからの動きは早かった。

 まず、アプリコット家の陞爵(しょうしゃく)が発表された。


 私はアザレア公爵家という、古いけど地味な貴族の養女になり、そこから王家へ嫁ぐこととなった。

 アザレア公は、最近息子を失い、後継者がない状態だった。私が養女になっても、すぐ嫁に出てしまっては意味がないように思われるが、この結びつきが、将来的に王家から後継を貰う布石になるらしい。


 婚約発表をすると同時に、結婚式の準備を進めている。一年後には結婚である。

 その時点でもまだ、十六歳なんだけど。


 予想した反発は、ほとんどなかった。

 父が金を出して根回ししたのは間違いない。この場合の父は、アプリコット伯爵の方だ。

 アザレア公爵は、名目上の父で、年齢的には祖父に近い。


 挨拶に行ったら、見た目通り感じの良い人物だった。名前だけ借りる形になったことが、申し訳ないように思う。

 公爵が住む郊外のお城は、緑の芝生に囲まれ、ほのぼのした印象で、持ち主の人柄を表しているように見えた。


 アザレア公爵は養子縁組も王家との婚約も、喜んで受け入れてくれたが、他の貴族については、必ずしも利害が一致する訳ではない。

 それでも最終的に婚約者として承認されたには、いくつか要因があった。


 まず、最有力候補だったグレイス嬢を婚約者にすることに、内心で反対だった貴族が一定数いたこと。アイリス侯爵家は、夫人の弟が宰相をしている。


 それに、アイアン王国から王女が嫁入りしなければ、夫人が王妃となった可能性は高く、今でも国王は彼女を想っているのではないか、という噂が冗談混じりに囁かれるほどだ。

 これでグレイス嬢が王太子妃になれば、ますますアイリス侯爵家の力が強くなる。


 ジェンマ元王妃の横槍がきっかけではあったものの、婚約者選定が延びたのは、それなりの根拠があったのである。この件で元王妃が自分に力がある、と過信したかも知れない。


 アプリコット家ならば、何のしがらみもない。しかも、金もある。元平民の男爵家という身分の低さだけが問題だった。

 今回の騒ぎを功績とするのはこじつけめいているが、これまでの財政的貢献と併せて伯爵位を賜るについては、誰も表立って反対できなかったようだ。


 そうして伯爵家となったアプリコット家の娘が、人畜無害なアザレア公爵家の養女として、王家へ嫁ぐならば、アイリス家やプロテア家の権力を強めることにはならない。


 最後に、王妃の座が空白となり、国王が次の妃を定める様子がない現状、王権を安定させるために、王太子が可能な限り早く後継者を作る必要があった。



 棚ぼた? あれは、美味しいものが落ちてきた場合であって、私には当てはまらない。

 結婚しなくても、生活していくつもりだったし、命懸けの権力闘争を見た後で、王家の一員になれと言われても。

 しかし、王命である。元男爵家に、断るという選択肢はなかった。


 最有力候補だったグレイス嬢はどうしたかと言えば、王太子の婚約発表とほとんど同時に、クリストファーと結婚してサルビア伯爵夫人になった。

 クリストファーがデロデロに甘やかすお陰で、随分丸くなった、と評判である。


 エスメ嬢は、パーシヴァルと婚約継続中だ。パーシヴァルは、今回の功績で昇格したらしい。

 そして私は、結婚準備のため、王宮に住まわされている。


 王太子妃教育も兼ねていた。ただ、母の怪我の功名で、実質的にほぼ終了しており、アップデートと補足程度で済んでいる。前世を取り戻して以来、初めて母に感謝した。


 アザレア家の養女となったこともあり、母とは全く会っていない。

 母の『咲くトリ』話にはうんざりしていたのに、聞かずに済む環境に身を置くと、物足りなく感じるのは、自分でも不思議だ。

 ゲームに偏っていても、前世を話題にできたことで、二重の記憶を持つ私が現世に馴染む助けになったのかも知れない。


 ただ、逆ハーレムルートを強要されたのは、改めて考えても、嫌だった。

 同じ転生者だと打ち明けていたら、何かが変わっただろうか?

 いや、変わらない。というのが、私の結論である。



 王宮に住んでから、王太子とは、しばしば会う。

 結婚式の打ち合わせの他、親睦を深めるためとか言って、やたら会いに来るのである。

 結婚したら夫婦として活動しなければならないのだ。側にいることに慣れる必要はあるだろう。


 「気になることが、あるのです」


 「うん。今日は、何について聞きたい?」


 王家のバラ園を散策していた。今は、セバスチャンも外側で待機している。


 用もないのに会ったところで居心地の悪い私は、王太子と二人きりになる度に、質問をぶつけていた。

 それによって、あの断罪パーティの新たな一面を知ることもできたのだ。


 ベリル嬢が来国した目的は、小説の資料集めだった。そう、謎の覆面作家、『シルバーサーガ』の作者は、彼女だったのである。


 彼女も最初から作者である、と打ち明けた訳ではない。腹黒王太子が探り当てたのである。

 ベリル嬢主催のお茶会で、図書室に並べられた新しい小説本は、彼女が書いた作品を中心に揃えていた。

 ちなみにコレクションは、現在私とアンが大いに活用している。王宮に連れてきた侍女のアンは、恋愛小説三昧が過ぎて、王宮侍女の仕事をサボりがちなのが心配である。


 あのパーティで、国王が発表しようとしていたアイアン王国との新しい関係とは、ベリル嬢が今後執筆する作品の、独占出版権を握る話だった。王太子が、覆面をバラさない条件として提案したという。

 そこに『シルバーサーガ』は含まれていなかった。


 絶妙な駆け引きである。もし、『シルバーサーガ』を含めたら、ベリル嬢は交渉に乗らなかっただろう。

 表向きは、アイアン王国の出版物を我が国で出すために、ブロンズ侯爵家が仲介してくれることになった、と話す予定だった。

 それも、ジェンマ元王妃が仕組んで被せた冤罪を不問にするのと引き換えに、白紙となった。


 ここまでが、表の話である。

 侍女のキャシーがコガン=キャシテライトであることを、ベリル嬢は知っていた。彼はブロンズ家に仕えていた。それで、今回護衛として付き添うことを承知したのである。


 一方、コガンは、彼女も知らない裏の任務を抱えていた。ブロンズ侯爵家は、アイアン王家との関わりが深い。現在の国王は、故ルビー王女の兄に当たる。つまり、我が国のウィリアム王太子は、アイアン国王の甥なのだ。


 アイアン国王は、ジェンマ元王妃が、王太子を引き摺り落とそうとしていることに気付き、実情の調査をブロンズ侯爵に命じた。

 その実行部隊の指揮を、コガンが取ることになったのだ。この時点で、疑惑が事実であれば、元王妃を潰す許可も得ていたようだ。恐ろしい。


 それには、ジェンマ元王妃の過去を知ったアイアン国王が、故ルビー王妃の死にも疑念を持った事が一因である。

 当時、フリチラリア側でも色々調べたし、責任を取って誰彼が処分を受けたりもしたが、結論としては、病死であった。


 いわゆる、産後の肥立ちが悪かった、といったところである。真実はどうあれ、故王妃の兄が、元王妃を(こころよ)からず思っていたことは、確かだ。

 王宮に来たコガンが調べたところ、王太子を廃嫡する元王妃の意向が真実であるとして、企みを潰す機会を窺っていた。


 そんな折り、私がコガンにインクをぶちまけてしまったのだった。

 コガンにかけたつもりはなかったのだが。


 ともかく、インクがきっかけで、元王妃にキャシーが男であるとバレてしまった。

 元王妃は、それをネタに、王太子のスキャンダルを差し出すよう要求したのだ。


 そこで、コガンは逆に王太子を嵌める計画を持ち出したのだった。

 元王妃が、その提案を信じたのにも訳があった。コガンは、自分が元々王太子を陥れるために派遣された、と説明したのだ。


 アイアン国王が、故ルビー王妃を殺したフリチラリア王に恨みがあり、アイアンの血を持つ王太子を警戒して、今のうちに潰しておこうとしている。


 結果を知らなければ、こちらの説も、もっともらしく聞こえた。コガンがそれだけ優秀な情報工作員だった。乙女ゲームの攻略対象だ。チートスペックが標準装備である。


 たまたま、こちらに都合が良くて、助かったのだった。

 パーティ用の酒樽に仕込むよう、サマンサに渡した瓶の中身は、滋養強壮剤だったそうだ。

 間違って飲んだ人はいなかったようだが、それでも危険がなかったと知って、ほっとした。

 もし間違って飲んだ人がいたら、何か()()が起きたことにする予定だったらしい。へええ。


 問題は、これらのことをウィリアム王太子が大方知っていたことである。

 インクぶちまけ事件で女装がバレたこととか、ジェンマ元王妃を嵌める作戦については後から知ったし、コガンがサマンサの弟を誘拐した疑惑については、今でも知らないと言い張っているが、怪しいものだ。


 乙女ゲームのメインヒーローとは思えない、腹黒さである。

 そんな王太子が、いくら親睦を深めようと擦り寄って来ても、簡単に信用する気になれないのは当然だろう。


 しかし、勝手に離婚もできない身では、せいぜい情報を引き出して、手札を多く持つより仕方がない。せめて王太子が本当の事を話している、と確信できれば、真贋を検討する手間が省けて良いのだけれど。

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