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母が逆ハーレムを狙うので抵抗してみた。ちなみにヒロインは私  作者: 在江
第四章 ゲームの裏側はドロドロだったりする
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モブだって権力を持てば強い

 急ぎ足な感じで戻ってみると、王太子とパーシヴァルがテーブルの脇で立ち話をしていた。王女はその脇で、菓子をつまみながら、パーシヴァルを鑑賞していた。


 「皆さん、戻られたようです。引き続き、ご歓談ください」


 王太子は、私たちの姿を認めると、用意された椅子に座ることもなく、立ち去った。


 「紅茶が冷めてしまったわ。淹れ直しましょう」


 王妃が給仕に命じるまでもなく、召使たちは仕事を始めていた。



 「うっわあ。これが『王太子の薔薇』か。紫の薔薇と言えば、『ガラス○仮面』なのよねえ。ウィリアム王太子じゃ、子供すぎるわ」


 帰宅後、母に土産の薔薇を渡すと、前世ネタが返ってきた。私はオタク気味の友人から聞いて概要を知っている。

 連載中の作品でもあるが、始まったのは、ん十年も前の話だ。例えが古くないか? かと言って、他に紫の薔薇ネタは思いつかない。


 「とにかく、アイテムもゲットしたし、ウィルルートは順調ね。テオルートも捨てがたいんだけど、結婚するなら王太子でしょ」


 紫の薔薇が、他の二人にも手渡されたことは、黙っていた。どうせ、どのイベントも『咲くトリ』内のイメージと違っている。


 「ところで、ロルナ王女様は、ご婚約者がいらっしゃいましたか?」


 どうしても気になることがあって、母に尋ねた。ゲームに関係ないことなら、普通に聞ける。


 「いないわよ。どうして?」


 「ええと。もしかして、王女様がアキレア様にお輿(こし)入れされることも、あり得るのか、と思いまして」


 王女がパーシヴァルに恋している、などとは、冗談にも言えない。

 でも『咲くトリ』で、ヒロインがエスメ嬢の代わりにパーシヴァルと結婚する未来があるなら、ヒロインが降りた今、代わりを王女が務めることもあるかもしれない、と思いついたのだ。


 エスメ嬢はパーシヴァルを慕っている。意地悪ではなくとも、何か仕掛けて処罰される可能性は、ありそうだ。

 エスメ嬢が断罪されたら、私は逆ハーレム失敗でも、無罪解放?

 それとも、ヒロインの代わりに、王女が逆ハー失敗の断罪を受けるとか。


 「んんん? 王女はゲームに噛まないわよ」


 知っている。王太子ルートで、ほぼ背景のモブだった。

 それを言うなら、王妃だってゲームキャラ的には、モブである。

 モブが実際には権力を持って、キャラを攻略しているように見えたから、母の見解を聞きたいのだ。


 私は転生者で、母に協力する気がないことを秘密にしている。直接聞けないのが、もどかしい。


 「その、『何とか』の話ではなく、ですね」


 「『げえむ』ですわ、お嬢様。ロルナ王女殿下は、げえむに登場しない。従って、アキレア様にお輿入れなさることはない、と仰っておられます」


 口を挟んだのは、メアリであった。私は母の侍女を見た。平然としている。母を見た。こちらも同様である。

 何と、母は、侍女に『咲くトリ』の知識を仕込んでいたのだ。違う。メアリが母の言動から、ゲームを自分なりに解釈しているのだ。


 「メアリ、凄いわね」


 メアリは、一礼した。

 彼女がどんな風に、乙女ゲームについて理解しているか、までは、わからない。


 これで、私がある意味母と同類であることに気付く可能性のある人間が、増えたことは確かであった。

 メアリは母の味方である。これまで以上に、警戒せねば。



 母の関心を引けなかった私は、父に頼ることにした。母だって、この先シナリオから大きく外れた展開になれば、慌てて何か動くとは思う。


 私の話は大したことではない、と判断されたのだ。

 まさか、娘がフラグ折りまくっているとは、疑いもしない。

 転生者と、バレてもいない、とも言える。


 母の王妃教育狂いが始まる前までは、私は主に父に面倒を見てもらっていたように思う。

 物心がつくかつかないかぐらいの頃である。


 母は生まれながらの貴族だったから、元々子供の世話は乳母や侍女に任せていたのだろう。もしかしたら、前世の記憶を取り戻した時の混乱で、寝込んでいたかもしれない。


 一方父は、祖父が貴族に列せられるまでは平民だった。こちらは庶民の感覚で私を育てたのである。

 相手を選んだとは思うが、商売先へ私を連れて行ったこともしばしばあった。中には絵本に出てくるような、芝生に囲まれた素敵なお城もあった。

 道中、父と話すのが楽しかった覚えがある。


 その後、母の教育スケジュールに追われる私と、貴族の付き合いに商売に、領地経営、弟の教育、と多忙な父とが話せる機会は、めっきり減った。


 その貴重な機会を使ってまで耳に入れておくべき話題か、と言えば、微妙である。

 ただ、王女の嫁ぎ先によって、王家の出費が変わるのは確かである。そして、費用が嵩むと、我がアプリコット家が金づるとして当てにされるのも、被害妄想ではない。


 それで、私は、パーシヴァルの優勝から始まった茶会の出来事を、事実に即して一通り話してみた。


 「ふうむ」


 思ったより深刻に考え込む父の姿を見て、こちらが焦る。ちょっと小耳に挟む程度で良かったのだ。ついでに、王女がパーシヴァルに嫁ごうが、どうしようが、うちは安泰だ、という言葉が聞きたかった。


 「王女殿下はまだ六歳ですし、深く考えるようなことではないかと‥‥」


 「いいや。王妃陛下が黙認していたことが、問題だ。まさかとは思うが‥‥」


 まさか、何?


 「王妃陛下が、ウィリアム王太子の母君でないことは、知っているな?」


 「そうでしたっけ? そうでしたね」


 母による王太子妃教育カリキュラムで、聞かされた覚えがある。隣国の王女だったのだ。シルバーサーガのモデルとされる、アイアン王国である。残念ながら、王太子を産んだ後、病の床に臥したまま、数年で亡くなった。

 その後に嫁いだのが、現王妃だ。


 「覚えても、活かせなければ、知識をものにしたことにならないぞ。ジェンマ王妃は、ヘレニウム公爵家のご出自だ」


 「はい」


 そういう血脈の話が、貴族では大切なのだ。忘れていた。前世日本人庶民が災いしている。


 「もともとは、プロテア公爵家のご令嬢が候補だった。故ルビー王妃との縁談が持ち上がる前の話だ」


 プロテアと言えば、テオデリク=プロテア宰相である。王妃と宰相が同じ家の出自というのも、前世的感覚では、政治的バランスが悪い。でも、宰相はまだ二十代。当時は、ただの子供だった筈。


 「結局は、アイアン王国との縁組で、婚約に至る前に立ち消えとなった。その頃、社交界で評判の高かった方が、現在のアイリス侯爵だ」


 唐突にグレイス嬢の家名が出てきた。宰相と彼女は、叔父と姪の関係だった。


 「アイリス侯爵は、多くの令嬢から熱心な誘いを受けていたが、脇目も振らず、プロテア家のベリンダ嬢に求婚した」


 そして、産んだグレイス嬢が、次の王妃になるという訳だ。


 「では、アイリス侯爵夫人は、王妃陛下が娘の姑になることを、面白く思っておられない?」


 自分が侯爵家へ嫁いだばかりに、王妃の座をライバルに取られた、と思っているとか。


 「いや。逆だ」


 父は首を振った。

 王妃が、グレイス嬢を嫁にしたくないと思っている。互いに面白く思っていない、ということは、あり得る。それと、王女のパーシヴァルへの恋心を後押しすることに、何の関連が?


 「王妃陛下のお子は、王女殿下のみ。王太子殿下は、王妃の血を引いていない」


 父は、脳内に浮かぶ私の疑問に答えるように、丁寧に説明した。


 「王太子殿下が即位されれば、前国王の妃に過ぎなくなる」


 男爵令嬢から見たら、それでも十分だと思う。


 「その時、アイリス侯爵夫人は、王妃陛下の母という地位を手に入れている。グレイス様が男児を産めば、その子が王太子になるだろう。そして、夫人の弟はまだ若い。その子が即位するまで宰相を務めることも可能だ」


 「なるほど。王宮内を、プロテア公爵家の血脈が多く占めることになるのですね」


 個人的な恨みとかではないのか。子の性別など選べないのに、嫁に行っただけで、一族の運命を託されたみたいで、王妃に少し同情した。


 「しかし、王太子殿下が降ろされれば、話は変わる」


 不穏な方向へ進み出した。


 「その時、王女殿下が外国へ嫁いでいれば勿論、婚約していても、呼び戻すことは、難しい」


 「外交問題になるからですね」


 「そうだ。国内の婚姻ならば、何とかなる。アキレア家は軍部に強いから、その点でも味方につけて損はない」


 それはつまり、王女が女王になる、という可能性である。

 となると、パーシヴァルのような立場の人間が王配であった方が、女王自身で権力を振るいやすい。その実母である王妃も同様である。私は、先ほど感じた同情を取り消した。


 「王太子殿下がどのような問題を起こされるにしても、下手に処罰したら、アイアン王国が黙っていないのではありませんか?」


 ウィリアム王太子の母は、アイアン王国の王女だった。亡くなってしまっているだけに、仲立ちを期待することもできない。


 「そこだ。辺境伯としてネモフィラ家に婿入りさせれば、温情をかけたと名目が立つ。あるいは、辺境伯と結託して隣国と通じた、という濡れ衣を着せる方が先かも知れない。いずれにせよ、ネモフィラ家と王太子を繋げれば、アイリス家もプロテア家も抑えることができる」


 権力闘争は、怖い。うちが半分平民の男爵家でよかった。


 「それで、婚約者のいるエスメ嬢が、今回の集まりに選ばれたのですね」


 そして、私は金づるに恩を売りつけるため。


 「お前の話から考えられる推測に過ぎない。前代と同じく、外国から縁談が来て、全部ひっくり返る事だって、あり得る。隣国は、アイアンだけではないからな」


 父は、椅子に体を預けた。



 自室へ引き下がって、話を整理してみた。

 色々理由をつけているけど、要するに王妃は、グレイス嬢と王太子を結婚させたくない。できれば、王女に即位して欲しい。パーシヴァルは、ついでにゲットしたい。


 王妃と王女の行動は、『咲くトリ』ヒロインと、ある意味同じ方角を向いている。

 婚約者、あるいは婚約者候補と攻略対象者の邪魔をする、という意味だ。


 実際のヒロイン役である私とは、違う。

 エスメ嬢とパーシヴァルの邪魔をする気は、ない。


 グレイス嬢については、できれば王太子と結婚して欲しいところだ。彼女とクリストファーが両思いかもしれないのは、良心が痛むけれども、二人が結婚してしまうと、王太子のお相手がいなくなる。


 父が言ったように、外国から縁談でも来てくれれば、丸く収まるのだが。

 そして、私は晴れて、シングルライフを満喫(まんきつ)するのだ。

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