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母が逆ハーレムを狙うので抵抗してみた。ちなみにヒロインは私  作者: 在江
第四章 ゲームの裏側はドロドロだったりする
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悪役令嬢追加?

 「叔父上」


 グレイス嬢の声が、一同の驚きを代弁した。パーシヴァルは、気勢を削がれ、ただ立っていた。助かった。


 「宰相殿。何か急ぎのご用が?」


 騎士団長が、前へ出てきた。


 「いえいえ。騎士団長とお話しのついでに見学を。終わってからで、結構ですよ」


 にこやかに受け流す宰相。騎士団長の方が年上なのだが、こういう言葉のやり取りでは、互角に戦っているように見える。何を戦っているのかは、ともかくとして。


 「じきに終わります」


 そして、本当にすぐに終わった。この国には、女騎士がいない。今日は、王太子妃候補と騎士団の顔つなぎ程度が目的なのだろう。


 パーシヴァルは遺恨が完全に消えた訳ではなく、帰り際に私を睨んでいった。

 翻ってエスメ嬢に向ける笑顔の深さよ。恋愛フラグは生えてこない。


 迎えの馬車へ乗り込むと、床へ何かが落ちた。飾り紐だ。カーテンを纏める紐とか、緞帳の端で見かけそうな感じの物である。私のドレスの飾りか、とも思ったが、侍女のアンには否定された。


 「何でしょうね。お預かりしましょうか?」


 「いいえ。しばらく私が持っているわ」


 私には、予感があった。



 帰宅すると、母が出迎えた。


 「わあ、パーシーの紐をゲットしたのね。マルティナ、よくやったわ。メリイ、お茶の用意よ」


 「かしこまりました、奥様」


 予感が当たった。


 母とお茶をしながら聞いたところによると、ソードベルトとかいう剣を吊るす用具、につけるアクセサリーらしい。

 騎士団には、決まった制服がある。階級で異なる部分もあるが、支給品は基本的に皆同じ物である。訓練の合間などで取り外した際、とり紛れないよう、目印につけたのが始まりで、今では騎士団以外にも広がっている。


 パーシヴァルの物は特注品で、アキレアの葉を形どった編み込みに、濃青の色紐をアクセントとして使っていた。


 言われてみれば、セイヨウノコギリソウの葉っぱに見えなくもない。

 とにかく、これがパーシヴァルのアイテムということが、肝心なのだ。


 「テオも顔を見せたんですって? 逆ハー達成後に、宰相ルートが開放されたら、そっちを狙うのもいいわね。テオって、通常ルートではほとんど出番がないんだけど、実際見たら、イケメンよね」


 「ええと。宰相様を愛称呼びなさるのは、どうかと思います」


 『咲くトリ』プレイヤーとしても、返答に困る。

 逆ハーレムを達成した後で、宰相と結婚する道筋が、まるで見えない。ゲームだからこそ、逆ハーなんぞなかったように、宰相と愛を育んだりできるのである。


 テオデリクは、攻略対象の中では、割と好みだけれど、常識的に男爵令嬢の嫁ぎ先として、あり得ない。

 それはそれとして、パーシヴァルの紐が、どうして私の馬車に落ちていたのか。


 もちろん、貰った覚えはない。

 私にくっついていたのだ。


 どこで?

 護身の術で組んだ時以外に、あり得ない。


 私がパーシヴァルを倒してしまった時、互いに引っかかって千切れたか外れたのだ。


 「あのう、お母様。アキレア様の紐ですけれど、頂いた物ではないので、お返ししないと、後々問題になるかと‥‥」


 「大丈夫よ。あんなの、失くしたら新しい物を付けるだけよ」


 それでは、貰った意味もないのでは? とは聞けなかった。

 返さずとも問題なさそう、という点は、ほっとした。


 あのパーシヴァルの剣幕(けんまく)だと、私が盗んだ、とか、言い出しかねない。



 そして、王女のお茶会である。パーシヴァルのご褒美として、開催された筈なのに、何故か、私も呼ばれた。


 母は、王太子ルートの一環と信じている。

 王太子ルートなら、私もクリアしているが、王女のお茶会なんて、あっただろうか。次の人生がここ、と知っていたら、もう少し熱心にプレイしたのに。


 行ってみると、グレイス嬢もいた。そこは、意外ではない。

 パーシヴァルが婚約者のエスメ嬢を連れてくると決まり、私を呼んだのなら、当然、彼女にもご登場願わねばなるまい。

 むしろ、グレイス嬢だけ呼べば済むのに、何故私まで?


 疑問は、茶会の場に臨んですぐにわかった。

 王妃もいたのだ。


 王女は六歳児。侍女や給仕をわんさか付けたとしても、母として心配だったのだろう。

 パーシヴァルとエスメ嬢を、王女一人でもてなすのは、荷が重そうである。


 それで、王妃が介添するまでは、理解できた。

 グレイス嬢を呼ぶ必要が、そもそもなかったのでは?


 王妃と王女で、未来のパーシヴァル夫妻をもてなせば、済むではないか。

 ここは、やはり、金の問題かもしれない。


 王太子候補を全員呼べば、研修目的として、予算をぶんどれる。

 王妃には、浪費家の傾向がある。


 私の推測を裏付けるかのように、内輪の茶会にしては、無駄に飾り付けが多く、菓子の種類もまた多かった。

 何なら、先日の王太子主催の茶会より金がかかっていてもおかしくない。


 「どうだ、パーシヴァル殿。内輪の茶会ゆえ、気楽にして良いぞ」


 「ありがとうございます。内輪とは思えないほど、華やかな茶会で、緊張いたします」


 自慢げな王女に、本当に内輪ですね、と返すほどパーシヴァルは馬鹿ではなかった。(もっと)も、実際に内輪というには金をかけているから、正直に答えただけかもしれない。


 エスメ嬢は、何となしに居心地が悪そうである。それは、私も然り。

 確かに、この茶会は、パーシヴァルの優勝への褒美として開かれたものである。そして、婚約者であるエスメ嬢を連れて出席した、パーシヴァルの行動も、正しい。


 となると、王女の態度が問題なのだ。

 何しろ、パーシヴァルにばかり話しかける。礼儀上、たまには婚約者にも話を振るものだろう。王女が六歳で残念なおつむだったとして、王妃が同席しながら、軌道修正しないのも、気にかかる。


 パーシヴァルは、王女を相手にしつつ、失礼にならない程度に婚約者へ注意を向けさせる、という高度な技を使えるタイプではないようだ。もしかしたら、エスメ嬢の心持ちには、気付いていないかもしれない。


 グレイス嬢だけは、たとえ違和感を覚えていたとしても、そうと悟らせない平静な居住まいであった。さすがは、悪役令嬢。否、王太子妃候補である。


 「時に、『王妃の薔薇』をご存知?」


 王妃が話しかけたのは、エスメ嬢ではなく、グレイス嬢だった。


 「王妃陛下のために作られた、特別な薔薇と聞いております」


 「そうなの。今、ちょうど見頃なのよ。ご覧になる?」


 「是非とも」


 ここで王妃は、ようやくエスメ嬢に目を向けた。


 「貴女も如何かしら?」


 「喜んで、拝見したく存じます」


 これまで会話に置いてけぼりを食らっていたエスメ嬢は、言葉通り喜んで応じた。

 王妃は、ここで何と、私にまで誘いをかけた。


 「ありがたきお心遣いに、感謝します」


 微笑む王妃の視界の外で、グレイス嬢が、断れ、という圧力を出している。

 グレイス嬢には見えない王妃からは、断るな、という圧力が凄い。


 どちらへ転んでも、怪我をするパターンである。ここは、王妃に従う一択だ。


 「では、薔薇を見てくるわね、ロルナ。ここは、任せたわよ」


 「はい。母上‥‥王妃様」


 えっ、と顔に出したのは、エスメ嬢とパーシヴァルである。私は心の中で思っただけ。

 社交に不器用なパーシヴァルは、うまいこと席を立てず、王女と二人、残された。


 ううむ。ここまであからさまにされると、私でも考える。

 ロルナ王女が、パーシヴァル=アキレアに好意を持っていて、王妃が二人の仲を深める後押しをしている。


 パーシヴァルには婚約者がいる。婚約を解消して王女と結婚したところで、領地もないし、騎士としての給料だけで、王女が満足できるとも思えない。


 単に、娘の淡い初恋の思い出作りを、手伝っているだけだろうか。

 それにしても、エスメ嬢といい、ロルナ王女といい、パーシヴァルは年下少女にモテる。


 中身十八歳の私には、彼に夢中になるロリ心が、さっぱり理解できなかった。



 「ほら、こちらが王家のバラ園よ」


 石塀の内側、鉄柵に沿って植わる樹木で区切られた、更に内側へ足を踏み込んだ途端に、薔薇の香りが鼻をついた。

 うわあ、と女性陣から感嘆の声が漏れる。


 薔薇は貴賤を問わず、珍重されている。多くの改良種があり、王家が独占する物もある。

 王家の姓がローズでなく、フリチラリアなのは、ゲームといえばそれまでだが、広く薔薇の魅力を楽しんでもらうため、敢えて避けた、とも言われている。


 王家のバラ園は、入るまでに幾重もの境を越えねばならなかったことで明らかなように、見るだけでも特権を得たに等しい経験であった。


 赤、白、ピンク、黄色、と色とりどりの花が咲くバラ園は、香りも眺めも一級品だった。花の区別が苦手な私でも、綺麗、ということはわかる。


 「どれも素敵」


 「香りも良いですわ」


 まだ八歳のエスメ嬢は、背が低い。

 薔薇は、茎を長く取るために、背を高く育てる場合が多い。ミニ薔薇は、アーチや壁面飾りに使うので、どうしても花の位置が高くなる。彼女が鑑賞するには、王家のバラ園は早過ぎたきらいがあった。


 「そして、これが、王妃の薔薇」


 王妃は、鮮やかな赤い花弁から、ひときわ強い香りを放つ、一輪咲きの大きな薔薇を指した。


 「大きいですね」


 うっかり口を開いてしまった。視線の集中砲火を覚悟した。

 彼女らは、私の背後を見ていた。振り向いてみた。


 ウィリアム王太子が立っていた。

 胸に、紫の薔薇を数本持っている。


 「皆さんが、こちらへいらっしゃると聞いて、ささやかながら、贈り物を用意しました。どうぞ、お受け取りください」


 まず、グレイス嬢に一本捧げた。紙で茎を包んである。


 「まあ。王太子の薔薇を。ありがとうございます」


 次に、腰を屈めて、エスメ嬢に一本。


 「ありがとうございます。嬉しいです」


 最後に、私にも一本くれた。とげを落としてあるらしく、強く握っても痛くない。


 「ありがとうございます」


 「どういたしまして」


 私に向けた笑顔だけ、微妙に違っていたのは、気のせいだろう。彼の背後には、いつもの通り、侍従のセドリック=カンパニュラが控えている。


 「本日は、パーシヴァル=アキレア殿がいらしているとか。私も少し、彼と話してきます。それでは、皆さん、ごゆっくり」


 さっ、と茂みの向こうへ去っていった。見送る私たち。


 「ウィリアムも同席するなら、戻った方が良さそうね」


 王妃が言った。まだ来たばかりなのに。でも、王妃の薔薇も見られて、王太子の薔薇まで貰えたのだ。男爵令嬢としては、十分過ぎるか。

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