5年間の待ちぼうけ
わたしの恋人は魔法使いでした。大陸一の実力で、各国から勧誘されるほど。しかし、膨大な魔力を有し、何でもイメージ通りに出来る彼は、とうとう危険人物とみなされてしまいました。結果、彼は処刑され、研究所を兼ねた屋敷ごと封印されたのです。
わたしは魔法は一つも使えません。しかし、万一を心配した者たちに警戒され、結界の中に一緒に閉じ込められてしまいました。普通の人間ですから食事や洗濯、お風呂だって必要です。彼の死より、それらの問題の方が切実でした。ところが、彼が屋敷にかけた魔法は切れておらず、快適な生活が送れたのです。おかげで、ゆっくりと彼を偲ぶことができました。
「あなたが亡くなって、もう5年が経ったわ」
中庭にあるお墓に、わたしは毎日話しかけました。棺が埋められた庭は、彼が研究用に集めた薬草だらけ。毒々しい色合いや不思議な模様の花がひしめき合っていて、なかなかの眺めです。
「これからもずっと、あなたと一緒に静かに過ごしていくわね」
彼の好きだったお菓子を供えて手を合わせます。しばらく祈ってから、室内へ戻ろうと踵を返しました。
ズズズズッ、ボコッ。
奇妙な音が聞えました。まるで、土の中から何かが出てきたような。また、妙な植物が地下から出て来たのかと振り返ると、そこには……
「やあ、久しぶり!」
そこに居たのは、5年前と少しも変わらない彼。
「どうして?」
愚問です。彼は現世最高の魔法使い。しかも、用心深いわけでは無いのに、オタクが過ぎて、いろいろ過剰防衛気味です。きっと、興味本位な魔法を幾重にも施した結果、蘇ったに違いありません。
「5年かかって、やっと出て来られたの?」
「いや、すぐ出てもよかったんだけど、土の中が思いのほか快適で。
考え事には最高だったよ」
思わず、彼を平手打ちしました。痛む手のひらに、確かに人のぬくもりを感じました。鼻血も出ています。彼は確かに生きているのです。
「5年間、待ちぼうけだったわたしの気持ちを考えてよ!」
「ごめんごめん。これから永久に君を愛し続けるから許して?」
愛しい恋人にそう言われれば、わたしはすぐに折れてしまいます。
「この結界の中で、いつまでも幸せに暮らそう」
「いつまでも、っていつまで?」
「君が望むだけ」
「絶対よ」
「ああ、約束する」
わたしは彼の腕の中で、5年の寂しさを少しずつ解かしていきました。




