カーディフ公爵と対面して、一体なんと言えば?
「あなた、早く応対に出ませんと」
母がそう促すのだが、
「だが、カーディフ公爵と対面して、一体なんと言えば?」
「ご挨拶をするのよ! だって今日、娘がカーディフ公爵と結婚するのだし――」
「しかし挨拶が済んだら、『教会に行こう』と言われるんじゃないか? そう促されたら、どうする? 正直に白状するのか? 『実はうちにはもうひとり娘がおりまして、それをずっと隠していたため、今問題になっています。その長女が先ほど教会に連れて行かれまして』と」
「でも、それは……」母が口ごもる。
「カーディフ公爵から『結局、私の花嫁は誰なんだ』と尋ねられたら、私はどう答えればいい!」
「だけど、どちらにせよ……だって……たとえ聖女がアイリーンに決まったとしても、よ? わたくしたちの娘が花嫁になることに、変わりはないのだし……」
母はうっかりそう口走り、ハッとしてエミリーのほうに視線を向けた。そして見てしまったことを激しく後悔した。
――というのも、エミリーが血に飢えた地獄の使者のような恐ろしい顔で、ねっとりと睨み据えていたからだ。
「……もういいわ」
エミリーが地を這うような低い声を出した。
「私が玄関ホールに出て行って、カーディフ公爵とお会いしてくる」
「しかし、エミリー、それは……」
父が眉根を寄せて困惑したように見つめてくるので、エミリーはもう苛々が止まらない。
――ったく、なんなのよ、このでくのぼうたち! なんの役にも立たないなら、黙っていなさいよ!
「私、カーディフ公爵に気に入られてみせるわ! お忘れかしら、お父様、お母様――私は『列福精霊審査』で光の精霊を十以上も呼び出したのよ!」
「あ、ああ……そうだったな」
父がぼんやりと相槌を打つのだが、そのノロマぶりがどうにもエミリーの癪に障る。エミリーは自身の正当性を声高に訴えた。
「万が一――まぁ絶対にありえないけれど、アイリーンが光の精霊を『二十』呼び出せたとするわね? だけどそれが何? 私の功績がなくなるわけじゃないでしょ? だって過去の聖女は、平均ふたつしか呼び出していないのよ? たったふたつよ? ならば十以上呼び出せた私はスーパーエリートってことでしょ! 聖女の資格はあるはず。見た目が化けものなアイリーンよりも、カーディフ公爵は美しい私のことをきっと気に入るわ――だから私の勝ちなの!」
エミリーはそう言い捨てると、ソファから立ち上がり、ひとり客間を飛び出した。