理由は、ある
「以前にも言ったが、わしは外界の一切に干渉することができん。よってなかなか神の候補者へ手助けができず、それらが神へといたることができない」
確かに、ここに来たばかりの時にそんな話を聞いていたけど……
「しかしココ、おぬしは別じゃ。おぬしは確かにわしの眷属になったが、元は外界から来た者。ならば外界へと干渉することができるはずじゃ。そもそも、御使いとは、神が外界へと遣わす眷属のことじゃからの」
「そんな突然言われましても……」
神様を育てるだなんて……一体何をすればいいのかもわからないし、私にそんな大役が務められるかどうか……それに外界がどんな場所なのかも本で読んだだけだし、少し怖い……
「大丈夫じゃ。おぬしは世界の神であるわしの教えを乞うたのじゃ、外界におる並大抵の者よりもはるかに強い。それに、外界に出れば、おぬしの記憶も戻ってくるかもしれんからの」
「! 私の、記憶……」
あまり考えていなかったけど、今の私って、記憶喪失だったんだっけ。確かに、自分の記憶は取り戻したいけど……やっぱり、不安だし、怖い……
「……まあ、別にあせって今すぐ結論を出さんでもよいぞ。やはり考える時間も必要じゃろう、とりあえず、この話は終わりじゃ。さて、腹も減ったし、飯にするかの」
そういってミコト様は台所へと向かっていく。私はというと、座布団に座ったまま、うつむいて、一人で考え込んでいた。
………………
…………
……
日も落ち、窓から入った月の光がほのかに照らす部屋の中、布団へもぐりながら、私はまだ考え込んでいた。
(外界、か……)
私がいた”らしい”場所。記憶喪失となった今では、ミコト様の持つ本でしか見たことのない場所。
(私は、そこで何をしていたんだろう?)
自分の過去の記憶にぽっかりと空いた大きな穴に思いを巡らせる。自分が何者なのか、自分が何をしていたのか、自分がなぜここへたどり着いたのか。自分のことのはずなのに、私は私のことを何も知らない。
(やっぱり、気になる……)
ここでおびえていては、何も得られない。記憶なんて戻らない気がした。答えを得るためには、進むしかない。
(……それに)
ミコト様の御使いになったあの日から、私はミコト様に恩返しをすると決めていた。これまで恩返しらしいことは何もできていない。むしろ、衣食住だったり、稽古だったり、私のほうがミコト様からいろいろなものをもらってばかりだった。そのミコト様が私を頼ってくれたんだ。なら、それにこたえるのが、眷属だろう。
私には、やらないといけない理由がある。
(……うん、決めた)
新たな決意を胸に、私は目を閉じた。
………………
…………
……
「私、やってみます」
朝の食事を終え、後片付けを終わらせた後、ミコト様へ、私の決意を口にする。
「……ほんとか?」
「はい、私、ミコト様の御使いとして、使命、果たして見せます」
ミコト様の目を見て、ゆっくりと、そしてはっきりと、それを口にする。
「……ありがとうなのじゃぁぁぁっ!」
私が言葉を言い切ると、ミコト様がこちらへ突っ込んできて、抱き着いてきた。
「おぬしならやってくれると信じていたぞ!」
そういいながら、抱き着く力が徐々に強くなっていく。く、くるしい……
「! おお、すまん、感極まってしまったわ」
そういってミコト様は抱き着く力を緩める。少し離れたミコト様の表情は、輝くような笑顔をしていた。御使いの仕事を引き受けてよかった、と心から思う。
「本当にありがとうなのじゃ! このままじゃとわしが消えるところじゃったからの」
「えっ!?」
明るい空気の話の流れに放り込まれた爆弾発言に驚愕する。
「ミコト様が消えるって……どういうことですか!?」
「あっ……スウゥゥゥッ」
……変な汗をかいてるし、視線も泳ぎまくっているし……なんだかミコト様が露骨に動揺している。
「まあ、なんじゃ、まだまだ先のことじゃし、心配させんように隠しておこうと思っておったのじゃが、仕方ない」
そういって、ミコト様は言葉を続ける。
「神は神力と呼ばれる力で世界を形成している。それが尽きると、世界が形を保てなくなり、消滅してしまうのじゃ。そして、神も存在を保てなくなる。さて、その神力の供給源は人々の信仰の力なんじゃが、何分わし一人じゃと、世界の形成に必要な神力をまかないきれんのじゃ。このままいくと、いつかは神力が足りんくなり、この世界は消滅する。そこで、神を増やすことにより、獲得できる神力の量を増やす必要があるのじゃ」
なんだか、急に壮大な話になってきた……やっぱり引き受けないほうが良かったかも……
「まだしばらくは余裕があるのじゃが、このままいくと、世界が消滅してしまうかもしれん。そこで外界に干渉できるココに頼むことにしたのじゃ。隠しておくようなことをしてしもうて、すまんの」
……ますますやらないといけない理由が増えた。




