稽古と成長、そして仕事
今日も変わらず青い空。風はなく、世界を静寂が包み込む。
「……では、始めるぞ、ココよ」
静寂を破り、ミコト様の声が響く。
「はい、よろしくお願いします、ミコト様」
それにこたえ、こちらも挨拶をする。そしてそれを合図に、私もミコト様も一斉に駆け出した。
「まずは魔術からじゃ。『炎よ、わが敵を撃ち抜け』」
詠唱とともに、ミコト様の方から無数の炎の弾丸が放たれる。それに対処すべく、こちらも詠唱を始める。
「『水よ、我を守る壁となれ』!」
そう詠唱すると、目の前に水でできた壁が出現する。炎の弾丸はそれに遮られ、消失した。
「次はこれじゃ。『水よ、天より降る槍となれ』」
頭上から水でできた槍が降ってくる。ええっと、詠唱は……
「っ、『風よ、衝撃を弾く傘となれ』!」
今度は頭上に強烈な上昇気流を作り出す。水の槍はそれに弾かれ、ただの雨となり私の周りに降り注ぐ。
「次は魂術じゃ。ではゆくぞ!」
ミコト様の掛け声をきき、感覚を研ぎ澄ましてあたりの妖力、霊力の動きを感じ取る。すると、私の足元に妖力が集まっているのが感じられる。足元から何かが来る……!
「……えいっ!」
自分の足に霊力を集中させるようにイメージし、地面から大きく飛び上がる。その少しのち、先ほどまでたっていた地面から、何本もの岩のトゲが勢いよく突き出てくる。稽古だから手加減はするってミコト様は言ってたけど、あれに刺さったら普通に死にそう……
「ほれ、戦いの合間に余計な事を考えるでないぞ!」
気が付くと、ミコト様が目前に迫ってきていた。慌てて腕を交差させて霊力を纏わせ、防御の体勢をとるも、ミコト様から放たれた一撃に耐えることができず、吹き飛ばされてしまう。
「……ふ、ふみぅ……」
大きな衝撃にふらふらしながらも立ち上がり、構えをとる。そこへミコト様が勢いよく飛び込んできて、近接戦が始まる。
「ほれ、ほれ! 耐えるだけでは敵に勝てんぞ!」
「そうっ、言われっ、ましてもっ! これっがっ、限界、ですっ!」
延々と続くミコト様の攻撃の嵐の中、私は防戦一方で、反撃に転じることができない。ひたすらに守りを固め、攻撃の隙を探す。
「……っ、今!」
わずかに攻撃の手が緩んだところに、すかさず正拳突きを入れる……が、
「うむ、なかなか良い拳じゃ」
そういいながらも、ミコト様は私の拳をあっさりと受け止めてしまう。そしてそのまま腕をつかまれ、
「せぇぇぇいっ!!」
「ぴやぁぁぁぁぁぁっ!?」
思いっきり投げ飛ばされてしまった。
「う、ううぅ……」
大の字に倒れる私へと、小さくも力強い手が差し出される。
「最初の頃と比べて、ずいぶん成長したの。今日もよく頑張ったな、ココよ」
「そ、そうですか? ありがとうございます」
ミコト様の御使いになって早半年、先ほどのような稽古が日課となっている。最初は稽古を始めた途端に吹き飛ばされ、気を失ってしまうこともしばしばあったが、今ではそれなりに耐久が出来るようになった。でも、いまだに一度もミコト様に攻撃を当てることはできておらず、勝てる気配はまるでない。もっと力をつけないと……そう思っていると、
「……そろそろ頃合いかの」
ミコト様がそうつぶやくとともに、「少し話があるのじゃ」と言って、家の方へと歩いていく。 とりあえず、私もそのあとをついていく。
……頃合いって、何のだろう? さっぱり見当もつかない……
いつも通り座布団に座るミコト様。しかし、纏う雰囲気はいつも通りでなかった。しん、と静まる茶の間。私も座布団に座ると、ミコト様が口を開く。
「……ココよ、正式に、御使いとしての最初の仕事を言い渡す」
「御使いとしての、仕事、ですか?」
確かに、御使いになった日から私がしていたことといえば、稽古と炊事などの一般的な家事だけで、それも私が好きでやり始めたこと。こういう感じで仕事が言い渡されるのは、今回が初めてだ。一体どんな仕事を与えられるんだろう……
「おぬしには、新しい神を育ててほしい」
「……はい?」




