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狐御使いちゃんの獣神さま育成ものがたり  作者: 黒狼クロ
災いの森と狩人と
31/33

沈黙した狼

(……わたし、は?)


 確か、怨嗟狼が遠吠えを始めた途端、頭が痛くなって、ロズの声がして、それから……


(……!)


 打ちつけられる触手、全身が引き裂かれたかのような激しい痛み。気を失う前の最後の瞬間のことを思い出し、慌てて目を開ける。


(……あれ?)


 目を開けたはずなのに、視界には何も映らない。目の前に広がるのは、延々と続く闇。すべてを飲み込んでしまいそうな漆黒の中に、にポツンと、私だけが存在している。


(ココ……カティ……どこ?)


 目を凝らしても、何も見えない。耳を澄ましても、何も聞こえない。何も感じない。何もない。


(誰か……)


 泣き出しそうになりながらも、助けを求め続けていると、


『お姉ちゃん』


(……ロズ!)


 目の前に突如として、最愛の妹であるロズが現れた。


(よかった……探したんだよ!)


『……探してた? どうして?』


(どうしてって、当たり前だよ。わたしの、大切な妹なんだから)


『わたしのこと、大切だって、そう思ってくれてたんだ……なら、どうしてわたしを見捨てて、逃げ出したの?』


 ロズは突然、そんなことを口走った。


(! 違うッ! わたしは、逃げ出したりなんて、してない!)


『違わないよ。あの日、お姉ちゃんは苦しんでるわたしを見捨てて、狩人と一緒に外に逃げ出したんだ。だって、本当のことだもんね?』


(確かに、あの日は、アリア姉さんに連れられて、外に避難したけど、見捨てようとしたわけじゃーーー)


『変わらないよ。どれだけお姉ちゃんに助けを求めても、お姉ちゃんは来てくれなかったじゃん』


(……わたし、は)


『ひどいよ、お姉ちゃん。悲しいよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんは、わたしのことを守ってくれるって言ってたけど、結局全部、嘘だったんだね。わたしのことを大切だなんて思ってなかったんだね』


(……違う、違うの……)


『悲しいなぁ、悲しいなぁ。お姉ちゃんって、とってもひどい人だったんだ。こんな人がわたしの姉だなんて、信じたくないなぁ』


(ごめん、ごめん……)


 ロズの声を聞いているだけで、どんどん胸が苦しくなっていく。これ以上は聞きたくない、そう思って耳をふさいでも、ロズの声は頭の中に直接響いてくる。


『自分が傷つきたくないからって、耳をふさぐなんて、本当にひどいお姉ちゃん。最低なお姉ちゃん』


 苦しい、痛い、もう嫌だ。ロズのいう通り、わたしは最低なんだ。ロズを守ってあげられなかった。ロズを助けてあげられなかった。妹一人守ることすらできなかった。


『ねえ、ひどいお姉ちゃん。わたしを守ってくれなかった、最低なお姉ちゃん。そんなお姉ちゃんに、最後に一つ、お願いがあるの』


『わたしはお姉ちゃんに、死んでほしいの。生きることをあきらめてほしいの』


『だって、わたしとお姉ちゃんは、ずっと一緒だったもんね? わたしだけがずっと苦しい思いをして、お姉ちゃんだけがのうのうと生きてるのって、ずるいよ』


『だからさ、お姉ちゃん。お願い、死んで?』


(ロズ……)


 わたしは、ロズの姉として、失格だったんだ。ロズのお姉ちゃんには、なれなかったんだ……なら、せめて、最後ぐらいはお姉ちゃんらしく、妹のお願いを聞いてあげたい。ロズに促されるがままに、自分の喉に爪を突き立てようとしてーーー



『なッ!? うっぐぐぐぐッ!』



 次の瞬間、ロズが青い炎に包まれた。


『ッ、これはどういうことだ!? 一体何が……』


 目の前で起きていることに頭がついていかない。


(一体、なにが、起きてるの?)


 青い炎にまかれたロズの体が、次第に透けていく。それと同時に、周囲を覆っていた闇も晴れていく。よくわからない状況に茫然としていると、


『クそがッ! おいッ、ラズ! オトなしク、ソのカラだを、アけワタせェェッ!』


(こいつ、ロズじゃないッ!)


 既に半透明と化したロズの姿をした何かが、わたしにめがけて走りこんできた。一瞬の間に目の前に迫る何かの爪。なぜだかはわからないが、この攻撃を食らうと、わたしのすべてが終わってしまうと感じた。恐怖から、無意識に体がその爪を避けようとする。だが、爪が体に迫るほうが圧倒的に早い。


(避けられないッ……!)



『ガッ!?』



 あと一瞬、ほんの少しで何かの爪がわたしを引き裂くところで、唐突にその動きが止まった。見ると、別のだれかに首を後ろからつかまれているようだ。


「……なぁ、お前。あたしの妹の姿で、何してんだ?」


『ガッ、ァッ?』


 声が聞こえる……聞き覚えのある声だ。すでに聞きなれていて、安心感のある声。


「あたしの家族に……手ぇ出してんじゃねえッ!」


『クそ、ガ……』


 次の瞬間、何かの体は激しく燃え、その姿が完全に消滅する。そして後ろにいた人の姿が見えた。体中に無数の傷跡が残る、狼人族の女性……間違いない!


「……ラズ、久しぶり、だな」


「アリア姉さんッ!」


 泣きながらその胸に抱き着く。それに応じて、アリア姉さんも私を抱き返してくれる。


(……この感じ、間違いなく本物のアリア姉さんだ……)


「会いたかった……会いだがっだぁ!」


「ラズ、小屋に一人のこしちまって、ごめんな」


「……うん、寂しかった、けど、大丈夫。アリア姉さんは、わたしが、危険な目に合わないために、一人で、出ていったんでしょ?」


「ああ、お前が無事でよかったよ……といっても、今は危ない状況か」


 そうだ。わたしは確か、怨嗟狼の触手に打たれて……


「いいか、ロズ。時間がない。しっかり聞いてくれ。今、あたしたちは、夢の中にいるようなもんだ。現実世界のお前は気を失っている。今はお前の友人たちがお前を守ってくれているが、見たところかなりまずい状況のようだ」


「ココとカティが……」


「これからお前は目を覚ます。そしたらすぐにあの巨大狼との闘いだ。ちゃんと覚悟しとけよ」


「わかった……けど、どうやって、倒せばいいか……」


 ココが言うには、怨嗟狼は周囲の、妖力? とかいうやつを取り込んで、無限に回復するそうだ。それを防ぐためのカティの結界も一度きりしか出せないって言ってたし……


「心配ないよ。お前ならやれる。あたしも手を貸すからさ、ロズを助けてやろうぜ!」


「! うん!」


 アリア姉さんに返事をして頷くと、急に頭がぼんやりしてきた。瞼が重くなっていく。きっと、次に目を開けたら、そこは現実で、怨嗟狼が立ちふさがっているんだろう。でも、きっと何とかなる。何とかして見せる。


(ココを、カティを、そしてロズを、みんなを助けるために、わたしは怨嗟狼を、狩る!)

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